「小さな花は雪に埋もれて見えなくなってしまうから」
静かにしおれるその前に奪い去っていきましょうな前置き。
えー、今回はcream△(乃花こより)さんところのフリーゲーム「雪花庭のクレデンテ」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
パートボイスあり、戦闘無し、難易度易しめの鬼ごっこあり、エンド分岐ありのADV。鬱展開や流血系のスチルもありますが、全体的にはほのぼの路線の作品であるように思います。
というわけで、良かった点など。
構成力を感じるストーリー
意味深なプロローグを見せて掴んでおいて、ぽんと時系列を飛ばす構成。単純と言えば単純なんですけど、素直に驚かされたんですよね。「ここであのOPがくるのか!」とテンションが上がりました。
メインストーリーだけでなく各キャラのエピソードもそう。見たいところをきちっと切り取りつつ、余分やテンポの悪いところはさくさくっと省略されています。なんだろう、構成がこう……一冊読み切りで売れ行きによっては連載が決まるラノベみたいな感じ……? 例えとして良くない気もしますが! 操作パートとストーリーパートの尺が丁度良かったです。
レオンがすごく好きなキャラなので、欲をいえば彼の過去はもう少し知りたかったですが……。諸々の設定を踏まえると、明かされないからこそ映えるという気も。
ヤンデレ青年×善性少女の年の差ネタ
恋愛要素、と書こうとしつつも躊躇ってしまったんですが……。プレイヤーの恋愛の定義によって少し見え方の変わってくる作品のように思います。
キャラ属性だけで取り上げるなら、歳の差・種族差。そして年の差ものの魅力って、お互いが対等になれないもどかしさや、年下側が無知ゆえに言い様にされてしまう危うさみたいなところだと思うんですよ。なので抱く愛の形が違うこの二人は、年の差ものの真髄だなという気もします。
ヤンデレ一歩手前なオルガにも注目したいところ! ギャグなヤンデレシーンも、ガチで怖気の走るヤンデレシーンも、両方好きです。彼がツララに執着する理由づけもしっかりあるので、病む過程重視の方も満足かと。
ツララが驚くほどに純真なので対比するといっそう差があって好きます。
まとめると、関係性重視の方には色々と悶えるところがありそう。
進行や分岐がわかりやすいシステム
エンド数は多いものの分岐条件は単純で、作中のあちこちに直接的なヒントも用意されています。取り逃しはカバーできないものの、このヒントのおかげでフラグをすっ飛ばすことはまず無い……はず。仮に探索しすぎて特定のエンドにしか行けなくなったとしても、あとから救済措置で調整できるようになっているのでとても助かります。救済措置の位置がエンド突入前なのも気楽で良き。
また、次の目的地や話しかけるべきキャラクターの位置がきっちり明示されるのもわかりやすかったです。
スチルとマップで魅せる銀世界
まず、初登場のキャラが出た時に挟まるステータス画面が好きです。戦闘はないけど魔力と力が設定されているところも好き。メッセージウィンドウやちょっとした吹き出しもさりげなく装飾が凝ってて良いんですよねえ……。
あっ、でもツララちゃんのスカートの短さはツッコミを入れたくなりました。寒いよ! 肌あったかくして!
スチルはほのぼのと鬱のギャップがすごくて、作風の幅広さを強く感じました。個別エピソードもそうですが、特に暗い面はガツンと殴られるような衝撃があってすごく好きです。BADENDのえげつさは特に必見。表情の圧が良いんですよね~。
マップの美麗さにも注目です。銀世界と言ってもただ白いだけではなくて、氷と雪のマップの違いや、夜と昼のライティングの違いなど、きちんと細やかな差異が描写されているんですよ。看板などのおかげで動線もしっかりしていて、歩いていて楽しいマップでした。
イエティの顔がちょっとキュートな感じなのは笑っちゃいましたが、あの場で急にリアル調のキャラチップが出てきてもそれはそれで違和感があるかも。
とまあ、こんな感じで。
寒い冬に身を寄せ合う迫害された者たち、という光景にピンとくるものがあるならおススメです。
追記ではネタバレ感想。
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ネタバレ注意!
