うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

VIPRPG「金砕シリーズ」4作感想

「やりきったのだと讃えて欲しい、他の誰でもない今の僕に」

成果を残さずとも達成感を得ることはできる前置き。

 

 

えー、今回はhazuさんところのフリーゲーム「氷に始まり氷に終わる-さらば氷帝学園-」「第六返球メテオドライブ-もしもグリーンサイが最強だったら-」「魔人探偵氷炎ザード-かつにしヒヒヒの憂鬱-」「NO NEGATIVE,NO LIFE」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

基本的に見るだけ読むだけのVIPRPG。

もともとは『Hand in Hand ~夜+昼~』という見るゲをやろうとしていたんですが、一連の金砕シリーズなるものを齧っておくとより楽しめるとのことだったので、先んじて数本プレイしてみた感じです。

つまり以下の作品は全て相互に関係性がありますので、作者買いするノリでプレイをおススメしておきます。

 

 

 

 

 

 

『氷に始まり氷に終わる-さらば氷帝学園-』

 

[概要]

一部イベント戦闘ありの見るゲ。1時間弱。

 

[感想]

 

まず引っかかった点は色々とあるんです。ド失礼に率直申します。

やたらと長いイベントバトル、ご都合鬱展開、龍脈だの冥獄波だの邪眼だの連呼されるなんかふわっと強そうな謎固有名詞、死の哀しみを大きく見せておいて終盤はバンバン蘇生回復しまくる拍子抜け感、細かいところだとウォーターⅠとアイスⅢは元が同じ魔法具現化なのに別種族みたいに描かれてるのはどこで分けられてるのかとか。

理由はあるんだろうけど、ああ~中二展開あるあるでシリアル的に終わるんだろうな~なんてことまで考えてたんですよ。

 

いやあそれが、ラストでひっくり返りました! 

フォルダ名見たらそりゃね、あの技が関わってくるんだろうなってこともわかるし、伏線もあるし、予想通りなんです。なんだけど、その演出の仕方がすごく熱くて良い。

ありがちなセリフだけど、でも芯から叫んでる感じがしちゃうんですよ。やられるよそりゃ!

不満が全部吹っ飛びました。そのくらい、パッションで語りかけてくれる作品です。

 

そうなると今度は、引っかかってたところも転じて良く見えてきちゃうんですよ。確かにイベントバトルはグダったけど、各キャラの装備品の遊び心は楽しかったなあとか。こうなっちゃうともうね。良作です。良作でした。

 

余談、ヤンデレ百合っぽかったり精神的リョナっぽかったりするところは素直に萌えました。どうもハカモリサンを履修して以来アイスⅢには病み的な萌えを抱きがち。

あとアッパー系正義厨な闇子さんも好きでした。決め台詞が常にかっこよすぎる。

 

[一言]

感情移入したい、心理描写で熱くなりたい人向け。

 

 

 

 

 

 

『第六返球メテオドライブ-もしもグリーンサイが最強だったら-』

 

[概要]

一本道見るゲ。上記氷帝を履修しておくと旨味が五倍。

 

 

[感想]

 

めっっっちゃくちゃ気持ち良かった!

もうこれに尽きます。メイビー。言いたくなっちゃうよねこれ。

 

どうしても世界観が後出し説明口調だったり能力が急に都合よくガバったりするところは変わらずあるんですが、本作は良点がさらにパワーアップしていて、やっぱり細やかな点は全部感動で塗り替えられてしまいました。

特に花の能力演出はゾクゾクしましたね! 実写画像の使い方が巧み過ぎる。ノイズが凄まじい演出も、グリーンサイの気迫ある口上も、かなり心に刺さりました。あの演出が転じて彼女の境遇をプレイヤーに感じさせてくれるんですよねえ。巧。

 

セリフも熱くて大好きなんですよ! 

前作の敵が味方になるとかさー、栄光に縋っていたけど求めていたのは別のものだったことに気付いたとかさー、何でもないと思ってた人が実は一番の味方だとか私を打ち負かした貴様にはこんなところで倒れられると困るのだとかさー、そういうの! わかっちゃいるけど燃えるじゃないですか、少年漫画魂が! 好き! 物語にはパッションで殴りかかってきて欲しい!

