うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「見えないし触れない」感想

「夕食の材料を二人分買ってきてしまった」

もう一人暮らしなのにな前置き。

 

 

えー、今回はスパイスキャットさんところのフリーゲーム見えないし触れない」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ツクールMV製ホラゲ。びっくり要素、鬼ごっこ要素あり、謎解きは無し。終盤の行動によりエンド分岐しますが、分岐前のセーブポイントに注意書きがあるので攻略としてはわかりやすいかと思います。

初めはアツマールだけだと思い込んでいたのでなかなかプレイできなかったんですが、DL版があると知って大喜びでDLしてきました! ブラウザゲーのDL版用意してくださる作者様ほんとありがたい……好き……。感謝です!

 

いつもの流れだと長々と良かった点を語るんですが、本作は冒頭1分程度で感じる「あれ?」が魅力の始まりだと思うので……。いつもより簡素にまとめて、代わりにネタバレ感想に尺を取りますね。

というわけで、良かった点簡略バージョン。

 

 

選択肢が大いに力を持つ構成

 

探索中のギミックや選択肢の効果、時々フラッシュバックする不穏な過去など、手法自体は有名なものが多めです。ホラーフリゲに親しんでる方なら「○○で見た」と言いたくなるかも。ただ、注目したいのはその使い方。どこかで見た手法を、見たことも無い演出でオリジナルストーリーに組み込むやり方が上手いなあと感じます。

 

 

 

キャラの好きと嫌いを見せつけられる

 

これは同作者様の他作品『四人の王国』でも顕著でしたが、キャラの嫌な面も良い面も余すところなく両方描かれきっています。この人間らしさ、業と情の深さが素敵です。

立ち絵がぷにぷにかわいい系だから、ついついキャラも属性やテンプレに当てはめてみようとしちゃいがちなんですよね。でも実際はすごく生々しい。ここも上手かったです。

 

 

タイトルを含むダブルミーニング

 

プレイヤーの立ち位置、タイトルの意味、キャラの二面性、神は誰も救わないが確かに誰かが救われる展開などなど、あちこちに二重の意味が含まれているのも本作の特徴です。ギャップともまた違うんですよねえ。根本が一つで、プレイしていくうちに見え方が変わっていく感じがとても面白かったです。

特に、様々な登場人物達がそれぞれ違った意味で何かを「信じて」いるところがとても素敵。本作のテーマは信じるということなのかなと思っています。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

プレイしていくうちに物事の捉え方が変わり、恐怖の意味合いが変わり、それでも普遍的に誰かを信じたくなる良作ホラゲでした。感情移入するタイプの私みたいな人はきっと楽しめる、はず。

 

追記ではネタバレ感想。

追記かなり長いです。 

 

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

ネタバレ注意。

 

 

もう紹介とかそっちのけで全部ネタバレします。

クリア済みの方のみどうぞ!

 

 

 

キャラクター

 

せっかくなので本作のエンドに沿って、メイン4人を好きなキャラ順で語っていきます。キャラ感想としてはキツイ書き方もしますが、この作品は人の多面性が描けてるということを主張したいというのも、伝わるといいなあ。

 

 

ローレンツ

 

メタ的に見れば、多分下げて上げるタイプとして作られてるキャラだと思うんですよ。悪印象から入ると挽回した時の上がる印象がより大きくなるみたいなあれ。ゲインロス効果って言うんだったはず。

でも私実は彼のこと、初見からけっこう好きでした。なんだろうなあ、弱さがはっきり見える人好きなんです。共感できるし、ところどころで理論武装しようとしてるところも必死さが見えて良いなあと思うし。色んなシーンでこの傾向が見れるんですが、安全圏に辿り着いたとたん去っていくところも、人となりがわかりやすくてすっきりするなあと思います。

下手に猫を被ってる人よりもわかりやすいので、話してて安心できるんですよね。

あとブレのあるところが好きなんですよ。励ましてくれる時もあれば見棄てる時もあるっていう。非情になりきるわけでも悪人ってわけでもなくて、情でブレるところがすごく良い。まあこの弱いって言うのもそれこそ私がプレイヤーだから言える、高みの見物的な物言いになってしまうんですが、でもやっぱそういうブレが良いキャラだなあって思います。必死に生きてる。そんな感じがする。

 

 

 

フィル

 

