「不平不満を私のような矮小な人間が申し述べるなど到底到底」
言いつつ中指立てる前置き。
えー、今回はnununuさんところのフリーゲーム「iroiro.」の感想を書きますね。一部レビューっぽいかも。
ツクール製の短編ホラーちっくなノベル寄りのADV。鬱展開。幽霊やびっくり系の怖さではなく、人の心の闇を開けてみたような系統の怖さです。クリアまで30分もかからないので、気になったら是非。
というわけで、さっそく魅力的な点など。
かわいいドットと色づく表現
部屋にぽつんと置かれたぬいぐるみ、一色の少女達、シーンごとのテーマが決まった背景などなど。グラフィックはどれも可愛く、またタイトルにもなっているように“色”の使い方が絶妙です。
説明無しで放り込まれるこの世界ですが、やることは「はなしをきく」ことだけ。進むうちになんとなくこの作品のルールがわかってきたところで、それを見透かすかのようにドンと突き落とされる。見てわからせる力の強いゲームでした。
独特の台詞回しと言語センス
と、上では書きつつ、テキスト面のセンスも抜群です。この言い回しはこの作者様しかできないだろうと思わされるパワーがあります。
一見して電波に見えそうな台詞も、読み進めていくうちにピンと思い当たるものがあったり。精神的に不安定な夜中に考えることって案外誰しも同じなんですよね。ネジが外れたかのような陽気さで語られるのがまたうすら寒いものを感じさせてくれます。ぞくぞく。とってもツボでした。
明確なストーリーはありませんが、考察要素はちりばめられているので想像が膨らみます。何よりぐさりと心を刺してくる台詞の一つ一つが強烈なので、テキスト重視の方も是非やってみてほしいところです。
ツクールの機能を全振りした演出力
テキストやドット絵は勿論のことながら、他の細かい点でもさりげなく演出が凝っています。例えば操作キャラの歩行速度や文字表示の仕方、訴えかけてくる背景画像など。
映像でわかりやすく脅してくるホラーはよくみかけるけれど、こうやってあらゆるシステムを駆使して演出してくるこの丁寧さは滅多に見られないかと。それでいてシンプルにまとまっているのもまた、短編らしいやり口で素敵です。
一本道だけど何度もプレイしたくなるのはひとえにこの演出力のおかげだなー、なんて。
とまあ、こんな感じで。
ちょっと躁鬱な気分の時、やらかした過去を思い出したせいで頭を壁に打ち付けて死にたくなるような気分の時にやりたくなる良作でした!
追記では考察もどきやネタバレ込みの感想など。
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ネタバレ注意。
短い作品なので、まずは実プレイしてみるのを強く推奨します。
考察だなんて書き方をしてしまいましたが、あんまり深いことは考えてません。一つの解釈としてゆるく見てもらえれば。
この作品の少女達、多重人格とかって考え方もできそうですが、作品のシンプルさに合わせて単純に考えたら良いような気もします。
あの色の違いはあくまで気分の違いで、その時々によって喜怒哀楽入れ換わって当然だよねみたいな。精神的に不安定な時よくやる妄想やよく起こる落ち着かなさが少女の形を取っているというか。病んでる時のあるあるネタというか。
なのであまり追及はせず、それぞれの色の子について思ったことだけつらつらと。蛇足極まりないところも多いので、余韻を大事にしたい方はご注意を。
茶色
答えは決まってるんだけど誰かに対してどうしようどうしようって言いながらって悩むフリするの気持ち良いよね、というお話かなと。パニックの演技って気持ち良いし、そのうち本気で不安になってくるし、だんだんとわけわからなくなってきますよね。彼女が色違いの服を持って「どっちがいいかな?」って言ってくるのに近いものを感じます。
漠然とした不安感って壊すこともできないから困ったものです。
青色
彼女の話に出てきた女の子はあの「ありがとう」を馬鹿男に言ったんだろうなと思うし、それが全てなのだろうなと思います。迫りくるくじらにぞくぞくしました。たくさんの色話の中で一番好きな話かも。
緑色
つっかえつっかえだった台詞が、最後だけ流暢になるのが印象的でした。ようやく自信を持てた。
「ビョーキだと認めてもらえれば、大義名分も言質も取れたので、もうどれだけおかしくなろうと許されるのです。ビョーキだもん仕方ないもん、変なこと言ったって仕方ないもん、やったね!」
って感じの話かなあと思ってます。
黄色
周りに合わせて頷いてたら、自分の意見や言葉がなくなっちゃった、みたいな。
この手のモチーフってよく見ますが、「空気を読む」ことがコミュニケーションに必要な以上避けては通れませんよね。虚しや。
赤色
ふりーむさんところのスクショにもあるので原文ママ書いてしまいますが。
「世の中に不満を言う口実を 失ってしまったにゃー!」
この一文の破壊力強すぎるでしょう。センスに惚れます。お決まりの流れを作っておいて、あえてこのタイミングで外してくるのも上手かったです。草に鳥肌がたちました。
誰にも愛されない可愛そうな私であれば世界を恨んだって情状酌量の余地がある気もしたのに。
追いつめられてどうしようもなくなってくると何故か笑えてきますよね。そんな感じな気がします。
無色
そりゃあもう、こうするしかない。
しんどい時って自分との対話をしがちで、その中でうまいこと言い訳作ったり外部に敵を作ったり消化したりしてなんとか精神の安定を保とうとするものだと思うんですが、もう赤色気分な自分に突き放されてしまったので、なるべくしてなったという感じです。
あらすじをまとめただけみたいになってしまった。とりあえず自分はこう解釈しましたし、共感できるところも観察できるところもあって、色々と心を引っ掻かれる気持ち良さがありました。
いやー、本当、めちゃくちゃツボです。さくっとプレイできて鮮烈に残るゲームでした!