「なんとなく魔がさして拾ってみたひのきの棒」
それが勇者の命を救うとはこの時まだ気づいていなかった前置き。
えー、今回はGALANTIさんところのフリーゲーム「 Chime」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
エンド分岐有りのアクションゲー、多視点型群像劇、プレイ時間は攻略を見ても10時間超えくらい。ちょっと不思議なことが起こる街で奔走する、住民たちのお話です。
どうやらシステムはSIRENをオマージュしたゲームとのこと。発想はあってもRPGツクールでやろうというのはなかなかの技術力です。ICOやサイレントヒルなども混ざっているような気も。
というわけで、さっそく長文書いていきましょう。
良かった点
最終日へと進んでいく動物たち
ゲームの流れは、様々なキャラを操作して各面の条件を満たしていくシンプルなもの。そこを彩るのが、選択画面に増えていく動物たちとノスタルジックな背景画像です!
小さなミニチュアに置物を増やしていくような楽しさ、すごろくゲームで駒を進めていくわくわく感。終盤になるとたくさんの動物たちが画面いっぱいに集まって、とても賑やかです。ただの選択画面でなくタイムラインとして機能しているのも実用的。
またこの手の面クリア型ミッションゲー(と呼んでよいものか)は中断しやすいのも良いですよね。さらには、一回のプレイが長くて十分ほどで済む場合がほとんどなので、合間にプレイするのにぴったりです。オートセーブ付きなのもありがたいところでした。
ひょんな行動がつながっていく緻密なタイムライン
群像劇と紹介したとおり、操作可能キャラクターの数はかなり多いです。顔つきのサブキャラや、名無しながらも毎度活躍するモブキャラ等を含めるとそれこそ膨大な数です。一クラス分(私基準30人ほど)はいるのではなかろーか。
それなのに何がすごいって、「あれ、誰だっけ?」ってキャラが本当にいないんです。それぞれのキャラが個性的で、目的と動きがわかりやすくって、顔グラも多くてかわいい子もかっこいい人もご老人もよりどりみどり。
そして、群像劇と言えばひょんな行動が見事にパチッと嵌り合う感動だと思うのですが。この作品においては特にキャラの行動の中に“らしさ”が重視されていたような気がします。それぞれのキャラが“やりそう”なことが自然とつながって、思わぬ輪ができていくこの流れ。かなり緻密なプロットが作られていたのではないかなあと思います。
苦手なアクションでも頑張れる気になったのは、やっぱり先が気になったからというのが一番ですねぇ。
鐘と街、片思いと初恋
プロローグが初恋の話から始まるように、一つのテーマは恋です。無自覚な恋、引っ込み思案な恋、運命的な恋、などなど。私は男女カプ萌えが最近激しいのでカップリングとしても萌えるところが多かったです。
大小原君の勝ち組っぷりよ。
少しビターな味が残るエンドがあるのも、ある意味一貫した姿勢が見えて好印象。ここは追記で詳しく語りますね。
もう一つのテーマは街。タイトルからして物語としての根幹を成しているので、深くはゲームをプレイしてもらえればわかるとして。
着目したいのはマップについてです。かなり多くの面があり、様々なマップを歩き回ることになるこのゲームですが、ある程度進めていくとマップのつながり方にピンと来ます。全体図を考えるのはさぞかし大変だったろうなあ……。
いかんせん私はゲーム内でもかなりの方向音痴なため、理屈としてわかってはいてもしょっちゅう迷子になっていたのですが!w
ある程度地形把握の得意な方は、進むうちにしっかりとした手ごたえを味わえると思います。
穏やかな色合いのスチルと美しい旋律
選択画面の華やかさは前述の通りとして。併せて語りたいのがBGMについてです。
ギャラリーモードで一部聴けるんですが、いやあもうたまらなく好みなんですよ! キャラごとにメインテーマが決まっているようなので、キャラ立てにもなりますし。素材サイトから借りてこられたものも多いようですが、よくぞこの名曲を掘り出してきてくれたという気持ちです。
特に冒頭の弦楽みたいな音が目立つ曲、ギャラリー3番目かな? あの曲が一番好きです。次いで初回エンドの曲。
BGMが演出として光ったのはあの、最終日近くの演出ですねぇ。あれにはぶわっと鳥肌が立って、不覚にもボロ泣きでした。解放感がたまらないんですよ……!