序盤からなんとなーくその気は察していたんですよ、僕はどうなってもいいからという物言いに。だから、END4はある意味痛快でもありました。

そしてそれ以上に、TRUEENDが爽快でした。フィルの笑顔が今までと全く違うのが本当に嬉しかった!! 気を張った、気を遣った笑顔じゃなくて、本当に心から笑えたんだなあって思ったんです。それを立ち絵一つで使えるのがすごい。本当にすごい。とても泣く。他EDでのフィルは泣いて終わるばかりだったからなおほっとしました。

あと、さりげないところだと、ローレンツさんへ持っていく食べ物のくだりが好きなんですよね。フィルって時々プレイヤーの悪い囁きをきっぱりを断る時があるじゃないですか。フィル自身が精神的に弱ってるかどうかっていうのもあると思うんですけど、ご飯だけじゃなくて人命に関するシーンもそうだった気がする……。やっぱり根が本当優しい子なんだなあと思います。

やり返してやろうって気持ちがあんまり無いからこそ虐められるし、虐められた時の捌け口が用意できなくて自分を虐めるしかなくなっちゃうのかなあとも思います。

不器用。でも優しさの表れ。

私だったらもしかするとフィルに「報復してやれ」って言っちゃうかもしれない。だから、フィルの傍にいるのがアナナちゃんで良かったなあと思いました。耐え忍べというのなら酷だけど、そうじゃなくて自分を大事にしてと言うのがまた、フィルのやり方に沿った言い方で良いですよね。

 

 

 

アナナちゃん

 

ちゃん付けしたいこの気持ち。

教会のシーンから印象がガラッと反転した子です。信頼できる隣人であり守るべき相手、という印象を上手いことズラしてくれるところがとても上手いなあと感じます。無難に好きだなーと思っていた気持ちが、底知れなくなった感じ……? 

 

正直きっと、私はこの子を舐めてかかってたんだと思うんです。綺麗事言うだけでしょ、ハイハイ、って。

それにアナナちゃんの言うフィルを支えるというのは傍にいるというだけで終わっていると思い込んでいたんですよね。だから、フィルにフィルの兄や妄想の問題ときちんと向き合わせようとしてくるとは思ってもみなかったです。

この子は想像以上に色々なものを理解していて、そのうえで時期を待っていたんだなと……。彼女は、「ヒロイン役」「聖女キャラ」「依存先」「ゲームにおける動機」では終わらない。この子もきちんとこの作品の枠組みの中にいる“人”なんだなあと思い直すことになりました。姿勢を正す想いです。

 

 

 

キャシャ

 

普段は嫌いなキャラがいてもぼかして書くようにしているのですが……。この作品は前述の通り、嫌な面も含めてその“人”として描いていると思っていて、そこが好きなので、こちらもぶつかる書き方をします。

ただキャシャ好きな人にとっては不快だと思う、そこはごめんなさい。こき下ろしたいわけじゃないのはわかってもらえると嬉しい。

 

キャシャ、嫌いです。苦手じゃなくて嫌い。

虚勢を張りがちなところは頷きたくなるんですが、そこから誰かを攻撃していくところが嫌いです。自分が怖いばかりに人を叩いて怖くないってことにするやり方が嫌いです。エンド分岐でローレンツのレバーを動かしかけた瞬間に必死でローレンツをdisるシーンが一番嫌いです。自分の強さを言い聞かせるために、誰かを下げようとしてくるところが嫌いです。大義名分を得た途端に誰かを容赦なく殴りつけるところが嫌いです。ずるい人だなって思います。

 

でもねー……嫌いだという私の言葉も結局安全圏からの物言いなんですよ。それに彼女の言い分も理解はできるんです。ずっと悼み続けるのはしんどくて、向き合えって無理やり言うのは違うと思うし。逃げたい。とにかく逃げたい。考えたくない。そんな共感性の痛々しさも伝わってくるので、「キャシャなんて嫌いだ!」では決して終わってしまいたくない気持ちもあります。

彼女のキャラ的に昔もムードメーカーとしてやってたんだろうなって思うし、前へ前へという性格はきっといつかのどこかでいつも誰かを元気づけてたんだろうなとも思うし。本当、彼女の根本の性格が悪いわけじゃないと思うんです。私が嫌いだなって思う彼女の性格も、一つの性質の側面ってだけな気がします。

 

