「同じを手に入れられないぼくたちにそれでいいと言わないで欲しい」
どうにかどうしても同相になりたい前置き。
えー、今回はTake it easy!さんところのフリーゲーム「Aster」「Try!(今でしょ!)」「Share」「しぇあ!」「キミとKISSがしたいのだ!!」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
どれも短編で分岐ありのノベルゲーム。
「Aster」→「Try」→「Share」→「しぇあ!」は明確に時系列順で繋がっており、「KISS」についてはゲストキャラっぽい登場で関連がある作品です。
というわけでラインナップはこちら。
『Aster』
[概要]
一定時間以上離れることができない、びょーきの話。男女幼馴染。共依存。シリアス。
近年プレイしたフリゲの中で一番好きかもしれません。
[感想]
まず発想が好きでしたねぇ。
手を繋いでいないと呼吸すらうまくできないっていうまさに共依存なところ。設定だけみると非現実的にも思えてしまうのですが、カウンセリングや認めない教師、許してくれる大人と遠巻きにするクラスメイトなどを見せることで、だんだんと二人の触れている世界をリアルに感じられるようになっていきました。
そんな現実を見せたうえで、これからどうしていくのかという絶望が立ちはだかるのが大きな分岐点です。
共依存というテーマではあるものの、モラトリアムの終了など、色々と共感しやすいつくりだなあと思いました。
ゆーきのことについて。
なんだろうなあ、世間一般で見たら、ヤンデレと評されるかもしれないキャラだと思うんですよ。でも彼のことはあんまりヤンデレって言いたくなくて。弱っている子というか……立ちかけてる小鹿というか……悲壮な感じが辛くて好きです。
初めはカウンセリングの先生の言う「甘えたがり」みたいな評価がピンときてなかったんですが、物語を進めるごとに重く突き刺さってきました。あのざっくばらんとした喋り方も、もしかすると否定を恐れて先に突き放すような感じなのかなー、なんて。
[ネタバレ]
『夏葬』でも語らせていただいたんですが、やっぱりこの作者様は名前欄を使ったギミックが上手いですよね……! ゆーきとあーこの名前が変わるところも好きですし、さりげないところだと、カキモトくんのところも好きでした。
カキモトくんが柿本くん表記になることで、ああ名前もおぼろげだった彼がようやくあやこの中で向き合うべき一人の男性になったんだなあって思って、じんと来たんですよね。
そういうわけなのでやっぱり前向きで変化を受け入れるエンド1-1も好きなんですが。
やっぱり重苦しくってどうにかならないものをどうにかできたかもしれないと思うエンドも好きなので、つまり、私のお気に入りはエンド3でした。
ゆっくりゆっくり、丁寧に描写を重ねて、あーこが泣いて縋った瞬間にはっと息が詰まりましたよね。ゆーきはあーこに同じ構図を作っちゃったんだなあって。ゆーきの「ごめん」も色々と深読みができてすごく胸にきます。この瞬間、恋愛の芽だったはずのあーこの気持ちがもう違うものになったんだろうなあと思って、そういう見えないところで消えたものを想うとすごく鬱で、好きでした。
初めはゆーきのほうがあーこを好きだと思っていたので、意外な展開でもありましたねぇ。でも確かに思い返してみたら、ゆーきのほうが生存戦略というか、必死なのに対してあーこは一応余裕があるように思えて……。ゆーきは生きるための手段としてあーこを握ってるけどあーこは気持ちの表現として手を握ってるみたいな……。
同じことをして同じものを共有しているのに、なんだか二人の態度がそれぞれ違うように見えるのも、さりげなく自然に上手い描写だなあと思いました。
いっぱいいっぱいハグしてる二人が好きです。
[一言]
依存の重さとままならなさを噛み締めたい人向け。
『Try!(今でしょ!)』
[概要]
上述『Aster』で重要なサブキャラ()として登場した柿本君がメイン。しっかりBL。真面目×誘い受けな感じ。シリアスだったり明るかったり。
[感想]
時系列としてもAsterの後に位置する作品。
元々柿本君は前作から、自分の本音は一歩引いたところから見せてくるような印象があるなあと思っていたのですが、それが本格的に剥き出しになる感じでした。根アカなんだけど自分に対してだけちょっと雑というか。
そりゃ好きなほう(谷君)からしたらもだもだするよね!と思うところもあり。
初回プレイではこう、ままならない気持ちが全てツンに現れてしまい、見事行くに行けないエンドへ辿り着きました。ごめんなごめんな。
掛け合い自体は終始明るめ。ところどころ、ノンケが感じてしまう一歩びくつく気持ちにも踏み込み、好きとしっかり向き合うために重苦しい雰囲気になることも。ですが、最終的には前向きな気持ちで応援したくなる作品でした。
[一言]
生真面目照れ屋×チャラっと見せかけた誘い受けの、恋人未満な距離感をじっくり味わいたい人向け。
『Share』
[概要]
上記2作の続編。ルートによって切なかったり明るかったり。メインとなる視点は『Try!』の二人なのでBL中心ですが、『Aster』の二人のその後もしっかり語られます。シリーズ好きな人に嬉しい一作。
[感想]
好きの形は同じじゃないといけないのか、ってところに踏み込んでいく良作だったなあと思います。恋愛話でもよくありますよね、相手は湿っぽいけどこっちはドライみたいで心地よい距離感が掴めないみたいな。
今回のメインは「好きなのにできない」、二人が優しく相手を気遣っていて、本当に心から大事にしたがっているからこその上手くいかなさが丁寧に語られます。これが痛いの辛いの愛しいのって。
恋愛相手の性別問わず共通するテーマじゃないかなーなんて。
[ネタバレ]
キャラは皆大学生になり、距離感も行為もちょっとずつじわじわ進んでいます。特に『Aster』の二人はかなり変わったなあとしみじみしました。
『Aster』をプレイした時、この『Share』に続くエンドってある意味二人の二人にしか理解できない世界が終わったとも思えて、やっぱり少しだけ寂しい気持ちもあったんです。それがこうやって綺麗に、丁寧に良い方向へ変わったんだと語ってもらえたら、あの時の惜しい気持ちもなんだか報われたように感じました。
なんかまあ、私一人が勝手に切なくなって勝手に嬉しくなって良かったなあって思ってるだけなんですけどね!
