うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「毒薬のシルエット」感想

「肝心要は想像させて、煙に巻いては逃げ出すのだ」

少しだけ死の恐怖に似ている前置き。

 

 

えー、今回は時雨屋本店さんところのフリーゲーム毒薬のシルエット」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

推理風おつかいADV、プレイ時間は4時間強くらいでした。多少の論理パズル?なども含みますが、犯人当てをするというよりはミステリ小説を読む感覚で楽しめます。

公式には「どこからでも読みはじめられる」とありますが、個人的には1章からを強く強く強くおススメしたいです。

 

 

というわけで良かった点など。

 

日常を感じられる舞台と、丁寧な演出

 

主人公ルナさんはレインクラウド通りに住む薬屋さん。街の事件に巻き込まれたりしつつも日々お薬をお届けする日々。

そんなわけで、基本的な舞台は街になります。特に序盤は同じところを行ったり来たり……

……と書くと退屈そうに感じられてしまうかもしれませんが違うんです。

 

まず、ルナさんの立ち絵や歩行ドットが毎日変わります。衣装替えです。おでかけ前のお着換え等がきちんと話に組み込まれているのってすごく、良いですよね。リアルな日常を感じます。他にも街の人もちょくちょく会話が変わるし、天気が変われば店は閉まるし、メモ書きは書く人や状況によって変わるし、時にはカットインまで。

同じ場所を歩いているのに新たな発見――ってまさしく日常の一ページだと思うんですよ。それになんていうか、愛着が湧くんですよね。何度も歩いて舞台に愛着ができたからこそ、その場で起きるドラマが光るという。ゲームならではの表現だなあと思いました。 

 

 

短編連作小説で大舞台でドラマとなるストーリー性

 

あと、この作品をプレイしていて強く感じたのが、ジャンルの幅広さです。

まず、タイトル起動時はチャプターセレクト、小説の目次を思わせる構成。その直感通り、序盤は短編ミステリをさくさく読み進めるようなプレイ感です。けれども次第に中盤でなんとなく物語の核が見えてきて、お話は小説から大舞台、人間ドラマへと変わっていくんですね。“ADV”“ノベルゲーム”という枠を飛び越えて、しかし小説でも映画でもできない表現をやってのける……そんな印象でした。

絵になる構図があちこちに仕込まれているからなおさら感じるのかなあ。

大筋の物語は回想もしっかり加えて、ある程度先が読めるくらいわかりやすく。一番大事なとっておきは、最後まできっちり伏せて驚かせる。そういう使い分けや丁寧さを感じるお話だったなあと思います。

いや本当、7話と8話が好きすぎてですね! 積み上がったものが! こう! ぶわあああああっとくるんだよ!! 実に盛り上がりました。

 

 

視線を意識する構成と描き分け

 

前述の通り細やかなお色直し等を挟む、立ち絵変化も豊富な今作ですが。服も勿論のこと、各キャラの立ち絵の細やかな変化がとてもうまかったなあと思います。おやっと思う時には必ず理由があるし、キャラの特性によってきちんと描き分けがされているし。おまけ部屋でじっくり閲覧できるのも嬉しかったですねぇ。

 

また、立ち絵のみでなく、ドットを使った各シーンの演出も素晴らしかったです。

さりげないところだと、ベランダに出れば雨が降る、屋根の下を通れば影ができる、辺りでしょうか。なんか、当たり前と言えば当たり前なんですが、作り物の世界でそういう当たり前が再現されていると世界観が深まる気がするんですよね。

印象に残ったシーンについては書きすぎるとネタバレになってしまうので堪えますが、一か所だけ。視点が下に誘導されたと思ったら次には上へと昇っていく某シーンでは、一緒に気持ちもフィナーレへ向かって盛り上がっていってくれて、静かに熱い構図でした。

 

 

ヒーローでも悪人でもない、そこそこ卑怯な一般人

 

この作品にはなかなかチート、もとい、特殊な立場のキャラが多く出てきます。肩書だって、王・暗殺者・魔女・怪盗・探偵・冒険者見習い・猫等々様々です。しかも魔法もござれなこの世界、これだけあればさぞかし、ヒロイックな大舞台になることでしょう。

が、この作品の中で動くキャラ達はあくまで、役割ではなく人として動いている印象を受けました。

 

簡潔に書くとこの人らめっちゃ人間臭いんですよね!