それに私、キャシャが例のトゥルーエンドへの道のりで「信じる」って言ってくれたのがとても、とても好きでした。本当に……。

だから、嫌いだけど嫌いだけでは終わらない子です。

そしてこの感想が出てくることこそこの作者様の作品らしいよなーとも思います。

 

 

 

各種エンド感想

 

 

END1

引き返しちゃダメっていうフィルの立ち絵が泣き顔なのがとても好きです。必死さが本当によく出てて……。フィルからしてみれば、これも「アナナちゃんを守った」になるのかなあ。フィルはそんなふうに上手いこと認知を歪ませることはできるのかなあ。ちょっと不器用な逃げ方をする子だから、できないかもしれないなあ……。人命にはかなりのこだわりがあるみたいだし……。

フィルに想いを馳せるとひどくやりきれなくて好きです。

ウサギがお前のおかげだぞと言い募るところがあまりにも底意地悪くてすごくいい。

 

END2

END四つの中では一番救いのあるエンドだなーと感じました。

というのも、このエンドって明確に「プレイヤーのせい」にしてもらえるじゃないですか。ここ本当助かります。誰も憎まなくていいし、私があのレバーを選んだのは確かだから責められても当然みたいなところあるし。間接的にはフィルが責められてしまいますが、それでもこう、憎悪の逃げ道があって助かるエンディングだと思います。

あと俗なこと言うとすごくリョナラー向けでイイネってなりました。心が痛むのとは別枠として。

選択肢の繰り返しや、フィルが一生懸命そのレバーを選ぶ理由を考え出そうとしているところも、抵抗感があって好きです。キャラじゃなくて人って感じの演出がやっぱり好きなんですよねえ。

 

END3

アナナちゃんの強さが見れるエンドだと思います。本当彼女は想像以上に色々なものが見れてて察しが良くて理解してる子だなあ……。今、想像以上という言葉がぱっと出てきた時点で、やっぱり私は前述の通り彼女を舐めてるんだろうけど……。

フィルさんがいればそれで、というしたたかさを隠さないところもアナナちゃんの強さだなあと思います。時折自分の強さと同等のものを人に求めてしまうところも。

 

END4

同類相哀れむか、はたまた。

諸々の感情を切り分けて単純にシチュエーションだけで言うと、一番好きです。幻想の想い人シチュがすごく好きなんですよ。色々と展開も鬱にえげつないですし。好きです。

もう心から容赦ないですよね。

すっごく意地悪な見方をするとですよ? 役立たずになりたくない、何かしらせめて、と言い続けていたフィルが最悪の一手を打って自分から役立たずを表明してしまっているとも言えるじゃないですか。ここほんと、本当しんどくて、でもその辛さを直視させてくれるところが好きだなーって思います。

 

 

 

TRUE END

 

ED2で悪魔が私だとしてくれて安心したって書きましたけど、それすらも塗り替えてくれる優しさが本当に私は嬉しい。私は彼にとっての善たる何かになれたし、ならせてもらえる展開でした。嬉しいなあ。力になれるって言うのは本当に嬉しいし、キャラが息づいてる作品でプレイヤーが介入できると、本当にプレイしたかいがあったなあと思えますね。ありがとうございます。

 

アナナちゃんをおぶろうかって言って大丈夫って返された時のフィルの態度に心から安心したんですよ。

あのシーンだけ、「ごめん役に立てなくて」とは言わなかったじゃないですか。あの自己卑下しがちなフィルがですよ! 本当に安心した……フィルがやっと自分を虐めることを辞めてくれたというか……大丈夫って言われたら「そっか」だけで良いんだよっていうのをやっとわかってくれたというか……。アナナちゃんを守られるだけの何かにしないようになってくれた気もして……。良かったよね……。

そんでこれ書いてて思ったんですけど自然と見守る側になってるんですよね、私ことプレイヤーの視点が。よくできた作りをしている……。

 

 

話を変えて、フィルの兄について。

誰か一人が犠牲になると開くというくだりと、フィルの内部に兄とフィルの二人が同居しているっていう話とを聞いて、てっきり兄の魂が昇華されて扉が開いてしまうのかとハラハラしてたんですよ。で、それってフィルの自己犠牲精神が兄に移るだけみたいな構図になるから、寂しいなとも思ってたんですね。