あと、谷柿本の関係がすんなりと受け入れられてるところも良いなあって思って。
思い返せば綾子も柚輝も、「おまえたち付き合ってるだろ」とは言ってないんですよね。なんとなく気づいているし、どことなく事情もわかっているけれど、「応援するよ」とだけ残していく感じ。で、谷も柿本も、「おまえらいつから気づいて……」みたいな話をしないんですよ。気づかれていることをまた受け入れてる感じ。
なんだかここが、すごく、すごく自然で好きだなあって思ったんです。泣きそうなくらい。
どうしても、まだマイノリティって思われている関係性が描かれる時って、過剰になりがちじゃないですか。指を刺されるというか、特別感が際立つというか。そこにスポットを当てるか当てないかで作品の方向性ってかなり変わると思うんですよね。
で、特別な扱いにしんどさを感じているらしき谷や、無理解な人に遠ざけられる綾子柚輝をさんざ見てきたからこそ、こういうふうにするっと入ってくる描写ってすごくいいなあと思いました。
こうやって尺を割いて取り上げてしまうこと自体が、なんだか異質だと指さしているみたいで、本当にままならないんですが……。本当、すんなりと入ってくるような優しい距離感の描写だったなあと思います。
[一言]
シリーズやったならこれも是非!
『しぇあ!』
http://cult.jp/skycat/share_af/
[概要]
谷と柿本が好きになったら迷わずやろう!な番外編。『Share』の後日譚的な小話が複数。
[感想]
起動時のメタメタ小話に笑ってしまいましたw 好き! ちゃんとセーブ推奨してくれるところもファン心理突かれますよね。
そういえば、シリーズ総じてLoadもRoadですよね。私って作者様に直接コメントした際に(私の長文癖やらタイミングやらが悪いんだと思うんですが)そのサイトが閉鎖していく経験を何度かしているのでこちらから作者様に指摘しにいくつもりはないんですが。人生の分岐点みたいな作品が多いですし、彼らの道と取ればそれはそれでオシャレで好きかもなあなんて。
余談はともかく。
いやあ、見届けたなあって感じのする、読後感のよい作品でしたねぇ……。
本作は短編連作形式、彼らの後日談や綾子と柚輝のちょっとしたこぼれ話などが見られます。各エンドのアフター話もあり、すっかり大学卒業して社会人になった彼らも見られる豪華仕様。
彼らの人生の一部を追って来れたんだなあと思うと感慨深いものがあります。
どの話も会話のテンポがよくて、ゆるーく優しく受け入れ合ったり傷つけあったりしているところが、うん、いいなあと思います。
ただ一点、初恋の人関連の話でえらく個性の強い新キャラが登場したのでどうしたのかなーと調べたところ、どうやらこのシリーズとはまた別の作品が絡んでいるらしいです。そっちを先にやっておけば良かったなあと後悔。やっぱりシリーズ物や作者様追いする時は公開順にプレイしないといけませんねぇ。
作品の中では特によっぱらいがめちゃくちゃ好きです。ツッコミに紛れて柿本が谷の一人で崖へ飛んでいく性質をきっちり掴んでいるところがツボでした。
[一言]
バッドな世界の彼らもハッピーな世界の彼らも見れる、短編連作。
『キミとKISSがしたいのだ!!』
[概要]
そんなわけで上記の流れで『しぇあ!』に登場した初恋のお兄さんの今カノ話をプレイ。エンド分岐あり男女恋愛。内気で奥手な片メカクレ先輩×押せ押せラブラブな直球後輩。
[感想]
タイトルの勢いが好きだなーと思ってプレイを始めたところ、いやはや、思った以上のパワーがあってめっちゃ微笑ましい男女恋愛ノベルゲーでした!
こうね、こういうね! 恋する乙女の押せ押せなところってすごい可愛いですよね! それでいてしっかり照れちゃうところもまた可愛いんだな……。
先輩のほうも、片メカクレで黄色目でネガネガしい陰気ででも一途に彼女さんのことは大好きっていう、大好き過ぎて大好きっていうところが、ほんっと萌えました。はぁかわいい。
この二人が将来ああなってそうなるのかーと思うとたまらんですね。
エンド3だったかな、思わぬ不意打ち食らったわたしさんの最後の叫びと「気にしていたがため!」みたいな急な文語口調がめっちゃツボでした。出るよねそういう口調ね。テンパるとね。
柿本くんのセリフもそうなんですが、セリフのテンポと、自然なのにくすっとくる言い回しが本当うまいなあと思います。
唯一の欠点はBGMが初期設定だとたいそう小音量かつボリューム調整が行えないところ。無音ゲーなのかなと思いながらプレイし、必読の音素材の記載を見て初めて気づきました。普段からPCボリューム大きめの方やスピーカーの方なら問題ないかなーと思います。
[一言]
めちゃくちゃかわいくってパワフルで元気の出るラブコメをみたい人向け。
とまあ、こんな感じで。
この作者様の作品は、他にもサブキャラ同士が繋がってたり、web小説にちらっとお名前が出ていたりして、キャラクターがこの作者様のワールド内で生活している感じがすごく出ているので作者追いをおススメしたいです。ぜひとも!
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