 

危なくなったら夜逃げするし、善人でもイラッとくる時はあるし、しんどい時は何かになすりつけたくなっちゃうし、難病持ちでも案外明るい! なんかそういう、行動と心の動きがすごくリアルで、現実でも似た人とどこかで出会えそうな錯覚までしてくるキャラ達だなあと思ったんです。

それでいても、それぞれのキャラの物語はものすごく、ドラマなんです。シリアスと笑い、緊張と緩み、人に見せる顔と見せられない顔……そういったものの使い分けが非常に巧みだなあと思いました。

 

 

 惜しかった点

 

と、大絶賛する一方で、惜しいところも少しだけ。

  • 誤字脱字名前ミス多め
  • イベントシーンでの歩くスピードが演出を考慮してもかなり遅め(特に序盤はさくさくでよさそう)

他の要所が丁寧だからこそ、もったいないかなと思います。

 

でも、逆に言えば気になるところは本当にここくらい。

話が長くなるとセーブが挟まったり、イベントポイントにマークがついてたり、次やることがわかりやすいToDoリストにまで演出が仕込まれていたり、細やかな点も光りました。

おまけ部屋のボリュームたっぷり感もめちゃ嬉しいです。舐めるように読んでしまったぜ!

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

ニアカップルなバディ・コンビもの、リアルなキャラ像と人間ドラマ、毒殺、寿命差、等々にピンとくる方へおススメの一作です。

 

なお、過去作の小ネタがいっぱい仕込まれていて楽しいので、知らなくても楽しめはしますが是非ともプレイしてみてほしいなあと思います。

追記ではネタバレ込みの感想など。

 

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

たくさん書かせて頂いているので、代表的な関連作のみ。

shiki3.hatenablog.com

その他は下部か右柱の検索窓で 「時雨屋本店」でどうぞ。

 

 

 

 

 

ネタバレあり

 

 

 

エンドロールについて

 

あれ、あれ、最高じゃないですか!?!?

なんというか、シリアスな展開にぐっときて、泣かされかけたところでルナさんのおちゃめなお手紙に笑わされて、泣き笑いだかなんだかでへらっとなった瞬間、パキンと場を華麗に締めるあのエンドロールですよ。最高じゃないですか!!! 震えました!!!

あの、それぞれのキャラの座り方にキャラの性格が出る感じとか、カーテンコールのキャスト紹介みたいな感じとか、すごい好きなんですよね……。エピローグでシャイアさんがああなった後でのあの表情ですよ惚れるしかない。

かなりドラマティックなBGMだからか、なおさら身が引き締まりました。終わらせ方、というセリフが本編中でも出たように、エンド周りもう大満足です……! 

そんなわけでおまけでエンドロール絵も見れるのめちゃくちゃ嬉しかったです。

 

 

おまけ部屋について

 

音楽室に出典が明記されてるの本当ありがたい……!!

BGM選びもなかなか興味深いところでしたよね。例えばタイトル画面、ああいう曲ってメインに据えるというよりはサブとしてお店とかに使うイメージだったので、しょっぱなああいった雰囲気で引き込むやり方に驚かされました。

そういえばクリア後もまだ空いてないBGMがいくつかあったんですが、あれは何だったんでしょう……。もしかして見れてないエンドとかあるのかな。もしご存知の方いたらこっそりコメントフォーム(マシュマロ)などで教えてくれると助かります。

 

プロフィールやお色直しが見直せるのも嬉しいところ。特に、スカーさんが想像していた以上に大男でびっくりしました。むちむちボディ(男女)コンビ。いいんじゃないかな。

立ち絵だといただきますシャンさんが一番好きです。どうぞどうぞ。

余談ですけどこのゲーム、ロゴやウィンドウなどの細部がかなりおしゃれですよね。舞踏会の人数カウントのデザインがめちゃかっこよくて好きです。

 

あと、設定を読むとさりげなくシャンさんがやらかしてて二度見しました。

詳しいのは子どものことだからかな、それとも単なる趣味かな。ヴィ、もとい、魔王様も頑張って奴を止めてください。きっと無理だ!

