「凛と背を正し、しかつめらしい顔をして、説法を述べ、」
魂の揺らぎは何一つ起こらないということにしていた前置き。
えー、今回は7tera.さんところのフリーゲーム「三色有形」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
選択肢無しの一本道ノベル。死後の世界で過ごす、和風でしっとりとした雰囲気のお話です。
というわけで良かった点など。
雰囲気を感じさせる縦書きノベル
死後の世界、八重桜、閻魔様など、どことなく和風の死生観で物語は構成されています。そこは読み始めてまず綴られる縦書き形式からも伝わることでしょう。
墨で描くようなフォントも特徴的で、白が基調の画面によく映えます。どうしてもゴシック体に慣れているので初めは少し違和感がありましたが、数ページも読めばすぐ慣れました。訥々と語るような、物思いを少しずつ形にしていくような文体によく合うグラフィックでした。
静かに立ち込める霧の表現
画面は常にホワイトアウトのような演出が成され、まさに描写されるとおりの霧の集落を感じさせます。立ち絵が画面効果より奥に表示されているのもとても上手い演出。記憶がない主人公の境遇や、ここで何を為せばよいのかという先の見通しなど、ストーリーとも絡んで世界観を感じれる演出でした。
代理人の見た目が好みなのでしっかり拝みたい気持ちがないと言えば嘘になりますが、世界観を彩るという意味では断然現行の形が好きです。
死んでも飢えは魂が感じるもの
死後の世界には閻魔様がいて、罪を裁かれて、地獄で浄化して輪廻転生が成される――――よくよく知られている死生観をベースにしつつ、独自設定も加えて、物語はゆるやかに進行していきます。
死んでからもご飯は食べるし、人の営みは続けられるこの感じ。この作品の、魂が潤う、っていう考え方がものすごく大好きなんですよね。死後はああいう世界に行きたいかも、とぼんやり思うなど。
そして興味深いのが、こういった舞台を通して目的が記憶を探ることから徐々に別のものへとシフトしていく点です。語りたいけどネタバレになっちゃうかな、と思ったので以降は追記に格納。
その気持ちを定めない語り口
八重自身が気づいていない気持ちがふっと表面に出てくるあの瞬間、あのシーンがとても素敵でした。謎とか意味深な台詞とか、そういう形ではなく積み重ねていく描写が伏線になってるんですよ。あれ本当綺麗だったなあ!
よくよく文章を思い返すと、八重って彼のことをよく見てるんですよね。人の癖なんてものはきっとよほど見ていないと気づけないし、服の着方、姿勢、あらゆる描写がまるで八重の視線のよう。それらが全てあの結論にたどり着いた瞬間、すごく納得しました。
そして、私の記憶が正しければ、安易に一語で規定できそうなあれらの視線と感情を、絶対に言い切らずに終わるんですよね。
例えば、泣いている人の気持ちを「彼は悲しい」と表現するのはとても容易い。でも、それを絶対にしない。それでいてくどくなくて、静かに、そっとお互いが察して繋ぎ合えるだけの要素は見せてくれるという――――もう、感嘆です。描写の仕方がとても美しい。
地獄の責め苦を味わうシーンとかも、いつもの私の鬱萌え的な意味ではなく、解脱と情動(矛盾してるけどこう書きたい)を感じさせてくれて本当に輝くシーンでした。
とまあ、こんな感じで。
静かな気持ちで読み進められ、それでも気持ちに温かく言葉にならない何かが込み上げる、良質なノベルでした。
ネタバレ込みの語りは追記にて。
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