「刮目せよと称すに軽く瓦版より広々と」
疾く知れ渡るが何より吉な前置き。
えー、今回はリンネ堂さんところのフリーゲーム「獄都事変」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
和風ホラー探索ゲー。鬼ごっこは一応有り、謎解きは多め、でも難易度は基本甘めの易しい仕様です。
かなり人気作なだけあって私自身も多少のバイアスを避けられないままプレイしました。が、蓋を開けば、無難・王道なホラーフリゲ入門編という印象の強いゲームです。
というわけで、良かった点など。
おどろおどろしさがよく出た世界観
特筆すべきはOPの雰囲気づくりかなと思います。
温度の感じないコンクリート壁、開かない扉と点滅する電灯、淡々進む軍服の男、プレイヤーにはまだ明かされない彼の目的、等々。「これから何が始まるのか」という緊迫感に身の引き締まるOPでした。
また、ドットグラフィックにかなりのこだわりが感じられ、古めかしい日本の雰囲気が如実に感じられる世界観です。
細かいところだと、カチャンと音が鳴るタイプライターとか!
メインマップとなる校舎も、木造の抜けた床や薄暗がりが恐怖感を煽ってくれましたねぇ。
キャラクターも重たく色味を抑えた顔グラ・歩行グラで、全体的に統一感のある作品だったように思います。
一目でわかる異常と恐怖
血糊ドットや真っ赤な掌、目玉がぎょろぎょろ、ふと振り返った廊下に嫌なもの、などなど。視覚的な演出がガッツリ仕込まれている印象でした。私は文字から想像して怖くなるタイプなのですんなり進められたんですが、逆に、見てわかる不気味さが怖いタイプの人にはかなりキクと思います。
また、探索時に「扉を開ける」「カーテンを開く」等の行動で一手置いてあるのも注目ですね。待ちを入れることで、プレイヤーのこちらは次何が来るかと考えてしまって、さらに恐怖が増すんですよ。ここは上手いなあと感じました。
癖があっても受け入れやすいキャラクター
キャラクター人気の高いこの作品、主人公と同じ立場のキャラは多く登場しますが、彼らはあくまでサブに徹しています。セリフもキャラの性格や喋り方が察せられるよう、シンプルで最低限。全体的にほどよく抑制の効いているキャラの見せ方だなあと感じました。
キャラ同士の絡みに無理やり感がなくて淡々としてるんですよね。キャラを深読みするもよし、ほどよい淡白さを味わうもよし。女性人気の高いゲームではありますが、本編自体は薄味フラットな印象でした。
あと獄卒の皆さんってなんとなく「仲間」とは呼び難いところがあるんですよね。そこまでベタベタしてないし、信頼ってほど前向きな感情でもないように感じまして。ただ勤務中に様子見してくれたりなんだかんだと手を貸してくれたりする辺りは、無関心でもない……捻くり出すなら同郷意識という感じかなあと思います。
一言の裏に見える世界設定
グラフィック面で見せてわからせる世界観も勿論なんですが、語らずわからせる世界設定もおいしかったです。
例えば、斬島があっさり“彼ら”と会話して初めて、プレイヤーは斬島もあっちサイドのキャラなんだとわかったり。佐疫と田噛がさらりと交代するけれど、そのことについての言及はなかったり。
作中のキャラクター達にとっては当然の事実なので、わざわざプレイヤーに明言はしない……それでもきちんと察しのつく演出。ここに、押さえるべきところを押さえている手堅さを感じます。
のんびり屋って設定のキャラの初登場シーンがあれってのもなかなか、こう、上手いですよね。キャラのインパクト的な意味でも、設定開示的な意味でも。終始見せ方を心得てる作品だなあとしみじみしました。
一方、難点もいくつかありまして。
本筋のストーリーが簡素
幽霊もの感動路線の王道を行ってはいるのですが、言ってしまえばよくある話、ホラー慣れしている自分としては少々物足りなかったです。
