「あなたの善意は本当に優しさ?」
言い訳させず捕らえたいだけの前置き。
えー、今回は猪鹿蝶さんところのフリーゲーム「くものいと-雪割草外伝-」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
一本道、ドロドロ愛憎百合ノベルゲー。和風の短編柵です。
一時期公開されていた『雪割草』というゲームの番外編とのこと。公式サイトが縮小運営になった際にDLしたゲームなので、『雪割草』のほうもご縁を逃してしまいプレイはできていなかったのですが、紹介文どおり単品でも楽しめる一作でした。
一部ネタバレというかシーンバレしているので注意。
というわけで良かった点など。
平安時代をどっぷりと感じられる世界観
登場人物の衣装や背景などのグラフィック面はもちろんのこと、テキストの端々に出てくる用語や主人公の口調から和風ものの世界観を濃厚に感じました。
和風ファンタジーではなく、がっつりと和風もの。それでいて読みやすく、難しい用語はさらりと流されていたり、状況で判断出来るように描写されていたりします。
あの、どうしても語りたくて書いてしまうんですが、文を書こうとしてぼとりと墨が零れ落ちるあのシーン! あそこがめちゃくちゃ好きでした。拭い切れない何か、語り切れない情感を、小道具の妙で表現している名シーンだと思います……!
寵愛、帝、没落、振り回されるしかない女の姿
主人公である常磐も丁寧に、平安時代らしい女性として描かれています。
帝の寵愛が得られない嘆き、それでも自分から会いに行くなんてことは露ほども思えないこの徹底ぶり。うっかり現代の感覚で書いてしまいそうなところを省いて、当時らしい、ぎちぎちに縛られて動きの取れない女性像を見事描ききっています。
ただ“可哀想な女”で留まらないところも構成の上手いところでして。子が権力を持つことで成り行かなかった自分の居場所を得ることに固執するなど、当時のドロドロした女性の生き方もがっつり書かれています。
まさに鳥籠の中、澱んだ空気が溜まっては人の裏でひしめく空気が素敵でした。
善意と悪意が交差する愛憎劇
さて、前述した通りこの作品は百合です。愛憎劇です。
この愛憎を深く深く味のあるものにしているのが楓の存在。彼女がいるからこそ常磐の生活は揺らがされ、狂わされ、しかしいなければよかったと簡単には思えない複雑さが込み上げるわけですが……。
なんだろう、楓のやっていること自体は善人・善行の気遣いなんですよね。黒さが出ているのはむしろ常磐のほう、だというのに、不思議と楓のほうがずれているように感じてしまうこの構成。一人称視点というのもあるでしょうが、愛憎どちらとも振り切れず葛藤する常磐のほうに感情移入しがちなのでなおさら、楓の人柄が強調されるストーリーでした。
「良い人だし優しいし悪いのは私ばかりなのに、」の「なのに」に隠れた寒気というか。帝との子、寵愛、後ろ盾、常磐の価値観を通して読み進めるプレイヤーからしたら何よりも重要なはずのそれら全てを手にしている楓の強さと、注意深く見なければ気づかずに終わってしまうであろう、一匙の妙がとても刺さりました。
とまあ、こんな感じで。
憎いのに憎めないドロドロ百合、平安和風、足元が崩れていく展開、など聞いてピンとくる方へおススメです。
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