「誰も呼ばない名前などに意味は無く」
呼ばれない僕に意味はあるのか、な前置き。
えー、今回は、和製オフィーリア(http://lionheart.yukishigure.com/)さんところのフリーゲーム「チヅル-your lost name-」(http://lionheart.yukishigure.com/index.html#1)の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
現在はなくなっていますが、当時あった公式紹介サイトの雰囲気にまず心ひかれたんですよねぇ。
一文を引用させて頂きますが……
「今日から三日のうちに『生徒』を見つけないとクラス全員が死んでしまう。」
ここから始まり、生徒当てに関するルールが続いて書き連ねられていました。で、これを見てミステリものかと思いDLしたところ、いやあ、なんとびっくりな方向に話が転がっていきまして。ふふふ。楽しかったです。
と、書いても何が何やらだと思うので、ひとまず魅力的だった点をあげていきますね。
探すべきは“チヅル”? それとも“僕”?
序盤はこのミステリ風な展開でがっちりとプレイヤーの興味を煽り、何とかして“チヅル”を探さねばとキャラクター達も奔走してくれます。が、中盤以降はむしろ焦点が“僕”へと移っていき、終盤では果たして誰を探せばいいのか、確かなものは何だったのか、ただただ漠然とした不安と共に激動のストーリーを楽しむことができます。
詳しいネタバレ感想は追記に畳むとして。
この、確かだったはず土台がぐらぐら揺らされる感覚が物凄くツボでした。自分で色々予想したり、考察したりしながら読み進めるのが好きな方は特に合うかと思います。
正気と狂気の境界線、とかにピンとくる方も是非に。
終始どんよりとした心理描写
主人公は苛められっこで、とにかくネガティブです。差し出された手に怯えるタイプです。人を選ぶところであるとは思うのですが、少なくとも私にはぴったりきました。なんというか、もう、素晴らしい不安定さだなと!
じっとり取り憑かれたかのような心地で一気に読み進んだのもひとえにこの主人公のおかげです。このくらいダウナーなほうが落ち着いて読めて好きなんですよね……。
で、やはり物語は薄暗い雰囲気で終始進んでいくのですが、終わって改めて振り返ると、ちょっとした発見や見逃していた伏線があってこれまた面白かったです。
ぎょっとくるギミック
サウンドノベルというとひたすらに読み進めるだけ、となりそうなところですが。
反転するチヅルのロゴや、突如現れる赤文字、謎のシステムメッセージらしきものなど、演出面もシンプルながら凝っていて飽きることがありません。赤文字が出て来た時は思わずセーブしてしまいました。色々と感極まって。
時折バックログが効かなくなるのも、場面を考えると演出なのかな?
ただの左寄せでなく、余白(余黒?)を入れてある画面構成も見やすくて好きです。
ただ一点だけあげると、
ダッシュ(―――)多用だったり、オートモードが一文ごとじゃなく段落で区切られていたりするので、文章のテンポがかなり独特になってます。ちょっと腰を据えないと読みづらいかも。
といっても勿論こういう文体が大好きという方も多いでしょうし、中身は心理描写中心でとっつきやすいので、ご安心を。
とまあ、こんな感じで。
危ういバランスで成り立っている感じの世界観や、色々と境界が曖昧な主人公など、私好みの鬱々とした一作でした!
追記ではネタバレがっつりの考察感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレ注意です。
うつろや先輩はなんとなーく正体に察しがついていたのですが、いやあ、チヅルは予想がつきませんでした!やられた!
とりあえず初めからうつろは脳内存在だろうなあと思っていたのです、何故か。おそらくは、あの主人公に心のよりどころみたいな存在がいるわけないというか仮にいても彼自身が信用できないだろうとかそういうことを考えてしまったせい、かな。うーんでもこの思考も後付けな気がする。何か本当になんとなく、そう思ってたんです。ごめんな。
ともあれ、この二人に関しては察しがついていたので、後々明かされる描写とぴったり合ってすっきりしました。
砂糖水のくだりは面白かったですねー。
そのまま読んだら主人公の異常さが際立つ良い描写ですし、真実を知って読めば伏線として輝きますし。
というか、ついつい話が変わらないにも関わらず二周しちゃったんですが、よくよく読み直すと、伏線がぼこぼこ見つかって面白かったです。
それなのにお話を理解しきれていない気もするのが私の情けないところ…w
なんだか見当違いのことを書いてしまっている気もして恥ずかしくはありますが、読み直して考えたことや面白かった気付きなどを以下にまとめてみました。
日が変わる度に挟まれるモノローグ
あれはたぶん“僕”と犬チヅルとの会話、かな?
健気で従順なわんこさんが、あんなにクールでかっこいい人になるのもまた良いですね。どうしたんだい、って言い方がなんか好きなんです。
[]書きのシステムメッセージ
初めて出てきたのは確か春中さんに声をかけるシーンでした。
まず初めに、彼女に声をかけたパターンが描写されます。その時の返答が「仁上と夕食を~」云々な台詞なのですが。これ、彼女と主人公が初めて顔合わせをしたシーンでも見かけた台詞なんですよね。
思うに、主人公があの時話を続けようとして断られたのが軽いトラウマになって、話しかける勇気が持てないよっていうのをああいう形で演出しているのではないかと。
この台詞気づいた時に鳥肌が立ちました。良い意味で。
反転するチヅルのロゴ
↑にも関係してきますが、画面端のチヅルのロゴが時々反転するのはどういう意味があるのかについても考えました。
プレイ中は、主人公とは別にもう一人の主人公がいるんじゃないかとか、実は樹雨のモノローグなんじゃないかとか色々考えてたのですが。そんなことはなかった。樹雨どっからきたんだろう。
ええと、おそらく、ロゴが正しい向きになっている時の描写が本当に現実で起こったことで、反転している時の描写が主人公の夢に当たるのかなーと思います。先輩もうつろも反転時しか出てきませんし。うつろが横から飛び出してきたとか、うつろの台詞とかは実際だと僕が全部言っていることになるんでしょうねぇ。
なので境界が本当にあいまいになってきますが、うつろ・先輩・上級生(人化チヅル)は夢の中での妄想で、チヅル(オカルト)のほうはおばけ的な存在として実在していたということになるのかなと。オカルト的なものが実在で、人間的なものが空想って展開もとんでもないですよね。
エンディングについて
いや、恥ずかしながら私、一周目が終わった段階では、初めの「チヅル探し」からすでに主人公の夢が始まっていたと思っていたのです。だから、彼の自殺未遂はチヅル探しと一切関係がなくて、夢の中でああいうストーリーを作り上げてしまっていたのかなーと……。
そしたら後日談で裏次郎達が実在していて、大層驚きました。というわけで、二周目プレイに繋がるんですね。
で、結局どういうことだったのかは↑で語ったのでよしとして。
そもそも序盤から、こんな人間不信の主人公がほぼ初対面の彼らと一緒にバーガー屋行けることに驚きを感じていたのですが。この辺り、一人称を“俺”と言い直しているシーンや、後日談での猫かぶり云々の話ですっきりしました。周りに溶け込もうとした結果なのね。
ということは、あれだけ鬱屈としていた内面も、裏次郎や家族達から見れば少しだけ繊細なだけって形にカモフラージュされているということなんでしょうか。すさまじいですね。
こんな感じで色々と考えつつ。断定口調で書いちゃってるところもありますが、あくまで一個人の解釈ということで大目に見て下さい。
いやあ、何にせよこの手のダウナーな雰囲気は本当好きです。非常にのめり込めた一作でした。