「どうあがいたところで君は君だ」
それを絶望と取るかは別だがな前置き。
えー、今回はローゼンクロイツさんところのフリーゲーム「ダージュの調律」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
VIPRPG。使用されているのはモナーキャラですが、モナーや2chネタを知らなくても楽しめる完全なオリジナルストーリーです。
何も持っていない人間はどうやって人生を歩めばよいか、みたいな話。
というわけで、良かった点など。
無才能者が前を向くための話
才能あふれる弟が傍にいるのも相まって、主人公のダージュはとにかく卑屈です。
興味深いのが、周りのモブが徹底的に悪ではないところ。ダージュの失敗や無才能っぷりを煽るような人も確かにいますが、中にはダージュに優しくしてくれる人、失敗した時にぎこちなく励ましてくれる人もいます。ダージュは決して、作中の皆から見放され虐められているわけではありません。
さらには、それをダージュ自身も理解しているような語り口が見られます。弟とのいさかいも誤解だったと後から気づけるくらいには冷静です。ただ、頭で分かっていても追いつかない、それらを受け入れる心の隙間がないんだなと感じられるような構成でした。
おかげで、独白部分を読んでいてもストレスがまったくないんですよね。プレイヤーと主人公の情報格差は減らしたうえで、それでもどうにもならないという心の葛藤に焦点を当ててくれる。ここがすごく読みやすく、ある意味潔い話でした。
これが自己憐憫だけの話であったら、たぶん私は合わなかったんですよ。セインツが徹底的に悪役になってる、みたいな。
でも本作はそうじゃない。主人公を痛めつけるだけのお話でもなければ、弱くていいんだと見当違いな慰めをする話でもなく、本当に「前を向く」ための話だと思っています。
システムは斬新に、難易度は優し目に
ゲーム的な部分にも触れておくと、全体的にバトルの難易度は優しめです。ただし、本作はレベリングではなく探索等のアイテム収集で強化していく感じなので、探索嫌いな方にとってはそこそこの難易度に感じられるかもしれません。
それでもドーピングアイテムがお金で買えるので、やろうと思えば脳筋プレイもできます。この辺、幅広いプレイヤー層を想定している感じがしますね~。
あとはステータスの振り直しアリなのがすっごい嬉しかったです! ステータスもスキルも入れ替えて、極振りというよりはそのダンジョンごとに適した形に主人公を整えてあげる感じ。戦闘後HP全快だったりEP回復アイテムがいくらでも使えたりするところも、システムが独特なぶん、バトル苦手な方でも戦えるような余地が感じられました。
遊び心のあるマップと親切な誘導
ダンジョンにはちょっとした仕掛けが用意されています。この仕掛けの説明がまた親切でして。
まず、ダンジョン入ってすぐにギミックの説明をするためのマップが用意されています。長ったらしいチュートリアルではなく、道中にひょいと置いてあって、プレイヤーが動かすだけで仕掛けがわかる感じ。そして次のマップから雑魚敵がうろつく本格的な探索がスタートします。このお手本があるのとないのとではプレイのしやすさが段違い!
説明に関しても塩梅が丁寧です。宝箱や即死に関わる仕掛けはド直球に。隠しボスの攻略方法や物語のバックグラウンドに関しては軽くぼかして、プレイヤーが気づく楽しみを残しつつ。全体的に、面白さとプレイしやすさが共存しています。
チャプター選択で取得漏れもばっちり
アイテムやレベルを引き継いだままで探索のし直しができるので、取り逃がしに怯えずに済みます。もう、本当に親切!
