「毎日キミの言葉を聞いて毎日キミに何も言えない」
力不足が悔しかった前置き。
えー、今回は原産国さんところのフリーゲーム「Sky[Rain]」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
クリックで読み進める、ノベルゲーの皮を被った何かのゲーム。
一応直接的な真相は述べませんが、ネタバレを避けて書く自信がなく、じわっと滲み出てます。でもこう書いておけば好きな人は察してくださるのではと期待。
演出やストーリー面のネタバレを避けつつ攻略したい方向けの記事も書いてみてます。未プレイでお悩みの方はこちら↓
フリーゲーム「Sky Rainシリーズ」攻略 - うそうさ〜第二号室〜
というわけで、良かった点など。
ゆるかわな立ち絵と閉塞的な画面
ふにゃふにゃしたゆるーい雰囲気の立ち絵や手書き文字がまず印象的でした。
初見では、ゆるゆる日常系のギャルゲなのかな~と思わされますし。色々終わってからも、また見え方は違えど良い効果があるなあと感じました。
険のある印象のきょーこちゃんは何処か牙を抜かれて見えて、
生真面目な印象の大和は何処か肩の力が抜けて見えて、
逆にイメージ通りの柔らかい態度のりえは時々見せるやりづらさが強調されて、
あなたの親友のマジな顔は線に隠れて見えないまんま。
いやー、マイルドにされることで受け手の印象もずいぶん変わりますよね。上手かったです。
で、対照的なのが背景画像。
ゲーム中はずっと雨が降り続けています。空は暗く、黒く、曇天を想起させるシステムウィンドウと共に、ゲームが進行していきます。ゲーム自体のウィンドウが縦長サイズで手狭な印象なのもまた良いんですよねえ。
かわいくて、ゆるゆるで、なのにどことなく息苦しい。まさに本作の印象がそのまま見た目に出てる気がします。
とっても簡単でどうにもむつかしい数値管理
難しいって言いたくないこの気持ち。
システム自体は簡単です。会いたい女の子に対応する数値を上げて、会いたい女の子のところへ通いつめればエンドにはたどり着けます。なんてったってギャルゲです。
一方で、越えようと思うとむつかしいです。意地悪とかテクニックが必要とかではなく、そもそも難易度という表現をこのゲームに当てはめたくないなーという気持ちがあります。なのでむつかしい。
種さえわかってしまえば楽々ですが、ピンとこないとそこそこ詰めプレイを要求されることになるかも。といってもプレイヤーにはあらゆる手段が用意されているので、どうとでもすることはできます。解法となる道筋が複数あるのもプレイヤーに優しい仕様でした。
この優しさもまた、捉えようによっては可愛らしくて好きです。
思索に富む言い回しと芯に届きやすいセリフ
普通の、無難な、システムメッセージとして考えるとかなり違和感のある言い回しなんです。だから印象に残るし、あれってそういえば、と考えるフックになっててとても素敵。
○○用って言い方がなんだか嬉しいんですよね。
さて、こういった色々と見え方の変わる台詞がある一方で、直球に心を揺らしてくれるセリフもたくさんあります。なんてったってギャルゲなので、みんなは色々なやり方でプレイヤーこと私に向かって声を上げてくれるわけなんです。がんばりたくなっちゃうよなあ。
さらには、日常会話がふいに哲学めいた話題へと発展することもあります。哲学というと大袈裟かな……。思索、夜になんとなし思うこと、皆とわいわい騒いでるときにふっと覚めた時のこと、明日を考えた時にどことなく祈りたくなる感じ。そういう話が隙間に挟まれて、膨らんで、私の心の奥に触れてくれるような感じがしました。
どうしてもポエマーになっちゃうな! もうちょっと身近でよくある感情を語ってくれてると思うんですけどね。言葉はむつかしい!