 

で、こう書いといてなんですが安易にこういう類型分類をしてしまいたくないなあって気持ちもあって。中でも私、元気いっぱい脳筋戦闘好きのライスパークが、月という詩的で繊細なモチーフと共にあるところがすっごい好きなんですよ。もう、何がどうって言えないんだけど、とにかく好きなんです。

他にも、三下っぽい雰囲気から始まったブラックバイソンとか。これは私のもしも歴としてなんですが、バイソンさんは強キャラってイメージが強かったので、こういうはい設は物珍しくて興味深かったです。

このほかにも、キャラ同士の意外な取り合わせと、この作品だけで味わえる彼らの文脈がとても印象に残りました。

 

 

あと素晴らしいのがブラックバイソンとグリーンサイの出会い方。

例のあの、嬉しそうなサイの顔グラが出た瞬間、思わずボタボダッと涙が零れました。だって、やっとそこに人が来てくれたんですよ! 彼女の横に誰かが! 嬉しかったなあ。

エピローグでの解き放たれたグリーンサイのセリフも好きです。

というかエンドロールに入る演出のやり方がほんとサイコー!

 

 

[一言]

演出が磨きかかってセリフも熱く、暗く重たい過去もカラッと晴れ間に向かっていく、とても爽快な見るゲ。

 

 

 

 

 

 

『魔人探偵氷炎ザード-かつにしヒヒヒの憂鬱-』

 

[概要]

リザード中心、メテオドライブから地続きの続編。ミステリと見せかけて、このシリーズにおける魔族や魔法生命体の説明話。プレイ時間は測ってないけど体感、前者2作よりは短め、でもノーセーブだと思うとちょっと長め。

 

 

[感想]

 

ひよっこ(何百歳)探偵のブリザードが難事件を解決! 短編連作ミステリの第一章とか、これからなんとでも繋げていけそうなプロローグって感じでした。こういう漫画の読み切り大賞掲載欄みたいなまとまりの良さ好き。 

ノローグ多めで一人称視点、そして孤独のグルメ。感情移入させつつも変に酔うことはなく、読みやすい作りだったなあと思います。未熟キャラが主人公な作品でこの読みやすさは地味に貴重。たいていぐだぐだするので。

メッセージウィンドウの炎らしい色合いもぎょっとしましたが、意外と読めるデザインなんですよね。素敵。

 

リザードのキャラがずいぶんと違うように感じたけど、メテオドライブ氷帝学園も色んなキャラにおいてちょこちょこ違いがあったし、よく似たパロ世界ってことなのかな。

ともあれ、グリーンサイのヒントの出し方がすごくわくわくしました。ミステリってこの手の謎かけがあると捗りますよね。

 

あと、チキンライスオムレツで天丼することでミステリあるあるの手法も整ってるなあと感じました。あれです、〈小市民〉シリーズにおける甘味や繭墨におけるチョコレート、当て屋の椿における爪噛み、神メモにおけるドクペみたいなもんです。私の読書傾向の偏りがわかりやすい。こういう好物というか執着が一個あるだけでそれらしくなって好きです。

結論、まとまりの良さが光る作品でした。ここまではパッションで殴りかかってくる作者様という印象が強かったので、味わいがさらに増えて楽しかったです。

 

 

[一言]

氷帝学園で引っかかってた世界設定が紐解かれてすっきり。

 

 

 

 

 

 

『NO NEGATIVE,NO LIFE』

 

[概要]

ポイズンとファイア中心、ちょこちょこウォーターとグリーンサイ。一本道見るゲ、選択肢はあるけど結末に影響なし、ノーセーブで魔人探偵より体感長め。

 

[感想]

 

魔人探偵のほうで広げた魔法生命体の風呂敷をさらに広げてかかってるような話。社畜どんより系の話かと思いきや、人の温かさを知る展開に落ち着いていくれたので、精神的ダメージが少なめで助かりました。

まあ、言ってしまえば死ネタなんですが……話自体はとても前向きです。ポイズンを入れて、ネガな気持ちをしっかり肯定したうえでなお、こういう明るい方向へ話を向けられるのはすごいなあと。

 

「美化される死」に関する一連の台詞がどれもすごく好きです。私自身が、この美化される死についてちょっと否定的だったんですが、がらっと感じ方が変わりました。そうだよなあ、やりきったんだもんなあ。

台詞で言うと、「ウォーターが死なないようにしてやると優しいな」が好きなんですよ。なんか、ポイズンならそうしてやるであろう信頼とか、それをあえて言うファイア側の優しさとかが詰まってる気がして……。覚悟を求める冷たい展開なはずなんですが、それでも詰まっている色んな感情は全部あたたかいものだなあと感じます。

