「効果的な物言いは共通の認識を下地として作ることから始まる」
難読漢字にはルビを振っていきたい前置き。
えー、今回はBlueFieldさんところのフリーゲーム「Seraphic Blue DC altered版」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
古来から脈々と語り継がれてきた伝説の長編RPG。
ついにプレイしましたよー! 作風が肌に合う作品でした!
クリアまではだいたい43時間くらい。ただし、ボス戦ゲームオーバー等を考えるとたぶんもっともっとかかりました。かけた時間に見合うだけの、濃密で響く物語が見れてもう大満足です。
とりあえず前置きとしてプレイしたバージョンについて。
原作を公式認可の元で改造したディレクターズカット版をさらにパワーアップしたaltered版(以下DCA)をプレイしました。なんか呪文みたいですねこれ。
初めはオリジナル原作版でプレイしようと意気込んでいたんですが、DCA版ならどこでもセーブができるんですよ。これは大きい! で、ストーリーも追加要素等がなくオリジナルモードを選べれると分かったのでDCAで始めました。
これだけ有名なゲームですし紹介文はたくさん溢れているかなー、なんて。
なので今回は、いつも以上にネタバレを気にせずパッションだけで書いていきますね。違いがわからん気もする。
ともあれ、ネタバレ注意。以下感想。
長い長いOPと圧倒的な文章量
「OPが長さ的な意味で初見殺し」。
いやあ噂に聞いていましたが、イベントシーンが長いのは事実ですね! でも、実際プレイしてみると少なくとも投げるほどではないというかもったいないというか。そりゃ確かに尺は長いですが、中身も濃いので、むしろじっくり拝聴したい感じがありました。
DCA版のシステム改良の恩恵にあずかっているところは多々あるにしてもですよ。
序盤は謎めく展開と切れ味の良いセリフで掴み。
中盤は序盤の伏線を回収しつつ、個人の事情から世界説明へと視点が転じ。
終盤は救世を謳い上げて世界観を大きく広げたうえでまた個人へとスポットを当てていく。
いやあこの構成力よ! むしろパタパタ伏線が収められていく流れがめちゃくちゃ気持ち良かったですし、セリフが本当どれも印象的なので、読むのがすっごい楽しかったです。中盤から群像劇っぽくもなるんですよね。この転換も世界が広がっていく感じがしてわくわくしたなあ。
終盤の溜めやウェイトの生む余韻、たまりませんよ本当。
ラスボス戦とかもう真骨頂ですよ。なにあの演出。冷めてるのに熱い展開。最高。
自動的にテキストが進行する時と、こっちでカチカチクリックしてテキストを進める時とで差があるのも特徴的ですよね。キャラの気持ちや言い淀みをしっかりと表現されたかったのかなあと思っています。
まあ、といっても、投げられる理由もわからんでもなくて。
わからない・知らない情報が溜まっていくのが苦手なタイプの人は、おそらく前座の部分で合わなくなっちゃうんだろうなあという気はします。情報量が多いので考えながら(先を予想しながら?)読もうとすると多分パンクするんですよね。
私も3人のヴェーネと星の代弁者のことを序盤に考察しようとして頭から煙出ました。
でも大丈夫、伏線は作品が自ら回収しに来てくれますし、プレイヤーに伏線を思い出させてくれるように、演出を丁寧に加えてくれます。第二章辺りからそういう、表現に対する信頼みたいなのができたので、流れに流されて突き進んだんですがこれが大正解でした。とりあえず序盤は流されておくのが吉です。
本当、伏線の回収が丁寧なんですよ! サビだから繰り返すね!
重要なイベントやキャラクターの根幹に関わるセリフは、しっかり序盤から繰り返し表現して印象付けてくれます。エルとの対話とかその最たるものです。
それに伏線回収のターンにきちんと回想シーンを入れてくれたり、キーとなる一枚絵やアイテムをちらつかせてくれたりします。お話の表現の仕方としてはとても親切。期間を開けるにしても数週間ごとなど、継続してプレイするならすんなり飲み込めるのではないかなと思います。
キャラ数も多いですが、そのぶんキャストデータも充実してますしね! 名前を覚えられないタイプの私ですが、ぱっと思い出せなくても話が進むとすぐに「あの人か」ってなりました。演出力―!
