「きっと誰かが見つけてくれる、きっと誰かがわかってくれる」
待ちぼうけを受ける前置き。
えー、今回はすとれいきゃっとさんところのフリーゲーム「ハイドアンドシーク」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
3人の子どもたちの視点で話を追っていく他視点型ノベルゲーム。
エンドは複数ありますが、最終的には一本に収束します。
というわけで、さっそく良かった点など。
隠れた心の闇を覗き見ていくストーリー
これはふりーむさんのところにある一文紹介が非常に秀逸なので、是非ともそちらも見ていただきたいところ。あれでDLを決めました、まさにハイドアンドシーク。タイトルも直球な意味と間接的な意味とがあって、良いダブルミーニングだと思います。
雰囲気としてはダークメルヘンに近い印象で、子どもたちの集まりという不穏さと不安定さが実に楽しめます。冒頭のあの、意地悪い展開からしてぞくぞくしますよね……無邪気な悪意というか軽々しい恐ろしさと言うか。
この辺り思うところは追記にまとめるとして。
とにかくプレイ感としては、すんなりとダークな雰囲気を楽しんでいた矢先に不穏なキーセンテンスが出てきて首を傾げた直後、ひゅっと息を呑むみたいな感じでした。実に楽しかったです。
互いの時間が絡み合う他視点型ストーリー
一区切りごとに視点キャラを選んで読み進めることができるのも、この作品の特徴の一つです。
物語の理解としては一人のキャラをひたすら追っていくのがオススメ。けど、好きな順番で気の向くままに覗き見して、濃厚なダークメルヘンぶりをとくと味わうのも乙だと思います。
私が初めてプレイした時は途中までカケス、一回カナリア、一回クロウ、という順番で見ました。いい具合に異常の中身を知ることなくただただ怪しさと底行きの暗さが浮き出るばかりの展開になり、大変興奮しました。これだから鬱展開はやめられねぇんだ。
焦げ付きのようなグラフィック
テクスチャ、でいいのかな。焼いたり破ったり零したりという印象を受ける加工が多くて綺麗なお屋敷なのにどことなく歪んでいるような、良い雰囲気を醸し出しています。特定のルートで差し挟まれるカットイン的な視覚演出も絶妙。
キャラクター達も無邪気で可愛く、かつ表情変化にぞくぞくさせられます。というわけでグラフィック重視の方も是非やってみてほしいところ。
チャプター選択の画面の、鳴り続ける時計と意味深な鳥かごのイラストがとても不気味で素敵でした。
とまあ、こんな感じで。
子どもたちの織り成すダークな物語や、暗い裏を探っていく展開に興味のある方へ強くオススメしたい一作でした。
追記ではネタバレ込みの各キャラに対する感想など。
ネタバレ注意。
【ストーリー・演出面】
あの音演出素敵でしたよね!!!
ごく自然に滑らかな流れでぶわっと不穏さが増して、体中総毛立ちました。あの演出は本当すごい……。
地の文でヨダカに成り代わるとするのなら、ヨダカは全ての視点を見て全てのキャラの重みとトラウマを理解できている、疑似的なプレイヤーだと言えるのかもしれませんね。
あの、もう、油断していたところでふっと背中を押されるような展開が大好きでした……!
【キャラクター】
カケス
一番に覗き見たキャラクター。
やんちゃな悪戯っ子なのかと思いきや、内面は真逆でとても驚きました。良い子だった……。
この手の「見捨てられたら」「間違ったら」「上手くできなかったら」という感じの、まあ俗にいう依存体質っぽいキャラが大好きです。強迫観念というか。
ところどころカタカナになるのも、お勉強に慣れてないんだろうなあクロウに習った言葉をそのまま言ってるんだろうなあ、と思わされてほのぼの切なくなりました。
カケス視点を読み進めつつ途中でカナリア視点を見たので、「女の子……いや男の子か、えっ女の子か?男の子だったよ!!」という二転三転をしました。本人に言ったら怒り狂われると思います。ごめんな。
色んな葛藤が多そうで、葛藤から癇癪を起すタイプにも見えました。
生きづらかろうなあ。
だからこそ、トゥルーエンド行きのテキストが一番響いたキャラでもあります。甘えたがりが腹を括るとめちゃ強い気がする。客観的な視点を得られるということはそれだけ世界が広がったということなわけで、やっとママの呪縛から解き放たれて、新しい場所を見つけられたんだなあとしみじみしました。
クロウ
初めて彼の視点で読んだ話は「天井は嫌だ」の部分だったので、しばらくクエスチョンマークだらけだったのですが、いやはやなるほどこう繋がるかと。
読み直してみると見事に地雷原を踏み抜いていたカケスにびっくりでしたし(そしてカケスのキャラ像はとことん“こう”なんだなあと思い知らされて手腕とえげつなさと興奮でぞくぞくしましたし)、憔悴していくクロウにはらはらしました。
差し挟まれる文章を一度ストップかフリーズかさせて読み込みたかったですねぇ。状況的にろくでもないことだろうとは思うんですが鬱展開好きとしてはとても見たい……。
一人にしておくとポキリと折れてしまうタイプだなあと思わされます。
ヨダカ
この子が視点主かと思いきや、まさか顔無しに意味があるとは……。痺れました。
ヨダカって誰にでもなれる存在なんですよね、たぶん。
だとするとあの3人のヨダカに対する態度の怖さも納得がいくんです。だって彼らって、少なくとも初回プレイの時点では、自分のことを素直に大好きだとは言いづらい状態だったでしょうし。
しかし、結局ヨダカは何だったんでしょう。そしてあの廃墟はいったい……。3人が見せた深層心理世界等々、色々好きに理屈付けはできそうですが、不思議なままで終わらせるのも雰囲気が出ていいのかも。
ああでもやっぱりヨダカ視点とかエピローグ的なおまけは見たかった!
作者様の次作にも期待したいところです。
また、各種バッドなエンドの時の、ヨダカの歌うようなテキストに惚れました。ああいう不穏なメルヘンっぽい言い回し大好きなんですよ、大好きなんですよー!
表情の選び方も実によかったです。
短編ながらもじっくりと、時に突き落すように闇を味わえるとても好みなお話でした。