「優しく楽しくみんなは幸せに暮らしました」
どうして心はこう複雑にできてしまっているんだろうな前置き。
えー、今回はいさら座さんところのフリーゲーム「架谷野家の薔薇薔薇」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
分岐ありのノベルゲーム。乙女ゲームらしい公式ではありますが、糖度は恋愛よりは人間ドラマというイメージです。人外いるけど。
ほんのりとネタバレしているところもあるので、察しの良い方は注意。
十字架とレースと薔薇と血液に彩られた画面
この作品、パっと目につくのはやはり美麗な立ち絵とスチルでしょう。
ハロウィンのお題にふさわしい、洋風でおしゃれなキャラデザの立ち絵がいっぱい。スチルにおいては、絶望的なシーンであればあるほどシンプルかつ心を穿つ構図のものが多いです。ダークルルの不穏なスチル2種に悲鳴をあげてしまったほどに好きです……。
特に私は十里亜の立ち絵が大好きなんです! 白ロリ(?)と言うのか、真っ白レースで構成されたまさに“愛すべき”見た目。甘えたいし甘やかしたい! 無邪気な笑顔も、笑っていない瞳も大好きです。
バニラ・ボニカの衣装も素敵ですよね。星と喪服めいたドレスとかわいいお帽子。コスプレ等で立体化しても映えそうだなー、なんて。
読めない共通理解が明かされる衝撃
さて、ストーリーのほうはどうかというと、かなり人を選ぶ類かと思います。
流血・ヤンデレ・お薬・狂気、などなどのダークな点についてはむしろ大歓迎なので良いとして。
物語構成がかなり独特です。初めのうちは謎に包まれた部分が多く、視点主のヒロインもお話の全貌を知っている前提で動いていくので、感情移入が難しいところも多いです。ルートや辿り着く順番によっては急展開に思えるところも。少なくとも私はエンド1つを見ただけでは頭に?マークが浮かびっぱなしでした。
けれども、本当の始まりはむしろエンド後! 全クリをしてからこそがこの作品の神髄だと思います。
序盤のコミカルさがうすら寒く思えるようなエンドが多く、またそれらを乗り越えるとただただ切なさが残る……これぞ鬱展開です。大好きです。
そんなわけで、謎やモヤモヤ、キャラ同士の暗号めいた会話を伏線として楽しめる方向けです。一方、明確な回答がないと気になって集中できないタイプの人は合わないかも。そういう意味で、人を選ぶ作品であることは確かです。
縋りつくほど心苦しい家族愛
そしてこの作品、恋愛というタグをつけようかどうかかなり迷いました。乙女ゲーらしい体裁で作られてはいるノベルゲームなのですが、個人的にはルートに関係するあの二人を“攻略対象”と言うのは語弊がある気もして、悩ましいところなんです。公式ではそう書かれているけれども。
なら何かというと、家族愛。この物語は痛々しいくらいの家族愛が根幹にあります。なので、あのルート分岐も攻略対象によるというよりは“外の人”“中の人”くらいな違いなんだろうなあと勝手に思っています。
まあダークルルやアガタお兄ちゃんはガッツリ攻略したいくらいの萌えを感じるんですけどね!!
軌道修正。
お話の全貌が見えてから、各エンドや冒頭を見直すと、たまらなくぞくぞくします。お話の巧妙さ、裏の暗さ。そして泣きたくなるような悲壮さがたまりません。
とまあ、こんな感じで。
世界観としては、吸血鬼・ハロウィン・現代日本とアメリカ・共同幻想など。ストーリーとしては、自分で色々と考えたり、予想をしたりしながら読み解くのが好きな方。不穏な展開ににやにやとしてしまう方にオススメです。
追記では、ネタバレ込々の感想など。
伏字なくネタバレです。
ネタバレするともったいない作品だと思うので、既プレイの方のみどうぞ。
【ストーリー・エンド・演出】
エンドは、2→ゲームオーバー→1→3→4→5の順番で回収しました。
公式の攻略チャートには大変お世話になりました。ゲームオーバーってレアだったんですね。一個選択肢を外したら辿り着いてしまったので、攻略見てびっくりしました。順番が逆だったら十里亜ママが怖く見えていたのかもしれないんですが、初めにたどり着いたのがあれだったので怖さ漂うママもどことなくやるせないというか、虚しく見えてしまいたまらなくツボだったり。物語の理解としてもこの順番で良かったなーと思います。
あと、もうタイトルがずるいと思いませんか。ずるいですよ。真エンドを迎えた後、一息ついて改めてフォルダ見て、タイトルの意味するところを察して号泣しましたからね。えげつない……好き……。
演出面では二点、「ルルとの平穏な日常」と「十里亜と空き缶」にやられました。キラキラふわふわした夢に浸らせてくれる、と思わせてからスチルで現実を見せつけてくるところが本当に巧みです。下手に語られるより心臓を掴まれます。苦しいやらつらいやら怖いやら愛おしいやらどうしようもないやらで気持ちがぐちゃぐちゃになりました。これだから鬱展開はやめられないんだ!
