「温度差を心地よいと思うか分け合いたいと思うか」
産まれた時からあるがままが幸せだった前置き。
えー、今回はへもへもさんところのフリーゲーム「まい、ルーム」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
選択肢分岐ありの恋愛ノベルゲーム。ルートによってプレイ時間がかなり異なりますが、基本的には短編です。
ネタバレ無しに書くのがとても難しい、
ということを書いてしまうことすらネタバレになる矛盾!
そんなわけである程度はネタバレして書いてしまいます。申し訳ありません。
公式サイトの紹介もかなり巧みなので、まずはそちらを見て頂いて。気になる方は先にプレイしてから戻ってきて頂けるととっても嬉しいです。
というわけで良かった点など。
プレイヤーの心を掴むプロローグ
エンドは5つ。ですが、この手の作品で見かけるとおり、初回プレイで行きつけるエンドのほとんどはプロローグのような立ち位置になっています。
えっ?と思わせるところが上手いんですよね。平穏なEDにしても舌にざらつくような違和感が残りますし、他のEDはとにかく衝撃度とスチルのパワーが凄まじいですし。初めのうちは疑問点も多かったですが、先を予想するというよりはお話に流されるような気持ちで読み、そして周回プレイで深く心を掴まれました。
色んな衣装替えと迫力のあるスチル
ヒロインは最近閉じこもりがちの女の子、ということで、序盤は動きこそ少なめです。けれども、立ち絵の種類が豊富なうえに表情もくるくる変わってくれるので、終始新鮮な気持ちで読み進めていました。やっぱりピンクのドレス姿が一番似合ってて好きですね!
また、スチルのほうも必見です。異なる雰囲気を描き分け、ぎょっとするものから涙の出てくるものまで、かなり多彩な形で楽しませてもらえました。
文章の描写がしっかり反映している立ち絵
ぼかして書きますが、「違った笑顔を見せている」というシーンが何度かありまして。その時の立ち絵の笑顔が本当に違うんですよね! ああこれは思うところを持っているなと、しっかり見ていれば気づける違いがあるんです。文章でそう書くのはできても、差分まで対応している例はあまり出会ったことがなかったので、かなり心に残りました。
見ていれば気づける、っていうプレイヤーの感覚がそのままキャラの感覚に反映されるところもすごく刺さるんですよね……。感情移入度が段違いです。
全員に思うところが出てくるストーリー
公式サイトの注意書きに少し棘を持って書かれている通り、確かにキャラクターはしこりの残る部分があります。が、そこが一番の魅力であると断言したいです。
根っからの悪人も善人もいなくて、個性や性格が人や環境によって色んな形に見え方を変えていくのが、とてもリアルなんですよね。恨みたいけど恨めないし、幸せを願いたいけど素直に願っていいものか思い悩んでしまう……こういうやりきれなさが大好きです。
とまあ、こんな感じで。
双子、隠した想い、鬱展開などにピンとくる方向けです。
追記ではネタバレがっつりです。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレだらけの感想。
まったく作品として繋がりはありませんが、他作である『ドライエック』にも絡む話をします。なので両作のネタバレ注意です。
『ドライエック』から見る『まい、ルーム』
プレイしてルーちゃん視点になった時、かなり『ドライエック』と構造が近いなあと思ったんですよ。純情なヒロイン、敵意をはっきり出す近親(攻略対象)、外面の良いイケメン(攻略対象)の三つ巴。
でも、クリアして見ればベクトルが真逆の作品で、とても興味深かったです。
それは結末がハッピーだとか鬱だとかそれだけの意味ではなくて。
『ドライエック』では、停滞を求めるところから最終的に三人ともそれぞれの形で変わっていって終わる、「ずっとこのままではいられない」という印象がとても強かったんですね。
一方で『まい、ルーム』は停滞を求めて二人勝ちしちゃう。残された一人も新たな誰かを求めることはできずにやはり停滞してしまう、「ずっとこのままでもいいでしょう?」というような印象があるんです。
私はこういう、まったく異なるベクトルの作品を、同じ作者様が作って公開してくださっているのがとっても嬉しいなあと思っていまして!
停滞の話と変化の話、すっごく極端に変換してしまえば前向きか後ろ向きかってところに繋がるかと思うんですが、どちらを否定するわけでもなくこれが彼らの生き方だっていう形で見せてくれたのが本当嬉しいんですよ。どちらにも舌先にほろ苦さが残るところが本当にもう大好き。とても視野が広くて、キャラの生き方にしっかりと向き合ってらしている作者様だなあと思います。
色んな価値観を知っていて、その中でキャラがどのように生きていくのか向き合って作られている感じが、とても好きです。
印象に残ったシーンとかスチルとか
で、上記だけで締めるなんか狂信者みたいでちょっと文面が怖いなと自分で思ったので、かるーく好きなシーンも語ります。
ED4の終わり方ですよ!
あの、スチルの血の跡が合わせてプレイヤーの余韻にも繋がってて、もうただただ見送るしかないんですよね……。マイですら何もできなくて誰もルーちゃんを止められないし、むしろ軽率に止めることを望むのは罪ではないかと思ってしまう気持ちもあり、でも望みを果たしてしまったルーちゃんがどうなるのかという想いもあり、もう気持ちがぐるんぐるんしました。あの読後感が本当に好き……。どうすればよかったんだろうね……。後日談の想像も膨らみます。
色々考えたいのはED2かな?
マイは、初見時ではもちろん自分が死んでしまうことに驚いているものだと思っていましたが……色々知った後では見え方が変わったエンドでした。たぶん、ルーちゃんが道連れになってしまうことに愕然としたのもあるんじゃないかな、なんて。
色んな視点を通して不透明になっていくマイ
マイの視点で始まるからか、マイの内心こそが一番見えないものになっているのもすごく面白い構造ですよね。おまけで少し明かされはしますが、あの状態でただふわふわと甘ったるい女の子のままでいられた(そういう形に取り繕えた)ことが、あまりに恐ろしくて好きです。
キスした時の二人の温度差が凄いし、二人の心境をどちらも確かに理解できてしまうところも好き。
どの視点にも納得感があるんですよね……。誰も悪くないって言いたいけど絶対に非はあるし、どうにかしたかったけどこの結末以外どうにもならなかったと思えるような作りが、良いなあと思います。
余談ですが、公式紹介ページのマイの絵がにっこり顔で、瞳の色が見えないようになっているところ、実に巧みですよね。唸りました。
と、語りたいことはだいたいこんな感じ。
総括、色々と考えたくなるお話でした。