 

シリーズ履修者としては、グリーンサイさんがさりげなくウロヤケヌマをマスターしているところも要注目。≪ブロッサム≫がしれっとめちゃカッコよくて大好きです。あとサイが登場する時って顔グラ含めいつも勢いあって気持ち良くて好き。

 

 

[一言]

続きは気になるものの、救いの見せ方が優しくて好きです。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

肝心の金砕をプレイしとらんやないかーいって点は置いておいて。

響いたのはやっぱり『第六返球メテオドライブ-もしもグリーンサイが最強だったら-』、これがイチ推しです。でもどれも名言と情熱がぎっちり込められていて、魂の叫びを感じる良作品でした~!

 

 

 

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フリーゲーム「ぬりば~■□」感想

「塗りつぶすのは隠すためか消すためか」

描くためと言えればよかった前置き。

 

 

えー、今回はVIPRPG紅白2016のフリーゲームぬりば~■□」感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ラストバトルで分岐ありのやるゲ、RPG。バーストⅠを中心としたもしもキャラが登場しますが、設定は知らなくても楽しめる作品かと思います。

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

ほんのりパズルちっくなダンジョン

 

拠点→ダンジョン→拠点、と奥へ奥へ進むのが基本的なゲームの流れ。このダンジョンの広さが個人的にはしっくりきました。一画面で収まって、その中にちまちまと小ネタが詰めてある感じ。

先に進む条件もフロアごとに異なるので飽きることなく楽しめます。スイッチ切り替えで進む床などのパズル要素も有。ただ行けるところに行ってガチャガチャしてればなんとかなるので、脳筋私でもなんとかなりました。魔物を倒せ、というシンプルな条件もあるので、頭を使い過ぎずに済むのも丁度良かったです。

 

 

 

進行度に合わせて変わる顔グラ

 

明るく楽しくダンジョン探索! の趣から、次第にお話は「おや?」という違和感を持って進んでいきます。

そこで注目したいのが、メニュー画面の顔グラについて。初めはふにゃふにゃ手描きだったブランの顔が、進行度に即してどんどん変化していくんですよ! ストーリーの“色”が見えてくるのは終盤なんですが、この表情変化のおかげで雰囲気が察せられていくようになるのが上手い演出でした。

顔グラのみでなくマップのほうもフロアによって特色が違っていて、景観としても楽しかったです。フロア突入時の→へ、てってってってっと歩いていく皆が可愛くて好き。

 

 

 

主人公さえ生き残れば問題なし

 

本作の一番の特徴だと思われるのが、バトルについて。戦闘自体は通常のデフォ戦コマンドバトルなんですが、まず、行動指示を出せるのはブランだけ。他の仲間二人は全てオートで戦います。しかもレベルはカンストです。さらに、他二人が倒れてもすぐにスキルで復帰できますが、主人公だけは回復手段も限られており、倒れれば拠点へ戻されてしまいます。

つまり、本作の雑魚戦は「敵を倒す」が目的ではなく、「敵からのダメージを最小限に抑えながら主人公を育てる」が目的となっています。ここがすごく新鮮で、面白かったです!

終盤になると単に防御するだけじゃなくて、敵の猛攻を阻止するために加勢するのも大事。このプレイ感の変化がそのままストーリーにも通じるのが実に上手い構成でした。

 

 

 

惜しいと感じた点

 

最後にちょっと合わなかったなーという点についても正直に。

 

・物価とアイテム

お料理レシピがあったので料理などが解禁されるのかと思い、売却素材を溜めこんでしまったお馬鹿が私です。店売りのものが絞ってあるのは良かったものの、最終フロアは逆に回復手段が高すぎて詰みかけました。

 

・SPのコスト管理要素

各ポイントに対する回復手段が色々と混在していて、誤解が起きやすそう。セーブで回復するのはブランのHP、自動回復する(?)のはオート二人のHP、ステージクリアによって回復するのはブランのSP、などなど。特にSP、私はけちなので平気でしたがプレイヤーによっては辛いかも。

 

・おまけ部屋のパスワード

ゲームに夢中になって余韻に浸ってる最中に小ネタを拾う余裕は正直無い! 感動体験は感動体験として純全に余分なく味わわせて欲しい……。事前にここ気を付けた方がいいよと他プレイヤーさんに教えて頂いていたにも関わらず思いっきり忘れていた私も私なんですけどね。てへ。

 

まるっとまとめて、各バランスが少し大味、って感じ。

でも致命的にプレイしづらいというわけではなく、あくまで「もうちょっと!」を求めたくなる程度のあれなので、未プレイの方は気後れしないでほしい!