ただ、主眼はストーリーよりキャラと考えればむしろ邪魔な演出が一切なく、とんとん拍子に進む取っつきやすさはあったのかなとも思います。
探索が虱潰し
ここはどうにも、率直に言って面倒でした。
ノーヒントであの数の教室をぐるぐる周回しながら虱潰しするのは、いやあ骨が折れる! 攻略前提なのかもしれませんが、探索ゲーってうろついている間に作業感が増してしまって、ホラーならではの緊迫感は薄れていってしまうんですよねぇ。
キャラがもっとぐいぐいと進行のヒントを喋ってくれれば良かったんですが、そういうことをしなさそうなのはまあ本編を見ればわかりますし。かといって斬島はあの学校においてアウェーなので手助けの貰いようが無いという。
骨格標本や人魂がもう少しヒントやお助け要素として機能していれば良かったんじゃないかなー、なんて。あるいは教室をいくつか進行不可として潰してしまうとかかな。
タンスを開けると縄ぶらり、みたいな驚きポイントは上手かったので、なおさら惜しく思われました。
さて、ひと昔前にこんな記事
を書いたのですが。
そこに書いた通り、導入作品としてある種の手法が際立ってはいると思います。
逆に言えば、本編だけを見るとかなりのあっさり味なので、二次的な盛り上がりがしづらい人にはおススメしかねる作品なのかもしれません。少なくとも、私としては無難な位置づけの作品な印象です。
といっても前述の通り、舞台設定だけでも光るものがあるので、和風物に興味があるなら合うはず。そもそも取っつきやすさが売り、なゲームですしね。
追記では、ネタバレ込みの感想をちょこっと。
ネタバレ注意。
斬島がかっこよかった
いやあ、サブキャラに注目しがちな私にしては珍しく、真っ当ド直球に主人公がツボな作品でした。良いよね斬島!!
ときめきポイントは、寝てる平腹を探って食べ物を探してるシーンでした。あれで萌えてすっかり惚れました。そこかよって言われそう。そこです。
なんだろうな、キリリと真面目な顔をして頓狂なことをやらかしてくれそうなポテンシャルが好きなんですよ。天然まではいかない、任務遂行のためにちょっとイリーガルをやっちゃうこのズレた真面目さ。
ステータス画面の立ち絵もそもそもかっこいいですしねぇ。
もしもホラー要素が全面に出ていたら
作者様のブログ等拝見したところ、初期想定やハロウィンネタの獄卒たちは、かなりゾンビものライクな見た目らしかったんですよねぇ。
個人的にはこっちの方面で突っ走ってくれてたらもっともっと好きになれていたのかもしれないなあと思い……。一方で、この爆発的な人気は獄都という作品が持つ色を抑えに抑えたからこそできているのかもしれないなあと思うのも確かです。
なんというのかなあ、魅力は感じるんだけど、そこを押し出してしまうとこの作品の最大の強みである万人向けの要素が減ってしまって、人気は減るだろうなあという感じ。私は薄味より濃味のほうが好きだけれども!
それにまあ、好きというバイアスがかかれば以降何が出てこようが反射的に好き、というタイプの方もいるので、案外なんとかなっちゃうのかもしれませんが。
ともあれ一面を濃くすれば裏面が薄くなる、ジレンマのうえで出来てる作品だなあと思います。何より、下手に色が出てマイナス要素が零れ出てきてしまうと惜しいなという気持ちもあり。
番外編扱いのFILAMENTをプレイしてみれば、また意見が変わってきそうな気もします。
ここまで書いといてなんですが公式は人気になるためにはどうすればみたいなことを一切悩んでいないっぽいんですよね。そういうところ好きです。自然体大事。
本編自体がプレイヤーやキャラから距離を取りまくっている作風だと思うので、作者様のファンや創作活動に関する公開スタンスも含め、ここが味なのかなあと改めて思いました。