 

 

キャラクターについて

 

 

ルナさん

 

人の心理については疎い、っていうのが少しピンときてなかったんですが、アランたちのセリフでようやくちょっと掴めた気がします。

誰だろうが無理やり全員選ばず治してやる、っていうのも、ある意味かなりの脳筋手段ですよね。自暴自棄まがいの何かでもある気もするんですが。この勢いがなんだか好きでした。躊躇せず徹夜しまくるのも、こう、自分の身体に無理が効くとわかっているからさらにやっちゃうんだろうなー、なんて。

 

だから、なんだか、泣いてくれてむしろ安心しました。

この手のタイプの人はふつっと途切れてしまうのが本当に怖くて。シャンさんも似た事感じてたのかな。だから、泣いてくれて、あんな子供みたいに泣いてくれて、良かったです。

 

あと、何より、嫌がらせと夜逃げの人らしさ!!

確かにお医者さんだし、誰でもなんでも治してみせるっていうのはそれこそ見ようによっては聖者の所業なはずなんですが、そこに留まらないのが本当芯から魅力的だなあと感じました。

 

美人設定だしお色直しも毎度あるし、せっかくだから誰かにナンパされる話や絡まれる展開も長めに見たかったな~と思いつつ。

スカーとはお姫様だっこからラッキースケベに至るまでこなしてるはずなのに、不思議と恋人というより相棒な印象が強かったです。心地よい距離感。

 

 

スカー

 

プロローグがここに帰結するとは思わず、忘れたころに思い出させる手腕にもじんときました。

やっぱり光るのは最終話ですよねぇ。彼の言葉の一つ一つが重くて、響いて、心に残りました。

 

おいおい、と言いつつ付き合ってあげるシーンが多かった印象。昔からきっと、ああもう面倒だ、と思いながら全部綺麗にしっかりやり遂げて、やり遂げ続けて、プロローグのような展開につながったのかなあと思って、しみじみと込み上げるものを感じたり。憎い、辛い、じゃなくて出てきた言葉が「面倒」なのもなんていうか、本当に頑張って頑張ってすり減って心から疲れ切った人の言葉だなあと思うので、やっぱり重みを感じました。寝てくれ。でも作中で寝てないのルナさんばっかりな気もする。

 

そういえばもしかして舞踏会でオッドアイやらカオマニーやらの話題が出てたのも伏線ですかね。震えるわあ。カオマニー自体は初めて聞いたのでネットでググったら猫がいっぱい出てきて幸せでした。わぁい白色。……白……シャイアさん……うっ頭が。

 

 

シャイア

 

いっちばん好きです。弟の死の真相でやられ、結末にぐっと棘が刺さりつつも盛り上がるものを感じ、エピローグでしんみりとさせられた後の、あのエンドロール絵ですよ。好きにならざるを得なくないですか。大好きですよああいう業を背負ったキャラ。大好きなんですよ。頭でわかってそうなのに気持ちがうまくいかない、どうにもやるせないこの感じが大好きなんですよ。

初見で男だと思っていたので性別不詳と噂されていて逆に驚いた感じでした。でも確かに、良いですよね中性キャラ。敬語口調なのがさらに追い風になっている気がします。

貴重な一人称変化を見れたのもテンション上がりました。

 

そしてキャラ萌えはさておき、彼がずっと緑のマント?を羽織っているのも、深読みするとしみじみ想わされますよね。7話で緑が喪服だと印象付け、8話冒頭でさらに押したところで出てくるあの話。

でも、本編中では誰もシャイアのマントには触れない……この具合というか距離感というかなんとなく思える人だけそう思ってもいいよ、って感じが好きでした。正装らしいから制服かもしらんけどね!