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

何よりエンド演出が熱くて最高なので、詳しくは追記に伏せてガッツリ語りますね!

 

 

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フリーゲーム「マリィと賢者の森」感想

「お人よしとは、おもねて巻かれる弱者と違う」

いざ進めや心強し優しき子、な前置き。

 

 

えー、今回はPlanetarium(ぷらねたりうむ)さんところのフリーゲームマリィと賢者の森」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

 

エンドや会話などの分岐はなし、一本道で明るく幻想的な戦略シミュレーション。いわゆるFE風SRPG。ただし三すくみがなかったり、仲間を会話ではなく雇用という形で手に入れたり、独自要素もしっかり含まれています。

 

以下、お話の傾向などについては軽くネタバレしてしまいますので、一切知りたくない方は要注意。

 

というわけで、良かった点など。

 

 

 

プレイヤーの観察眼をくすぐるマップギミック

 

例えば、思わせぶりにキラキラ光るポイントや、じわじわとマップから逃げようとするドロップアイテム持ちの敵。こういう気づくとニヤッとするギミックが上手かったです。

脳筋で突っ込もうとしても上手く行かないのがまた良いんですよねえ。あれが怪しいのはわかる、けどどうすればいいんだろう。こんな感じでふと頭を捻る瞬間が楽しかったです。

各ユニットの説明文や一言コメントがくすっと笑えるセンスなのもグッド。

 

 

 

幻想的で美麗なマップ

 

光差し込む森から、鬱蒼とした死霊の歩む木々、草花が咲く開けた広場などなど、どのマップも幻想的で綺麗でした!

SRPGとして、敵の配置や動線の作り方なども上手かったんですが……この辺りはそっち方面が強い方に任せるとして。私が推したいのはやっぱりこれらのマップの雰囲気。柔らかいタッチで幻想的な空気感がとっても好きです。

アイテムのアイコンやシステムウィンドウのフレームも綺麗なんですよね~。

どうしてもSRPGって軍記もの・軍隊物のイメージが強かったので、こういうファンタジーガン振りな作品に出会えて、イメージがさらに広がったのも嬉しかったです! BGMに民族調系が多かったのも好み!

 

 

 

さて彼女に足りないものは?

 

見習い魔法使いのマリィの成長物語。これが本作のストーリーの要約です。

全体的には掛け合いメインで、あっさり味。それでもちょっとした描写の端々に察せられる設定はありますし、精霊語など心惹かれる用語もあって、独自の世界観が楽しめました。

クリュセイスとの掛け合いを通じて、マリィに足りなかったものの正体は確かに感じられるようになっています。それでもエンドでは明言しない、ここが好き! 茶化しつつもカラッと締めてくれるところがグッド! 最後まで明るく前向きな雰囲気でした。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

この作者様は乙女ゲー製作者という印象も強かったので、こういう間口の広いSRPGを作って下さったことも嬉しかったです。女性向け男性向けの仕切りを超えて、色んな方に親しんでもらえたら嬉しいなあ。

 

しっかりと世界観で殴りにきつつ、要所要所に笑いを仕込んで、ゲームとしても飽きさせない。満足度の高い短編SRPGでした!

 

 

追記ではネタバレありのちょっとした攻略メモ。

 

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フリーゲーム「ダージュの調律」感想

「どうあがいたところで君は君だ」

それを絶望と取るかは別だがな前置き。

 

 

えー、今回はローゼンクロイツさんところのフリーゲームダージュの調律」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

VIPRPG。使用されているのはモナーキャラですが、モナー2chネタを知らなくても楽しめる完全なオリジナルストーリーです。

何も持っていない人間はどうやって人生を歩めばよいか、みたいな話。

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

 

無才能者が前を向くための話

 

才能あふれる弟が傍にいるのも相まって、主人公のダージュはとにかく卑屈です。

興味深いのが、周りのモブが徹底的に悪ではないところ。ダージュの失敗や無才能っぷりを煽るような人も確かにいますが、中にはダージュに優しくしてくれる人、失敗した時にぎこちなく励ましてくれる人もいます。ダージュは決して、作中の皆から見放され虐められているわけではありません。

