「さあさ天使を引き戻せ、冥界よりも暗き淵まで堕ちろ」
天地も不明になっていく前置き。
えー、今回はセンイチライラさんところのフリーゲーム「pico - 夢語りの冥府下り - 」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
大切な人の死者蘇生を巡る、一本道ノベルゲーム。
恋愛要素も一応はあり、百合と見れる描写も有り。といっても萌えが主軸ではない気もしており、ジャンルタグをどうしようか悩んだ作品でもあります。
ともあれ、良かった点など。
イジメ、不仲、戸口の噂の仄暗さ
全体的に暗い雰囲気の本作。率直に書くと(喜ばしいことに)鬱展開があります。
主人公はいじめられっ子、起承転結のキーが非道徳的ということで、物語も裏でこそりこそりと動きます。この不穏さ、表立っては何も言えないのに確かに事が進んでいって、表に出た時はどうしようもない沼の奥にいる感じがとても好きでした。
ネタバレにならない範囲で語れるのはやっぱりイジメの描写かなあ。
イジメって虐められる側に責任は絶対にありませんが、きっかけはあると私は思っている人なので、イジメの描写の仕方もどことなく納得がありました。理由付けがそれらしいというか、ああ確かに“やられる”タイプだろうなあという気持ちはあるんですよ。良し悪しは勿論別としても。
他、虐めの標的がずれていく、主導者はいるけどクラス全体の雰囲気がまず先導を決める、こういうポイントが掴んであることにも感服でした。
根っからの悪人も、裁く使者もいない
さて、繰り返す通り、本作のキーワードは死者蘇生です。反魂の法、人体実験などなど。作中では教会や神父様が登場するためなおさら、これらのネクロな異常性が強調されることとなります。
となれば、神様あるいはそれに倣う使者が悪を裁いて大団円ともなりそうですが──そうならないところが本作の一番の魅力だと私は思っています。
語ってしまうとエンドのネタバレになってしまうので、詳しくは追記にて!
家庭環境は理由にならない
メインキャラはけっこう皆、悪い子です。
そして、家庭環境に難を抱えています。
ただ興味深いのが、それを全くもって言い訳にしない、それどころか時には利用までしてしまうところ。ここすごく潔くて好きでした。
イジメのくだりと少し被りますが、悪役が「実は俺にも事情があって……」って言いだすのってけっこう賛否が分かれると思うんですよ。理由があっても、それをどう扱うかで悪役の色は別物になるというか……。
その点、本作はとてもフラットでした。家庭環境はたぶん、要因の一つではあるんですけど、誰も(本人ですら!)可哀想だねとか仕方ないよねとかそういうことは言わないんですよね。煽りに使われることはありますが。
明るい家庭だからといって後ろ暗いことをしてないとは限らないし、極端な“悪人”や“悪い家庭”があるのではなく、どちらに振り切れるかは人による。ここが妙に生々しくて好きです。
閑話休題の上手さ
展開の主な動きが暗躍ということもあり、終始緊張感のあるお話でもあります。誰を信用できるか、あるいは誰にバレるか。主人公がどんどん悪に染まっていく姿を見ることにもなるので、サスペンスと言えるのかも。
そんな中でうまいのが、気の緩ませ方なんですよね。
独りぼっちのいじめられっ子が主役で、さぞ重々しいだろうと思いきや、軽くコミカルなシーンが入るんですよ。この、ほっと息をつく感じ。シーンにも愛嬌があってキャラを好きになれますし、そこから落とされるのも楽しかったです。
あと、作中では反転を意識させる描写がいくつかありまして。素直な良い子が悪いことを、居心地の悪い場所がいつのまにか馴染みよく、などなど。この辺りの変化を自然と受け入れられたのも、閑話休題のシーンのおかげだと思います。
OP映像やBGM選曲のセンス
グラフィックやBGMにも触れておきたいので少しだけ。
なんとOPが動画で再生されます。もうこれだけで凄い。立ち絵も豊富で、ちょっとした端役にも全身絵がきちんと用意されています。
背景やメニュー画面の雰囲気も古書めいて統一感があって、世界観はばっちり。グロな展開もありはするのですが、ここはうまく映さずに視覚的な描写を控えているところも好印象です。
それと特筆すべきシステムは、登場人物欄。登場キャラが多いので助かるという点も勿論ですが、それ以上に、演出としても良く効いていて好きなんです。物語の進行に応じて変化するというギミック自体が好き。変化自体はシンプルでそう頻繁でもないんですが、そのぶん、気づいた時のゾクッとした雰囲気が癖になります。エンドロール入る直前は特に必見です。
そしてBGM。
私、エンドロールで使用された曲が凄く好きなんですよ! この曲を、この結末に、ここで使う、このセンス! もうすごい好き、震えました。
惜しかった点
最後に軽く、惜しいなあと感じた点。
- ロード後のメッセージウィンドウ表示がブレて数クリック分の文字が読めなくなる
- ロード画面からセーブ画面に飛ぶので誤セーブが起こりやすい
私が細かくセーブロードを入れて区切りながら読む派なので気になりました。ノベルソフト側の仕様なのかなー。
もしかすると私がフォントをMSゴシックに変更して読み進めていたせいかもしれません。だとしたら申し訳なさ。むしろフォント変更機能の実装ありがとうございました。
とまあ、こんな感じで。
いやー、鬱展開好きや仄暗い展開が好きな方には是非ともオススメしたい良作です。
ネクロニカ、天使のような少女、イジメ、家庭内の不和、傷跡などにピンとくる同士の方は是非。
追記ではネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレ注意。
余韻を自分で広げたくなる作品なので、いつも以上に考察自分意見が多めです。テンション上がって断定口調で書いてますが、そういう解釈をしてるんだなーと思って頂ければ幸い!
