「復讐は何も生まない!」
だが吐き出さねば腹が裂けてしまう前置き。
えー、今回はアマヨノツキさんところのフリーゲーム「エリニュスの娘」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
選択肢でエンド分岐する乙女ゲーム。
“復讐”がメインなだけあってクールで糖度低めなので、むしろ一般向けとして広く布教できそうな気もする一作です。
復讐の後・今・未来を描くストーリー
作者様ご本人までもが乙女ゲームと言うに言えない、この理由がまずストーリーの重さにあると思います。
ストーリーのテーマは“復讐譚”です。激しい憎しみよりは、恨み続けることの疲労や虚しさが強く描かれています。復讐を終えた人、復讐を受ける人、復讐を行う人など、違った視点から復讐とは何たるかが語られ、各人の答えを揺らがされながら進んでいく――――
重苦しくむなしく、真剣なストーリーが染み入りました。
一方で決して説教臭くはなく、ある意味ドライなくらい距離感があるのも、良いバランス感だと思います。復讐を終えてもゴールではなく、新たなスタートというには泥臭い、各々の向き合い方が光るストーリーでした。
辛辣で裏がある優しいキャラ達
復讐という重いテーマながらも案外すんなりと日常パートが進むのは、キャラクターの動き方のおかげです。重たいものを抱えていてもそれを悟らせない、あるいは受け入れているキャラが多いので、基本的に共通パートはあっさり味です。
だからこそ、それぞれの思惑や正体がわかるようになってきたころの一言一言の深さがぐっときます。なんというか、どろどろしたものを抱えているはずなのに、みんな潔いんですよね。もちろん悩んだり葛藤したりのシーンもあるんですが、それ以上に彼らなりのどうにもならないどろどろへの向き合い方が明確です。
テーマや展開を考えると虚しさが漂うけれども、はっきりした性格のキャラたちを見ているとどこかさっぱりとした気持ちにもなれる、不思議な読了感の作品でした。
シンプルでお洒落な起動画面
起動画面のクールさと、選択した時の音にまさに撃ち抜かれました。好きです。
エンド回想もおしゃれで、タイトルの配置の仕方等も併せてセンスがありました。実写(?)を使っていることや、エンドの余韻等から、美術品を眺めているような気分になれます。
はっとさせられるセリフといい、こういったところのセンスといい、短編でも光るもののある作品だなあと思います。
とまあ、こんな感じで。
糖度低めでダークな展開が好みの方にオススメの一作です。
追記からはネタバレ全開の感想など。
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追記、ネタバレ注意。
エンディングについて
私の初エンドはアネールバッドエンドでした。
展開としては見事にこう、忘れさせてやらないという執着なのか憎悪なのかわからないものが漂う素敵なエンドでしたね……。ラストの一文がアネモネ本人にすべて帰ってきてしまうのも含めて、完成度の高いエンドでした。全クリしてからも一番好きなエンドです。
で、話としては面白かったんですが、全クリした後だと順番間違えたかなぁと惜しく思う気持ちもあったり。
ネタバレ等の関係を考えるなら基本的にはグッド→バッドの順番で、かつアネール→ガステール→ディカなのかなー、なんて。
ディカルート自体はどのルートのネタバレも無いんですが、ガステールの正体を知ったうえでグッドエンドを見るとより面白いんですよね。ふふふ。
熱くてかっこよかったのはガステールグッド! あの熱くキレのある台詞にはやられました。アネモネお嬢さんが畳みかけてくれるのもまた気持ちいいです。
あとガステールのおかげで乙女ゲーらしさが二割増ししていると思います。
ディカエンドはどちらも、ディカの良さを踏まえてヒロインの株が上がってくれた印象でした。一歩間違えるとご都合ハッピーになりそうなこのエンド、共通ルートでアネモネが悲壮なくらい復讐に対して真剣だとわかるので、うまいことバランスが取れている気がします。ハッピーというよりは憧憬に近く、期待と儚さが混じる雰囲気だなあと感じました。
キャラクターについて
<アネモネ>
クールビューティ、かと思えば武道の強さに時々ヤンキーになる言葉遣いに驚かされ、しかしながら人を見捨てきれないお人よしさにぐっとくる、ギャップ三段構えの素敵な美人さんでした。
なんだかんだで少年二人と青年一人を見捨てずにいたり、復讐をするということの責任に向き合っていたりと、振り切ろうにもドライに振り切れない葛藤が良かったです。相手を諭すだけの含蓄があるのも、それを表現しきれているのもすさまじいと思います。
<アネール>
アネモネをお嬢さん呼びしているのがひどく残酷だなあと思う反面、アネモネが自罰を求めていながらそれすらも罪からの解放だと思って苦しんでいるのを、ひそやかに救っているのかもしれないとも思います。何も考えずに天使をただただ崇拝しているような気もします。一番よくわかりませんが想いと業が熟成されていると思います。
<ガステール>
大本命です。
ショタ属性は無いのに……っと予想せぬ落とし穴にまんまとハマったことを悔しく思いつつきゅんきゅんしてたら、ショタじゃないショタでした。
素のモードはドギマギしてしまうのですがかっこいいので是非私口調でいてほしい気持ちです。“教えてもらえればたいていのことはできる”というのもまたずるいくらいスペック高くてかっこいいです。見栄ではなく本気でそうらしいのがまた憎らしい、かっこいい。
彼のベストエンドでの、アネモネの啖呵が大好きなんですよ。あの溢れ出るような疾走感ある啖呵は惚れざるを得ません。ガステールを攻略しに行ってたはずがアネモネに惚れてました。おかしい。おかしくはない。
胆力と行動力があるぶん、見ていて危なっかしいのかもしれません。崖まで一直線に行ってぱっと散ってしまいそうな。危なげなく何でもやるからわかりづらいだろうけど。そこに気付いて、あるいは自分の職人魂が響いて、アネモネも生きろと口酸っぱく言ったのかもしれないなー、なんて。
<ディカ>
唯一の良心、常識人、ピュアさ。
ガステールとアネモネに挟まれている彼はなんというか、面倒みてもらってる近所のお孫さんという感じでとても微笑ましかったです。
<おまけ>
もしも乙女ゲーだったらの展開に大爆笑しました。一ルート分楽しみたいくらいでしたし案外なんとかなりそうなのもまた。本編のシリアスさも愛してますがこのノリも大好きです。
とまあ、こんな感じで。
ガステールが完璧に伏兵で大好きでした。