「適正有無と生存権利が同義とされる世界」
生きる意味なんてものよりだいぶわかりやすい前置き。
えー、今回はecoddrさんところのフリーゲーム「Test of Magic」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
マップ探索要素はなく、ノベルパートとバトルパートで進むステージクリア型RPG。シューティングやカード系だとよく見ますが、RPGだと珍しいタイプかなーと思います。
私は次作『ひびかけ色のキセキ(以下ひびかけ)』のストーリークリアをした後こちらの作品に触れたので、多少ひびかけのプレイ感が前提となっている感想になります。気になる方はそちらもどうぞ。
なお、公式には作品双方に関係性はないとのことなので、単品でももちろん楽しめると思います。
というわけで良かった点から。
手番調整が重要なターンバトル
ゲージが溜まると行動可能になるタイプのバトルです。呼称はATBでいいのかな。
相手の手番は初めから表示されているので、スピードアップでうまく割り込んだり、妨害攻撃で敵の強い攻撃を遅らせたり、けっこう頭を使うところも。ユノの詠唱中断スキルは運要素もあって、ちょうどキマった時はガッツポーズでした。
興味深いのはあえて手番を遅らせる「Wating」のコマンドと、キャラごとの連携技。連携技ってそれだけでテンション上がりますよねぇ。終盤は火力不足になるのと、後述するエナジー損の関係で使うことが少なくなってしまいましたが、序盤の強攻撃やATB慣れの手段としては楽しかったです。
手動ガードの堅実派? 回避ノーガードの博打派?
そして特に面白いのが、ガードが手動という斬新さです。
いかんせん私はこういうタイミング合わせはとても苦手なので、ガードし損ねて壊滅状態になることもしばしば。が、そのぶん手ごたえのある戦闘が楽しめました。
一応、仲間の行動タイミングで手番がわかるので、むやみやたら高難易度なアクション要素というわけではありません。ただ、ガード時にはこちらの行動ゲージも止まってしまうので、チキンになるとジリ貧になります。なりました。ははっ。
この、どのタイミングでガードするかというジレンマも面白かったです。
やろうと思えば、回避ステータスを上げまくって全ての攻撃を無効化する、という戦法もありです。むしろアクション苦手な私はこっちの道をもっと早く選ぶべきだった!
回避時に出るシャキーン!なSEもかっこよくて興奮するんですよねぇ。
私は後述するエナジー縛りをしていたので、完全回避盾というわけにはいきませんでしたが……。ユノだけはEVAをLVMAXにしていたので彼女だけHP満タンな状況もざらでした。序盤はすぐ倒れてたあの子も今や立派な回避盾です。
シビアなHPMPの回復量
さらに戦闘のバランスを良くしているのが、消費ポイントに対する回復量です。
なにせまずアイテムという概念がないため、通常のRPGみたいにバンバン消費してバンバン回復、という大盤振る舞いはしにくいところ。逆に言えばコスト管理に燃える人や、あとちょっとのポイントが足りないシーンをどううまく乗り切るかという逆境が好きな方にはバシッとハマるシステムかと。
特に終盤のHPはガードを決めれることが前提のバランスです。回復技をLVMAXにしてもかなりギリギリで、ラスボスは皆がぶっ倒れる中HP6のアイリがなんとか倒してくれました。死闘っていいですよね。興奮した。
MPも枯渇しがちで、どこで力を溜めてどこでぶっ放すかの判断がシビアでした。いいね。
一応、MPやMP回復量にブーストをかけれるスキルもありはするのですが、私はチャージしてぶっ放すタイプの戦闘がけっこう好きなのであえて上げなかったり。
逆に言えばそういう増幅系のスキルを上げておけば、難易度高めな戦闘が苦手な人でも楽しめると思います。
何より、そもそもバトルの難易度が4段階調整できますしね!
気になるところに手が届くコンフィグ
流れでコンフィグについて。項目自体は標準ですが、気になるポイントをきっちり拾ってくれていました。
まず驚いたのが画面サイズ調整。フルスクリーンとウィンドウはデフォ機能ですが、ウィンドウの大きさが変わるのは新しいなあと。横長な画面も、ノベルならともかくRPGでは珍しいですよねぇ。実際プレイしてみるとこの横長具合がぴったりなのがまた凄いところ。
ひたすらゲームシステムと楽しみたいという人向けに、ストーリーを全てすっ飛ばしてしまう漢らしい機能もあります。やりこみ派にはエンドレスバトルモードがあるなど、とにかく戦略バトル好きに合わせてある印象でした。
私は実のところクリアするまで気づかなかったのですが、なんとキャラグラフィックをデフォルメにするモードもあります! これがまたとってもかわいい!
