うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリゲサイト「Trifling Mud」短編ノベル作品感想

「其は意思疎通の手段、思考のピース、児戯の遊具でただの音」
たのしいたのしいにほんごの前置き。


えー、今回はTrifling Mudさんところのフリーゲーム「サツジンキ、セモ」「神は賽を振るや否や」「アイデア売ります!」「月夜の蝋燭」「music changer」「ハルカナココロ」「花畑のピュロン」「天使の唄う死」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

厳密にはサイトではないんですが、作者様くくりということで便宜上サイト扱いさせて頂いています。記事タイトルにフリゲ名全部挙げたらめちゃめちゃ長くなってしまったので……

 

ともあれ本題。
どの作品も短編のノベルゲーム。基本相互に関係性はありません。
どれもとにかく発想力がすさまじく、プレイ時間が短いのもあってお手軽にすっきりとしたカタルシスを得られる作品ばかりです。

 

作品のギミック上、ネタバレが惜しいものばかりです。
気を付けて書くつもりではありますが、ネタバレや展開バレに抵触する点はご了承ください。


というわけで、さっそく作品一覧など。

 

 


『サツジンキ、セモ』

 

[概要]
人を殺すことについて。数分一本道。千文字喫茶参加作。

 

[感想]

オチでぎょっと目を見開き、後書を読んでさらに驚かされる二度美味しい作品でした。気づいて見ればなんてことはないんですが、いやはや、そこに気付かせないのが実にうまい。
「なぜ人を殺すことは罪なのか」という問答は哲学や思索に用いられがちですが、そこはあくまで前座とばかりにすぱっと斬り捨てて終わるところも好きでしたねぇ。
もともと私、懺悔室とか告解室とか面談室とかっていうシチュエーションが好きなんですよ。なので舞台としても好きな雰囲気でした。

 

[一言]
まさに舌を巻く良作でした。

 

 

 

『神は賽を振るや否や』

 

[概要]
夜に少女と男が出会った話。数分で読了できるけれど、どこまで続けるかはあなた次第。

 

[感想]

こちらもまた後書を読んで目をひん剥きました。
いや、確かになあとは思ったんですよ。そして一通り読んで、改めて注意書きのエンドに関わる分岐はないという文章を確認して、少し首を捻ったんですよ。なるほどねえ!なるほどなあ!!


すさまじいのが、この作品形態こそが本作のストーリーのテーマとなっている点ですね。偶然性に意味を付与するのが人……。もちろん作品であるからには意図された部分も大いにありますが、それにしたって何回やってもとてもすんなりと受け入れられるんですよ。すごい、感覚的にはゲームというより実験に近いかもしれない。とても新しい体験でした。
賽を振る、というコマンドや随所のギミックなども含め、この媒体を上手く活用している良作でした。

 

[一言]
変わったプレイ感のノベルゲームを楽しみたい人向け。

 

 

 

『アイデア売ります!』

 

[概要]
軽い気持ちで色々読める、喫茶店でのお話。1時間未満一本道。

 

[感想]

これほどのアイデアをこの一作で使ってよいのか! 

大判振舞に震えました。実際のところは既存作品だったりそうでなかったりするようで、引き出しの多さと濃さに慄く想いです。発想力の化身……!


単語を指定したら語ってくれる、というのもすごくロマンがあっていいですよね。生き字引ならぬ生き目次というか。一つのワードをきっかけにぶわっとブレインストーミングしていく形でお話を作られてるのかなー、なんて想像するなど。
一番好きなのは、後書の一文目。惚れました。こういうところまでしっかり凝ってる作品本当好きです。

 

[一言]
もし創作者さんなら、ネタ被りが怖くない人向け。

 

 

 

 

『月夜の蝋燭』

[概要]
月の下、出会う少女二人。仄暗い鬱展開。数分一本道。

 

[感想]

これが初めて出会う作者様のゲームであれば、なるほどメランコリーな百合未満のSSだな、で終わりだったんです。
そしてこの作者様のゲームであるからにはそれで終わるはずがないんですよねぇ!


あとがきでこれまた舌を巻きました。毎度毎度、巧みが過ぎる。違和感なく何も気づかずすんなりを読める、不自然がまったくないところに感動を覚えます。
再び読み返すとさらにギミックがあるところもこれまたニクイ演出。さすがに残りは無理だったか、と思った私が浅はかでした。お見事!
お話単体で見ても、淡々と去っていってしまうあっけなさが逆に余韻を感じさせてくれる、好きな雰囲気の鬱展開でした。

 

[一言]
ギミックは勿論のこと、静かな夜にふっと手招きされる狂気等にピンとくる方向け。

 

 

 

 

『ミュージックチェンジャー』

 

[概要]
手動でBGMを切り替えられる前代未聞のノベルゲー。数分、一本道だけど3回分。

 

[感想]

いやもう何度言うんだって話ですけど発想力よ!
ガチャガチャ変更したほうがより可笑しみを感じられるんだとは思ったんですが、私はなかなかチャレンジできないタイプなのでとりあえずBGM2で一気読みしました。そして読了後、はっとログを見返しました。なるほどなあ!
確かに火をつけるシーンで少し引っかかりはしたんですよ。なるほどなあ……。