さらには、それをダージュ自身も理解しているような語り口が見られます。弟とのいさかいも誤解だったと後から気づけるくらいには冷静です。ただ、頭で分かっていても追いつかない、それらを受け入れる心の隙間がないんだなと感じられるような構成でした。

 

おかげで、独白部分を読んでいてもストレスがまったくないんですよね。プレイヤーと主人公の情報格差は減らしたうえで、それでもどうにもならないという心の葛藤に焦点を当ててくれる。ここがすごく読みやすく、ある意味潔い話でした。

 

これが自己憐憫だけの話であったら、たぶん私は合わなかったんですよ。セインツが徹底的に悪役になってる、みたいな。

でも本作はそうじゃない。主人公を痛めつけるだけのお話でもなければ、弱くていいんだと見当違いな慰めをする話でもなく、本当に「前を向く」ための話だと思っています。

 

 

 

システムは斬新に、難易度は優し目に

 

ゲーム的な部分にも触れておくと、全体的にバトルの難易度は優しめです。ただし、本作はレベリングではなく探索等のアイテム収集で強化していく感じなので、探索嫌いな方にとってはそこそこの難易度に感じられるかもしれません。

それでもドーピングアイテムがお金で買えるので、やろうと思えば脳筋プレイもできます。この辺、幅広いプレイヤー層を想定している感じがしますね~。

 

あとはステータスの振り直しアリなのがすっごい嬉しかったです! ステータスもスキルも入れ替えて、極振りというよりはそのダンジョンごとに適した形に主人公を整えてあげる感じ。戦闘後HP全快だったりEP回復アイテムがいくらでも使えたりするところも、システムが独特なぶん、バトル苦手な方でも戦えるような余地が感じられました。

 

 

 

遊び心のあるマップと親切な誘導

 

ダンジョンにはちょっとした仕掛けが用意されています。この仕掛けの説明がまた親切でして。

まず、ダンジョン入ってすぐにギミックの説明をするためのマップが用意されています。長ったらしいチュートリアルではなく、道中にひょいと置いてあって、プレイヤーが動かすだけで仕掛けがわかる感じ。そして次のマップから雑魚敵がうろつく本格的な探索がスタートします。このお手本があるのとないのとではプレイのしやすさが段違い! 

説明に関しても塩梅が丁寧です。宝箱や即死に関わる仕掛けはド直球に。隠しボスの攻略方法や物語のバックグラウンドに関しては軽くぼかして、プレイヤーが気づく楽しみを残しつつ。全体的に、面白さとプレイしやすさが共存しています。

 

 

 

チャプター選択で取得漏れもばっちり

 

アイテムやレベルを引き継いだままで探索のし直しができるので、取り逃がしに怯えずに済みます。もう、本当に親切!

コンプ要素があるからにはユーザビリティも高めておきますと言わんばかりの仕様でした。お目当てを見つけたらchapter選択画面へささっと戻れるのも楽です。

嬉しいのは、ストーリー部分もきちんと見直せること。見たいシーンのためにセーブデータを取っておく、みたいな面倒なことをせずに済むんです。私はストーリーのためにクリア済みゲームを起動し直すことも多いので、このシステムすごく助かりました……! 全RPGに搭載して欲しいくらいだ。過言ですが。

 

 

 

幻想にもグロにも振り切れたグラフィック

 

メニュー画面のスクショを見た瞬間にピンときてDLを決めた人間です。あの本のつくりと繊細なフレームよ! コンプ状況など見たいものは全て閲覧できて、有用性としても高いメニュー画面でした。

見つかるギフトにも小さなデフォルメイラストがついて、色々探すモチベになります。付いてる一言コメントがまたシンプルに響いて好きなんだよなあ。

 

あとは敵グラも特徴的。特にボスはかなりえぐくて、ドットとはいえ臓物的なものも見え隠れし、戦闘画面はドアップで迫力があります。でもこのえぐみこそが私は大好きです。きちんと恐怖が恐怖として成しているので。

 

一方でマップは幻想的なところも多め。揺れる花、遠景の美しさ、ちょっと風変わりな夢の世界、セピア色の硬派な塔、などなど。Chapter開始時のタイトル表示も含めて、世界観が強くて大好きです。

 

何よりダージュのキャラチップ。彼は心の中で色々考えつつも発言はかなり少ないんですが、それでも表情や動作が細やかに動くので、色々と感じ取りやすくできています。そしてこの表現がそのまま、「お貴族育ちで快不快を隠すことのできない、良い意味でも悪い意味でも素直なお坊ちゃん」の表現に繋がってるんですよねえ。

