「素敵な童話は通学路の曲がり角に」
ちゃっかり潜んでいると良い前置き。
えー、今回はノラさんところのフリーゲーム「キイチゴの在りか」「クイーンとオセロ」「ナイトパレード」「アリス以外いらない。」「猫を人魚に変える魔女」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
どれも同じ作者様の短編ノベルゲームなので記事としてはまとめましたが、相互に関係性はなく単品で楽しめます。
【キイチゴの在りか】
超短編ノベルゲーム。エンド2種類。
・濃密な世界観と10分ボリューム
童話的な導入から始まり、森の奥へ奥へと進むストーリー。ゲームの進展に合わせてこちらもどんどんあの淡々としつつも陰鬱な世界観に引きこまれていきました。
ミステリーな要素がありつつも、答えはぼかした状態で描かれるので、雰囲気を噛み締めつつ色々考えたい人向けかも。でも、出てくる要素全てが綺麗に噛み合っているので、複雑な考察等は必要ありません。ピンと来て、ほんのりと虚しさがこみ上げる綺麗な鬱展開でした。
・秀逸な比喩表現
初回はけっこう露骨なエログロにぎょっとさせられる人も多いんじゃないかなー、なんて。けど、真相がわかるほうのエンドを見てから改めてやり直してみると、“キイチゴ”に含まれる様々な意味合いに「おお」と思わされます。こういうの大好きです。あの行為のシーンよりもむしろ序盤のほうがよくよく考えるとめちゃくちゃ官能的でした。素敵。
・水彩めいたグラフィック
私はイラスト関係詳しくないのでどうしても筆力面に着目してしまうんですが、グラフィックも個性的で印象に残ります。あの語り口と、ダウナーな絵柄がぴったり合ってるんですよねぇ。
と、こんな感じで。生々しさと幻想観が同居する不思議な読み心地の一作でした。短いながらも印象に残ります。
【クイーンとオセロ】
超短編ノベルゲー。エンド複数。
・おすまし猫の物語
絵本風の語り口調で進む、猫の女の子が主役のお話です。擬人化ものと言えばいいのかなあ。切ない展開もありつつ、基本はゆるゆる進みます。
トゥルー以外はかなりあっさり終わるエンドばかりなのでちょこっと物足りなくもあり。でも、信頼がテーマだと思うと納得のいく選択肢群でもあります。
なによりトゥルーエンドが満足いく締め方だったので!
クイーンの可愛さがぐっときましたねぇ。やはり猫キャラはツンデレでなくては。彼女が奥に持っている不安が明らかにされたからこそ映えるツンデレでした。
猫好きな自分には嬉しい作品でした。特にあとがき。かわいい。
【ナイトパレード】
短編連作ノベルゲー。ほぼ一本道の3話分。
・上記2作とはがらりと雰囲気の異なる現代もの
どこにでもいそうな都会の街の若者たちのお話。バイト先のお客さんにあだ名をつける等、あるあるだなーと頷くことも多くあります。が、起こることは少しばかり非日常です。
この日常から非日常に気づけば巻き込まれている感じが面白かったですねぇ。現実でもありえるのでは? と錯覚してしまいそうな感じ。ないんですけどもね!
ネオン輝く薄闇と、ちょっと不気味な出来事。でもなんだかお祭り騒ぎでなあなあに流されてしまう不思議な雰囲気。
まさにパレードと聞いてイメージする世界そのものでした。
鬱展開もギャグ展開も織り交ぜて、あの短い中に一つの街ができあがっているなあと感じます。
魅力的な言い回しも健在で、特に1話の「~好きな男子」みたいなところにはグッときました。惚れてまうやろ!
とまあこんな感じで。
何よりもまず起動画面の一枚絵が大好きです。
【アリス以外いらない。】
掌編3つが詰めてある短編集ノベルゲー。まずこのタイトル、求心力があってよいです。
舞台は現代。ですが、タイトルにも匂わせてあるとおり、どことなく童話のような世界観があります。読後には虚しさが残るのも鬱展開らしいところ。悲惨さは少ないんですが、心が渇ききってしまうような心地がしました。
これだからダークメルヘンは好きなんです。
【猫を人魚に変える魔女】
動かすパートもあるけどだいたい見るゲー。RPGツクール。
・限られた素材を生かす演出力と筆力
そもそもこちらの作品、ツクールの初期素材のみで作ろうという企画に参加されているそうなのですが。血だまりの描写や黒背景の使い方、素材だけでここまで見せるものが作れるのかと驚かされました。
とにかく使い方が上手! 冒頭から引きこまれます。表現方法ってアイデア次第なんですねぇ。
バトルパートと動かすパートのメニュー画面だけはちょこっと惜しかったですが……RPGとしての機能を入れるとなると抜くことはできなかったのかなとも思ったり。
・ぞくりとする締めが魅力の鬱展開
プレイ時間は約15分くらい。
さくっとプレイでき、とんとん拍子で進められるからこそ、最後にガツンと殴られます。あまりの転がり落ちっぷりに、もう少し先まで見たくなってしまうほど。想像力掻き立てられる、良質かつブラックなオチでした。
また、余韻に惹かれてついもう一度プレイしたところ、冒頭から全てが繋がる気持ち良さに震えました。執事の白猫や野良犬の遠吠え、ストーリーという点で見れば何一つ無駄のない美しい構成をしていると思います。
これは『キイチゴの在りか』でも感じたことですね。この作者様の特徴というか売りというか。短編だからこそ輝く点な気がします。
・トラウマ持ちの陰気男
時に淫靡な物言いとダークメルヘン、荒れた家と曇り空、等々。世界観がもう好きです。そこに加えて陰鬱な男が来たとなればそりゃもう、グッときました。
アドベンチャーパート(?)を見るに、やっぱり彼はイケメンと見てよいのでしょうか。元々このRTPのグラ(恍惚なる闇)が好きというのもあって、ざくざく抉られました。素敵です。
とまあ、こんな感じで。
まとまりよく、心に引っ掻き傷を残してくれる良い鬱展開でした。
完成度としてはキイチゴ、世界観やイラストの雰囲気としてはナイトパレード、他の人にお勧めするなら猫魔女――な印象でした。どれも独特の雰囲気で楽しかったです。
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