「寝ても覚めても憎んで一生恨んでやる」
そうやって忘れないでいてくれる前置き。
えー、今回はアマヨノツキさんところのフリーゲーム「Lost Last」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
分岐と複数エンドありのノベルゲーム。一応乙女ゲームと銘打ってはありますが、男性キャラ攻略がメインというよりは人間ドラマがメインかなと思います。
というわけで、さっそくよかった点など。
諦観と憎悪に満ちた本編
ストーリーはいわゆる前世もの。ヒロインは前世で攻略対象二人の仇だったということが明かされるところからがプロローグとなっています。
前世は悪逆非道の姫、現世は無気力な女学生。この記憶のギャップを解き明かしていくようなストーリーにもなっているので、どことなくミステリ要素があるといえるかもしれません。
憎悪のまなざしを向けられ、絶対零度の対応を取られるため糖度としてはかなり低いです。ヒロインだけにガラリと変わる態度は、まさに背筋が凍ります。もともとヒロインは諦観に満ちているので、傷つくことも少ないのが救いでしょうか。
が、冷たさが際立てばほんの一匙のデレがとてつもなく甘く見えることもあるわけで。ヘイトとイルウィルが疑念を抱えながらも歩み寄ろうとしてくれる姿は、やはりときめいてしまいました。ハッピーエンドを勝ち取った時の感動もひとしおです。
勿論、鬱エンドも大好きなんですけどね。
モノクロームな画面構成と豊富なスチル
基本的に文のみで構成され、要所要所でスチルが展開されます。少女漫画っぽい画風の繊細なタッチのスチルが多く、表情はどれも迫力があり想いが伝わってきます。
画面がどれもモノクロだったのも印象的でした。起動画面でも一貫されているように、色の使い方が絶妙なんですよねぇ。あとがきでは謙遜してらっしゃいましたが、私はあの色の使い方めちゃくちゃ好きです。メランコリックな世界観が表されていて素敵です。
また、起動画面やエンド回想などが円形なのもオシャレでした。ハッピーエンドが解放された時の感動ったらもうたまりません。EがEndだと思ってうっかり開き間違えたのは良い思い出ですw
中世と現代が交差する世界観
前世ものということで、架空の中世の設定と現代の舞台が交錯します。しかしながら全体的にきちんと雰囲気が統一されているのは、やはり演出面の力かなと思いました。上記の画面構成に加え、使われているBGMがぴったりシーンに合うんですよねぇ。
中でも「司教様の日常」は別ゲーで聞き覚えがありとても愛着があったので、上手い使い方にニヤニヤしてしまいました。原曲の素材サイト様を巡りたい派としては、おまけで曲名込みで再生できるのもありがたかったです。さりげなくかなり嬉しいですよね。
公式では中二病&五月病という容赦ない紹介がされていますが、鬱展開好きやメランコリックな展開が好きな方には是非ともオススメしたい一作です。
また、何事も諦めがちなヒロインだからこそ、本当、魂が震えるシーンもあります。
やるせなさ・前世・復讐劇・暴虐の姫・執着・お互いを想うからこそのバッドエンドなどにピンとくる方へ。
追記ではネタバレ込みの感想など。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレ込みの感想。
ストーリーについて
初めはヘイトとイルウィルの差別化がもっとあると良いなあと思っていたんです。憎悪→交流→復讐の流れは同じだったので、エンドとして別の結果を見てみたいなあと思って。
けれどもきちんと他のルートを回収して全エンドを見てみると、むしろこの二人だけではあの復讐エンドにしかたどり着けなかったんだなあと思わされました。
鍵を持っているのがマリス姫と春ちゃんという、この百合っぷりですよね! いえ、そんな直接的に百合ではないんですが、私はそちらにも萌える人なのでたいへんおいしかったです。
ハッピーエンドのあの叫び、良かったですよねぇ。
沈黙では、悲劇では……というあの一連のセリフ。本当しびれましたし、ボロボロ涙が出てきました。今まで何もかもを諦めがちだった彼女が言うからこそ、重みのあるセリフですよね……。
本当、全てを込めたと言っても過言ではない、魂の叫びでした。大好きです。
キャラクター・エンド
ヘイト
彼は全てが疑問から始まってるんですよね。
あの笑顔は何だったのか? 本当にこいつはマリス姫なのか?
そしてそれを明かしてくれないヒロイン。ずるいです。大好きです。最期まで嫌でも記憶に残り続けるこの因果がたまりません。すべてが終わった後も常にヒロインのことを考え続けて魘されそうです。
たぶん心根が素直なキャラなんだと思うのですが、葛藤がツンデレに見えてほほえましいシーンもしばしば。不覚にも萌えさせられることが多かったです。
イルウィル
初めに彼のエンドを見たこともあり、“読めない”という印象が強かったです。
自問自答が見えやすいヘイトと違って、イルウィルは表面を取り繕うのが得意な大人なので、最後の最後まで感情が見えづらいキャラでもありました。ゆえにおまけのキャラ文が強烈で……後悔してくれたのは嬉しいけど辛すぎるという……。
ヘイトが一生悪夢として背負いそうなのに対して、イルウィルは上手いこと思い出にしてくれそうな気もします。器用そうなので。時折思い出して苦虫を噛み潰したようななんとも言い難い顔をしたのちに記憶を封印しようと励んでほしいです。
私は彼推しだったので、(物語上仕方ないとはいえ)ハッピーエンドで彼の影がほとんどなかったことがとても寂しかったんですね。だからこそ、おまけでばっちり回収してもらえて嬉しかったです!
マリス
かわいい。かわいい。かわいい。
こんな妹が欲しいです。ネタバレ回避のため本文記事で一切触れられないのがもどかしいほどに好きです。
こういうヤンデレ一歩手前の、執着が強い女の子って可愛いですよね……。
親愛と愛憎、イルウィルヘイトの二人とはまた違った想いの向け方をしてくれたのもたまりませんでした。色んな思いでぐちゃぐちゃになってるのって良いですよね。彼女もヒロインとは別の意味で重たいものを背負わされているだろうに、能力面ではそれらを苦にしなさそうな、芯の強さも素敵です。
一途な悪女ばんざい。
とまあ、こんな感じで。
全てを手に入れられるエンドは無いからこそ、得たものが際立つ素晴らしい一作でした。