「たとえ魔であっても良いから永遠に魅せ続けていて欲しい」
アートの前には善も悪も無力な前置き。
えー、今回はFuming (ふーみん) さんところのフリーゲーム「美術空間」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
プレイ時間は私の場合だと9時間、エンド分岐ありですが基本的には一本道に集約されるRPGです。一部にホラーと見える描写と、がっつり鬱展開もあり。ただし、誠実にこちらを盛り上げてくれる作品でもあります。
というわけで良かった点など。
美術を冠するにふさわしいマップ作り
初めてこの作品のタイトルを見た時、まずぎょっとしたんですよ。よっぽど自信がないとこのタイトルはつけられないだろうな、と。やっぱり美術と名を冠するからにはそれにふさわしいだけのグラフィックが来るんだろうと。
そんな期待を大いに超えてくれる!!
本当にタイトル通りのアートなグラフィックでした!
「美術」「絵が上手い」という表現って、その一言では表しきれないくらい幅広い意味を込められていると思うんですが、この作品はまさに絵画の美しさ・パワフルさ・奇怪さを感じます。
本当幅広くて、それなのに統一感があって、もうね、もう、「美術空間」ですよ。タイトルがしっくりくる作品です。
マップに奥行きを持たせてあるのも独特。
遠景を進んでいくと合わせてキャラも小さくなっていったり、狭まる光を追っていったら素敵な場所に辿り着いたり……どのマップもあそこを歩かせようと考える時点でセンスを感じるものばかりでした。
いやあしかしこの手の視覚面の良さは、言葉で書いても伝わらないですね! マップグラフィックを見て欲しい!
一方で、難点もあるはありまして。進行可能なポイントがわかりづらいという一点なんですが……。
でも私、あのマップの中に「→」みたいな進める位置を示すマークを入れたくないなあとも思うんですよ! だって美術だもんよ、もう。宝箱やお金はきちんと、隠し通路がどこかにあるんだぞと伝わるような位置に置いてありますし、むしろそういった配置の気遣いを評価したい気持ちです。
さらに言えば、歩いててはっと横道を見つけるのもなんだか絵画的だなあと思うんですよね。気に入ってる画集を見返しててある日、細部のこだわりに気付かされる感じ。
なので難点はありますがそこも好きです。
神話の元ネタを踏襲する誠実さ
主役の3人以外のほとんどのキャラには、敵も味方も含め神話や伝説上の名前がついています。これ自体は創作あるあるだと思うのですが、私がすごくイイ!と思ったのは、エピソードやちょっとした要素もしっかり元ネタ通りなところです。
3人の魔将が一番わかりやすいかな? マップにもお話にもリスペクトを感じさせつつ、しっかり独自の色で味付けしてあるところも素敵でした。
明るく信頼し合う3人組
で、ここまでの記述だと初見の方にはかなり高尚な作品だと誤解されてしまうかと思うのですが、これがまたちょっと違うんです。小難しいだけじゃない、むしろ根幹のところは親しみやすい王道感が出てるんですね。
そのキーとなるのが主役の3人。彼らにはいわゆる元ネタがなく、それぞれが良い個性を見せてくれます。見た目こそ、サングラスゴリラ・黒衣の魔女・パーカー服の一般人、となかなか不揃いですが、話してみると意外にもこれがすごく親近感の持てるキャラばかり。
マップや一部のストーリーはかなり尖っている本作、それでもそこかしこで明るい面を感じられたのは、やっぱりこの三人の仲の良さからくるものでしょう。
シリアスが続く中でふっと天然な発言が零れたり、いざ決戦の前にアイスブレーキングな盛り上がりと喝入れがあったりと、随所の和やかなムードが微笑ましかったです。
戦闘中に全員が動き回ってくれるのも賑やかで好き!
発狂モーションが全員違ってるのに気づいた時は思わず声が出ました。細やかさが感無量ですよ。それぞれそのキャラらしいモーションなところも大好きです。
死ぬかと思ったギリギリバトル
「あいつらは強いぜ」の説得力があまりに高いところも本作の魅力です。強いんですよ、ほんっとうに! すごい楽しい! ラスボスに三回負けて殴り倒した時には思わずガッツポーズと勝利の雄たけびをしてしまいました。
雑魚敵相手でもスキルをがんがん使う必要があり、うっかりすれば全滅してしまう――そんな難易度が好きという私のような方には全力でおススメです。
もちろん息切れしないように工夫もしてあります。例えばターンごと自動発動の強化スキルがあったり、ダメージを受ければ受けるほど発動できる必殺技的なスキルがあったり、戦闘後はHPが自動的に全回復したり。
逆手に取れば、死なない程度まで攻撃を受けてから雑魚敵を倒し、ボス戦に初手必殺技ぶっぱで挑むというやり方もできます。興奮しますね!
