「トラウマも慰めも思い出から昇華されるもの」
大きく輝くからこそ心揺さぶられる前置き。
えー、今回はKANATA-PORTさんところのフリーゲーム「White Crownの実像」およびその前日譚である「トライアングル・ブルーと新生探偵一味の午後」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
以前感想記事を書いた、「hôtel de noyerの招かれざる客人」の続編となっています。時系列としてはノワイエ→小説→実像、の順番ですね。キャラクターも継続、あの楽しい掛け合いがまた見れます。やったね!
一応「White Crownの実像」のほうであらすじ紹介が見れはしますが……もしノワイエを未プレイの方がいればそちらを先にプレイすることを強くおススメします。感動も倍増ですゆえ。
というわけでまずは小説のほうから。
『トライアングル・ブルーと新生探偵一味の午後』
時系列としては前作と今作の間に挟まる小説です。
謎が多く残っていたすばるさんの持つアイテム類のことや、異世界の設定についてなどなどがわかり、ふんわりとした理解をしていた世界観がよりよくわかる内容でした。
特に、異世界関係のことは認知がぼかされる、みたいな設定は余所でも見ないので興味深かったなあと思います。こういう、現実のルールに即さない部分をまるっと消去するのではなくて、うまいこと認識させないようにするというのが見事な手法だなあと。
この異世界設定もそうですが、すばるさん自身がノワイエ従業員からの疑念を常識的対応で乗り切ったことといい、この作者様は「ズラす」のが上手なんだなーと思ったりもしました。こっちがズラされたことに気づけないくらいうまく転がされるというか。
私自身、作中で常磐のちょっかいで話が面白い方向に飛んで行った時もけらけら笑っていて、リオたちが指摘してようやく「あっそうだ本題があった」って気づいたくらいでしたし!w
ともあれ、気になるところに補足を加えつつも次作への謎の芽を残し、かつキャラ達の和気あいあいも楽しめる、とってもおいしい小説でした!
『WhiteCrownの実像』
そして本題、探索ゲーム「White Crownの実像」について。
前作と比べるとかなり難易度は跳ね上がっている印象でした。といってもイジワルなところは無く、基本的には住人の言うことをしっかりと聞いて手持ちのアイテムと相談するような感じです。
良点難点併せて、本作の特徴というところでまとめていきますね。
ほんのりとヒントっぽいところは書いてしまっているので、ネタバレ厳禁派の方はご注意ください。
細かな反応アイテムと会話分岐
ホワイトクラウンの生み出した異世界を探索し、彼女の出した目標をクリアできればOK,というのがだいたいの概要です。
アリスモチーフの動物達があっちこっちでお願い事をしてくるんですが、この反応パターンの多さに驚かされました。直接欲しがっているものは勿論のこと、原作に由縁のあるアイテムから意外すぎるアイテムまで、反応も動物たちも多種多様。その反応が見たくてついつい素直なおねだりに意地悪で「いいえ」を選んでがっかりさせてしまう、なんてこともやらかしたり…w
アイテムの取得方法も、単純に話しかければもらえるものから、「なんて無茶な!」と笑ってしまう隠し要素まで盛沢山。作者様の公式サイトで細やかなヒントもある他、原作であるアリス重視のネタも仕込まれています。
これだけ豊富だとそりゃ全制覇したくなっちゃいますよね! そんなわけで2周目ではかーなーり時間をかけてあちこち練り歩きました。
主に常磐の切れ味鋭いセリフがいっぱいで楽しかったです。
主人公たちはチェスの駒!
と、いっても戦い合ったりするわけではないのですが。
面白いなあと感じたのがマップのデザインとそのルールなんです。「君たちはチェスの駒だから赤と白のパネルしか移動できないよ」というのがこれまた上手い設定だなあとしみじみ。
ゲーム的な進行不可の箇所を、オシャレにストーリーへ取り入れて説明してるなあと思います。キャラ達もチェスになぞらえたセリフ回しで世界観を濃くしてくれていました。詩的な言い回し大好きです。
パネルによって進めるところを自分で選べれる、というのも斬新でした。うっかり変なところでパネルを使ってしまうと取り返しがつかなくなる、なんていうパズル要素になっています。
パネルに関しては自由度が高すぎるという難点にもなりうるポイントではありますが……。女王の現れる場所がランダムなので、それに合わせてどこにでも設置できるようにしてあるんだろうとも思いますし、遠回りと近道とでパネル数が異なる辺りもちょっとした頭の捻らせどころではあったので、個人的には面白かったです。
バンダースナッチの捕獲時にエンター連打による誤爆設置は起こしましたけどね。てへ!
アイテム消費によるフラグ管理と詰み要素
さて、ここは面白い点でもあり少し困ってしまう点でもあるのですが……。
この作品のほとんどはアイテムによるフラグ管理がされています。そしてそのアイテムの大半消費型です。さらには時限式のイベントもあるので使いどころはなかなかシビア。使うべきアイテムはわかるのに消費済みだったり、進行させたいのにアイテムをうかつに使えなかったりというジレンマに悩まされることが多くありました。
事前に「アイテムを使いすぎると詰む」という注意書きがされていることや、大きなコストを払うとはいえ買い直しができることなどを考えると良心的ではあります。が、難易度はかなり高いと感じましたねぇ。
逆に言えば、そういったコスト管理要素やイベント発生フラグをかちりと掴むパズルのような部分が好きな方にはがっちりハマると思います。
また、この高難易度を緩和するためか、エンディングに行くための解放が複数通り用意されているのも良心的なところです。よほどむやみにアイテムを馬鹿使いしない限りは何らかの形でノーマルエンドだけでもクリア、できる、はず。
余談ですが私は見事に失敗談ができました。ネタバレなので追記にて。これはこれで面白かったですw
メルヘンでかわいいマップチップ
さて、グラフィック面についてもう少し。前作ではノベルゲ寄りだったので立ち絵変化と背景画像に注目しがちでしたが、今作は探索ゲーということでかわいいドット絵とマップチップが楽しめます。
こうして3人が並んでみるとリオはかなり目立つんだなあとか。火傷痕もきっちりキャラチップの反映されてて素敵でした。
薔薇園のマップも華やかで良かったですね~!