コンプ要素があるからにはユーザビリティも高めておきますと言わんばかりの仕様でした。お目当てを見つけたらchapter選択画面へささっと戻れるのも楽です。
嬉しいのは、ストーリー部分もきちんと見直せること。見たいシーンのためにセーブデータを取っておく、みたいな面倒なことをせずに済むんです。私はストーリーのためにクリア済みゲームを起動し直すことも多いので、このシステムすごく助かりました……! 全RPGに搭載して欲しいくらいだ。過言ですが。
幻想にもグロにも振り切れたグラフィック
メニュー画面のスクショを見た瞬間にピンときてDLを決めた人間です。あの本のつくりと繊細なフレームよ! コンプ状況など見たいものは全て閲覧できて、有用性としても高いメニュー画面でした。
見つかるギフトにも小さなデフォルメイラストがついて、色々探すモチベになります。付いてる一言コメントがまたシンプルに響いて好きなんだよなあ。
あとは敵グラも特徴的。特にボスはかなりえぐくて、ドットとはいえ臓物的なものも見え隠れし、戦闘画面はドアップで迫力があります。でもこのえぐみこそが私は大好きです。きちんと恐怖が恐怖として成しているので。
一方でマップは幻想的なところも多め。揺れる花、遠景の美しさ、ちょっと風変わりな夢の世界、セピア色の硬派な塔、などなど。Chapter開始時のタイトル表示も含めて、世界観が強くて大好きです。
何よりダージュのキャラチップ。彼は心の中で色々考えつつも発言はかなり少ないんですが、それでも表情や動作が細やかに動くので、色々と感じ取りやすくできています。そしてこの表現がそのまま、「お貴族育ちで快不快を隠すことのできない、良い意味でも悪い意味でも素直なお坊ちゃん」の表現に繋がってるんですよねえ。
色んな人が言うんですよ、顔に出てるぞって。その説得力になるだけの描写が見て取れるあたり、無口主人公であっても無個性ではない、かけがえのないダージュらしさを感じました。
とまあ、こんな感じで。
収集要素多めのRPGが好きな方や、暗いながらもしっかりを前を向いて終わるストーリーにぐっとくる方にオススメです。
追記ではネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
自分用の考察とも呼べない解釈、好きなところなど。
引用と本作のエンドについて
DLページの一部をここで引用してしまうんですが、
「人々は、悪徳ながらも活気に満ちていました。
世界は、醜悪ながらも希望に満ちていました。
ただ、ダージュだけが カタツムリのように
小さく縮こまっていました。」
これが本当に本作の全てだなあと思います。
縮こまっている人にもっと周りをみろって押し付けたら、怖がってもっと奥に引っ込んじゃうじゃないですか。その問題を上手いことクリアしたうえで、あの前向きなエンドに辿り着けていたのが、本当に感服でした。
途中の帽子の子供たちの語りもいいんだよなあ……。
Chapter6だったかな、フィールドマップを自由行動できるchapterがあるかと思うんですが。あれ、一度行ったことのある場所でも巡り直してみると台詞が全部変わってて驚かされました。大好きだー……。
あの語りがあることで、しんみりとダージュの変化やもがきを肯定できる気がするんですよね。夢の世界もそう。内的葛藤と向き合う時間を、ああいった形で表現していたのが、すごく良かったです。
桃色シィコ
初めこの物語がどこに関係するのかわかってなくておろおろしてたんですよ。あとになって分かった気がします、あれ凍える指先の夢のボスキャラの背景事情ですよね? 合ってるかな……だと思うんだけど……。
ずっと「はにゃん☆」だったシィコの本当の叫びが、あのボス戦で言う「イタイイタイ」だったんだとしたら、えげつなくて好きです。
あの本がどうしてダージュの物語に組み込まれているのか考えていたんですが、うーん、まだ掴み切れていません。別作品で何か関連あったっけかな……。
オラクル
すごいなと思うのが、彼の存在です。
ただうさんくさい人間で終わらないところが好きなんですよ。
言ってしまえばああいうトリックスターって、不気味ながらもストーリーを進行させるためだけに登場して終わりがちじゃないですか。でもオラクルはそうじゃない。背景事情があって、一度きちんとした人間味が壊れたえげつなさをしっかりと描写して、そのうえで彼なりの「折れた後どう前を向くか」を描いてくれている。あれすごく救いに感じられて、好きです。
本当の幸せとは、のくだりがほんっとうに好きです。
これはたぶん彼にとっての切実な願いで、そうであってくれないと自分はこの先どうすればいいんだという絶望のうえになりたっている幸福論だと思うんですが、だからこそ私みたいな後ろ向き人間でも強く同意をしたくなる主張でした。
落伍者とは
本作で登場するネームドキャラは全体的に、失敗を知っている人が多めなんですよね。オラクルが代表的、レクイムも日の当たる人間から見ればそう。セインツも、本当に良い人ではあるし絶対に成功者なんだけど、もっとフィクション的に完璧超人とするなら、極論兄と分かり合うところまで済ませれるはずで……。
別にダージュだけがダメ人間なわけじゃないんですよね。ただ当たり前のようにみんなが、何かに挫折したり上手く行かなかったりしているはずなんですよ。ただ、その人の物語であるから他人には見えないだけで。
だから、折り合いをつけることが人生だと自分は思っていて……。
でもその折り合いは「諦め」じゃないんだぞ!って熱く語りかけてくるのが本作だったように思います。
なんだろうなあ、足りないことを許されてるお話だなあって思うんです。なので、前向きなのに押しつけを感じない、居心地の良いお話でした。