色んな人が言うんですよ、顔に出てるぞって。その説得力になるだけの描写が見て取れるあたり、無口主人公であっても無個性ではない、かけがえのないダージュらしさを感じました。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

収集要素多めのRPGが好きな方や、暗いながらもしっかりを前を向いて終わるストーリーにぐっとくる方にオススメです。

 

 

追記ではネタバレ感想。

 

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フリーゲーム「らぶいずふぉーえばー?」感想

「口先だけで言うなら簡単、成すのは死んでも難しい」

断定しない代わりに誠実でありたい前置き。

 

 

えー、今回はJewelry Princessさんところのフリーゲームらぶいずふぉーえばー?」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

 

倫理も常識も吹っ飛ばせ! な勢いの乙女向けギャグRPGです。───ぱっと見は。

通じますね、この書き方で通じると信じています。いやー、予想外のところから好みが飛んできたので驚かされました。好き。

 

というわけで、良かった点など。

ここが伏線ですよ、くらいは触れてしまうので、情報なしの驚きを楽しみたい方はご注意。ネタバレなしのほうが楽しめるタイプの作品ではあると思いますが、ネタバレがないと需要に届きづらい作品でもあると思っています。

 

 

ドカンとパワフルなヤンデレ彼女

 

まず冒頭からしてパワフル。憧れの先生のクローゼットの中から飛び出してくる彼女こそ、我らが主人公です。ストーカーヤンデレです。いやー、勢いがすごかった!

とにかくキャラチップの動きとセリフの爆裂天下無双感がすごいんですよね。ギャグは勢いで押してこそというのをよくよくわかってらっしゃる。暴言も容赦なく出てきますが、そのぶん登場人物も破天荒なキャラが多いので楽しくプレイさせて頂きました。

しかも嬉しいのが、彼女がそんじょそこら一筋縄のヤンデレではなく、きっちりした理由も持ち合わせているところ。ぱっと見テンプレヤンデレですが、その裏にはこの作品独自の行動原理が成り立っているので、色々と真相が明かされた後は「なるほど……!」と唸らされました。

 

 

 

突如殴りかかってくる謎の生き物たち

 

ストーリーパートや会話の尺はかなり長く、全体的な印象としてはADVっぽいつくりの本作。それでもRPGとして熱く推したいのは、ずばり戦闘がガッツリあるから。

まずものすごく面白かったのが、理由なく突如戦闘が始まるところなんですよね。学校を歩いていて急にぴよっぽーが殴りかかってきた時は思わず爆笑してしまいました。現代日本の学校内で戦闘が!?しかもヒヨコ!?!?みたいな。

いやでもここがポイントなんですよ。この唐突さ、インパクト、これが見事にこれまた真相と絡んでくれるんですよ……! ここは本当巧みでしたね、本作がRPGとして作られた最たる理由だと思います。好きです。

 

気を抜いてたらたらプレイすると死にますが、雑魚戦はさぼらない・スキルはきちんと使う・アイテムで回復する、といった基本を守れば難なく倒せます。難易度としてもほどよくプレイしやすい感じ。

 

 

 

パステル可愛いマップとまさに美少女な主人公

 

システムだけでなくグラフィックの可愛さにも注目したいところ。一番わかりやすいのが起動画面! 少女漫画ちっくな画風の後ろに、小物がずらり、メルヘンかわいい雰囲気がたまりません。特に、クリア後は散りばめられた小ネタの意味にピンとくるようになっています。二重においしい!

背景のマップチップもすごく細やかで、ちょっとした小物がどれもすごくキュートです。しかも貼られているポスターとかを調べた時の反応が全部違うんですよ! すごい……。パステルな色味なのもまた素敵! とにかくかわいいがギュギュっと詰まっているので、そんなぽわぽわ夢見心地世界から放たれるヤンデレ台詞のギャップがより光りました。

主人公の小柄さがしっかり立ち絵で表現されているところも好きです。

 

 

 

リアルとご都合の取捨選択

 

先生×生徒ということもあり、けっこう一部の設定は破天荒に流されています。暴力沙汰はお手の物、勢いでややこしいところは飛ばしていく感じ。

個人的にはこのノリが好きでして、この世界はこういうことなんだなと割り切って楽しめました。明るすぎるくらいにご都合主義な展開も、パワフルな彼女なら納得ができちゃうところも良かったです。

 