 

 

ハーヴェリアス

 

シャイアさん以上に中性な印象の強いお嬢さんでした。初対面から女の子なはずなのに、おかしいな……。やっぱり男装のせいでしょうかね。

自信家ゆえのポリシー、TPOにこだわる姿勢、自分がこうありたいという姿を追求する様が響くキャラだなあと思います。ショータイムの演出がすごく楽しかった思い出。

あと、彼女の英語交じりの喋り方がめっちゃわくわくさせられました。ついスクショ撮りました。しかし意外にも字がぐっだんぐっだんだったのは、走り書きだからみたいなそれでしょうか、それとも天才的なキャラゆえ思考が筆記速度に追いつかない感じ……? 立ち絵閲覧のプロフィールを見るに、そういうことなのやもしれません。あと、オズワルドっていうのは、うーん、御父上のお名前なんでしょうかね。気になる気。

いずれにせよ、出番は控えめなはずなのに心を掻っ攫っていった素敵なキャラでした。ファンです。

 

 

アラン

 

エピローグで猛ダッシュしてルナさんのところに来てたのがなんだかすごく印象的だったんですよね。心臓病なのに走って大丈夫なのか、それだけルナさんのことを想っていてくれたのか、という感動が。

冷静に考えるとけっこう初期からアランのリアクションは激しかったのでそんなこと気にならないくらいルナさんの薬が優秀ということなのかもしれませんが! それでもやっぱり感動したので、そう解釈しておきたいなーと思います。勝手に。

メイドだったか執事だったかから訊ける、事件後の薬の置き場所についての話も好きです。いわゆるウザカワなキャラでも、思うところは勿論あって、でもそこは本人の中にだけ、っていう感じがやっぱりリアルで好きです。

 

 

アイリス

 

彼女自身のことじゃなくて、ルナさんから見た彼女の話なんですが。

いわば憎き子孫な彼女がアランとくっつくことを、ルナさんが応援している辺りがなんかすごく良くて。本当に憎悪については切り分けてるんだなあって思って、ほっと一息付けた気がしました。スカーさんの昔話もそうですが、この辺りの黒い感情が濃すぎずあっさりとした味に調整してあるのがすごいなあと。おかげでシャイアさんがよく映えますよね。

 

 

シャンさん

 

「泣く子も黙って振り返る」が本当好きです。このやろう好き。否定できないのが悔しい、自覚と実績を伴うナルシスト本当好き。

『color:clear』からお馴染み、遡って男色吸血鬼のころから惚れてる彼です。ここでもサブメインで嬉しかったです。ドレス美しいよ!噛まれたいよ!さりげなく失敗時のセリフパターン多いの凝ってて良いなって思います!!

良いところを掻っ攫いつつも、一番の名シーンではひっそりと姿を消して、あくまでサブに徹するこの感じが素敵でした。自然体な優遇。素敵。今後ともトリックスターと見せかけた頼もしい味方でいてください。

始末書が水蓮枚で笑いました。負けるなシャンさん!

 

 

ジャスミン家一同

 

後ろについてきてくれるのがとてもかわいかったです。椅子引っかいたらあかん!

 

 

 

他作品とのかかわりについて 

 

シャンさんは言わずもがなとして、他にも「魔王」「外交官」「絵画」「お産の手伝い」「本屋さんの本」「ギヴィアの神官」「銅腕のメイド」「ドッペルの嫌いな場所」「シャイアのフルネーム」などなど、あっ!と気づくポイントが飛び交ってましたねぇ。過去作全部プレイした中でも、私にとってcolor:clearはやっぱり初めての時雨屋本店様作品ということで思い入れ深いので、思わぬ繋がりに頬が緩みまくりでした。

チャコール戦争云々の話を思うに、世界観が一緒、時系列的には続編でいいのかな?

ゲームがエンドを迎えても、彼らは彼らなりにずっと生活を続けていたんだなあって感じがして嬉しかったです。これからもまたこの世界観で作品見てみたいな。