うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「いずれまた森になる」感想

「哀しきかな一人芝居、安らかなれ死骸達」

だれもいなくなった前置き。

 

 

えー、今回は時雨屋本店さんところのフリーゲームいずれまた森になる」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

30分足らずのお手軽プレイ時間に対して、鮮烈に余韻を残してくれる一本道探索ゲー。前情報が無いほうが楽しめると思うのですが、根幹のネタバレ部分で性癖を擽られる方が多いような気もして、感想の書きっぷりにいつになく悩むところ。

とりあえずタイトルからしてとても美しいので、これでピンと来る方はきっと合う気がします。

 

ともあれ良かった点など。

 

 

光と影の美しさが際立つマップ

 

本作は冒頭で明記される通り、マップチップはおばけさんによる合作となっています。

このマップの美麗さと言ったら! 誰もいなくなった世界、瓦礫に巻き付く蔦、ゆっくりと朽ち果て行く建造物、そして月明りなどなど。舞台からして退廃的な美が感じられる設定なんですが、目で見てそれを感じられるのがもう……たまりません。すごい。まさに感嘆。

光源の使い方が印象的なんですよね。暗い道にぼうっと灯る光、底の見えない水面の向こう側、光の代わりに目を引く白い花。ただ光らせるだけじゃなくて、色々な形で道標を敷いてくれているような印象でした。

あの小舟の一本道(川?)が好きだなあ。戻れない終わりを今から見に行くんだな、という、おしまいの予感がとても切なかったです。

 

 

彼の視線を感じ取れるテキスト

 

やっぱりキャッチーなのはグラフィックなので真っ先に取り上げましたが、テキスト面にも注目したい部分は多くあります。

一番印象に残ったのは、セリフと情景描写の違いですね。

セリフはテンポよく楽しく進み、そして終盤にふっと口を閉ざし、緩急をつけて。そして情景描写はしっかりと骨肉付けて、主人公の視界に入り込むかのような文章で語られます。この文体の違いがとても興味深かったです。多彩。

何よりこの情景描写があることで、ただ“目で見て綺麗”だったマップが変わるんですよね。“肌身で美しさを感じられるマップ”になるんです。五感が増えるような、より入り込んで崩壊した世界と隣り合わせになるような、そんな感じ。とても素敵でした。

あと私、本作の繰り返されるモノローグが大好きなんですよ!!

詳しくは追記に隠しますが……好きです。

 

 

間の取り方が絶妙なシーン

 

さて、この幻想的で退廃なマップを歩くのは、名前も明かされない魔術めいた男。ミステリアスな主人公と共に、退廃美の際立つ世界で、さぞ静謐な物語が開かれる──

────かと思いきやわりかし序盤はハイテンポです。このギャップやよし!

間の取り方が上手いんですよねえ。そっと手にアレを装着し、ゆっくりと腕を上げる……このウェイトをしっかり取ってくれてるからこそ笑っちゃうんですよ。しかも後を引く。じわじわくる。

で、さらには同じシチュエーションを逆の方向性で利用してくるところも巧みです。既プレイヤーには伝わる、はず!

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

廃墟、風変わりな雰囲気の主人公、退廃美などにピンとくる方へおススメしたい短編探索ゲーでした。

 

追記ではネタバレ感想。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

ネタバレ注意!

オチまで全部隠し無しで書きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見ようによってはヤンデレだなあって思ったんです!!!!!!!!

しかも正統派の……恋相手に害をなさずに好きが高じて暴走した感じの……そして根本に愛の葛藤と哀しみがある感じの……。

ふぅ、これを叫びたかった。伏せまで見てくださった方ありがとうございます。

 

でももうちょっときちんと語っておこう。

オチはシンプル。本編でも言われる通り、ただそれだけのよくある話です。

が、それだけの話を最上級に味付けされた至高の逸品だとも思っています。

主人公の色々な意味でのインパクトもそうですが、独創性の出しどころが良いんですよねえ。よくあるオチだからこそ、主人公のモノローグは異質な気もするんですよ。昇華されて終わったり咎として苛んだりするんじゃなくて、そういう罪悪感みたいなものからは別のステージで語ってる感じが、うん。この話でしか見れない結論だなあと思います。好きだなあ。

 

繰り返すモノローグも、主人公の感覚がよく出てるなあと思って。罪悪感も勿論あるだろうけど、それ以上に“残ってしまった”みたいな感覚が強いモノローグな気がしています。そして、最後にその感覚を肯定してくれたところがとても、救いの話だなあとも思いました。報われないけど救われるみたいな……。

 

 

 

 

 

こういう雰囲気や世界観が濃密な作品は、何を語ってもちょっと蛇足になってしまうのがあれですね。でも、じっくりと浸りたくてこうやって何か語りたくなっちゃうのもまた、雰囲気ゲーの良いところかもなー、なんて。