特にミナヅキのデフォルメ絵がそりゃもうめちゃくちゃ可愛いんですよ……。ポーズがまた可愛いんだよなあ。淡々としがちな道中もこれで心機一転、可愛さにもだえながら進められます。
タイトル回収と広がりを見せるストーリー
バトルだけでなく、ストーリー面にも注目したいところ。コンフィグでは飛ばせるといっても、ストーリーが薄っぺらいわけではありません。
書きすぎるとネタバレになるので考察等は格納しますが――あのエンディングはとっても馬の合う流れでした!
こういうの好きな人はめちゃくちゃ好きだよなあ、という感じです。
何一つ伝わらない!詳しくは君の目で確かめてくれ!
さて一方、合わないところやもったいないなあと感じたところもありました。ここも正直に書いていきますね。
目的がわかりづらいストーリー構成
閉鎖された学校での生存が目的、かと思いきやシーナの記憶探しが始まり、学校の背景事情と魔法等の世界観を掠めたと思ったら、キャラの掘り下げらしきものが起こる、などなど。
ノベルパートがバトルの前後のみにぎゅっと詰まっている関係か、話の焦点が散漫に感じられました。あっちこっち右往左往して、なかなか没入できない感じ。
もちろん物語って一面だけではないと思いますし、色々な情報が繋がって伏線が束となる展開はとても好きなのですが……。ストーリーの柱がどこにあるのか、が序盤にわかりやすく展開されていたらもうちょっとお話にのめり込めたのになあと惜しく思います。
繰り返しますがエンディングはめっちゃ好きです。
あと序盤と終盤で同じシチュエーションが起こる演出もすごく好き。
なので、本当、惜しいです。
試行錯誤がしにくい使い切りエナジー
ステータスアップ、魔法のレベル上げ、緊急時の全回復は共通してエナジーというポイントで行われます。回復はまあ使わなくてもなんとかなるとして、特に難点は魔法のレベル上げでした。
なにせエナジーはキャラ全員の全スキルを上げるには到底足りません。かといってお気に入りの子だけでも魔法を平均的に上げようとすると、前述のMPコストの関係でほぼほぼ使い物にならなくなるのは目に見えています。
魔法の種類が多いのは嬉しいんですが、逆にそこがデメリットになっちゃうんですよね……。
何よりエナジーは使い切り。一度ドカンと消費してしまうと、否が応でもそのスキルを使っていかないとただの使い損になってしまいます。一応トレーニングモードで稼げはしますが、そうなるとこの作品の「時間のかかる要素はなし」という宣伝文句には合致しないかなー、なんて。
お気に入りが選びにくいキャラ選択
魔法はエナジーだけでなく、微々たる量とはいえ使えば使うほど経験が溜まっていきます。
こちらは普通に考えると嬉しいシステム、なのですが。この関係で、後から加入したキャラを使おうとすると少し損をしてしまったり、敵の弱点属性に合わせてキャラ替えするのがあまり向いていなかったりするんですよねぇ。
せっかくキャラごとの特性があるのにそこを生かせないのはもったいない、というのが一番です。
また、回復技がほぼアイリに集まっており代替手段がないため、実質彼女がスタメン確定なのも悩ましいところ。アイリ自体は実質主人公の相棒でキャラとしては問題ないんですが、やっぱり仲間が複数いるからにはその選択肢にもある程度幅が欲しかったなあと思います。
なお、メンバーはシーナ・ユノ・アイリでした。ミナヅキもっと使ってあげれたらよかったな……。
余談。
特にエナジーとキャラに関しては、私が先にひびかけをプレイしていたせいで、そっちの利便性に慣れてしまったからというのも大いにあるとは思います。
すなわち上記の不満点はひびかけだとほぼほぼ解消されているため、私が書き連ねる必要もなくブラッシュアップされたんだなあという印象。
フリゲだと特に感じますが、良点が特化して伸びてる作品傾向って見てて楽しいですよねぇ。
クロレクでおなじみブリキの時計さんとか、うつわとおば魔の空想地球儀さんとか、ヤンデレ好きに優しいゆうあかりさんとか。好きなものや自分の売り、やりたいことが明確な作者様の作品群は強いな~と思います。
とまあ、こんな感じで。
少したりない、と思うところもありはするものの、良点が光るからこそ感じるものであるのは確か。
未プレイの人はフラットな目線で、ひびかけプレイヤーの人は原石を見に行く気持ちでプレイしてみると面白いのではないかなと思います。
シンプルに絞られた各要素とATB、研究員と被験者、などにピンとくる方へ。
追記ではネタバレ込みの感想や考察など。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレあり注意。
エンド解釈
エンディング!