でもそうじゃなかった。お互い納得する時間をかけてお別れができてよかったなあと思いました。フィルが巣立つだけじゃなくて、兄側の依存もちゃんと解消される描写があるところがほんとに良いなあと思います。

見守る側も見守られる側も同等に寂しいものだよ。

 

あとやっぱり、兄が無口主人公だからこそ、「声が届いてくれ」という気持ちがよくよく出て良いですよね。選択肢がそのままプレイヤーの叫びになってくれるのが本当にいい。ビムシャフラウの叫びもそうでしたが、私もなんか、声を上げながらプレイしてしまって、本当心の底から一緒になって届いて欲しいと思っていたので、本当に報われて嬉しかったです。

そう、報われるんですよこの話って!

報われたーって気持ちがそのままキャラの満足にも繋がって、それぞれ去っていったり変わったり終わったりしていくのが、本当良いなあと思います。私は感情移入バリバリする派なのでなおさら響く。いいなあ。

 

 

 

変わること、変わらないこと

 

で、ラストシーンの感動も勿論なんですが、私が一番好きなシーンはジョルジュとアナナちゃんの会話でした。

「変わる代償は誰も払ってくれない」「それはしょうがない」このくだりが心にストンと落ちたんです。そっか、そうだったのかって。

 

めっちゃ私語りになりますけど私色々なものが変わるの本当怖いんですよ! 

永遠に幸せでいたいそれの何が悪いみたいなラスボスには「そうだそうだー」って叫びたくなるし、生活環境変えたくないし好きなものは好きなままでいてほしいし後出し情報苦手だし嫌いな人ですら嫌いなままでいさせてほしいと思ってしまう。だって変わるの怖い! 世の主人公はみんな、変化が無いとまだ見ぬ希望や幸福も潰えてしまうって言うけど、別にいいじゃんって思う。だって今そこにない希望より今ここにある安寧のほうが大事だしより多くを求めようとしてマイナスが起こるほうが怖いよ!

 

 

だから変わることを強要されないこの作品の価値観は本当に救いでした。

変わる後押しはくれるけど、なんていうのかな……説得してこないんですよね。無理やり顔を向かせて肩を引っ掴んで「さあ希望のために変わるんだ!」みたいなことは言ってこない。「まあ今のままもしんどいよね」ってそういうふうに、提案してくれるだけ。この距離感にすごく救われます。

「変わる代償は誰も払ってくれない」って言葉、例えば私だったら軽率に責めちゃうんです。

でもこの作品は「そりゃそうだ」「お前が払うべきものだ」「お前が変わることを選んだんだからお前が責任を取るんだ」みたいなことを言わないんですよ。脅してこないんです。そうだね、そういうものだ。それだけで終わって、お前が悪いともお前のせいだとも言わない。変わることの責任は、誰のせいでもなくただそこにあるというだけで終わってくれる。ねえこんなに優しい話ある? 本当に「しょうがない」って目から鱗の発想で、救われました。

 

変わった結果を誰のせいにしなくてもよかったんだ……。

極論私って生きてていいんだ……。

そんな感じ。

なんか宗教染みた書き方になっちゃうね!? 

ごめんね私はとても元気です!

 

それに、ローレンツさんが最後、マーシャさんとどうなるかも語られないまま終わるじゃないですか。いや、作者様的には設定があるのかもしれないんだけど、少なくとも本編内ではローレンツさんがマーシャを見なくなったとも書かれないんですよね。

そういう、自分が信じたいものを信じるだけで、周り全部がそれに合わせて変化する必要はないっていう描き方にも救われるなあと思います。

 

 

要するに、優しい作品だと思う!

 

 

 

 

まとめ。

プレイしてよかったなあ……。

 

語るならそれこそもっともっと、キャシャのキャラデザかわいいよね~とか、ラストシーンノーセーブで突っ走る演出すごく没入感あっていいよね~とか、MVのキャラチップって目が感情こもってなくて怖いけどホラゲだと逆によく映えていいよね~とか、色々書き切れないくらいツボな点があるんですが。

 

このネタバレ感想部分だけではや5000字を大いに突破してしまったので、そろそろ口をつぐもうと思います。

言わぬが花と知りつつつい好きなところ語っちゃいがち!

 

 

 

ともあれ、ホラーをしっかり感じさせつつも、あたたかく締めてくれる優しいお話でした。ありがとう!