起動画面が変わっていくのもいいですよね。サーカスや劇の終わりを感じさせる、あの雰囲気が大好きです。
【キャラクター】
ダークルル
こういう忠犬と称されがちな狂信者キャラ大好きなんですよ。大好きなんですよ!!
彼もね、マリアだけをというよりはあの架谷野家を守りたかったんだと思うんですよね……思うんだよ……うぅ……。つらい……。公式のキャラクター紹介を改めて見直すとなおさら突き刺さります、19歳……。
あと、アガタ達がルルを共犯者に仕立てる手口は賢いなあと唸らされました。酸いも甘いも一緒でなければ運命共同体とは呼び難い。
あと、架谷野家に真っ向から向き合ったのもルルなわけで、やり方はどうあれ惚れた男の潔さを感じさせてくれます。
ジャルダン公の救い方は一番角が立たなくてスマートで大人な助け方だと思うんですけど、それって結局、架谷野家の問題からもこの先の未来からも逃げ出しているという意地悪な捉え方もできるわけじゃないですか。いや、ジャルダン公の逃げ方はアガタや十里亜と違って前向きな逃げ方だからすごく喜ばしいんですけれども。なんというか、ルルの「八方ふさがりで魔法みたいなパワーも持たない男の必死な助け方」みたいなところがすごく胸を打つんですよ。持たざる者でも女は救えるんですよ。形はともあれ。惚れるんですよ。結婚しようよ。
きっとあの平穏なエンドでも、マリアは薄々裏の灰暗さに気付いていると思うんですよね。でも見ないふりは慣れているんですよね、二人とも。因果を感じてぞくぞくします。
アガタ
お薬フィーバーした時の溢れ出るような躁台詞が素晴らしいと思います。
人間だれしも躁鬱っぽくなる時はあると思うんですが、そういう時のテンションをより深くより酷くした感じが見事でした。こういうのありますよね、思考がすべて口に流れ出て耳から聞こえる声でさらにヒートアップしておかしくなっていくようなの。リアルさに鳥肌です。思わず「お兄ちゃんに優しくハイテンションに狂気恫喝されるゲー」とツイッターで口走ってしまいました。
やっぱり、アガタはもうどうにもなくなった時点で十里亜を叱ってやるべきだったんだと思うし、家長をするというのならそこまでできないと駄目だったんだと思うんです。でもそういった汚れ役を彼だけに押し付けるのはとても酷だし当人じゃないからそんなこと言えるんだろって気にもなります。責任感があって優しい人なんですよ、優しい人なんだ……つらい……。
逃げることを自分に許さなかったからこうなってしまって、逃げ出したけど遅すぎた人。という印象です。
霧秋
安全圏から物を言うのでアガタを煽るし、そこを自覚もしてるから苦しんでる、自己矛盾の塊みたいなキャラだなあと思います。ふんぎりがつけられない難しさ。
せめて霧秋かマリアが十里亜に強く言えたら、と思わずにはいられないのですが。それを求めるのは酷というのがやっぱりあって、うーんうーん。
こうやって書いてると真エンドの秀逸さがしみじみわかりますね。あの話で、霧秋やアガタの葛藤が痛いほど掘り下げられるので、どうあがいてもこう行き着くしかなかったなあっていう美しい鬱展開が作られているという。
子どもと大人の間、ハンターと一般人の間、夢を見られないけど現実とは向き合えない、すごくふらふらな立ち位置にいる気がします。
十里亜
一推しです。子どもの無邪気さ、残酷さが前面に出ていると思います。
母親に対する態度とかもそうで、リアルでも近親の死に対する無関心ってあると思うんですよ。遠くの病院に見舞いに行くのが面倒だとか、葬式なんて堅苦しいから遊んでたいとか。十里亜がことさら危ない子なんじゃなくて、案外そこらじゅうで見かけることなんじゃないかなー、なんて。でも、そこで狂いかけた歯車をパパはなんとかしてあげたほうがよかったと思いもしますし。
本当にね、誰かが十里亜の夢を覚ましてやるべきだったんだと思うんです。叱られない子どもほど辛いものはないです。
けど、パパの死を背中から押したのは彼女ともいえますし、現実を見ることが必ず良いことだと言い切る傲慢さは無いですし。うあーー!どうすればいいんだ!アガタは本当よくやったお兄ちゃんですよ……。
ずっと笑顔でいてほしいと思える、いい子なんです。庇護欲掻き立てられるかわいさがあるんです。好きなんです……。
パパだって結局悪人じゃないと思うんです。一人は寂しい。同じ家族という括りでも親ってやっぱり一つ上の位にいますしどうしても頼られるし孤独じゃないですか。無責任だけど悪くはないと思いたいです。
みんな十里亜のことが大好きで、架谷野家が大好き。
それが苦しくて辛くて頭痛くなるくらい伝わってきて、ひたすらに切ないお話でした。