ただ見た目が華やかなだけでなく、こっそり通路が仕込まれているなどのゲーム的な利点がきっちりあるのも素晴らしいところ。また、ラビリンスのところは演出も併せて切なさが込み上げる素敵なマップでした……。
少し疑問だったのは、マップでの動きがけっこう重たい? こと。これは環境によるものかもしれませんが……。バンダースナッチが走り回ってる分、処理が重くなってるのかなーとも思って。そこらへんどうなんですかねウディタリアンの皆さん。
と、丸投げはさておくとして。
そもそも遊園地から鏡の国へ、っていう流れがもうメルヘンで乙女心掻き立てられますよねぇ。フォントやBGMのチョイスも絶妙。とっても素敵な世界観でした。
とまあ、こんな感じで。
仕様上難しいところはあるものの決して理不尽ではなく、凝ったイベントと細かやな反応が際立つ探索ゲーでした。
前作が好きな方はもちろん、あちこち練り歩いて調べたりアイテムの使い道を色々考えたりするのが好きな方、アリスモチーフにテンションの上がる方へおススメです。
追記ではネタバレ込みの感想など。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレあり
まず前半はイベント攻略などについて。
イベント攻略他
注意点として、宝箱やトンカチポイントは主に正面からでないと反応してくれません。そこが面白いギミックでもありましたね。
食べ物系で燃えぶどうトンボ以外に渡すと反応するのは、「紅茶」「パン」あたりですかね? パンは兵士・大工・巣箱で綺麗に使い切れるかと思います。
1周目はかなりカツカツだなあと感じたんですが、攻略を拝見しながら全回収すると想像以上にアイテムの余裕ができて驚かされました。うーん、反応してくれるキャラがいるからってほいほいアイテムを消費してしまっていたのが高難易度に感じる一番の原因だったのかもしれませんねぇ。
エンド到達方法
改めて色々探しながら2周目へ入ったんですが、想像以上に解法が多くてびっくりでした!
以下、見つけたものを列挙させてもらうと……
- 船を造る(トンカチ、パネル2種類6枚ずつ)
- ジャバウォック(金の鍵)
- 女神像の力を借りる(小さな手鏡、トンカチ、パネルたくさん)
- ランダムに落ちてる女王の元へパネルで辿り着く(パネル任意の数)
キーとなるキャラの元へ行くためのパネルやイベントは記載に含んでいないので、実際はもうちょっと必要アイテムが増えると思います。
やっぱり一番楽なのはそこらへんに転がってる女王様の元へ行くことなのかな。それ以外はコストが高いので、少なくとも私の1周目では不可能だったかも。
いやあそれにしても、パズルゲームめいたシステムなのにプレイヤーの選択肢が幅広く持てるって本当すごいですよねぇ。アイテムを使う探索ゲーって一本道おつかいゲーなイメージが強かったので、かなり認識を改めさせられました。圧倒的な凝り具合!
ノーマルエンド失敗談
不思議なことにゲームをしていると、最終目標が「白の女王を見つける」と明示されていても、プレイしているうちに「各キャラのイベントを解決する」にすり替わっちゃうんですよね。それだけ熱中しているんだと思いたいですが。
というわけで私の失敗談は、「思いっきり白の女王が寝転がってるのにガン無視して他イベントを進めようとして詰んだ」でした。あっはっは!
いやしかも女王様のところに行けるだけのパネル持ってたんですよ……。なのに他キャラのイベントをこなそうとしてパネル消費して、気づけばラビリンスにも船にもギリアイテムが届かない状態になってしまってました。なんてこったい。
そもそも、あれだけわかりやすい形で転がっててしかも最序盤に白の女王のキャラチップまで見せてくれていたのに、「あああそこにいるキャラは何かフラグ解決したら話せるようになるんだろうなー」と勝手に思い込んでスルーしてました。なんでだ!w ゲーム脳怖いですねw
ま、まあ私みたいな失敗談は稀だろうとは思いますが、ともあれちょっと自分で笑ってしまうくらいには変わったプレイングをしてしまいました。へへへ。
トゥルーエンドについて
ノワイエは盛り上がりと共に涙もボタボタみたいな熱い展開でしたが、今作は静かに心へ広がっていく美しい話だったなあと思います。
船で漕ぎ出す解法が好きなので、ラストは船で行ったんですが……。ゆっくり通り過ぎていくホワイトクラウンの世界と、先が開けていく演出が本当に綺麗で震えました。そこから、すばるさんが彼女らしい誠実な言葉で白の女王の心を輝かせるのもすごく、すごく綺麗で。
最後の最後に自由行動のターンを入れてくれるのがまた良い演出ですよねぇ。なんだかついついこの感動をわかってほしくて、むやみやたらとそこらのお客さんに話しかけてみたら、向こうも向こうで良い反応を返してくれるんだなあこれが! 好きです!!
等々。
やっぱり一言でまとめると、美しくて凝ってる作品だなあと思います。作品のテーマとなるホワイトクラウンそのままでもありますね。
おしまいまで本当に細やかで、惚れ惚れでした。