「お人形遊びは早く卒業しなくちゃ!」
人形なんてなくても脳内でお喋りできるようになった前置き。
えー、今回は共食いうさぎさんところのフリーゲーム「AMANI」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
一本道探索ホラゲ。プレイ時間は長くて1時間くらい、ですが基本的に虱潰しで探索すればなんとかなるので難易度は易しめです。
というわけで、良かった点など。
ネタバレ無しで語ろうとすると、この作品の良さが一欠片も語れなくなってしまうので、今回は物語中盤辺りまでネタバレ含みます。ついでに言うと察しの良い方は先まで見通せちゃうかもしれません。ゆるして。
ザラッとした後味を残してくれるストーリー
これは序盤に察せるかと思うので書いてしまいますが、本作は現実と幻想の境界があいまいになっている世界観です。
影を見せては消える姉、エウペ。弟である主人公は彼女に依存している、とここまでは予測がつきます。となると、まあ姉が何らかの理由で亡くなり姉の影を追い続けて閉鎖的な妄想に逃げ込んでいるんだろうというのが連想できるところですし、実際終盤までその通りに話は進んでいきます。
いや、つまり失礼ながら、舐めてかかってたんですよね。なるほどホラゲだと数多として見かける、あるある展開なのだなと。そんでもって依存した世界に囚われるか、あるいは姉が正気に戻してくれるかどっちかのエンドになるんだろうなと。
甘かった!
カセットテープからの怒涛の展開が本当すごくて、特にエンド後、ザワッと総毛立ちました。確かに想定通りの展開なんです、予想できるんだけど、そこから一歩ズラして一言で心をざわつかせる演出が本当にすごい!
正直一周しただけだと理解しきれていないところもあって、疑問符もあったんですが、それらを全部無視してガツンと心臓を絞りに来る演出でした。
印象に残る不安定な演出
さてホラーと言えば不安を煽るもの。
中でも演出としては、ノーウェイトでふっと別世界に切り替わるマップ作りが顕著に効いていました。二度見して戻ろうとしても戻れなかったり、あるいは何事もなかったかのように前のマップと同じ世界が構築されたり。この、静かに壊れている表現がとても好きです。
精神世界徘徊ゲーと違って、本作のマップ切り替わりは中盤以降から室内に限定されます。内へ内へ篭って、でもその中ですら均衡が保てていなくて変に接続されている感じ。そこがすごく歪んでて良いなあって思います。
一方で、プレイヤーが物語を理解しやすいよう規則的に行われる演出もあります。回想シーンに入ると起こるフィルムノイズが筆頭。マップが切り替わった際に、時間軸を示すようにキャラチップの等身が変わるところも、細やかで良いなあと思います。
断片を繋ぎ合わせるストーリー
上記の通り、回想か夢か現実か、あちこちを行ったり来たりするゲームなので、お話もただ受け取るだけでは理解しづらい構成になっています。それでも情報はある程度提示されますし、大筋は拾えるはず。何より一番の大前提が、初めに手に入れられる資料で理解できるのも大きいですね。だからぼかしてある点はあくまで本筋に関係のないところなのかなー、なんて。
手にいれた資料がいつでも読み返せる点はとても助かりました!
