「月下は陽ほど明らかでなく」
どうにか隠すフリができる前置き。
えー、今回は陸路の果てさんところのフリーゲーム「Nights of the Knife」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
分岐ありの女性向けノベルゲーム。恋愛要素もありはしますがそっちよりはキャラの行く末を見守る面のほうが強い印象です。
というわけでさっそく印象的な点など。
三人の柱と二つの視点
この作品はいわゆる共通ルートにおける部分がほぼ無く、攻略対象3者3通りの全く異なるストーリーが展開されます。また、キャラのルートを1周すると次からは真相を掴めるルートへとたどり着くことができます。
実を言うと初回プレイ時には、ある程度の情報が知っている前提で進むので戸惑いました。これは誰でここはどこであいつとは誰ぞや、という。でもピースを揃えさえすれば考察なしで補完できるので中盤以降はするする読めます。
全ルートクリアで世界の真相がわかる、という意味では群像劇に近しいかも。ヒロイン視点と攻略対象視点が両方見れるのも特徴でしょうか。
ルートごとに知ることのできる真相の量が異なるのは面白いところだなーと思いました。攻略順によって感想が変わる作品だとも思えます。
盲目ヒロインの目に見えるもの
また、ヒロインの特徴もこの真相の明かし方に影響しています。もともと特別なコミュニケーションを必要とする展開(盲目・沈黙・あと言ってはいけないなど)が大好きなので、この設定は嬉しかったです。ただここに関しては引っかかる点もあり。ネタバレになるので詳しくは追記に格納します。
時にはちょっと天然を狙いすぎと感じるシーンもありますが、まあ好みによりけりかなと。流れに翻弄される大人しめな善人ヒロインと、自分の足で切り開いていく力強いヒロイン両方見れるのが新鮮でした。
シンプルに文字のみ豊富な回想
立ち絵やスチルは一切なし、文字のみノベルゲームです。がっつり長めの作品なので、画面ベタ貼りの形式は読みやすかったです。
やっぱり立ち絵が欲しい気持ちもありはしますし、作者様はどうやらイラストも描かれるようなのでなおさらではあるんですが……。盲目設定や他の設定を考えるとやっぱり文字のみが良いよなあと思いなおしました。
欲を言うならエンドロールは2柱目以降スキップ可にしていただきたかったところ。あと、アナザーストーリーの見方がわからず数時間周回してました。数字をクリックするだけなのにてっきり文字を選択しようとしてしまったんですよねえ。ばかだー!
加えてBGM面には不満ありです。シーン切り替えが頻繁なので、BGMがイントロ部分で切り替わることが多く、逆に気が削がれてしまいました。
一方良点として挙げたいのは回想の細やかさです!
エンドだけでなく、攻略対象ごとにエピソード一つ一つを読み返すことができるという。ここまで細かい回想機能は初めて見ました。これだけシーンを分けていたらBGMも細切れになるのも致し方ないのかもしれません。
とまあ、こんな感じで。
キャラの目的・世界観・過去など、あちこちに上手い設定が盛り込まれているので、終盤でも驚かされるお話だったように思います。
真相を知っていく過程が好きな方やシリアスな乙女ゲーが好きな方向けです。
追記からはネタバレ全開の感想など。
ネタバレ注意。
ストーリー
私は情報が小出しになっていくほうがゆっくり話を飲み込めるので、偽王→浅葱→琥珀の順で攻略したのは正解でした。
で、まずはさっそく引っかかった点について。
ルート2周目からは盲目ゆえの感覚の鋭敏さの描写が多くなるのですが、逆にそれなら1周目の何も知らない黒紅ルートであっても柱が竜だと速攻で気づけるのではと気になって仕方ありませんでした。背中にも手にも触れてますし……。村で厄介者扱いされていたからそもそも他人の感触がわからないのかなあとも思いましたが、1周目と2周目は別世界線の黒紅だとも思うので、うーん。
黒紅の視覚が広がるに合わせて色々な真相が明らかにされるところ自体は良いなあと思うので、惜しいなーと。
また三人称で書かれているとはいえ、ちょくちょく第三者視点と黒紅視点が交じり合う他、ルート終盤では柱視点も混在するので読みづらいところもあったり。
あと、どうしても感覚が見える側の人に寄っているのは難しいところだなあと感じました。そもそも見えてない人からすると見えるのが無条件に良いことじゃないような気もして、うーんうーん。
こういう勝手な葛藤があったので、見える視界に惑わされるからいっそ目を瞑って突っ込むというあのシーンは輝いて見えました。
難癖つけっぽくなっているので良かったところも書くと、やっぱりあの世界設定ですよね!