物語進行度に応じて記載内容が変わるのものすごく綿密で凄かったです……。
勇者魔王もの
明確な諸悪の根源である“魔王”のような立場はいませんし、世界を救うのは“勇者”ではなく“天使”です。
それでもこのお話は勇者魔王もの、古来RPGのよくあるモチーフに切り込んでいる作品だなあと感じたので、記事のタグにも「勇者魔王もの」を加えました。
例えば、RPGにおいて主人公はゲーム中で何度もゲームオーバーします。特に本作は戦闘難易度も高め、私の場合なんて全滅数はもはや数えきれないほどです。
そんな、道中で気を抜けば死んでしまうようなちっぽけな一個人に、世界を救えと要求する――――これこそ“勇者”の概念ですよねぇ。
では、RPGにおける勇者が勇者を完遂するためにはどうすればよいか? メタ的なこの問いからセラフィックブルーが始まっているように自分は感じます。
その答えのうちの一つが作中でも示された通り、ジークベルトの計画。彼が一貫して「ゲーム」というスタンスを崩さないのって、“天使”の裏にロールプレイ・メタ的な意味での“勇者”を想起させる意図もあるのかなと思っています。
そしてこういった物語の構図があるからこそ、セラブルは「映画」でも「ノベル」でもなく「RPG」として物語を表現する必要性があったんだろうなー、なんて考えました。
“勇者”であれば正義の心で立ち向かうべきところを、この作品は “天使”の理由でもって戦うところが最高に大好きでした。
善悪や幸福論は、このくらい距離を取ってお互い主張し合ってくれる方が、居心地良くていいなあと思います。
鬱展開と反出生主義の中で救いを提示する
この作品は、
血が出ます、人が死にます、世界に絶望します、死こそが救済だと叫びます、ネグレクト被虐待児子殺し親殺しがいます、生まれてきたことを嘆く人がいます。
一方で。
胸を張って生きる人がいます、生を謳歌しようと奮闘する人がいます、子を持てることに涙を流す親がいます、良き父として良き隣人として誰かを救えた人がいます。
あまりの鬱展開であると話題を呼び、実際それに惹かれてプレイを始めた私ですが、蓋を開けてみればとても作中のスタンスはフラットでした。主張は確かに厭世寄りかもしれないし、演出は過激だったり露悪的だったりする時もあるけれど、決して否定的ではないと思っています。
何か主張があればその反証となるキャラクターがどこかにいて、影と光が同時に存在している感じ。そのどちらが濃いと感じるかは人に寄るでしょうが……。構成だけを見れば中庸で、優しくて、プレイヤーの考えやキャラの気持ちを全てそのまま置いておいてもらえるような形に見えて、好ましかったです。
ジークベルトの主張がセラブルの中核であるならばハウゼンと言う男は登場しなかったはずで、けれどもハッピーエンドは失われたわけで、もうそれがこの物語の主張の全てだと思うんですよね……。
誰もが一度は考えるような生死観と幸福論のジレンマを、決して借り物の言葉だけで収めるのではなく。丁寧にお話を組み上げて、言葉を重ねて解きほぐして、どこまでも反論を重ねて誤魔化さず、綺麗に描き切っている作品だなあと感じました。
人類普遍の結論なんていうあり得ないところへの着地を目指すのではなく、彼女の答えは、彼の答えは、とメインキャラの心情にスポットを当ててお話を締めるところもすごく好きです。
終盤近くのプラスとマイナスの考え方はものすごく納得があって、共感はさておくとしても意見としてとても好きだったなあ。
一言でいえば、作中の主張の距離感が好き!
書ききれなかった諸々
でね、他にも好きなところ多すぎるくらい大量にあるんですよ!
・キャラが全員挫折して、葛藤して、改めて自分なりの回答を掴んでくる
・キャラ同士の粋な掛け合いや二人にしか通じない世界の構築が上手い
・よくある言い回しを斬り捨てて独自の文体を貫く
→ 一見わかりにくいと勘違いしそうになるが、実際はキーセンテンスを何度も作中で使用することで小難しい概念がお馴染みのものとして噛み砕かれて、とてもすんなりと頭に入ってくる。そのうえ印象に残る。素晴らしい。
・ あまりキャラが「好き」「愛してる」といった言葉を使わない。一方で、別れの時にほぼ皆が「ありがとう」と言う。
・RPG慣れしていても苦戦するハードなバトル難易度
・閉塞感と透明感、両方を描く美しいスチル
とかね!!!!
でもこれら全てを細やかに語っていくともう蛇足で大縄跳びができてしまうんですよ。プレイして合う人は合うし合わない人は合わない、もうそれに尽きます。
君が投げたならそれはそれでいい!
私は大好きだし心に沁みた! もうそれだけだ!
なんて書きつつ最後にキャラ語りします!
考え方やセリフが印象的で好きなのはニクソン。
やっぱりこちらも、距離感が好きでした。激情に駆られることはあっても、人に押し付ける前に一度踏み止まるところが良いなあと思うし、そのうえで自分のポリシーや考えは信仰として持ち続けているところが好きです。
台詞一つで心を掴んできたのはヴィルジニー。
覚醒後の口の悪さと言うかぶっちゃけっぷりというかTHE戦乙女感が惚れそうでした。戦闘前口上がいつもかっこいい。
ああいう作りのキャラクターがああいう道を選ぶ流れも大好き。
雑魚戦で愛用していたのはヤンシー。
武器に状態異常ものが多かったので、トゥワイスインヴェストと状態異常付加、それとブーツ履かせまくってひたすら足止め役になってもらってました。キッツイ攻撃がきてもある程度持ちこたえてくれるから頼もしいんですよね。
ボス戦で愛用していたのはドリス。
ペイルインヴァースのトリッキーな高火力が大好きだったんです。リスクの上で高火力出すのってロマンですよね。ストーリーを考えるとこの技を乱発するのは申し訳ない気持ちもありますが……。
あと、ドリスとヤンシーが二人で「頑張ろうね」「うん、ガンバろうね」って何度も言い合っているのが本当に泣きたくなるくらい癒しでした。がんばろうね……。
キャラクターとして総括して好きなのはレイクです。
序盤からずっとメインメンバーだったというのもあるんですが、フョードルとはまた違った意味合いで青二才な感じもこちらの気持ちを揺らしてくれてよかったです。
言ってしまえばスカしてるキャラなんですけども、なんだろう。嗤えはしないし、彼みたいに虚無へ走っていく生き方って誰もが一度は感じるよなあと思っちゃうんですよねぇ。
敵だとエンデが好き。
容赦ない敵が好きなんです。最前列の特等席なイベント本当好きでした。塵のような終わりも併せて、まさに敵に求める全てを抱いてくれていて楽しかったです。
バトル演出だとティアーズのカットインが好きでした。あっあと、「フョードルから倒して頂戴ね」。
とまあ、こんな感じで。
うっかり感化されてポエマーなことをいっぱい書き綴りましたが、とにかくめちゃくちゃ水が合う作品でした!
こっそりおしらせんでん↓
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