エンディングですよやっぱり何よりも言いたいのは!
あの不穏さ良かったですよねぇ。
初めこそ少しばかりあっけなさを感じましたが、後になって効いてくるエンドだなあと思います。
ああいう思わせぶりに闇を感じるエンド大好きです。
初めから不穏だよとわかっていれば衝撃は薄れていたのかもしれませんが、ひびかけが明るかったのもあり、まさかこっち方面が来るとは思っていなかったので意外と深く刺さりました。
とはいえ肝心の情報に謎が多く、ある意味どうとでも取れる雰囲気重視の考察映えするエンドになっているのも確か。
とりあえずクリアしてぱっと思ったこととしては、
- 黒幕は学長=ナギサの電話相手
- ナギサの“時間間隔を遅らせる”の上位互換が不死能力であるとするなら、ナギサと学長はレシピエントとリサーチャーの関係では?
- アイリの能力に裏があるっぽかったのは、治癒能力=細胞活性→ウイルスの“進化”の増幅器になりうることから
とこんな感じです。
あんまり根拠は考えられていないので、あくまでストーリーの流れからの印象のみ。
ナギサ先生にもっともっと愛着があるとより衝撃的なエンドだったんでしょうけれども、やっぱりここはストーリー散漫で惜しいなあって感じもあります。先生は立場上、どうしても一歩引いた立ち位置にしか置けないというのもありますしねぇ。
他にも気になる謎は多々あるんですが、特に注目したいのはリコです。
リコみたいな痛覚遮断の能力は、兵器という意味で何より有用だと思うのですが、彼女が案外あっさり解放されていることが不思議だなーと。
あと、シーナがナギサ先生の研究薬で時間を遅らされているんだとしたら、ある意味シーナも黒幕側の仲間入りをしていることになるのでは……と思いもしました。効力期限があるとしたら薬が切れた時点でまた本編と同じことが起こるんでしょうし、期限がないとしてもナギサ先生の監視下で、シーナという便利な兵器を手中に収めてるも同義な感じのエンドでしたし……。
何にせよ、色々と謎の残るエンドです。
ひびかけとの関連について
で、そもそもこの作品をプレイし始めたのって、ひびかけのほうで気になったことが解決するかなあと思ったからなんですね。具体的に言うと、
- シイナが珍しい黒属性なのに理由はあるのか(シーナとの関係はあるか)
- マリーの掘り下げや過去編はあるか(サブキャラじゃなく仲間化して驚いたので)
- 魔法の属性の解説は見られるか(ひびかけでリジェが解説してくれた、「水は抑圧」「黒は自己犠牲からの爆発力」など)
の3点です。
シイナについてはさっぱり。作者様としてシーナに愛着があったからもじってみたのかもしれませんし、黒属性の子が無意識ながら代々名付けられる忌み名みたいなものなのかもしれません。
マリーについては影も何もなかったですねぇ。当然といえば当然かもですがやっぱり気になる。彼女のほうはひびかけの記事にて語るとしましょう。
魔法の解説については、無属性がちょこっと触れられましたね! 嬉しい。
H×Hの念能力とかもそうなんですけど、キャラごとに属性が振られていてその属性にキャラ傾向や概念が引っ付いているっていう設定大好きなんですよ。ちょっとでも見れて嬉しかったです。辞典とか、判別チャートとか見てみたいなあ。
とはいえ、プレイし終わってからひびかけのほうで明確に「関連はありません」と書かれていたことに気付き、しょんぼりしたところもあります。
なので上記の部分も、繋がりというよりはふんわり近しいパラレルワールドだと捉えるほうがいいのかもしれませんね。
しかしプレイした感じだと、世界観共通とか関連するしないとかいう枠を超えてこう、このTest of Magicをリファインしてリメイクするうちに全くの別のひびかけという作品が出来上がった、ように見えます。
まあ、私の妄想過多もありますが。でもそう思うとまた違った見方ができて楽しかったです。
とまあ、こんな感じで。
なんだかんだとクリアまで一直線に遊んだ一作でした。