「盤を降りてもゲームは続く、王か指し手が止まるまで」
サレンダーの声が待ち遠しい前置き。
えー、今回はBlu Lunetta(ブル ルネッタ)さんところのフリーゲーム「チェックメイト」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
舞台もキャラも異なる二編のノベルが収録された、一本道ノベルゲーム。サークル作品ということにはなっていますが、個人的には全く味わいもテーマも異なる、合同作品に近い印象でした。
というわけで良かった点など。
圧倒的演技力のボイス入り
台詞部分は全てボイスあり、side:white(以下白編、blackは黒編)においてはまさかの地の文まで通しでフルボイスな豪華仕様です。何よりも感嘆したのがこのボイス担当様の演技力でした!
先に読んだのは白編だったのですが、てっきり複数人で読んでるんだと完璧に思い込んでいたんですよ。なので、エンドロールを見てぎょっと目をむきました。まさか、あの多役を!一人で! いやはやもう絶句です。素晴らしい。役名が何行も重なる中で声優欄は一行だけって、すごく気持ち良いですよね。
台詞部分には演技を乗せつつも、無理な女声を出すのではなく、低音ながら女性のセリフとして読んでいる感じがとても聞きやすかったです。無理がなくて、自然と沁みる感じ。朗読と演劇の中間を意識されている印象でした。
私は演技力より活舌を重視しがちなのですが、この点においてもパーフェクト。とにかくね、聞きやすく感情が乗りやすい、最高のボイスでした。
童話風な白編と、ミステリ風な黒編
まず、ストーリー面から。
両編とも、別の味でありながらかなり印象的な終わり方でガッと心を掴んでいってしまうお話でした。読み始めの時は「どちらも黒では」あるいは「どちらも白では」と感じるんですが、読み終えるとその色にとても納得がいくんですよ。かなり面白い読後感でした!
ネタバレになってしまうところは追記へ格納するとして。いやあ本当に、どっちの色も大好きです。チェスから派生するイメージを絡めていくのが上手なんですよねぇ。
次、グラフィック面。
キャラがシルエット表示で白と黒が基調なのは共通ですが、印象はかなり異なります。白編は絵本のように柔らかなタッチ、黒編はミニキャラでかわいいタッチ。似た要素なのにかなり違うように感じるのも、複数作ならではの楽しみ方かもしれません。
惜しかった点
少しもったいないなと感じた点もあるので、挙げておきますね。
・白編、オートモードと行ごとの溜めの噛み合わせが悪い
一行一行でボイスが区切ってある件について。行終わりの空白が短いので、オートモードだとかなり聴きづらかった点が気になりました。普通のノベルゲであれば、オート送りをこちらで調整すれば済む話なので特段なにも書かないのですが……。
本作は「通しで収録」という言葉があったのでとても引っかかってしまったんですね。せっかく、あの長さを通しで(!?)読んだというのに、わざわざ一行ごとに区切ってしまうなんて! これは実にもったいない、いっそボイスドラマ的に流しても良かったのではないかと切に感じます。
・黒編、匿名性が薄い
少年も秘書もお嬢様も、皆が皆個性的でかつ、黒編は白編と違ってあの世界全体のお話ではなく特定個人にスポットを当てたお話であると感じました。なので匿名性を持たせる必要をあまり感じず、もやもやと。せっかくスチル等であんなにかっこいい外見が見られるのなら、立ち絵有り名前有りで進めるほうがむしろ感情移入できたのになあと惜しく思いました。
公式ブログを拝見するに、衣装等々にもこだわりがあったようですし……。ブログを見に行くくらいには気に入った作品なので、なおさら惜しかったです。
余談ですが、強い情や執着があるとついそう見てしまう私は、黒編がBL要素を持っているように感じます。そっちに目覚めている方はよりオイシイ萌えを感じられるかもしれません。
とまあ、こんな感じで。
色々と書きましたが、ボイス重視の方や、秀逸なオチのお話が気になる方、チェスや裏表がテーマの話にピンとくる方は是非。
追記ではもう少しネタバレに踏み込んだ感想を書きますね。ご興味ある方はどうぞ。
白編
オチがかなり秀逸ですよね……!
白が先行って言うのは言われて目から鱗、人の先入観をうまく利用しているお話だったなあと思います。まさに思惑通りに動いてしまう、プレイヤーの私がまるで駒みたいな面白い読後感。心理を巧みに動かす話でした。
白と黒の画面構成ですが、モノクロームによくある厳しい印象じゃなくて、柔らかなタッチで描かれる童話的な画面を作り上げているのもポイント。色だけで印象が決まるわけではないんですね。すごいなあ。
白と黒が手を取って灰色に、とするのではなく、白は白のまま黒は黒のままで皆自由に、という結末がとても好きです。お互いを尊重する姿勢が見えて良いなー、なんて。
自然と心が清められて、ぽたっと涙が落ちてくるみたいな話だったなあと思います。
黒編
オチがかなり秀逸ですよねぇ(二回目)!
もう、ああいう重たい情念がじっとりととぐろを巻くような話大好きなんですよ…! 共依存はいいものだ!!
先を読まず、少年の立場で素直に読んでいっていたので、信じるべきものがくるくると変わっていく展開にとてもハラハラドキドキしました。少年があくまで駒な感じが本当巧みだなあと思います。
あと、所詮ポーンだったくだりがとても印象的。進むしかなかった、ということが端的かつザクリと響く至高の言い回しでした。
皇太子がまるで個人名のようにコータイシ、と呼ばれているところもさりげなく好き。そういった権力に興味のない少年のスタンスも感じられますし、ひいては事件が起こるまで皇太子本人への興味は一生起こらなかったのだろうなあという仄暗い萌えも感じられました。
まとめるとどちらもストーリーがめちゃくちゃ好き。そしてそれを彩るボイスが至高。
短編の良作を味わえてほくほくでした。