いやあファンタジー世界だと信じて疑っていなかったので、まさかああくるとは……。
ああいう生贄儀式ものってどうしても舞台装置じみているところはあると思うんですよ。だからあの裏設定には驚かされました。
また、お話の終わりに位置する王の話が黒紅の始まりに影響していたというこの、見事に一つの輪として完成しているのも痺れました。
キャラクター
偽王
初めゼオウだと思っていたのでニセオウで驚きました。まんまだった。
疲れ切ってる人だなあというのが第一印象です。なんとなくぎこちない距離感があって、黒紅がずいずい行くタイプじゃなければ何も動かず終わっていただろうなあとも。
元カノ()の登場には驚かされましたが、薄紅さんの存在って論文における反論みたいなところだと思うので、理解はできます。引きずりがちなところをバッサリ「死んだ者は生き返らない」と切ってしまう潔さにもほれぼれ。
ここでジメジメしないところでようやく吹っ切れたんだと思わされてじんときました。
浅葱
推しです。
他のキャラと比べて、ストーリー上の成長が一番似合うし響くキャラだなあと思います。照れや驚きよりまず怒りと説教が飛んでくるのも、お世話焼きさんとも見えてほほえましい。叱ってもらえるって愛のある行為ですよね……。
黒紅と同等に何も知らない立場だからこそ、二人で立って道を切り開く展開が熱かったです。偽王ルートで見た先代浅葱さんはなんとなく器用に立ち回る人なイメージがあったので、あまりの誠実直球不器用さにギャップを抱いたり。不器用なままのあなたでいてほしいとも思います。
トゥルーエンドを突っ走ってほしい柱ナンバーワン。おまけページの「思春期の女の子」扱いに思わず吹き出しました。黒紅の放り捨てた乙女成分を彼が補ってくれることでしょう。
偽王や浅葱と比べて、話の展開が一番早かったように感じました。葛藤も困惑もとうの昔に過ぎ去って諦めきってるからか、あるいは全てを知ってる立場だからだろうと思いますが。
ノーマルというか1周目エンドが一番似合うキャラな気がします。停滞してるキャラだから何も変わらないエンドがぴったり来るんだろうな。
情報を全部握ってるから逆に吊られる占い師っぽいタイプだなって思いました(人狼感)。
トゥルーエンドの終盤は琥珀ルートと言うより柱ルートというイメージがあります。王・月光VS柱3人・黒紅、みたいな……。バラバラだった柱たちが少し踏み出したように感じました。
月光
どうしてここまで、という疑問に見事答えてくれるアンサーストーリーでした。片思い悲恋ルートかとハラハラしていたので、別の形での想いは伝わって、なんとも切ないため息が漏れるなど。
想いを一方的に遂げて色々置いていってしまう人はとても幸せだけどある意味とてもずるいなあと思います。尽くしているのに一線引かれる、そんなキャラ造形によく合うお話でした。
王
驚きの育児日記。
と茶化してしまいはしましたが言葉と時間の一つ一つを大事にしてあるお話でした。
作者様のサイトのおまけページへの入り方もオツですよねぇ。絶対忘れられない一言だなと思っていたので、ここで生きるとは思わずついぼろっと泣いてしまいました。
こうして振り返ってみると、やっぱり設定がきっちり編み込まれているからストーリーとしてまとまりよく見えるんだなあとしみじみしました。
トゥルーの世界では是非今後とも浅葱に大慌てして欲しいなあと思います。