ギャラリーモードで閲覧できるスチルも多く、また絵師さんが複数いるおかげで違ったタッチのキャラ達を楽しめます。大小原君が手をつないでいる二種類のスチルが好きです。伝わるかな~。
キャラに持ち動物がいるのもよいですよね。デフォルメも似合うし、このキャラはこれ、っていうのがあると愛着も増す気がします。
時短と周回もできるオプション機能
さらにありがたいのがオプション機能。
常時ダッシュの他、ヒント機能の解放や、アクションがどうしても苦手な人用の即時クリアモード等が搭載されています。
特に新幹線モードは鬼ごっこで両手指の数は死ぬ私にとって大変ありがたい機能でした……! こだまはともかくひかりモードを使ったのは20:30の富江さんのターン1回だけなので許してほしい。
さらに公式からChimeSoftという低難易度版も公開されています。見られるエンドが限定されているのであくまでお試し用あるいは既プレイの人のお楽しみ用なのかなー、なんて。個人的には通常版を強く推したいです。
なお、面解放条件はノーヒントだと絶対その発想がまず出ないというものも多々あったので、よっぽど探索と発想に自信のある人以外はヒント有りのお助けモードをお勧めします。
余談。ヒントを絞る形での難易度上げは個人的に好きではないのですが、オマージュ元のSIREN自体が「凍らせた手ぬぐいを拝借して貯金箱を乗せる」というけっこう発想力を問われる攻略があるくらいですから、ここは原作リスペクトなのかなーとも思います。
合わなかった点
と、好きな点が多くあるこの作品ですが、一方でかなり合わないところもありました。
大前提として、私がアクション苦手でニーズからややズレているという点もあろうかと思いますので、ご了承ください。
新ルールが増えていくシステム
まず、新しい操作方法が増えること自体は肯定的です。目新しさもありますし、殴る・お着換え・手を繋ぐ、などキャラによって合う動作だったのもときめきました。
しかしながら、この新しいルールが同時に難易度の高い面で出てくるので、法則に慣れる暇がないんですね。
例えばグレゴリーの踏みつけジャンプと竜の殴りはキーの判定ポイントがわかりづらく、グラフィック上では重なってうまくいっているのに失敗するので困りました。また、アニーのお着換えポイントは、観葉植物や柱の裏だとダメであそこだとOKという基準もちょっとわかりづらいなあと思ったり。マップの遮蔽物のドット絵を一歩分前に飛び出させれば、影になっている部分となっていない部分がわかるんじゃないかなあ等々。またかなり細かいところだとエレベータの回数操作、上下左右どちらかに矢印を出すだけで操作性はぐっと上がると思います。
とまあ、こんな感じで、“ゲームとしての難易度上げ”のための縛りではなく“操作のしづらさ・わかりづらさ”が見受けられたのが惜しい点だと感じました。
視認性の低いグラフィック
また、上記と被りますが、中盤終盤の数面のほぼ暗闇マップはほんっとうにきつかったです。
回避や事前の対応策が無く、初見殺しで覚えるしかないうえ、長さに比べてチェックポイントがかなりシビア。大小原君の面はICO的ベンチセーブのおかげでなんとかなりましたが……これ初期バージョンだと難易度どうだったんでしょう。1.12で良かった。
トライ&エラーゲーに多少の初見殺しがあるのは致し方ないとわかってはいますが、長丁場の中盤終盤に仕込むのはどうにも。
本当に数面だけなので、乗り切れはします。乗り切れるようにチートモードこと新幹線がついているので、良心的ではあるんです。
しかしながらやっぱり、ゲームとして考えるとちょっとうーんと思うところでした。
不思議が不思議のままで終わる点
この点は賛否両論、これだからこそ良いという意見があるとも思うのですが、ファンタジー部分がふわっと終わるのが気になりました。謎の影や3人の神、女神像などのところは唐突感があったため、もう少し明確な解答が欲しかったかなと思います。猫と鳥では駄目だったのはなんでなのかなあとか。この辺りは私の理解力不足もあろうかとは感じますが。
街と鐘の話として見るのならこれらの点が気にかかりました。
一方で、恋の話としてはどうしても静石綾さんのことが気になってしまいます。
綾自身も視点キャラとして動きはするのですが、彼女の内面や本心があまり見えてこないまま終わってしまうんですよね……。せっかくなら犬さんエンドで大活躍した名もなきあのキャラを視点キャラに昇格させれば、少しはこの静石さん周りの消化不良も解決したのではないかと思うのです。初めはあのキャラが街の動き自体には関わっていないから入れなかったのかなと思ったのですが、それだと静石さん自体が街と鐘の流れには傍観的な立場でしたし……うーん。
操作キャラの選考基準が気になるところです。
とまあ、こんな感じで。
良い点と合わなかった点両方書き連ねてしまいましたが、
やっぱりプレイしての感想は「楽しかった!」です。
点と点が、想いと想いが繋がる気持ち良さと、作品の中にキャラだけでなく街が広がっているこの感覚は、プレイして味わってほしいところ。男女CP、少し不思議な現代ファンタジーもの、群像劇等が気になる方向けの一作でした。
追記ではネタバレ込みの感想など。
ネタバレ注意。
<演出・エンド・ストーリー>
とにかく、最終日7時30分のあの演出が大大大大大好きなんです!!!!!
