「自己肯定のためには他者の賛歌が必要だ」
本音じゃなくてもごまかせる前置き。
えー、今回は白瀬伊月さんところのフリーゲーム「勇者の道」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
ツクール製ではありますが、プレイした感覚としてはノベル寄り。分岐多数のマルチエンド方式で、トゥルー以外全てバッドエンドという鬱展開仕様です。やったね。
というわけで、さっそく良点など。
勇者とは何のためにあるのか
全体的に、RPGにおける勇者と魔王ものの設定をとても真摯にシビアな目線で突き詰めていくストーリーです。
魔王を倒したその後は?
救った人々のその後は?
勇者が魔王を倒す動機は?
これらの疑問はRPG好きやメタ好きが一度は考えた展開のはず。実際それらを逆手に取った作品も散見されます。しかし発想はあっても全てを網羅する勢いでかつこのボリュームに収めているのは流石の一言でした。
魔王と勇者の二人で完結するのではなく、分岐が進むごとに世界が少し開けて、哲学的な問いの定義が増えていくのも楽しかったです。
テンポ良しのクイックセーブ&ロード
また、エンド数が多い分、エンド回収のためのシステムも丁寧に整備されています。いやあまさかツクール製のゲームでノベルゲ的なクイックセーブとロードに出会えるとは思っても見ませんでした。いわゆる通常のセーブがエンドや達成率の確認用、栞が分岐の回収用だと思うと良いのかな。
ただこれはある意味短所とも言えそうで。私は鬱展開ってじっくりどっぷり虚しさを噛み締めるものだと思っているんですが、あまりにテンポが良いので、さくさく死んでさくさく終わるスナック菓子的な絶望になってしまっているエンドもあるんですよね……。
ただ、各エンドが雑という意味ではなくて、どのエンドでもシンプルな一言に深みがあり、その先やこうなってしまった原因に想いを馳せて胸を痛めたくなるクオリティではあります。
必要十分でコンパクトにまとまっている短編だからテンポの良さを感じるところもあるのかもしれません。
幕間代わりの探索パート
もしノンストップでエンド20個を一気に回収してしまうとなるとついつい疾走してしまい、プレイヤーが疲弊してエンド一つ一つの感じ方が薄くなってしまうかと思うのですが。
そこにブレーキをかけるように挟まってくれるのがこの探索パートです。いやぁ、これは本当、タイミング的な意味でもキャラ的な意味でも上手でした。
宝箱のところの理論には素直に驚かされましたし、たーるっ等々の嬉しいネタもありましたし。勇者という記号でしかなかったユーツにキャラとしての性格が見え隠れするようになったのも素晴らしかったです。
とまあ、こんな感じで。
欲を言えばエンド回想があると良かったんですが、さすがにツクールでそれを求めるのは酷ですし、クイックセーブで対応できるのでまあまあ。
鬱展開好き、問いかけてくる作品好き、古き良きRPG設定好きにオススメです。
追記では各エンドの感想など。
ネタバレ注意。
ED1
最後に回収したエンド。ここにきてようやく、この作品における勇者の定義は「誰かのために動く」「正義」だったのかなと気づけました。前者は他エンドでもよく触れられていたけど後者は時間かかっちゃいましたね。
世間の流れや噂はED2に近しくなるんでしょうけど、ユーツの意識が自分に向けられているか少女に向けられているかで大違いな展開を今後たどるんだと思います。
ここにきて怒涛の勢いでタイトルを回収し、ダブルミーニングをかける流れが気持ちよかったです。
ED2
勇者と魔王は切って切り離せず、勇者が勇者で無くなった時こそ平和が訪れる……。極論、勇者がいなければ世界は平和と言える気もして深いです。他エンドで勇者が死亡した後の話が語られないのもつまり、そういうことなのかなとか。暗転した平和……。