さらには戦闘が苦手・キツイ人のために、イージーモードが搭載されている親切具合。切り替えによるデメリットも一切ありません。やさしい!
あと、さりげなくめちゃくちゃ嬉しくて好きなポイントとして。
「ミス」がありません。でも必中というわけでもありません。
代わりに出てくる概念が、「相殺」です!
ガキィンと気持ち良いSEと共に攻撃を弾き、あるいは弾かれる様は実にカッコイイです。同じことが起こっていても言葉と演出を変えるだけでここまでクールになるんだなあという学びも得られました。連続攻撃を連続相殺した時の興奮がヤバイです。好き!
後出しじゃんけん無しの信頼感
かなり序盤に、回復魔法を覚えられるアイテムが手に入るのですが。
私、こういうの使うのって悩んじゃうんですよね。後から出てきた仲間のほうに覚えさせたほうが効率的かもしれないとか色々考えちゃって持ち腐れたり。
でもこの作品は、後から仲間になるキャラはきちんともうその魔法を覚えてくれてるんです。この時点で私はこの作品を信頼しました。
キャラの育成方針が決まる指輪にしても、主人公だけかと思いきや全員選べるので他キャラでバランスが取れますし。ほとんどの使い捨ての回復ポイントは、消耗してたらその場で使って大丈夫。ワールドマップやワープポイントもしっかり用意してあって、とにかく、「あの時残しておけばよかった!」みたいな後悔が少なめでした。
さすがに終盤はどうしても強技を全員公平に、というわけにはいきませんし、武器防具は一か所だけ上位のものが売られるようになります。が、最終戦辺りまでは最強から数ランク低い装備でもなんとかなります。Tシャツで魔将は屠れます。
エンド分岐にしても最終戦直前から回収できる(はず)という優しい仕様。
疑わず、倒しきれない敵は後に回して、順当に進めばいいというそれだけでこんなにも快適なんだなあとしみじみしました。
とまあ、こんな感じで。
このほか、戦闘のテンポやちょっとした演出がどことなくレトロゲライク、特に私はFF6を思い出したのでその辺りが好きな方はニヤリとできるのではないかと思います。
アートな世界観の中で、ハードなバトルとディープでダークな物語を、明るい仲間たちと一緒に。バランスの取れた実に好みの良作でした。
追記ではネタバレ全開の感想。
ネタバレ注意。
印象に残ったマップ
やっぱり一番はベルゼブブの巣です。
カサカサ敵シンボルが動き回り、真っ赤で毒々しく、ふと入った小部屋は敵も誰もいないのに嫌な胎動を感じて、終始足を止めずに早く早く抜けてしまいたいこの感じ。私はその、虫がめっぽう苦手なもので、嫌悪感を見事に描き切っていてかつ此処に居たくないのに妙に立ち止まってしまうみたいな不気味さがたまらなく興奮しました。
怖いもの見たさ? 寄生とか卵を食い破る幼虫とかそういうの本当に気持ち悪くてその気持ち悪さが大好きで絶対みたくないので存分に見られて最高でした(支離滅裂)。
先陣を切っているヨハンの姿があちこちで見えるのもすごく良い演出ですよねぇ。
対岸を勇猛に歩いていく彼の姿が実に印象的です。
次点はレナと出会うあの場所。
あの美しさが本当に、幻想的で、思わず立ち止まってスクショを取ってしまいました。あれはもう、見てほうと息をつきたくなります。
この作品ってマップだけでなくて全般共通なんですが、グロにもキラキラにも振り切れず、ちょうどいい具合に取り合わせてくれるんですよね。
ベルゼブブの巣だけがぽんとあったら、某イベントも併せてグロゲーの一言で終わっちゃってたと思うんですよ。でも、同じタイミングで行けるもう一か所は、死の雪と悼みの光に満ちている荘厳なマップだったりして。綺麗とグロテスクが見事に交互なんです……。
あとは、数歩分ではありましたが、女神像の掌を登って進むマップが好きでした。
好きなシーンについて
エンドは別枠で語るとして。
印象に残っているのはアキラ関係です。
まず妻子持ち発言で目玉が飛び出ました。続いて虫が好き発言でクールキャラの思わぬ無邪気っぽさにほのぼのとしました。そして表エンドでもう大好きになりました。布石が花開いた感じです。
戦闘中のモーションが好きなのもあるんですよね。アサシンっぽいポージングで、魔法放つときもスタイリッシュで、しまいには発狂モーションがジョジョ立ち風。惚れざるをえませんて。
次はベルフェゴールの奥さんとの会話かな。
それまでの流れとして、世界観や明らかな悪人はともかくとしても、メイン3人が明るいおかげで基本的には善的なストーリーで進んでいくんだろうとぼんやり感じていたんですよ。だからベルフェゴールに攫われても、次第に愛が芽生えてからこそ子供を産んだみたいな流れになると信じ込んでしまっていたんですね。残酷なことに。