合わなかった点
最後に軽く、合わなかった点について。
・初期マップの視界の悪さ
一歩先の暗闇で変化が起きている、という効果を出したいのは理解できるんですが、キャラの方向転換でライトがちらちらするのが目に悪く、きつかった印象です。もう1マス分くらいは広げてもらえると嬉しかったかも。
・セーブデータ数
個人的に何度か見返したいマップや本棚があったんですが、前述の通り引き返せないこともあったので、もう数個欲しかったです。ただこれは私がセーブ厨だからかも。プレイ時間に対してはぴったりな数だったと思います。
とまあ、こんな感じで。
追記ではネタバレがっつりで、解釈考察その他考えたことなど。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
納涼! 短編ホラーフリゲ8作品感想(『幸せなエミリー』『Rumor』)
ネタバレ注意。
回想おさらい
自分の整理も込めて、あらすじを書き出してしまいますね。
未プレイの方には蛇足・楽しみ阻害極まりないので、既プレイの方のみどうぞ。
- エウペ誕生
- アルビノのせいで血縁を疑われ、父が失踪
- 母が娼婦の仕事をする(「父が誰かわからない~」のくだりから。エウペが産まれる前から娼婦だった可能性もあり)
- イナマ誕生
- 母が病気になり仕事を辞める
- 子どもを売る契約を秘密裏に行う(LOSTTAPE)
- 売人に裏切られ母は死亡・姉は誘拐
- イナマ一人取り残される
ここまでが本編に至る前の回想で起こったことだと思います。
で、疑問としてはイナマがどうして売られなかったのかということ。姉一人で賄えると売人は言っていましたが、どうせ売れるなら二人とも売る方が楽なのではないかなと単純に。売る方が手間がかかるのかな。
まあそこらへんは本筋に絡まないとして、残されたイナマが現実でどこにいたのか。こっちのほうが本編に絡む気がします。
あとは本編ですね。
- どこかの施設から抜け出てきて、
- (家から近いというのはイナマの妄想かもしれないどことも知れぬ)森を抜けて、
- (自分の家だという妄想かもしれない何処とも知れぬ)家に辿り着いて、
- ひたすら一人で想像上のお姉ちゃんと暮らし続けました、
な流れかなと考えています。
あっ、あとナイフについて。
最後のマップで知らない子どもが登場して、刺して何事もなかったかのようにエンドへ進みましたが、あの子はあの家の先住者だと思うんですよね。イナマの関心に入らないから触れられなかっただけで。
マップの間取りが変わったのも、あの家がイナマの家ではないことの示唆ではないかな。
ここからは私の妄想がより強まりますが、イナマは現実世界ではあちこちの家をああやって渡り歩いて時に住居を映しながら生活していたのかも。
だからゲーム自体が、パン一つ探しに行くのに、あれだけの手間と時間がかかるような作りになっていたんじゃないかなあ。イナマの視界=夢では延々と同じ自宅で同じ姉と暮らしている設定になっていますけどもね。
未解決の謎
上記に絡んで、私がいまだに解決できていない謎が二つあって。
・OPのカウントダウンは何だったのか
・ゲーム開始時にイナマがいたコンクリ施設は何か
ここすごく引っかかってるんですよねえ。
カウントダウンは、メタ的に言えばゲーム開始だよっていう合図なのかもしれませんが、作中の演出力を見るにそれだけではないと思うんですよね……。
あと、イナマがいた施設。人形が落ちていたり独房っぽい部屋があったりするところを見るに、初めは売られた子供が閉じ込められる場所みたいなところかなと思ったんですよ。子どもの笑い声がするし。
でも、そしたらイナマ一人が置いていかれたり脱出出来たりするのは謎だなあとも思って、うーん。ここはそこまで深く考えずに、現実のイナマは日の当たる世界では過ごせていないよ、ということさえわかればよいのかも。
前述の妄想を加味するなら、家々を渡り歩いて強盗まがいを繰り返しているイナマが犯罪者として隠れ住んでいる(本人は夢の世界を見ているので無自覚)ということだったりして。
その他補足
Insanity(狂気)について。半端なところで切られているのであれですが、ググったところ「同じことを繰り返し行い、違う結果を期待すること」とのこと。示唆的ですね。
色々な経緯の結果誰かの名言だと誤解されるようになったらしいんですが、ここは零れ話かな。
「おひめさま」について。喋れるようになったのを知ったのは彼女だけ、どうとでも解釈はできそうですが、周りから見ても変化がわからないという点が重要なのかなと思っています。精神世界は不可侵、夢の世界は誰にも壊されない、イナマの狂気はイナマしか知らない、そんな感じ?
意味深なワードを残して想像させるストーリー、趣深いと思います。
ざっくりまとめてしまえば、家族を不意に奪われた弟が姉の幻覚を見ながら幸せに過ごしています、ということになるわけですが。
母はその幻覚に含まれずあくまで回想にしか登場しないのも、親に売られることになったことを察しているような感じがして、よりエグみが増しているなあと感じました。好き。