「君は誰でもないただ一人の君だ!」
その二人称こそ不特定多数な前置き。
えー、今回はthe farthest restaurantさんところのフリーゲーム「さびてつなおんど」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
前編が「-rotation-」、後半が「-cortar-」として二作品に分かれていますが、実際のところ合わせて1つの物語です。うっかり片方だけDLしたりプレイ順を間違えたりしないようご注意ください。
どうも元はなろう小説で連載されていたものらしく、習作込みのリメイクとしてこちらのフリゲ版が作られたとのこと。お急ぎの方は小説版をお試しで読むのも良いかと思いますが、やっぱりBGM・イラスト込みでかなり表現力豊かなので、個人的にはフリゲ版を強く推したいところです!
と、前置きはこの辺りにして、魅力的な点など。
ぼかしてはいるつもりですが、うっすらとネタバレ注意です。
メルヘンな立ち絵と絵本のような演出
まず目を引くのはやはりあの独特な立ち絵。デフォルメ調の中にセンスのあるキャラデザが凝縮されています。それこそ設定資料集が見たいくらい……と思っていたら通販されているらしく、これまた驚きです。
キャラグラだけでなく、背景やモノローグなどもどこかノスタルジックな雰囲気でとっても好みでした。途中から始まる遊園地巡りの流れはまさに絵本のような雰囲気です。アラーニャの館のくだりは文章力も含め、まるであの場に居るかのような描写力でした。
BGMの選曲も良いんですよねぇ。幻想的な曲が多くって、夢見心地な気分に浸れます。メインテーマでいいのかな、エミリオが出てくるところでよく使われている曲が特にもの悲しくて、話の雰囲気にぴったりでした。
しっかり濃い味のSF設定
メルヘンなグラフィックとは裏腹に、世界観や設定の土台はかなりしっかりとしていて読み応えがあります。退廃した世界、延命措置、なり代わり、などなどにピンと来る方はプレイして損無しかと。
面白かったのはやっぱり立体刺繍の設定ですねぇ。王様の寝所のところでは私もテオドールと同じくついそわそわしてしまいました。けっこう俗っぽかったりえげつなかったりなところも踏まえつつさらっと説明として流す辺りもクール。
特に後編のcortarからは次々明かされる真実に衝撃を受けてばかりで、読む手が止まりませんでした。いや、本当、こういうなんていうかアイデンティティ問われる系の話大好きなんですよ……! それぞれの終わり方もまたビターでとっても好みでした。
象徴的で印象に残る言い回し
そもそもこのタイトルからして謎めく響きで、興味を引かれたのですが。蓋を開けてみるとタイトルだけでなくあちこちにモチーフを有効活用した表現があって、意味がわかった途端ぞくぞくしました。
やっぱり印象深かったのはあの6つのティーカップ。クリア後に公式サイトのおまけを見て息を飲みました。あと、エンドロールの一枚目のスチルも、見た瞬間涙が出そうになりましたね……。一度見たスチルでも色々わかった後だとかなり見方が変わるもので。あれを初めに出してくる辺り、本当、やられたー!って感じです。最高でした。
一方で惜しいなと感じた点もありまして、
シーン切り替えがややわかりづらい
中盤で回想シーンなどが入り始めてからシーン切り替えのポイントと時系列が少しわかりづらく、ついて行き切れなかったところがありました。
とはいえ後編のcortarでは区切りにアイキャッチ代わりの地図が入るのでわかりやすくなりますし、何よりこの構成のおかげで話の進展部分と説明部分のバランスが取れているのかなー、なんて。
とまあ、こんな感じで。
廃墟、遊園地、謎のピースが嵌っていくような展開、代用品辺りがキーワードかな。
なんとなく終わりを感じさせる雰囲気が好きな人向け。
とにかく世界観がとても濃厚でとっぷりのめり込めれる一作でした!