うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「記憶の檻」感想

「檻を解き放て、獣よ闊歩せよ、そして」

何もかも荒らされてしまえば取り返しは付かなくなる前置き。

 

 

えー、今回は月読みの里さんところのフリーゲーム記憶の檻」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

 

エンド分岐無し、一本道の探索ゲー。

プレイ後の感想は、一言で言えば「凄まじい」。是非ともネタバレ無しでこの世界に放り込まれて欲しい作品です。

まあそれでは本記事の意味がないわけで、さっそく語っていこうと思います。

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

思索と認知を揺らがす一作

 

本作の主人公は一人とは限りません。

本作の主人公はあなたとは限りません。

しかし本作の主人公はあなたです。

こういうちょっと意味深なことをにやにやしながら投げかけたくなるくらいには、ギミックに富んだ作品です。

 

ですが謎解きや追いかけっこはなく、探索もシンプルにわかりやすいものとなっています。ご安心。こう、「ゲームしてる」というプレイの実感をしっかり握らせてくれつつも難易度は易しいのって本当ありがたいし上手いなあと思いますね……。

 

 

 

四つのゲーム性と一つのテーマ

 

さて、あらすじとしては、数人の操作キャラを通じてそれぞれの“記憶”を覗き込んでいくお話です。

なぜ檻の中にいるのか、その答えを彼らは持っていません。……まだ。まっさらなプレイヤーと操作キャラを同調させるこのスタイルがすごく好きでした。思いもよらぬ形で答えが提示されていく衝撃も気持ち良かったです。

 

特徴的なのは、ゲームシステムがガラッと変わるところ。

初めは、まるで全く別のゲームが組み合わさったような作品だなあと感じていたんですよ。ですが、共通するマップやあたたかみのあるグラフィックには統一感があって……ちぐはぐなようで一つの作品だなと…………思っていたところであのオチです。震えました。本当に怖かった。大好きですああいうの。

少しずつゲーム内でできることが増え、情報が増え、しかしマップは依然として閉塞的なまま。ここも巧みでした。

バラバラに見えるものが特定の何かに収束される、みたいな、すっきり回収される満足感を味わいたい方には強く勧めたい気持ちです。満足とは、少し異なる形になるかもですが。

 

 

 

文字とアイコンで誘導する手法

 

プレイヤーの誘導の仕方がとてもスマート。ここも主張したい魅力です。

操作キャラが切り替わるごとに別のプレイ感になる、と前述したとおり、プレイヤーは情報が一切ない状態で何度も放り出されます。しかし、プレイ感はかなりスムーズでした。

 

まず、移動範囲が狭いので取れる行動が限定されていること。

次に、謎の影や動くものなど、プレイヤーが能動的に動かなければいけない場面では何か異質なものが必ず紛れ込んでいること。なんだあれ、行ってみよう。この流れを完璧に押さえているように思います。

最後に、アイコンや数字での誘導。特に初めに操作することになるセダリは、ドットがさりげなく変わるので、今どういう状態だから詰まっているのかが伝わりやすかったです。

 

文であっちへ行けと命令するだけではなく、自然とつかみ取るような動きをする場面も含まれているため、プレイヤー私が「ゲームをしている」実感を持てたのかなと思われます。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

起動画面からして「おっ」と思える作品だと思うので、公式サイトのスクショにピンときたらとりあえず触れてみるのが一番かと。

 

追記ではネタバレ感想。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

フリーゲーム「廃屋にて」感想

フリーゲーム「虚構世界」感想

 

 

 

 

 

ネタバレ注意。

既プレイ前提の内容となっています。

 

 

 

 

 

本作の“メタ”について

 

いやーーーもう記事の表(追記じゃない部分)で「メタゲー」って言おうか言うまいか滅茶苦茶悩んだ!!!!! 悩みました!!!

なんというか、本作ってプレイヤーにダイレクトアタックを仕掛けてくる作品じゃないですか。でも、ゲーム中では一切、もうびっくりするくらいに徹底して「プレイヤー」を意識させないんですよね。プレイヤーの存在は何一つ追及されない、高次元的で当然認知されていない、のにこっちの認知を狂わせてくる。こんな恐ろしいゲームあります? 大好きですよそりゃもう!

 

心底「上手い」という印象です。凄まじかった。凄まじかった……。

 

 

 

お話総括

 

考察や解釈はいらないくらいにしっかりとテーマが明示されている作品だとは思うのですが、あまりにゲームの構成として美しいので、そのまとめがてらなぞっていきますね。

これゲーム内容をただ羅列してしまっているだけなので、本当にプレイしたほうが絶対実感できるので、未プレイの方心から注意してください。

 

 

 

 

【セダリ】

ゲームとしては終盤まで「無口主人公」のテイを取っています。で、RPGや探索ゲーで主人公が喋らないのはあるあるなので、プレイヤーも特に疑問を持たず進んでいくかと思います。

そしてプレイを進めると、じわじわと「文字が認識できないわけではない」「思考はできる」など、彼女がただの「操作キャラクター」ではなく「一個人」であることが示唆されます。

最後にオチとして、彼女のパートでほぼ誰かの台詞が存在しなかったのは、「無口主人公」だからではなく、「彼女自身が人の言葉で心をすり減らしてしまっていたから」ということが明かされます。

