うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「いばらのうみ」感想

「全ての温度を振り払い、貴方の感覚だけが散らばって」

それでもかすれた光どうか消さないで欲しい前置き。

 

 

えー、今回はearin(あーりん) さんところのフリーゲームいばらのうみ」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ウディタ製で基本システムはRPG、一本道をひたすら前進し続ける、いわゆる雪道ゲー。序盤はけっこうカツカツですが、終盤はするするっと進んでストーリーや世界観に集中させてくれます。

死に覚え、トライ&エラーの戦略ものと書いた方がいいのかな。

 

ともあれ良かった点など。

 

 

低温な重さとなくした帰り道

本作はノンフィールド、一歩進んだらもう戻れないタイプのゲームです。そして道のりの厳しさを強調するように、一歩進むたびにダメージを食らう仕様となっています。また、軽率にアイテムを使ってしまうと終盤に“詰む”ことも多いにあり得ます。

目的は、進み切って、辿り着くこと。

この厳しさこそがこの作品における大好きなところなんですよね!

 

例えば、某敵はパターンを読んでこちらの行動を詰めるとぴったり固定値でHPを削り切ることができます。

この、数字的な美しさ!

パターン行動の、余地も無駄も無いスマートさ! 

興奮しません!? 私はする! 文系なのに! 

実際ある程度プレイ用に攻略メモ等々用意してみると、意外と抜け道や取れる手段が多いんですよ。

それに気づくまでの序盤はなかなか厳しい道のりですが、一歩一歩踏みしめて、どう戦うかどう切り抜けるかをうんうん悩むのがとても楽しかったです。特に私は慎重派なので進みが遅かったんですが、このプレイ感のおかげで、まさに茨の真っただ中にいる緊張感が味わえました。

 

 

絶妙な配合のオマージュ元とオリジナル世界観

 

さて、もうタイトルでピンとくるコアな方もいるかと思うので書いてしまいますが、鬼束ちひろ氏リスペクトな要素がふんだんに盛り込まれています。タイトルに始まり、技名、アイテム名、主人公の服の意匠などなど。はてはセリフの一フレーズにも。

特に私はこの手の元ネタ探しとかが好きなので、この作品が楽しかったのもあってついつい自分の好き曲を聞き漁ってしまいました。BORDERLINEいいよね。

 

一方で、かなり独自性の高い要素もふんだんに含まれているのは、公式サイト等のスクショなど見て頂ければ伝わる通り。

作中では世界観を紐解くカギとなる「心話通信」から、謎の指令や窮屈なディストピア環境を察せられる地上の様子など、彼らにとっての現実味を帯びたセリフを聞くことができます。

そもそも、陰鬱で傷だらけの世界の中をただ進んでいく――――これだけでもう絵になる魅力がありますよねぇ。

 

こういうオマージュ元の世界観と独自の世界観がうまく交じり合って、かなり変わった味わいが出ている作品だなあと思いました。文体の色が読めないけど、それこそがこの作品の文体っていう感じ。

細かいところだと「セーブ」でなく「セ~ブ」だったり、readmeが「よめるよ」(読んでねじゃない辺りがなんかゆるくてよい)だったり、時折柔らかな言い回しが出てくるのも、なんだかすごく独特だなー、なんて。

 

 

ストーリー重視もスコア重視も楽しめる

本作をプレイするにあたり、世界観重視の私のような方は、前述の「心話通信」で語られる欠片からどういう世界でどういう話なのか想像を膨らませるのが楽しくなるはずです。敵名やアイテム名がどれも詩的なのがそれに拍車をかけてますよね……。

転じて、クリアすると自分のスコアが閲覧できます。時間は関係なく、どれだけリソースを残してクリアできたかという感じ。詰将棋のシステム面が好きな方も、大いに楽しめる作品だと思います。

 

 

コーラスの力強さが際立つBGM

そして注目したいのがBGMの選曲センスです。

コーラス入りの曲が戦闘で流れる演出だいっすきなんですよね!