さて、一方で、生々しいところはガッツリどろついているのも魅力の一つ。

若干暗い描写あり、と公式に注意書きがあるとおり、蓋を開けるとぎょっとする展開がやってきます。全体の濃度からいけば確かにボリュームとしては若干、しかしながらパンチはかなりあります。

ですが、鬱展開が根幹にあるからこそ、本作の勢いとヘンテコな描写がしっくりハマるんですよね。だからやっぱりこの設定がしっかり描写されて良かったなあと思います。何より、最終的なエンドで二人の出す結論が、私大好きなんですよね! テンプレじゃない、二人だからこそ出せる結論だなあと思います。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

元気いっぱいで頭がおかしい、けれど相思相愛の重たいくらいに純愛な一作でした!

 

これからプレイ予定の方は、1周目のラスト直前にあえて探索をサボるのをおススメしておきます。エンディング近くなったタイミングはポスターが知らせてくれるのでご安心。

 

追記では軽くネタバレ感想。

 

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フリーゲーム「虚構世界」感想

「君の声をコマンドだと僕は勘違いしていた」

ただ素直に気持ちを叫んでいただけだった前置き。

 

 

えー、今回は月読みの里さんところのフリーゲーム虚構世界」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ファン待望!なクロスオーバー作品。コマンド選択型の探索ゲー、謎解きはありますがヒントは充実。メタな技術が光る一作です。

 

前提作品の一部の記事はこちら

フリーゲーム「記憶の檻」感想

 

というわけで、良かった点など。

 

 

進行と共に増えていくファイル

 

まず驚かされたのがメタ技術について!

ただキャラがプレイヤーを認識しているだけに留まりません。本作はゲーム内・外問わず、あらゆる手段を用いてプレイヤーへアクションを起こしてきます。いやもう、ウディタの可能性をとくと感じさせてくれる作品でした!

フリゲフォルダに謎のファイルが生成されたり、キャンセルキーが「いいえ」以上の意味を持っていたり、そういう演出大好きなんですよね~! メタ演出が好きな方は絶対合う、と豪語したくなるくらいには楽しかったです。

手法が多種多様なところもポイント。単純にプレイヤーのひらめきを求めてくる場面もあり、謎解きゲーとしても味わい深かったです。

 

 

 

たっぷりじっくり楽しめる掛け合い

 

本作はファンディスク的な側面が強く、同作者様の他ゲームの登場人物たちが多数登場します。ガッツリネタバレなキャラクターも登場するので、個人的には関連作品を全部プレイしたうえで挑んで欲しい気持ち。

何より舌を巻くのが、会話の巧みさについて。一見自然な会話の中に、プレイ済みだとニヤッとできるフレーズが仕込まれてるんですよ。「あ、地雷踏んだな」と冷や汗が垂れる掛け合いもあって、いやあ実に楽しかったです。

しかも、これもある意味メタ的な楽しみ方と言えるんですよねえ。本編中では彼らの事情が明かされないのでなおさら効果的。作者様と既プレイヤーにだけ通じる「ニヤリ」が感じられました。

やっぱり私は狂いがちな人が好きなので、某先生やミヤ君が絡んだ際に見られる会話が楽しかったです。パッと見ほのぼのなのが恐ろしいんだよな……。

 

 

 

細やかな会話分岐

 

加えて主張したいのが、ちょっとしたテキストの分岐の多さです。

会話や調べるなどのコマンドは二回試してなんぼ。テンポが良いのでさくさく読めてしまいますが、テキスト量や立ち絵差分の手間はかなり膨大だったのではないかと思います。

しかもさりげないポイントとしては、テキストが二段階表示なところ。一言ごとにさりげなく表情を変える様がかなり生き生きとして見えて、とても良い演出でした! やっぱり作りが丁寧なんだよなあ。

中にはこう、本編の進行には関係ないけど好奇心でやった行為に反応が返ってくることもあって感動しました。具体的なポイントなどは追記にて。

 

 

 

丁寧なレベルデザインと暗闇の奥の世界

 

この作者様の話をする時はどうしても毎回「レベルデザインが秀逸」と言いがちなんですが、本作も例に漏れず素晴らしかったです。何だろう、繰り返すことでプレイヤーに学ばせるやり方がすごく上手いんですよねえ。

謎解きでもこの魅力は遺憾なく発揮されますが、やっぱりストーリーにも注目したいところ。ただのお祭りゲーに留まらず、しっかり『虚構世界』という作品としてもまとめてあるところがとても好ましかったです。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