 

いやこの視点の変換ほんとう凄いと思うんですよ……。ただのお約束、ゲームシステムの都合だと思っていたことに、きちんとストーリー上の理由がつけられるんです。本当震える……。

 

 

 

【アルマ―ジュ】

 

まず、セダリと比べて「台詞」「バトル」が増えました。ゲームとしてステージが一段階広がります。

わかりやすいほどに彼は「勇者」です。「勇者魔王もの」のお約束展開も披露してくれます。四天王のくだりで、あれっ世界観が違うぞ、と戸惑ったプレイヤーもいるかと思います。私です。でもこの違和感こそが上手いんですよ。このゲームでは、「現実」と「妄想」が並列して進みうる……視点を切り替えれば別の世界になってしまうという多重構造が起こり得ることをすでにこの段階で示唆されます。

 

そしてここもオチが上手い。ゲーム中オートでバトルが進行する、「殴る手が止められない」状況は、「虐待」とぴったり符合します。もうここまでえげつないことがあるのかと小一時間唸りたい。唸った。震えるほどに見事でした。

やはりこれも、システムとストーリーが合致する良例です。

 

 

 

【ドーラル】

 

彼女についてはちょっと深め切れていないことを先にお詫び申し上げつつ書きます。

まず、「外部からの接触」が増えました。比喩か幻覚かよくわからない空間は相変わらずやってきますが、異空間にあっても対話が成り立ちます。

ここ、後から考えるとほんっとうに不気味なんですよ! 夢と現実の境が曖昧というか、わざと地続きで繋げようとしてきてますよね。せっかく(?)ドーラルが記憶障害で断続的になっているのに、あえて「繋ぐ」ことを意識させているように思います。この構造が、次の操作キャラのことを考えるにつけ本当に怖い。

繰り返すことで強化されていく、いやでも人の脳に刷り込まれていくような演出もすごかったです。さらにはイレネオという固有名詞を出すことで、今まで操作キャラにだけ注目してきたプレイヤーの意識を外へ向けようとしてくるのも巧みです。

 

 

 

【イレネオ】

 

そしてここで全てが昇華されます。

まず増えたのが「人に話しかける」「マップが広がる」こと。操作キャラの入れ替え自体はよくあることだと思うんですが、最後までプレイヤーができる範囲を増やしていって、ゲームのレベルデザインまで気にかけている作品は稀有で貴重です。マジで。

 

さて、内容としてはイレネオ(仮名)をずっと凝視して目で追う研修医(イレネオ)がすごく印象的だったんですよ。案の定でした。しかもこれよく考えるとイレネオとイレネオがダブることで自他の境界がさらに曖昧になっていきますね。地獄かな。

外にいるはずのイレネオ(仮名)が実は檻の中にいた、医者が患者で患者が医者だった、現実だと思っていたら夢だった、夢だと思っていたら現実だった、そんな反転構造がいくつも埋め込まれているのが特徴的です。

 

おそらく設定上は、イレネオ(仮名)はセダリ・アルマージュ・ドーラルと家族だったのだと思われますが……。ここまで来てしまえばもう、その設定の整合性やどこからどこまでが真実かという部分はもはや葉末なんですよね、きっと。

舌を巻いたのがドーラルの時系列の謎を初めに提示してくるところ。ドーラルの話はちょっとおかしいよね、というこの謎すら、もはやささやかなことに思えてしまうくらいの「おかしさ」「時系列の狂い」がイレネオ(仮名)には起こっているわけです。すごくシニカルな構図でぞくぞくしました。

どこからどこまでが? という疑問を抱かせたうえで、その疑問がそのままプレイヤーに襲い掛かってくる、この構造が本当に私は好きです。

 

 

 

【Login】

 

最後に見えざる5人目が登場します。

今までプレイヤーには見えていたものの、操作キャラ四人には決して本当の姿が見えていなかった人、それがイレネオです。ここでプレイヤーを完全にぶっ壊しにかかってくるところが本当に好きです。好きです。最高です。

唯一「まとも」だと思い込んでいたその前提すらも覆されてしまったら、もはやこの作品において信頼できる人、信頼できる情報は存在しません。それでもなんとなく整合性が取れているように見えるから、筋書きがきちんと通るから、それが「正しい」のだと思い込んでしまいます。

この認知の罠に気付かせてくれるのがイレネオの情報になります。

 

 

 

 

けっこうホラゲとか解釈考察雰囲気ゲーで、「結局どういう話だったの?」って聞く方いらっしゃるじゃないですか。あれってあらすじの要約を求めてるんだと思うんですね。

でも、本作に限ってはそれが絶対できないゲームだなと思います。作品内部の全てに疑念を呈して終わるので。

 

いやマジで書いてて怖くなってきた本当にすごいこのゲームは凄い。

 

 

 

 

ある意味下手なホラーより怖いというか、狂気より狂気というか、よくこんな深みまでたどり着かせてくれたなあと思います。作品全体を通して、冷静に命題が提示されているところが本当心底怖い。最高でした

 

 

 

 

書きたかった内容としてはこんな感じ。

この長い感想を一言に要約するなら、この手のタイプの作品私大好きです。