しかもこの作品は特にバトルの厳しさが際立っているので、ボスの強敵感がなお増してくれました。背景色が刺々しく異彩を放つのも併せて、世界観がより濃厚になっているなあと感じます。

道中のBGMもしっとりとした雰囲気がほどよくて、バトルの時はもちろんのこと、なかなか勝ち進めないステージをどうクリアするか熟考する時もぴったりの曲でした。

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

まさに過酷な世界観で、励まされたり突き放されたりしながら、試行錯誤を楽しめる一作でした。

追記では色々考えたことや、自分のプレイングなど。

 

 

 

以下はネタバレ感想です。

 

 

 

ネタバレ注意!

 

 

一部ツイッターで垂れ流していた内容を改めて整理。

 

 

 

攻略メモ

だいたい私はこんな感じで進みました、の履歴。

他の方のプレイが見たくなるゲームって良いですよねぇ。

なお、ネタバレがもったいない、試行錯誤が楽しいゲームだと思うので、

未プレイの方はご注意ください。

 

<1>食刺で攻撃4回上げる

 

<2>ムルソーがHP29残りなら刺ダメージも耐えられるのでホタルは使わない

 

<3>HPに余裕があれば先にMP上げてからオアシス

 

<4>固定ダメージしか通らない&敵の攻撃対象も固定

2ターン目にロボタ、4ターン目にムルソーへ攻撃がくるので、二人はそのターンだけ防御。HPが4ターン目で綺麗に削り切れます。美しい…!

 

<5>お買い物 事前にロボタの武器を外す

ロボタの装備とホタルをいくつか売る

ブーストアーム、導火線、とりの装備or遠距離武器を買う

 

<6>

1ターン目はロボタもとりも攻撃技

2ターン目以降はロボタがビーム8、とりは防御

 

<7> 敵名はインド神話に登場するガルーダと同じものとのこと

ムルソーのとりのはじめをロボタに渡す

ロボタロケットパンチ ムルソー殴る とりダイヴ

もし<5>で遠距離武器を買っていたならムルソーかとりに装備させると楽

 

<10>

1ターン目

ム装甲 ロボタアタックモード とり氷爆弾

2ターン目以降

ム刺炎 ロボタパンチ とりホタルか自爆

敵のHPが240くらいになったら自爆(自爆で与えられるダメージは190くらい)

HPの削れ具合によってはラストターンのロボタはビームの方がMP温存できる

 

<11> 1ターン目に強烈な全体攻撃がくるので防御

 

<12> 遠距離武器を持っていたら持ち換え

なくても矢とロケットパンチとダイヴ

矢&ダイヴだとたまにHP1残るのでパンチ&ダイヴで1匹屠る 

次の1匹をムの攻撃で削る

 

<14>

1ターン目  電子レンジで防御↓ ロボタは遅いので刺炎と氷塊

2ターン目  大切断とか氷塊とか殴るとか

 

<27> 縦横、縦横、縦横、回復、縦横、通常攻撃

敵のスピードが速いので回復のタイミングは早めのほうがいい

 

 

と、特に詰まったのはこの辺りでした。

結果として使わずに残ったのは、時計2、氷爆弾1、陽炎2、ホタル20匹。うーんチキンプレイ! もう少し攻めまくって戦うか、初めから売ってハイスコアを狙うかしておけばよかったのですが、これはこれで私らしいプレイングなので満足です。

臆病風の自分が頑張って立ち向かえたんだということにしましょう。 

 

 

<作品解釈など>

 

・ロボタととりについて

 

電子レンジを応用したスキルが好きです。

いや、ここで電子レンジって単語を見ることになると思っていなくて、なんか強烈な印象に残ったんですよね。考えたらロボが居る時点である程度の科学水準があるから電子レンジも自然なんですが……。なんというか、ムルソーにも電子レンジを使ってジュリエッタと朝ごはんを食べるような日常があったのかなあと思いが遠くへ馳せました。

 

このふたりが一緒にいてくれて本当に良かったなあと思います。

仲間とか友達とか同士とかじゃなくて、一緒にいてくれるって感じが好き。

もしもロボタととりが居なかったとして、きっとムルソーは例え一人でも進める人だと確信できるんですが、私ことプレイヤーのほうが多分辛くって進めなかったと思うんですよね。システム的な意味はもちろんのこと、気持ちとして。

