「一ミリずれただけで完成品は歪み切る」
恨み辛みは即解消しような前置き。
えー、今回は8piece(http://charon108.web.fc2.com/)さんところのフリーゲーム「残懐」(http://charon108.web.fc2.com/zannkai.html)の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
事件の動機を聞きだすゲーということでジャンルはサスペンス……と見せかけて実は現代ファンタジーなノベルゲームです。考えさせられるようなものが好きな方向け。
というわけで特徴などつらつらと。
正義と罪は誰が決めるのか? 重くのしかかるテーマ
ざっくり書くと、“恨み”“人の悪意”みたいなのがお話の中心に据えられています。といっても胸糞悪いタイプの鬱展開ではなく、どちらかといえばやるせない感じ。
サスペンスとして考えてしまうと先の読める展開になってしまいますが、現代ファンタジー、あるいは独白やキャラの葛藤を楽しむ話だと考えればかなり思わされるところのある一作でした。
ごく稀に選んでいない選択肢の話が前提になることもあり、ちょこっと噛み合わない感じはあったかも。そのぶん、エンドに直結する選択肢がわかりやすいので、コンプはしやすく難易度優しい仕様になっています。
最後の選択肢にはかなり悩まされました……。すっきりとした解が無いのもこういったシリアスものの醍醐味ですね。
時折交わされる明るいギャグ
さて、公式サイト等々を見ててっきり徹頭徹尾シリアスなのかと思いきや、けっこうゆるーい雰囲気の展開もいくつかありました。たまーに天然ボケを繰り出す類や、明るい調子で冗談を言う志郎に肩の力を抜いてもらえることもしばしば。名前のくだりは笑いましたw
ただ、せっかくのシリアスシーンで不意にネタが出てきたりして、(志郎の混乱っぷりの描写なのかもしれませんが)せっかくの緊張感がかくーっと無くなってしまう時も。こればかりは一長一短ですね。
“対面”を意識できるスチル
取り調べや聞き込みなどの場面に合わせて、立ち絵が対面式の一枚絵と切り替わります。視覚的にも語りを聞いている感じが出て好きでした。あと単純に、正面顔というか、黙って真剣な目つきでこっち見てる感じのイラスト大好きなんですよねぇ。そういう意味でも嬉しかったです。
また、メッセージウィンドウも場面によって細かく切り替わり、台詞部分と独白部分の違いを強く意識できる構図でした。
こういうところからも、やっぱりキャラの“語り”が中心の作品だなあと思います。
とまあ、こんな感じで。
追記にはプレイして考えたことなどちょこっと置いとくので、ご興味ある方は続きからどうぞ。
ネタバレ注意!!
テーマは読み手にゆだねるとのことだったので、喜んで色々考えてみました。
根幹にあるのは偽悪と偽善かなーと思っています。かっこつけとして使われがちなこの言葉ですが、この作品においてはしっかり体現されていたなあと感じました。
助けなきゃ守らなきゃって言う志郎は結局誰も救えていないし、地獄行きだ罪だと言う類は根っから殺しや報復を楽しんでいるわけでもないし。見ようによっては中途半端に映るんですが、少なくともこの作品においてはこの振り切れなさこそがぴったりだと思いました。
どのエンドにおいても、類の生き方はどの程度肯定されるものなのかなあとか、志郎はもっとやりようがあったんじゃないかなあとか、考えさせられるところがたくさんあります。で、そういったもやもや感を抱いてタイトルを見直すと、もうすごくしっくりくるんですよね。
「残る」「懐かしむ」ってどちらも余韻に関係する言葉だと思います。この作品をプレイし終わった時の感覚がまさにこの通りでした。
どうしても個人的には、志郎の動きにやきもきさせられるところもあったのですが……それでも全体を通してみると、やはり彼はああいう偽善ポジションでなければならなかったよなあと思わされます。
人間そう簡単に悪や正義に染まりきることはできない。“創作”として見るともどかしくもありますが、“リアルさ”という点ではすごくそれらしくできている作品だなあと感じました。
エンド名にもありましたが、光と闇のちょうど合間、まだらな印象です。そしてそこが一番のテーマであり魅力でもあったと思います。