だから、口籠られて初めてハッとしたんです。そんな都合の良い物語はないんだと。そして、一部のストーリーでは前向きに進んでいながらも、こういったシーンではそのシビアさをきちんと描いてくれるんだなと。
いっそうストーリーへの信頼性が高まっていくイベントでした。
忘れられないといえばヨハンもそうですよね……。
私、お父さんの形見が得られる場所に骨が二つあったから、てっきりあのうちの一つがヨハンだったのかなと思っていたんです。違いましたね。もっと悲惨でしたね……。
なんだかんだで性癖でもあるシーンなので萌えもしたんですがアッパーな萌えではなくじっとりと吐き気が込み上げてくる感じの萌えで本当好きでした。いや好きというか……衝撃というか……あの衝撃を見せてくれるところが好きというか……。人好きのするヨハンさんだったからこそショックがより大きいですよね……。
出てくる。
余談ですが私はニューリーフとシャープでステータス底上げしながら戦う派だったので1回倒すまでの無限回復に削られまくってかなり燃える戦いでした。心は深淵ですが……好きです……。
また、シーンとは違いますが、お姉さんっぽいキャラのレナが「ええ」ではなく「うん!」っていっぱい言ってくれるところがすっごくかわいくて好きです。
あとこれはバトルになってしまうんですが、ラスボス戦の形態変化!
あの、月が真紅になって世界の崩壊を察するあのバトル、ほんっとうに心が響いて痺れて震えたんです。あんな、あれほどおぞましくて最強と最凶を肌身に感じるラスボス、初めてですよ。素晴らしい、本当好き、めちゃくちゃ好き!! 好きとしか言えないぞどうすればいい。
私、主張としてもラスボスさんの言い分大好きなんですよね。タイトル回収が熱かったのも勿論なんですが、「あの空間を亡くしてしまいたくない」という気持ちが本当にわかりすぎる。いやわかるということすら彼には失礼に値するんでしょうがそれでも共感をさせていただきたい。わかるよそりゃ!!これだけプレイしてきたもん!
そんなわけで、ラスボス戦が大好きです。
表エンドについて
ここからは自解釈や考察も強めでお送りします。
表エンド、衝撃的でしたし引きずりはしたんですが、好きでもあります。
あの話がアキラのモノローグから始まるところがすごく良いなあと思うんですよね。彼が過去語りをする形で描写されることで、すでにあの悲惨な展開は終わったこととして昇華されていて、今は彼らが一人一人自分の足で立とうとしているんだということが伝わってくるんです。この一粒の希望がすごく上手い。
マップのところでも語りましたが、ただ皆が絶望して終わりました、ではないのがこの作品のバランス感覚の妙だよなあと思うんですよね。
私は普段なら鬱展開をガンガン突き抜けて欲しい派なんですが、ことこの作品に限っては、この塩梅が最高だなと思うんです。なんでなんだろうなあ。ただ胸糞悪い話にしたいんじゃなくて、何かもっと、もっと本題は別のところにあるんだっていうのを受信できたんですよね。だから良いなあって。
ただ、怖いところも勿論あります。
例えば立ち直ったというアキラですが、その立ち直りの方向性でかなり未来は違って見えるだろうなと思いますし。大虐殺して英雄になった彼が暴君になることだって、否定はできない……。
余談ですが、この作品って月のモチーフが多いんですよね。月夜の街があるし、あちこちのダンジョンに月と星があるし、何よりラスボスが月の男爵。そんな中で、アキラって指輪に寄っては「月夜の舞」っていう技を覚えるんですよ。しかも表エンドのあのアキラの狂気カットイン、あれはあえて月の男爵と似せて描かれていると思うんですよね。
そこから派生して妄想を広げると、
- 月は発狂のメタファ
- →ロドリゲスの絵に魅入られた人が美術空間へやってくる(月の引力)
- →美術空間にいる人間は心のどこかに発狂してもおかしくない爆弾を抱えている(妖精になった息子、悪魔と手を結んだ学者、栄光のために民を犠牲にした王など)
- →アキラもまたトリガーが入れば発狂する人だった
- →レナもルリコなどがいなければアキラとは逆のダウナーな方向に発狂していたかも
という。
ここまではいかないにしても、月、ルナティック、辺りは意識して取り込まれているように思います。人間だれしもあんな環境になったらおかしくなるっていうのはそりゃそうかもですが、こう色々繋げて考えるのが好きなもので……てれてれ。