 

心話通信でどうしても、ムルソーはまるで悟りを得るみたいに、色々なものを捨てたり捨てられたりして進むじゃないですか。あの世界観は大好きなんですが、やっぱり気持ち的な部分は変わってくるんですよ。あの暗くて痛みばかりの世界で、進むのは、とりやロボタがいないと私にはとてもできなかったと思うので……。

だから、ロボタととりがいてくれて良かったです。ありがとうね。

 

ところどころでムルソーだけで戦うことになったり、とり&ロボタだけで戦うことになったりするのも熱くて良かったですよねぇ。しゃべらなくても信頼みたいなのは描けるんだなあって思って、しみじみしました。

 

 

ムルソーについて

 

卵子受胎法、の辺りでぼんやりとY染色体を持ってない人なのかなあと思っていたのですが、作者様のつぶやき曰くそうらしいです。なるほどなー。

ムルソーはあんまりこう、何かの枠に嵌めたくないと言うか。主人公であり私の手で動かしているキャラクターな一方で、確固たる意志で私の手の外側で動いている主人公という印象が強いです。なので、迂遠な書き方で。

 

「探求者」というのが茨の道の先にある何かを求める冒険家なのかなー、と……

……思わせていたところで終盤に探求者が別の意味を持つらしきことがほんのりと分かる流れが感慨深かったです。ムルソーにも孤独の二の舞になる道が確かにあったんだろうなあと解釈しています。

 

私ねー、ジュリエッタの「もうどうでもいい?」が本当に大好きなんですよ。

一番大好きな台詞です。

ムルソーは、過去に結び合った人からも理解されない何かになってしまったんだなあとか。あのセリフにムルソーは何も返さないってのもまた良くて。何もないからこそ、本当にどうでもいいのか、それとも唇を噛み締めているだけなのか、色々と考えられるんですよね。しかも、プレイヤーから見るムルソーだって不透明なままで……その謎がさらにプレイヤーの先へ進むモチベーションになるという……本当に良かったです。

 

 

・エンドについて

 

上記の通り、ムルソーはミステリアスなキャラという印象が強かったんですね。だからあれだけ色んな人に色んなことを言われて、励まされたり捨てられたりして、こっちも何一つ返さずただ真っ直ぐ進んできて、やっと辿り着いたところがとても意外でした。

エンディングというか、あの痛々しい旅路の目的がとても個人的だったのが……。この人はたった一人を目指して全部捨ててきたのかという驚きが強かったんですよね……。ムルソーにはそういう感情や私的な何かが無いものだと思い込んでいたし、思い込まされていたんです。周りの言葉で。だからこそエンドの衝撃度が大きかったのかもしれません。すごいなあ……。

 

プレイ直後は心話通信から漏れ聞こえる地上の状況などを考えて、ディストピア的に管理されている世界なのかなとか、地上にいてもムルソーは資源的に使い尽くされる運命だったのかなとか、それが嫌で逃げ出したのかなとか、色々と妄想を膨らませていたんです。

 

が、改めて時間を置いてみると、「帰ってきたよ」の意味深さが光りますね。

家族の元にという単純な意味かもしれないし、もともとあの場が故郷だったのかもしれないし……。

 

何とでも解釈できるように余地を置いてくれている作品だと思うので、私も無理に根拠を探しに行ったり考察を組み立てたりするつもりはあまりないのですが、ポイントを立てて色々と思うところを作ってくれるのが上手い作品だなあと感じました。

不透明なままのほうが似合う作品もこうしてあって欲しいと思います。

 

 

 

と、こんな感じで。

ムルソーのバンダナとかスキル名とか低空ですべる翼とか、元ネタがわかると数珠つなぎで繋がっていってくれて、そういう意味でも楽しかったです。元を知ってても組み方がものすごく独特だから、見ていてすごく新鮮でした。

素敵なアルバムをこの作者様にしか作れない解釈で編み直した箱庭みたいな……?

 

うん、とても他にない、唯一の世界観に浸れて楽しかったです。