うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「奇譚◆寸劇◆独白◆~」シリーズ感想

「臆病者だと罵ってくれ、前を向いているだけ褒めてくれ」

そこまで踏み込む気など無い前置き。

 

 

えー、今回は六角レンチ(ざるそば)さんところのフリーゲーム「奇譚◆灰色の海の果てを睨む」「寸劇◆鳥篭の中で嗚咽を聞く」「独白◆幻肢痛と薔薇に心捧ぐ」「名の無い彼のためのエピローグ」「少女一名ろくでなし数名」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

VIPRPG、餡軍中心、見るゲ。キャラの設定をある程度知らないと楽しめないかも。それぞれ相互に関係性がありそうだけど単品でも楽しく読めるノベルゲーです。

初めは◆3作だけ取り上げるつもりでしたが、「独白◆」の幕後に当たる「名の無い~」を加えて、さらにはそれらを踏まえたうえで「少女~」をプレイするとたいへんおいしかったので合わせてしまいます。

 

どの作品も、正式タイトル自体だって大好きなんですが、解凍時のフォルダ名もぴったり嵌る感じが素敵で、フォルダ名を上書きしてしまうのがもったいなく感じてしまうほどでした。演出重視の方や、暗い雰囲気が好きな方向け。

 

 

 

 

 

『奇譚◆灰色の海の果てを睨む』

 

[概要・雰囲気]

 

公式紹介文の「寂しい死人の集まる、灰色の海にようこそ」。この一文で想像した雰囲気がそのまま形になっているような作品です。ダーブラメイン、シェイドⅢとダー恍がサブメイン。

 

 

[内容]

 

話すたびに鳴る錆の効果音がとても心に残ります。色味も抑えてあり、心に潜っていくような語り口も合わせて陰鬱に見えるところもありますが、鬱というほど暗くはなく、「沁み入る」印象です。

本当ね、選びたくても選びきれないくらいどのセリフも言葉選びが秀逸で響くんですよ……! ダーブラが自然体なのも良いなあと思います。説教でも嫌悪でもなく、ただじっと話を聞いて、思うところを話すだけ。この距離感がとても心地よい。

そしてダーブラ本人は動かないけれど、こちらの気持ちや感情は静かに大きく揺さぶられるところがありました。周りは、口は、心は、指先は、足は。順番に動いていき、最後に届く――話の構成が素晴らしいです。死ぬと生きる、待つと動くの違いがリンクしているのも本当大好き。終わり方も泣きたくなるくらい穏やかで好き。

 

ラストは勿論の事、章としては奇術師の話と蟲食いの話がツートップです。きっと定期的に読み返すんだろうと思います。

 

 

[一言]

 

「苦手な人は苦手な作風」ということで裏を返して私の好みど真ん中な作風でした。

 

 

 

 

 

『寸劇◆鳥篭の中で嗚咽を聞く』

 

[概要・雰囲気]

 

闇と雨と会話劇。シェイドⅢとダー惚。

 

 

[内容]

 

タイトル画面の雰囲気がまず好き。開始コマンドの言い回しも好き。

少し理解が難しく、それでもじっくり読みたいと感じたので二回読みました。

倦みながら惰性で生き続けるシェイドⅢと、独りの自分を殺し続けるダー惚の話、なのかな。棺桶と暮らす少女と自分殺しの男、ってだけで絵になりますよね。

二人が完全に歩み寄るでもなく、お互いの境界を守ったままで淡々と殺されかけたり歓談したりしている、この距離感がやっぱり好きです。

 

ダー惚がたくさんの自分を作り出して嫌になる度押し付けて殺し殺されて、という流れ、でいいのかな。もはやどれがオリジナルなのやら、シェイドⅢに会うたびダー惚の中身は変わってるんじゃないか、と思うのですが。それすらもシェイドⅢが作中で切って捨ててるので、もう本当に踏み込みすぎないスタンスでやってるんだなあと思います。

孤独が怖くてポンコツなのが僕、世間に慣れてて人殺しも平気でできる道化が俺、だと思っているんですが、ともあれ一人称使い分けはよいものですね。

 

シェイドⅢがラストでにっこりするのは、同類の救えなさを嗤うみたいなものなのかなー、なんて。

 

 

[一言]

 

薄闇の中でぼぅっとしているような、ほどよい倦怠感のある一作。

 

 

 

 

 

『独白◆幻肢痛と薔薇に心捧ぐ』

 

[概要・雰囲気]

 

孤独な集団が詰め込まれた箱庭での独白。ダー惚以外もいるけどダー惚しかいない。

 

 

[内容]

 

読んでよかった、読んでよかった、読んでよかった!!

三作とも甲乙つけがたくはありますが、一番琴線を揺さぶられて心を掻き毟られたのはこの作品です。あとがきにもありますが、ダーク恍惚なる闇の見え方が160度通り越して175度くらい変わります。臆病な道化者の虚しさがたまらない……!