初めは少女ちゃんに偽善を否定されるエンドになるかなと思っていたので意外な展開でした。ただ、このエンドはユーツが生きる意味等々を少女に託して「少女のため」を称しながらその実「自分のため」に生きるエンドだとも捉えています。「誰かのため」をキーワードとして考えるなら、少女は第二の勇者になる可能性も秘めていそう。と書くと王道RPGなら喜ばしいかもですが、ことこの作品のシビアさを考えると、どんどん思考が闇に行ってしまいます。
ED3
他ルートで見れる勇者のキャラチップの目が赤かったのでなんとなーくこの手の血が騒ぐ展開は予想してましたが、ここまでキャラドットの目を見せずに引っ張る手腕はさすがです。
ED4
こういう、全てが終わったあとの虚しさ、好きです。ゲームは終わっても人は生きていくっていうの、だれしも一度は想像すると思うんですけど、残酷ですよね。
ED5
そして癒着が疑われて王や他の賞金首から殺される展開、わかります。
ED6
しまった勇者の名前すらわからないままだった! 口上中の待機は戦隊ものだと許されるのになあ。
ED7
一度は選びたくなる。が、人は全てという発想は意外だったし面白い。魔王の呪文の逆読みがわかっちゃいるけどふふっとしてしまう。
ED8
わぁい闇堕ち。
ED9
弱い者たちである自分としてはぞくぞくしました。
ED10
もともとバーサーカーだったのか、勇者をやるうえで無自覚に壊れたのか、興味深いところでした。
ED11
化け物の上の化け物、滅私奉公の末の恩仇、いやあ実にぞくぞくしますね。せつない。
ED12
わりと他エンドとまったく一緒。過程が違い、勇者が自分の意志で絶望を選んだというところがポイントでしょうか。
ED13
ばいばい、のダブルミーニングはよいものです。魔物との違い、という点も独自でよいなあと。
ED14
誰かに殺されるよりは、自害を……という悲壮な決意と裏腹にモノローグが子どものようで、心の痛さが割り増しでした。初め毒を飲んだのかと思ったんですが、さすがにそれは王も無警戒すぎますし殺伐すぎますね。
ED15
少女の笑った理由を明かしてくれないところがまた闇を深くしてくれる気がします。
ED16
思わせぶりなことを残して勝手にこちらを置いて行ってしまう少女というのは良いものですね。一生呪いみたいにリフレインしそうなタイプの死に台詞が好みなので、性癖に掠るものを感じます。
ED17
「そっか」「ばいばい」とそっけなく見せるあたりになおダメージが来るエンド。勇者が彼なりの回答を得て満足しているからかもしれませんが。
ED18
ED2で予想していた展開がこちらに来ました。ふふふ。
少女がどこまで見透かしているのかと思うとぞくぞくします。敏い子どもは素晴らしいが恐ろしい……。
ED19
誰かすらいない、という発想が素晴らしかった。胸が痛みます。自己犠牲で散っていく展開は、尊いですがある意味ずるいですよね。責任の取り方の違いだとは思うんですが、大義を持って好きに死ねるキャラはうらやましいなあと思う時があります。
ED20
<宝箱編>中身よりもまず開けるという行為自体に意義があると思うなぼかぁ。開けたいじゃないですか、中身が何であれ。
<鍵編>どこで間違えたと言われればそりゃもう測り方を間違えたとしか。初めは素で間違えました。これで完璧だと思ったんだけどなあ! そして二回目は答えを知ってるからといって余裕ぶっかましました。ランダムで変わるとは……素晴らしいこだわり……敬意を表しながら爆発しました。
少女について
最後、少女についてちょっとだけ。
初めの頃は少女が一部のエンドで見せる達観っぷりに驚かされたり、不気味さを感じたりしていたのですが。あの子は二つの役割を同時に担っているから、アンバランスにみえるのかなと考えたのでメモします。
1つ目はキャラというより、守るべき市民の象徴、「誰かのため」のうちの誰かの代表。2つ目はユーツという一個人にとっての特別な人。こう考えると怖さは薄れて、時々によって憑く役が変わるのかなと思えました。
とまあ、こんな感じで、短時間で鬱展開のパターンを踏破しきっている名作だと思いました。