あれめちゃくちゃ気持ち良かったですよね……! 涙が本当にぼろぼろでてきて、ああこのために頑張ってきたんだなあって思えて、本当ぐっときました。
初見だと意味のわからなかった如安エンドも、愛乃エンドの後に解放されたのを見ると納得出来たり。忘れかけていた手紙の存在をああ回収してきたのにも驚きでした。
群像劇としての構成が本当に緻密なんですよね……アイテムが一つも取りこぼされない、そしてそれらのアイテムはどれもよくある、自然なもの。
いやまあアヒルちゃんは自然かというと微妙なラインですけど。かわいかったですけど。また、入手はしませんが、アイスの使い方も微笑ましくって好きです。おてんば娘にこれ一本。
私はどうしても大小原君がらみのCPが好きなので彼に注目しがちでして。あの二日目の長い長い冒険、よくよく考えると一日目の序盤からすでにその兆候が見えていたことに感動しました。構成がしっかりしている……!! 改めて物語を見返すと、彼にはこの道がぴったりだと心から思えます。
あとは翔ちゃんの初恋。これプロローグとエピローグが綺麗に繋がるんですよね……とても気持ち良いです。
おそらくトゥルー、杏奈エンドでの恋がどれもビターだったり失恋だったり妥協だったりするのもプロローグを考えると納得でした。この一貫した姿勢はとても素敵。街の話としては力を合わせて前向きなエンドへ向かったので、反面恋の部分がシビアだったのは意外でした。が、私は大好きです。
愛乃エンドを見るに、「恋は動かなければ始まらない」というのも物語に含まれているのかなあと思います。明確に振られた子達は皆そうでしたから。
<キャラクター>
特にお気に入りの子達のみ抜粋。
静石綾
この子はどういうキャラなんだろう、と考えていたら一番気になる子になっていました。
見るに、周りの期待に応えようとする優等生ではあるのだろうと思うのですが……。内心うんざりというそぶりがあるわけでもなく、どちらかというと歯車が噛み合わない感じがあります。もてはやされることへの不満はあれど、呆れや怒りではなく、なんだか普通が遠いなあという感じ。
なので観察力が合って気遣いが押しつけがましくない人が合うのだろうと思い、そういう意味で想い人像に納得はするのですが……。
やっぱり彼女自身の声をもっと聴きたかった!という気持ちが大きいです。
大小原元
物語中で最も成長が感じられる主人公ポジション。アニーに失恋した時の台詞が本当に彼らしくてしみじみしました。
彼のたどる道としてはやっぱり杏奈エンドの道が一番しっくりくるのですが、涼音に振り回されている時のシニカルな感じも好きだったりしますし、彼のようなタイプは挫折と後悔あってこそ輝く気もしているので、やっぱりどちらもおいしいです。
アニー
好き勝手してるように見える彼女ですが、エピローグを見た後に序盤のデモシナリオを見直すとその成長ぶりが伺えてまた良いです。
二人が喧嘩してるときの、「私にもわかる言葉で話してくれないかな…」みたいなセリフがすごく切なくてツボでした。言葉がなくても分かり合えた時と分かり合えない時の違いをここで出してくる、この手腕に惚れます。
竜とは結ばれないだろうけど、結ばれないからこそ映える形だなって思います。
グレゴリーハイネマン
かっこいい。敬語。紳士。もうこれだけで説明は不要でしょう。
視界ジャックを手に入れた時の超速理解っぷりに吹き出したのも良い思い出です。
スーパーマン……!
翔ちゃん
と呼びたくなる彼。
好き・萌え、というよりはキャラ造形の上手さが光っているので着目したくなるキャラです。
いるじゃないですかこういう、身近な好意には無自覚でそのわりにマウント取ってくる男! いや翔ちゃんに関してはそんな外道ではないので言いすぎなんですけれども。
そういう、「いるよねこういうタイプ」っていうのを一番感じたのが彼でした。ナチュラルに女性をお前呼びしてくるタイプ。
静石さんが振り向くか?っていうと確かに疑問なタイプでもあります。でも最初は両片思いだと思ってたんですよね……主役補正ってすごい。
と、なんだかdisっているような書きぶりをしてしまいましたが、応援したくなるという意味ではナンバーワン。キャラの中で一番生々しく人間らしいのが彼だなあと思いました。
あと単純に、静石さんのことで喜んでジタバタニヤニヤしてる彼は、見ていてとても微笑ましいです。恋してる時の胸が浮き足立つ感じがいい!
とまあ、こんな感じで。
終盤は鐘を鳴らしてやりたい一心で、ハラハラドキドキしながらプレイしていた覚えがあります。
あれ以上の後日談を求める声が多いのも納得。たくさんのキャラ達の行く先を見守りたい、そんな一作でした。