うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「Merry X'mas you, for your closed world, and you...」の感想

「現実からの逃避としてフィクションを使うのであればゲームは絶滅してしまう」

プレイヤーを想定しなければゲームは動かない前置き。

 

 

えー、今回は喘葉の森さんところのフリーゲームMerry X'mas you, for your closed world, and you...」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

まず、問題作です。

いや駄目だとかアンチだとかじゃなくて、すごくこの作品は誠実で真摯にできてるんです。“ギャルゲ”を求めてプレイすると後悔しますがギャルゲ慣れしているプレイヤーにプレイしてほしい作品でもあります。なんだこれ。

ともあれ、一本道のノベルゲームです。

 

 

 

というわけで良かった点など。

 

 

徹底したメタフィクションノベル

 

公式の作品紹介文が非常に秀逸なので、もう引用してしまいますが。

「背景素材が用意されていないがために学校から出られない。

 立ち絵素材が用意されていないがために男キャラが登場しない。

 定型的な言動しかできないおよそ脳を所有しているとは思えないヒロインたち。

 あまりにも乱雑に構成された脚本。

 ご都合主義の主人公補正。恣意的な設定。

 

 そして主人公は、自分がそんな糞くだらない物語作品の主人公をやらされているのだと自覚している。」

 

これに尽きます。初めから終わりまでこの姿勢を貫きます。

つまりはメタの極致を追求した一作です。

 

ヒロインに対しても“人”として扱ってはいないので、ところどころ暴力描写があったり凌辱描写があったりとなかなかハードな展開もありはします。が、とにかく理由と検証が精緻に組まれているので、演じさせられている感じがなく素直に読めます。

暴れたり狂気したりの展開を、受け止められる文で書くのって実はめちゃくちゃすごいと思うんですよねぇ。見せつけるような露悪感もなく、わざとらしい狂いもなく(あったとしても次の検証のための一歩として繋がり)、納得感がありました。

鬱展開というよりも「これをどう転がしていくのか?」という興味で一気読みしました。

 

 

 

初手で詰んでるトライ&エラーな生活

 

学校から出れない、テンプレの会話しかできない、まともな生活が送れない。

等々、主人公はとにかく初手で詰んでます。

そこでドンヨリと無力を嘆いたり何かしらの人間的成長を育んだり仲間と共に力を合わせて立ち向かったり、を決してしないのがこの主人公の異質であり魅力でありメタなところです。とにかく終始冷静で、仮に取り乱してもその混乱に対して分析は欠かしません。

 

この作品の大きな魅力は試行! ここが最たるところだと思うんですよねぇ。

それを体現するように主人公はとにかく頭を動かします。そして実証や検証を積み重ねてトライ&エラーな日々を繰り返し続けます。この辺りはループ物の文脈にも近いかも。

ギャルゲをさせられながらもギャルゲから徹底して逃れようとする、この歪みが一部でホラーな描写になったり電波な描写になったりもします。が、それすらも手の内であり実験の一つという印象でした。

 

 

 

デッサン力のある崩壊した立ち絵

 

公式紹介ページを見て頂くと、あれっと首を傾げたくなるスチルがちらほら見れます。少なくとも立ち絵の可愛さを推すにはちょっと厳しい画力です。が、画力のガの字すら知らない私がこう言い切れるのは勿論理由があります。

 

せっかくなので公式紹介MAD↓

www.nicovideo.jp音ハメが最高ですよね。好き。

 

グラフィックそのものというよりはこの、あまりにもギャルゲらしい制服・髪型・目の描き方・全てがメタとして切り込まれていく徹底ぶりに着目したいところです。わざとデ狂い起こしてる立ち絵、ここまで狙っているとは驚きで思わず唸りました。

リアルな写真がギャルゲ画風に混在したスチルはもう、ギャップやミスマッチを通り越してグロテスクですらあります。この歪み、違和感、生々しさをとくと味わえるのもこの作品の魅力の一つです。

 

 

 

話題の引き出しだらけの濃厚なテキスト

 

言ってしまえばメタをメタとして斬り捨てる構造がどこまでも続いていくわけなんですが、それを飽きさせないのがこの主人公、通じて作者様の引き出しの多さです。

デッサン理論から哲学科学人体の云々に文学描写まで、そこにギャルゲ文脈と二次元あるあるなテンプレまでぶち込める筆力がとにかくやばいです。教養ってのはこの幅広さに出てくるものですよね……羨ましい……。

かなり噛み応えがある文かつ一部の専門用語は知っているものとして進むところも多くはあるのですが、省略される部分は枝葉がほとんどなので、根幹の部分の理解はスムーズにいくのではないかなと思います。わかった気になってるだけかもですが!