なにより私、フレディに会いたいっていうレナがほんとうにいじらしくて忘れられないんですよ。抱きしめてやりたいし抱きしめにいってほしいし……。
レナはヒロインとして本当によくできている女性像ですよね……。
だからやっぱりあれだけキャラクター達が立ち直ったと主張していても、怖い気持ちはあります。
あります、が。
そういう不安を、一目で拭い去ってくれるのがやっぱりあのエンドの一枚絵です。あれを見ただけで、明るい未来が無条件に信じられる気がします。
だからやっぱり、あの残酷なシーンも、明るいシーンも、どちらも好きです。
裏エンドについて
一言で書けば、誠実だなあと思わされる、納得感の強いエンドでした。
公式のネタバレ部分等は一切見ずに、クリア直後に一気書きしたものがこちら↓
裏エンドについて考えたこと。相変わらず断定形が多めですがかなり考察の幅がある作品だと思うので語気は気にしないでもらえると嬉しい。私の解釈はこうだよというあれそれ……○○○○○○○○○○○ ★美術空間 https://t.co/8tsEReaBHJ
— ツキシキ(Easter of December) (@takatuki_sk) July 30, 2018
で、要約が苦手なりに上記乱文を抜粋すると、「フレディ達のことが大好きだから表エンドも尊重したいけれどそれはそれとして皆が大団円のIFも見たいとだだをこねる子どもの私に、表エンドのフレディ達は決して不幸ではなかったんだと語りかけてくれてくれるのが裏エンド」というのがだいたいの私の考えです。
もっと短くすると「裏エンドはプレイヤーのためだけのエンド」。
イージーモードを搭載したりスピードスターのスキップ要素を入れてくれたり、さんざん記事の表側で述べた通り、この作品って難易度は高いけどプレイヤーには親切なゲームなんですよね。だからこのエンドも、作者様がプレイヤーと誠実に向き合おうとしてくれたから生まれたものだと思っています。表エンドに納得できないプレイヤーへの反証みたいな。
あのエンドを見た時、私の場合は厭らしさを感じるよりもまず納得感が勝ったんですよね。表エンドの説得力が増してあるんだなあという。なのであんまり皮肉とかイジワルとか言いたくない気持ちがあります。
あとこまごまとしたところとしては、
- 裏エンド突入後の子どもと太陽を見るに、表エンドが月で裏エンドが太陽モチーフとして作られている
- 名前がなくあの世界において還る現世を持っていないハーフの子ども≒プレイヤー≒神
- 友達バッジはプレイヤーの一人芝居(プレイヤーがメタ的なシステムメッセージを受け取って子どもの場所に行き、プレイヤーの選択肢によって子どもに渡されるため)(フレディ達の意志が介入していないため)(後、物をあげたから友達というのはあまりに歪)
- ラストダンジョン(?)に欠けた人体のモチーフがたくさんあったり、母親の体内から逃げ出す胎児のような絵があったりしているのは、「このエンドには大事なものが足りない」という主張
- 目玉のモチーフが異様に多いのはプレイヤーを意識して作られたエンドだという主張
という解釈をしています。
ついでに、公式回答とは違うんですが私はこういうふうにあのエンドを受け取りたいなあという一解釈としては、
- フレディは使命を失ってアイデンティティを喪失したのでぐちゃぐちゃしてる
- レナはフレディと一緒にいることだけを優先するように存在を作り替えられたので、神の駒となり神の御許に行ったことを示すために羽根が生えて、フレディを迎えに来た
- →ただこれだとラスト一枚絵で羽根が生えていないのは矛盾するが、フレディと一緒になれたのでもう羽根はいらなくなったと考えられる
辺りです。
私やっぱり、やっぱり、数日考えたんですが、フレディを一番に迎えに来てくれたのは見知らぬ天使ではなくレナであって欲しいんですよ。
で、普段なら作者様=神なので公式回答と反している考えは消しゴムで消しちゃうところなんですが、前述の通り私は「裏エンド=プレイヤーのために作ってもらえたもの」だと勝手に解釈しているので、本作ばかりは自解釈を捨てずに私の中で温めておくことにしました。
こういう考え方があったっていいよね!
もう書きたいことと楽しかった思い出と印象深かったシーンが多すぎて書ききれないんですが、とりあえずここで区切ることにします。
いっぱい考えたくなるくらい深みがあったし、プレイ中はひたすら夢中になってクリアして面白かったし、なんかもうとにかく楽しかった!
素敵な作品でした。