「誰もが湖に引き込まれ、全てが沈んで闇になる」
足を取られたばっかりにな前置き。
えー、今回はRED HOSTILITYさんところのフリーゲーム「Margot」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
一本道の、短編ノベルゲー。恋愛ものでサスペンス、人間のドロドロとした感情が味わえます。
というわけで、良かった点など。
多視点で紐解かれていく事件
本作は一話終わると視点が交代し、それぞれの内心を本人の見え方に合わせてなぞっていくような構成になっています。いいですよねえこういうの。物語の中心にいるマーゴッとはすでに死体というのもまた美しい。
物語の初めからマーゴットの死は提示されていますが、ただ過去を追うだけのお話ではありません。現在進行形で悲劇の坂道を転がっていく不気味さを楽しめるのも本作の魅力です。
起こったこと、今起きていること、どちらも掛け合わせて悲劇になるところが本作の構成力の秀逸さを表していると思います。
どうしようもなく身勝手な人々
さて、鬱展開といえど種類はいくつかあるものですが、本作は身勝手な人々が折り重なって生まれた鬱です。つまり、かなり自己中心的で陶酔的な人々が多く登場します。
いやでもこれ、この露悪的な感じがすごく好きなんですよね。リネットとか見てられないもん。好き。
第三者から見ればぞっとするお話ですが、それぞれの価値観からすれば、彼らはどれも“本当に誰かを愛していた”のだとわかるところも素敵です。皆が皆冷めているところがあって、それでもこれは愛なんだと定義している感じ。気持ちの揺れ動きだけは言い訳なしに本物なんですよね。だからこそ後味が悪い。はぁ素敵。
特にハドリーなんかは最後までプレイすると見え方がガラッと変わる人でした。ネタバレになるので追記で。
静かに引き込んでくるグラフィック
グラフィック面に関しては良点難点併せて。
まず難点、フォントと文字区切り。フォント自体細めで大きさも小さく、単純に読みづらさを感じます。さらに各チャプターの序盤は一段落の中に複数の話題が混ざりがちで、ノベルゲーとしては読みづらさを感じました。心理描写して室内の描写して心理描写して行動宣言の流れが一息で行われる、みたいな感じ。
ただ、前述の通りお話の構成自体は読ませる力を感じますし、短編でもあるので気にならない方は気にならないレベルかと。
続いて良点。立ち絵はないんですがそれを感じさせないほどに雰囲気作りの上手な作品でした。ドプリと深くに沈み込むような効果音や、ぱっと目を引く背景画像、シンプルに漆黒で締めるメッセージウィンドウなど、どれもが良い具合の暗澹を演出してくれます。
キャラクターの外見描写自体は多いので、見た目を想像しながらプレイしたい派の方も満足ではないでしょうか。
リネットの描写が本当好きです。
とまあ、こんな感じで。
ドロドロ人間関係、ヤンデレにも似た陶酔的な愛、謎と回答が絡み合う構成などにピンとくる方向けのお話でした。
追記ではハドリーについて数文だけネタバレ。
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ネタバレ注意
ハドリーについて
彼の言うところの主人公願望みたいな部分を知っているからこそ、最後のチャプターのさらっとした地の文で“何故か”恋が冷めてしまった理由がわかってゾクゾクしました。
彼女がワガママなふるまいを止めてしまったせいですよね?
本人視点では都会へのあこがれっていう理屈があったけどたぶん真相はこっちだと思うんですよね。主人公になりたい、彼女のために輝くヒーローになりたい、という願望が転じて何でも彼女の言うことを叶える俺という自己陶酔感を生み出していたんだと思うんですよ。それが無くなったから急に冷めてしまった。
そしてハドリーも彼女もこの理由に無自覚だから地の文では流されてしまって、“何故か急に”冷めたことになってしまっている気がします。
このプレイヤーだけが気づける感じがすごく良かったです……。いや私が勝手に電波を受信してるだけかもだけど……。良かった……興奮しました。