エイプリルフールに公開されたこともあり、まさにタイトル通り、様々な嘘が絡むとても素敵な作品でした。

この作者様の他作品が好きな方には是非ともプレイして欲しい良作です。

 

追記ではネタバレ感想。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

フリーゲーム「廃屋にて」感想

フリーゲーム「記憶の檻」感想

 

 

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フリーゲーム「終極のヨル」「つばさヘブン」「夕夏プールサイド」感想

「沈む時も病める時も分かち合って逝きましょう」

光より闇を知ってこそ絆が生まれる前置き。

 

 

えー、今回はcream△(乃花こより)https://nohana-no3.jimdofree.com/さんところのフリーゲーム「終極のヨル」「つばさヘブン」「夕夏プールサイド」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

それぞれ繋がりはなく、単品で楽しめる作品です。どれも短編ノベル。

 

 

 

 

『終極のヨル』

www.freem.ne.jp

 

[概要]

千文字で構成されている掌編ノベル。全クリ数分一本道。千文字喫茶参加作品。

 

[感想]

荒廃した世界観と神話的な雰囲気が楽しめる作品。スチルが一枚差し挟まれるんですが、この色、瞳の美しさがずっと印象に残るお話でした。

ティラノ製なのでノベルゲーとしてはシステム不足を感じますが、そもそも短編ですしエコな作りだと言えるのかも。さっと読み終わってまた余韻を噛み締めるように繰り返し始められるところも、作品のオチとうまくかみ合っていて素敵。

 

[一言]

退廃、神話、教訓話のような雰囲気が好きな方向け。

 

 

 

『つばさヘブン』

www.freem.ne.jp

 

[概要]

30分強1時間未満くらいのノベルゲー。エンド分岐有、終盤の選択肢総当たりで回収可能なので難易度は易しめ。ヤンデレとクズ。

 

 

[感想]

 

人様のキャラを罵倒するのは躊躇いがあるんですが、本作は紹介文とキャラの名前からして公式でクズなので遠慮なく言えます。

本作はずばり、ヤンデレとメンヘラとクズ! 

そしてご都合鬱なファンタジー設定! 

総括としては、お手軽にドロドロ愛憎と流血描写を楽しめるB級ホラーでした。

 

不倫要素を推しているとおり、メニュー画面で罪悪感が掻き立てられるところがグッド。良心はあるけど自分が一番かわいいという、生々しい中途半端さとクズっぷりも小粋です。

血がゆっくりと溢れてくるようなスチルや、ハッピーエンドのラストがオープニングとリンクしている点など、演出もしっかりこだわられていた印象。

肝心の世界観設定、例の彼女の神様的な能力などについては疑問が残るので私はどうも物語に入り切れなかったですが、それはそれと割り切れる人ならより楽しめるかと思います。

 

 

[一言]

可愛くて色気たっぷりの女の子の凶行にわくわくしたい人向け。

 

 

 

 

『夕夏プールサイド』

www.freem.ne.jp

 

[概要]

ヤンデレBLだけど赤い描写はなくて破滅願望な感じ。10分強くらいのエンド分岐有ノベル。分岐はラストの選択肢だけ。

 

 

[感想]

 

今までノベルツールを使われている作者様だったのでツクールMV製だったことに驚き。文字送りや回想などがないのは変わらず手間ですが、選択肢の直前でセーブを挟んでもらえるのはすごく有難かったです。

 

注目したいのは、マップの夕焼けの演出! ちょっとしたシーンではあるんですがカメラの使い方が良くて、一瞬で終わる青春の儚さみたいな演出を感じるんですよ……。おまけ部屋もそうなんですが、あえてツクールを選択したからこその良さもしっかりありました。

ストーリー自体はどちらも、結末は違えど彼らにとってはハッピーエンドな気がしています。あの選択肢のほうがTRUE、二人が分かり合ったからこその結末というのがまた深読みできてよいですね~。

あと、全体的に彼らが学生だからなお響くお話だなあと思います。なんていうか、学期末とか学校が変わるとかってすごくセンチメンタルになるじゃないですか! まだまだ先があるしやりようもある、と周りから言ってしまうのは容易くて、渦中にいるとどうしようもなく焦っちゃう感じ。あの感覚がよく出てて素敵でした。

 

 

[一言]

ふっと消えてしまいそうな雰囲気のBLを味わいたい方向け。

 

 

 

 

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