 

 

とまあ、こんな感じで。

哲学、電波ゲー(の皮をかぶった実験ゲー)、ギャルゲ、メタ展開などにピンとくる方向け。

追記では考察というか、クリアして痺れと共に書きなぐった解釈など。

 

 

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

ネタバレ注意!

 

 

考察というか解釈というか、こういう話だと受け取ったという書きなぐりです。

断定口調だけどつい熱くなった結果なので許してつかあさい。

 

 

 

 

 

とにかく誠実な作品だと何十回でも言いたい!

嘘(フィクション)に対しても物語に対しても幸福の定義に対しても誠実だと思います。

 

目下のテーマはというかキーポイントは「主人公はあらすじに抗えるのか?」だと思ってます。ただしシナリオをわざと掻き乱すという意味ではないのは放火を諦めてる辺りからもわかる通り。さらには、フィクション世界から脱却してめでたしめでたしも邪道です。

シナリオを破綻させる、ではなく、「シナリオの範疇を超えて、フィクションの中で人間として幸福になることができるのか?」これです。

 

そのテーマにおいて、できることとできないことがきちんと説明されてます。

学校の外には出られない。元の世界にはもちろん帰れない。

何度か主人公が帰りたい出たいと言うから序盤は帰ることが最終目的のように誤認しがちだけど、外に出た時点でこの作品の次元から飛び出すことを意味するので駄目ですし帰れるか帰れないのかなんてのはもう論点ではないわけです。

だって元の世界はあのメリクリの世界に含まれていないので、元の世界に戻れましたおめでとう、と記述してしまう時点であの物語上、あの世界の中での幸福は成り立ちません。命題を叶えていません。

 

そもそもこの作品は仮定や思考の前提に対してどこまでも真摯です。

名前欄、背景の存在、デッサン狂い。メタなところを議論に上げておきながらも、

「物語だからしょうがない」

「神様=作者に任せればよい」

「地の文が幸福と書けばよい」

そんな思考放棄的なメタ結論で終わるのではなく、あくまで最後まで“人間としての”幸福を追求するのがこの物語です(だと思っています)。

ゆえに、この作品の結末にはメタを含んではいけない!

メタを含まないようにエンドが作られた結果ああいう終わり方になった!

とも言えるでしょう。

 

 

確かに終わりは欲しい。

世界が消滅しました、彼は元の世界に帰りました、あるいは永遠にあの世界に閉じ込められました。

そういう明確でわかりやすい終わりは欲しいです。

が、あの作品においてそれは最大のタブーなのです。機械仕掛けの神が登場してしまってはいけないと、作中で何度も強く抵抗されたように、それをしてしまってはそもそもあの作品の中で辻君が悩み続ける意義がなくなってしまうのです。

 

 

 

苦しんで苦しんで試行錯誤してようやくたどり着けた回答があれ!

もうねー、めっちゃ気持ち良かったです。こうくるかっていう。

本当に心からの厳密さを求めるのであればこの作品はそれこそ終われなくなってしまうと思うので、安易に屈さず、ギリギリの境界で妥協点として見出されたのがあの結末なのかなあと思っています。

 

 

余談、まーきの照れ正面顔は最高に素晴らしい。これのためにプレイをしたと言いかけそうなくらいにはたいそうめちゃくちゃたまらんかわいい。

 

 

考えたことはだいたいこんな感じ!

あらすじをなぞっているだけとも言う。

とにかくエンドの解放感がたまらなく印象的で、良いゲームをさせてもらえたなあと思いました。