各エンド感想
BAD1
表情が完全に生気の抜けた死体って雰囲気でたいそう興奮しました。
BAD2
死にたくても死ねない展開ってめちゃくちゃえげつなくてとても良いと思います。過去に逆戻りという趣もあってなおよい。
BAD3
こちらはちょっと違和感あり。ツララが勝手な行動をしたせいなのにオルガを受け入れられないというのはずるいなあとちょっと思ってしまうんですよね……。人間の情が残っている優しいツララ、という点自体は好きなので、落としどころが難しくはあるのですが。迷惑をかけてしまったからここにはいられない、とか、魔族らしい真の姿を見て怖くなってしまった、とか、単に人間に戻るのではなくて何かしらの理由付けが欲しかったかなと思います。
TRUE1
ここでレオンを持って来るとは思っていなかったので、素直に驚かされましたし、色々な線が繋がる気持ち良さがありました!
この世界のケルベロスの設定ほんっと大好きなんですよ!!! なんかこう、命は残っても人は死ぬみたいな、ある意味ただ亡くなるよりも残酷な設定じゃないですか。それがすごく、滲みるんですよね……。
余談ですが昔の、おそらくレオンという名前ではなかったであろうレオンは一人称ボクなんですね? スクショを見返していて気づいたんですが……こういうところも細やかで素敵です。
モカはどうなってたの?という疑問は少し残ります。仮にモカが生き残ってたらレオンを説得して戻る可能性もワンチャン……あるの……かも……。まあでも個人的には死ぬんだろうなあという気持ち。
モカは手当をすれば生き延びれそうだったけど、レオンは一度死んで記憶をなくしてしまったからモカを助けることもできなくて混乱したまま見殺しにしてしまった、みたいな展開が私の中では一番想定しやすい末路かなと思います。こういうのが好き。
TRUE2
さらっと終わってしまったので、初めは疑問符があったんですよ。描写量的にも、BADで良かったんじゃないのかな?って。
が、改めてよく考えると私の考えが軽率でした。このエンドをTRUEと銘打つからこそえげつないんですよね! TRUEってある意味正史って意味だと私は思っておりまして。鬱展開好きとしては、HAPPYはただの理想像、本当はこっちルートが結末でしたー……という解釈をするととても捗ります。辛くて。
HAPPYEND
いや~、でもなんだかんだでやっぱりこのエンドが一番好きなんですよ!
一周目でここに辿りついたという愛着もあるとは思うんですが。
まずはオルガとツララの関係について。
性愛ではなく恋愛と家族愛の中間みたいなところに結論が落ち着いたところが好きでした。
正直ですね、プレイ初めは私オルガに若干引いてたんですよ。ぐいぐい押してきて無知なツララをしれっと手籠めにするタイプのヤンデレに見えたので……。でも、最終的にこのエンドで提示された結論は、ツララの危うさみたいなのが軽減されるもので、なんだか勝手ながら安心してしまいました。
あと嬉しいのが、オルガってツララの言うことは本当によく聞く男なんですよね。どのエンドでもあの子のこと見逃すもん。例えばBAD3は、あそこでさくっと殺して怯えたツララが人間に戻る、みたいな展開のほうがストーリーとしてはやりやすいはずで。それでもそうしなかったオルガは本当にツララのことが大事で大好きなんだなあとしみじみします。
続いてこのエンドの四人の行く末について。
こういう、「選ばれた人しかたどり着けない楽園」みたいな概念が大好きなんです!!
本作の4人は悲惨な境遇も暗い過去も全部まるっと受け入れたうえでカラッと笑ってる印象が強いんです。ほのぼのと鬱の落差、というのを私が強調してきたのも、ここを主張したいからで……。
だからこのエンドは、余計なしがらみや不要なものをすっぱり切って、本当に彼ら四人が四人だけで楽しそうに笑ってくれているところが好きでした。
この先いくらでも続けようと思えば続けられそうですが、個人的にはここで終わって欲しい気持ちがあります。私(=人間)の手の届かないところへ彼らは行ってしまったんだ、という切なさと喜びを味わいたいので……。
と、語りたいところはだいたいこんな感じ!
プレイしやすく、刺さる部分はしっかり刺さる良作でした。