「ああ世の中クソばっかりだ、もちろんあたしも含めてな!」
とっとと死滅するのが世界平和な前置き。
えー、今回は永遠の文芸部さんところのフリーゲーム「スタゲット」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
ラストに分岐あり、基本は一本道ノベルゲーム。
主要人物は可愛い女の子で構成されていますが、作風はくそったれの社会に泥を塗りたくって唾を吐きかける風刺系ノベルです。
前作前々作があり、今作がシリーズ完結編(と思われる)扱いの作品のようです。
ふりーむ等にシリーズ物の記載が無かったためうっかりこの作品からプレイを始めてしまったのですが、前作の概要は本編で軽く触れてもらえるので、未プレイでも安心です。私はプレイ後に気になった単語をググって初めて前作があったことを知りました。やっちまったい!
というわけで良かった点など。
固定観念と怒りに満ち溢れたストーリー
読んでいて何度も感じたのは、とにかく怒りでした。
単純に登場人物達が常に苛立っていることや口の悪さもありますが、それ以上に注目したいのは作中叩きつけられる意見のとんでもない狭さです。
誰もが一度は感じた事のあるであろう、社会の理不尽さに対する怒り。どいつもこいつもバカばっかりだと言いたくなる気持ち、マスコミ=悪、人に合わせてへらへらする居心地の悪さ!
実際こういう完璧な悪ってなかなか居てくれなくって、逆に居てくれれば殴ってすっきりするからいっそ居てくれと言いたくなるんですが、そこはまあさておくとして。
作中の文は、固定観念と偏った物言いに溢れています。登場人物が成人しているとは思えないほど幼稚な考えもバンバン飛び出ます。都合の悪い反論はことごとく見えていない、固定観念を一人で強固にしていくような文体です。
が、だからこそ、この作品を推したいんです私は!
なんでこの作品はこんな偏った語り口なのか?
決まってます、皆そりゃもう、めちゃくちゃ怒ってるからです!
もう、冷静な反論とか根拠づけの調べ物とかできないくらい、自分の中で煮えたぎるものを無理やり言葉にしてガンガン固めてゲシゲシ蹴り飛ばしてやらなきゃ済まないくらい、怒ってるんです。怒ってる最中に周りのことなんて見えるわけが無いし、視野狭窄も固定観念も当然です。
上から目線でお説教臭く語るんじゃなくて、渦中でひたすらもがいている。誰もが子どもの頃に感じて、そして色んな視点や考えを知って忘れていく怒りを、あえて真正面立ちはだかって叩きつけている。それがこの作品だと強く感じます。
この爆発的な感情が作品に昇華されているのは凄いなあとしみじみ。
大人になっていく悪ガキたち
ハイクオリティの立ち絵も必見、その中でも特に注目したいのが、キャラ達の服装でした。
もちろんこの作品が今記事を書いている現在と比べて2年前であることも加味すべきではありますが、皆の服装が若すぎるんです。りこはまだ童顔で得してるキャラかな、でも主婦があの恰好はうわあと思う。中でも特に可奈子の服装がすごく子どもっぽいんですよね、あの服は10代後半~20代前半って印象。少なくとも25歳には若すぎる気がします。
これ、彼女たちの自意識が全く大人になりきれていない示唆だったら面白いなあと思いました。
年ばかり過ぎていくのに考え方や生き方は子どものまま、社会に対してどうしようもない理不尽と憤懣を重ねていって、とても物分かりのいい大人にはなれそうもない……そんな感じ。
グラフィックだけでなく、最終章に辿り着くための選択肢もかなり毒が効いていて楽しかったです。「ここをプレイヤーに選ばせるか!」という驚きがあり、いやあ、実に身を切られる思いで選びました。
疾走感と爆発力のある名文
作中の比喩や、捲し立てるセリフの切れ味が凄まじかったです。多少支離滅裂なんだけど伝わるパッションとか、とにかく怒ってる時ってこうなるよなあとリアルに感じるやり取りとか。
なんだろう、冷静になると噴き出しちゃうんだけど言ってる当人は真剣にガチ切れしてるセリフがすごく上手でした。やっぱり作品全体が怒ってるんだよなあ。
頭ちょん切ってバスケットボール~のくだりと、トイレットペーパーを自分で買わなきゃいけない時期がくるんだよ~のくだりがほんっとう好きです。こういうキレッキレのセリフが聞けるのはフリゲだからこそだよなあと感じます。
往来で人を脅し上げたりカフェで騒いだりするのにためらいがないところも、突き抜けて反語的な描写だなー、なんて。
絶望と胸糞の狭間
あと上手いなあと思ったのが、「幻滅」の描写です。
一番わかりやすいのは皆大好き玲奈ちゃんのシーン全般ですかね。なんだろう、信用とまではいかないにしても、好きだとかこの人なら少しはましなはずだとか、ぼんやり感じていた最低限のラインをやすやすと踏み越えていく大人たちへの絶望や憎しみがそりゃもう煮凝りのように叩きつけられます。あっけなさと容赦のなさが素晴らしいところ。
そしてここでもやっぱり「どうだ酷いことをしてやったぜ!」というイキリではなく、「ああもうやってられるか、どうせこれがお好みなんだろう!?」という逆説的な怒りを感じます。
何より、そうせざるを得ない虚しさですよ。逃げ道がない、昇華の仕様がない、我慢しろというのはふざけろ説。普段はダウナーな鬱のほうが好きな私ですが、この作品の物事全てに殴りかかるような鬱もかなり気持ちがザワザワして、作者の熱を感じて良いなあと思い直しました。
ファンには嬉しいおまけセット
なんとEDはオリジナルのボーカル曲で、それが二曲も楽しめる豪華仕様。
バッドエンドの曲がすごくかっこよくて好きなんですよー! ああいう曲調なんて言うんでしょう、クサメタルまではいかないけど、ゴシックロック? クリアしたけど今後もいっぱい聞いていきたい所存。
この他おまけセットとして、壁紙サイズのタイトル絵と他作品のボーカル曲も同梱されています。ついつい過激なテキストばかり見てしまいますが、グラフィックや音響面も確かに水準の高い作品でした。
ボーカル以外の曲にしても、こういう現代ものの作品でああいう民族調やちょっとメロディアスなBGMをチョイスするのは珍しいなーと思います。センスが良い。
とまあ、こんな感じで。
- 社会に感じる理不尽にしばしば怒りを感じる
- ことの真相を探し求めずには居られない
- 風刺と皮肉に塗れた毒っ気のあるテキストとエンディング
等々にピンとくるならプレイしてみてほしい一作でした。