前述2作で語った通り筆力は勿論、セリフが本当に素晴らしくて! 常に一歩踏み出しきれなかった9番がラストに爆発するラストのがたまらなく真に迫っていて、読んでいて気が狂いそうでした。大好きです。

 

アイデンティティが崩壊するようなクローン体、研究施設と実験動物、軟禁状態で慰めは絵本だけ、などなど舞台設定がすでに好みな陰鬱具合なんですよね……。はい設でおなじみナルシストやホムンクルス等々の説明の裏背景として説得力が満ち満ちているのも凄いところ。キャラへの愛を(勝手に)感じる出来でした。

 

色っぽい描写もグロっぽい描写もあります。が、エログロというよりはこう、誰もが幼い頃に感じる(と思っている)、淫靡なものへの嫌悪感や孤独感、もっと卑近に言えば親の情交をうっかり覗き見てしまったみたいな裏切りに近い感覚でした。

この、潔癖に近い嫌悪感の描写がすごく上手なんですよね……。

 

何よりもうタイトルが大好きです。この作品に幻肢痛とつけるセンスが好きすぎる。

レコードの話が出てからBGMが流れるようになったり、クラシック曲が中心だったり、セーブ画面の蝶に変化があったりするのもまたストーリーと絡んで響くところです。本当、良い演出でした……!

 

こっちを読んだおかげで「寸劇◆~」の理解も進んだ気がします。

これからプレイの方がもしいるなら、最後に右キーでエピローグを見るのをお忘れなく。

 

 

[システム]

 

「寸劇◆~」の時からさりげなく文章スキップ機能が搭載されていましたが、今作ではこのノベルシステム部分がかなり至れり尽くせりでした。

スキップ有り、バックログ有り、回想の読み返しもできるうえにそのための薔薇マークがさりげなくお洒落。ツクール製のノベルではなかなか味わったことのない充実っぷりでした。

一番ありがたかったのは中断セーブですね……! いわゆる栞を挟む機能。元々読みやすく章ごとに分けられてはいるのですが、やっぱり噛み締めるように読みたい作風なので手を止めやすいのはありがたかったです。

 

構造上似た口調のキャラが多く出てきますが、文字色の違いのおかげでセリフ部分は混乱せずに済むのも助かります。この色違いがラストの発狂で良い演出になっているのも上手いなあと思わされました。

 

 

[一言]

 

実験生物、箱庭世界のブロマンス、虚勢を張った道化者など。

ダーク恍惚なる闇が好きならとにかく是非とも。

 

 

  

 

 

『名の無い彼のためのエピローグ』

 

[概要・雰囲気]

 

『独白◆』~を踏まえた、僕と俺の話。ダー惚メインでシルエット中心の短編ノベル。

 

 

[内容]

 

タイトル画面からして陰鬱に心を引きずるこのセンス。大好きです。

あの彼が、どういう経緯をたどってあの右キーおまけ話に至ったのか? そのあたりがほんのりと補完できる、かもしれない感じでした。幕後と書きましたが、幕間ともいえる気もします。

心を取り戻す、洞窟を抜ける、などなど。モチーフは明るいんですが、街へ行く目的や彼のこれからの生き様を考えると、なんとも仄暗いものを感じずにはいられません。何物でもない灰色の虚しさよ……。

 

[一言]

『独白◆~』が気に入った方はお見逃しなく。

 

 

 

 

 

『少女一名ろくでなし数名』

 

[概要・雰囲気]

「奇譚◆」「寸劇◆」「独白◆」を踏まえて読むとたいへんおいしい5分ゲー。アレックスとブライアンとリナックス、そしていつもの餡軍3名。

 

 

[内容]

 

あの見覚えある背景画像が出てきた瞬間に「これは!」とガッツポーズ決めました。やったぜ。

だらだらゲームしながらだべってるだけ、と言えばそれまでですが。重々しすぎるダーブラのセリフや、それにバカヤローと言いながら気を許すシェイド(デコ)、いやあ実に微笑ましかったですね……。

◆3作がこう、仄暗い中に光を求めて落ちくぼんでいくような話だったなーと思っているので、こういう一見和やかな話が見れてなんだかほっとしました。奇譚◆の雰囲気が一番近いかも。

 

 

[一言]

完結編、とまでは言い過ぎだけれども、一通りプレイした〆にさくっとやりたい話。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

特に◆のつく3作においては、あらすじや中心人物は違えど、どれもどこか陰鬱な雰囲気が漂っていて、それなのに言葉の一つ一つが輝く良作でした。VIPRPGにもシリアスゲーや鬱ゲーはたっぷりあるのだなあと改めて思わされるなど。

雰囲気や世界観を大事にしたい人に強くおススメです。

 

 

 

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