せっかくなので好きな会話とかは追記で少し語りますね。
とにかく、あえて言わない遠回しさとか、率直に伝えてくれる素直さとか、両方を味わえる良い文体でした。
とまあ、こんな感じで。
1プレイは十分前後で終わるかなと思いますが、それ以上に時間をかけてじっくりと向き合いたくなる、素敵な演出のゲームでした。
追記ではネタバレ感想少しだけ。
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ネタバレ注意。
彼女達がどんなこと言うか、くらいのネタバレです。
台詞類はフォルダ覗けばすぐ見れちゃうんですけど、どうしてもあの立ち絵とか、ゲーム内の雰囲気とかを残して何度も味わいたくて、気づけばスクショをいっぱい取ってしまっていました。HAHAHA。
そんなわけで各種好きなセリフなど~。
・りえ8日目、ちょっと語尾が荒くなるあれ
りえちゃんもこういう言葉遣いするんだ! という驚きと共に、彼女の解像度が上がった気がしました。なんていうか、当たり前なんですけど毎日決まったような語尾で話していつでも似たような態度で喋る子って、“キャラクター”でしかなくて、現実ではありえないんですよね。この作品のスタンスがなんとなしに伝わるセリフだなーと思います。
・りえ10日目、仕様上優位にいたくだり
この言葉でハッと気づかされるんですよね。私って本当にりえが好きなのかなって。
いや、りえ好きなんですよ。かわいいし、健気だし、外的に開いているがゆえに自らの立ち位置を少し不安がっているような印象があって庇護欲掻き立てられますし。でもこれらを本当に好きと言っていいのか……なんだか消せない疑問が浮かんできてしまう。
第一印象とか擦り込みとか推奨攻略順とか、そういう部分と切り離せないもどかしさ、言い訳したくなる感じ、でもやましいことはしていないはずなのに、みたいなジレンマを感じさせられるセリフです。
でも、りえはこのプレイヤーのメタ的な好意を全く責めてはいないんですよね。だったよね? ただ事実を言ってるだけだなーって。なのに不思議と、顔をぐっと掴まれて向き合わされているように感じて、好きです。誠実さが好き。
・大和5日目、「自己を外界に発露できてない」くだり
物腰柔らかなはずなんですが、大和にどことなく冷たさを感じ始めたのがこの辺りからでした。なので印象的。
発したいという大和の言葉はたぶん、もっと言えば干渉したいとか、あの子をもっとどうにか(一緒にいたい/名前を呼びたい/共に在りたい/なんとか力になりたい/これら全ての表現が一手足りない)、みたいな気持ちから来ているのかなーと解釈しているのですが……。現状打破を望む気持ちを一番感じるのが大和でした。大和自身が大和を諦めている、ような、感じ……? 卑屈ではなく事実としてそう語るような口調が多くて、とても冷静な、冷静の枠に綺麗に収まっている子だなあと思います。
・大和9日目「特定の文字列は弾かれてしまう」
ここ、本当苦しい、というか切ないというかもどかしいというか、うわああああああってなりました。それだけのことくらいさせてよ!って思うし、徹底的に隠したくなる拗らせ具合もわかるので、ううーどちらの側にも立ちたいしかといって対立や喧嘩にはなりたくないしならないだろうしもう。もう! 乙女心よ!
読んでて手が止まった時間が長かったのはここだと思います。
・大和10日目「優越感と失望」「嬉しく悲しい」
寄り添って同化しがちなりえや、ままならなさに怒るきょーこと違って、大和は綺麗に切り分けているなあと感じた一言でした。立ち絵が笑顔のままなのも、なお言葉の強さが際立って好き。彼女の中の彼女はもっと、もっと違う表情なのだろうなあ。
・きょーこ4日目「主語を大きくすると叩き返されにくくなる」
なるほど、と素直に感心してしまった。
ただ叩き返されないの意味合いが重要ですよね。これ、あの子に叩き返されて無理やり変換されたり無かったことにされたりせずに済むって意味なのか、単にツイッターでよく見かける言説的なあれなのか。絶望した!主語の大きい人々に絶望した!
・きょーこ8日目「<music : name~」
実はここの意味がわかっていません。
どこかのソースにこれを入れるみたいなあれなの……?
光を打ち倒すのはラの力、のくだりも同様。
伊藤計劃のハーモニーみたいな何かかな……。
・Sky
枠外のゲーム名の変化も含め、解放感も、笑顔も、やっとたどり着けたような気持ちも、大好き。
ふぅ、少しって書いたのにだいぶ語ってますね。いつものことですね。
色々と深読みできるし、したくなるし、でも根本は皆が頑張ってなんとかしたいなあって思ってる雰囲気があって、すれ違いだけむつかしい。みたいな感じを受けました。
とりあえず、出会えてよかったお話です。
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