 

BGMによる文体の変更も、あくまで語彙と語尾で変えてるところが良いなあと思ったんですよ。

例えば、台本風と†≪漆黒騎士≫†とギャル文字、みたいな形で一目でわかりやすく変更することもやろうと思えばできるはずなんですよね。でも、そこを留まって、あくまで同じ文章形態(って書き方でいいんだろうか)の枠組みの中で違いを見せていくところに筆力を感じました。

 

[一言]
出オチに見せかけてしっかり読ませる文章で二度美味しい一作。

 

 

 

 

『ハルカナココロ』

 

[概要]
心とは何か、私とは何か。相互関係のない短編5作と共に物理と哲学に触れる作品。じっくり考えながら読むなら数時間、早ければ1時間未満。

 

[感想]

結論から行くとめちゃくちゃ私好みでした!
どの話も食い入る勢いで読み込んでしまった、とても好きです。

 

ちょっとずれるかもですが元々私はレプリカとかドッペルゲンガーとか好きで、なんだろう、私なるものはどのようにあるのか問題みたいなのがテーマになっている話が大好きなんですよね。大学の講義を受けてる時を思い出して、すごく楽しかったです。

哲学をテーマにしているといっても決して小難しくはないんですよ! いや哲学全般に言えることかもしれないんだけども……。要は、本作は純粋に短編ノベルとしても楽しめるんです。それぞれの話に愛着の湧くキャラクターがいて、オチがあって、余韻がある。素敵。
なので、元々これらのテーマや思考実験が好きな人はもちろんのこと、あっと驚くオチや皮肉な展開が好きな方にも読んでみてほしいなあ。

 

私はまず解説を求めるルートところから始めたんですよ。
これがばっちり、諸々の論と立場を教えてもらえたおかげで他ルートもすんなりと理解できました。全体図を把握してから入っていきたいタイプの人間なので、このルートがあって本当にありがたかったです!
逆に、長い説明を聞くと眠たくなってしまう人はこの話を後回しにすることで、先に物語と共に各論のイメージを付けてから入り込めるようになっているのかなー、なんて。

 

お話としてはシナリオ1とシナリオ5がお気に入りです。
シナリオ1については、あの“友人”の反応を見るに彼はきっと視点主の内心を思惑通り錯覚していたんだろうなあという皮肉さが刺さりますし。ああいったシナリオ構造にしてあることで、私秘性なるものの一端が理解できたように思います。
シナリオ5が展開が性癖でした。現象というものについて、背景画像等々もなかなかにずるくて巧みで良いですよね。

 

ここまでプレイしてきたこの作者様の作品が、どちらかというとギミックでカタルシスを与えてくるタイプの作品だと感じていたこともあり、本作のストーリーとテーマで直球に貫いてくる姿勢は一周回って新鮮でした。

 

[一言]
起動画面のデザインの意味がプレイ後にわかる作品、好きです。

 

 

 

 

『花畑のピュロン

[概要]
少女とまったり哲学する会話劇ノベル。1時間未満一本道。

 

[感想]

キャラクターは別作のスピンオフとのことですが、あとがきで触れられるまで特に気にならなかったので、単独でもプレイできるかと思います。ただ前述『ハルカナココロ』をプレイしておくとより飲み込みやすいかも。


本作は、私にしては珍しくお話のオチが読めた作品です。が、わかっていてもあのエンドロールの演出は美しく、さりげないところに伏線を仕込んである手腕もやはり素晴らしいものでした。何より先が読めるかどうかじゃなくて楽しめるかどうかで作品の良さを語りたいですし。

 

そう、本作は演出ですよ。そしておまけも本編ですよ。

例えば各章選択がシームレスに本編開始へと繋がっていく演出、こことても素敵でした。さらに、舞台裏で「ノベルでゲームなのか」という問題を提示しておいて、見事にそのあと解決してしまうところが本当誠実で大好きです。5までで打ち止めかな? あとは懐疑の世界って言ってましたものね。
あとプレイしていて、こちらの出力に対して反応を返すものに対して私は「ゲームらしい」と感じるんだなあという知見を得ました。いろいろと興味深かったです。

 

[一言]
「私とは何か?」について延々と思索を続けたがるあなたに。

 

 

 


『天使の唄う死』

 

[概要]
いじめを受けている主人公の復讐にまつわる話。数分、千文字喫茶ゲー。

 

[感想]

これまでの集大成といいますか、『月夜の蝋燭』をさらに拡大した版といいますか、なんかもう末恐ろしい文章力でした。文才とも語彙力とも言い難い、文章力。この方の作品はどれもあとがきの後が楽しいですよね。
初めは文字が読みづらいなと感じていたんですが、読み終えるころには納得でした。じわりと変わっていく演出、好きです。作品を重ねていくごとにデザイン力(ぢから)も上がっていっているなあとしみじみ。

 

[一言]
暗いお話に耐性があって、文章力にひれ伏したい方へ。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

全部丸めて一番好きなのは、『ハルカナココロ』
ゲーム・思考実験として好きなのは『神は賽を振るや否や』

 

もちろん全部楽しくプレイさせて頂きましたが、うちのツートップがこの二作でした!