ピコの結論とpicoの終わり方
私ほんっと、ほんとにあのエンディングが大好きなんです!
こういう、“悪いこと”をするお話って、どうしても教訓話になりがちじゃないですか。あるいは砂の城が崩れるみたいに、バアンと散ってはいおしまい。
ところが本作はそういった筋書きをなぞりません。
言ってしまえば、因果応報、自業自得。
説教ではないんですよね!
主人公であるピコの行いは全てピコ自身に返ってきて、自分で納得して、自分で道を決めないといけないんです。反省とは少し違う。語るの難しいなあ。でも、この塩梅が本当にすごいなって思ったんです。
主人公を責め立てようと思えばいくらでも責め立てられる土壌がありながら、それをしない。神の視点から勝手に気持ち良くならずに、一人称視点のままで終わるところがとても気持ち良かったです。
どうしても同じ視点主の立場を持っていたジャイロと比べてしまうのですが、ジャイロって最後には一応助かるんですよね。少なくともあの狂乱からは逃げ出して、ネバーモアや父親のような圧倒的加害者からは解放されて、モモンだってジャイロを守ってくれて。この先に何か、絶望の中の光明を見出せるような終わり方。
で、初めはこのジャイロの結末の意味するところが、情状酌量なのかなと一瞬思っちゃったんです。ジャイロもイジメっ子になってもしょうがない境遇にあったから仕方ないんだよ、事情があっただけで実はいい子だったんだよ、と。でも即座に考えを改めました。
だってそれならピコだってそうですし、明るい家庭を築きつつも後ろ暗い事情を持っていたモモンだってそうですし。ジャイロだけが“やむを得ない事情のあった子”とはとても思いたくないんです。少なくとも私は。
じゃあなんだったのって、このお話って芯は単純だとも思っていて。ジャイロが最後にモモンを少しでも守りたいと思ってピコに歯向かうことを選んだから、あるいはモモンがクラスの針の筵の中でジャイロへ手を伸ばしたから救われたっていう、それだけな気がしています。
うーん。
プレイヤーも排除してブツリと途切れたあの徹底的なエンディングに、余計な意味や蛇足をつけたくないんですよね……。教訓話に仕立て上げたくない。でもやっぱり、沈黙の暗闇の中で余韻を噛み締めていると何か意味や意図を見出したい気持ちは込み上げてしまうので、吐き出しました。
やっぱり私ピコの結論の付け方が大好きなんですよ!
助けたい、救いたいって思ってた、けど全部自分が救われたいだけだった。っていう。私はピコに感情移入しながら読んでたのでなおさら、目から鱗でした。ああほんとにこの話は、私ことプレイヤーも突き放して、この先の未来すら見る余地を与えられない、ほんとうにピコのための話なんだなあって思ったんです。もう、もうめっちゃ好きなの。
だからこそ、全部の想いや行動は全部そのキャラクターに返ってくるんだっていう循環構造に固執しているのかもしれません。
ピコは自分を救いたいという結論に立ち返って、自分の動機を自分で閉じたから、ロスやプレイヤーといった第三者もいらない。みたいな。そういう解釈をしています。
ピコとエーデルワイスの異性装
異性装ってほど大層なものではないんですが、ちょっと気になったので取り上げます。
この話、初めは百合ゲーなのかなと思ってたんですよね。ピコは僕っ子で、しかもボーイッシュな見た目。そのうえエーデルワイスはどこか意味深に“友達”であることを強調しながら、告白をほのめかしてきます。
かと思いきや、後半で始まるのはロスとの交流、そして想いを寄せられるようなシーンです。
といっても、百合があるから男女を排除せよとか、男女恋愛だから百合は無かったものになるんだとか、そういう意味合いのことを述べたいのではなくて……。
言ってしまえばピコとエーデルワイスの関係って、深い関係を匂わせることなく本当に単純に心からの親友っていうだけでもお話は成り立つと思うんですよ。で、ロスとの悲恋ってことにしても(それが良いかは全く別として)お話の盛り上がりとしては成り立ちます。
じゃあわざわざピコとエーデルワイスに、友達以上の描写を織り交ぜていくのはどうしてなのかなあと気になったので、色々考察したり解釈したりこじつけたりしてみてました。
で、着目したいのが子ども時代のエーデルワイスとピコの恰好です。学生時代と子供時代でエーデルワイスとピコの恰好は綺麗に入れ替わってるんですよね。
ピコ(過去)=少女らしいお人形さんめいた格好
エーデルワイス(過去)=ボーイッシュ
ピコ(現代)=短髪白衣で中性的
エーデルワイス(現代)=制服(スカート)
文字で書くとちょっとわかりづらいなあ。でも、プレイして強く感じたのは、二人の衣装が入れ替わってるなあという点でした。
思うに、この服のテイストの違いがそのまんまヒーローとヒロインを指してると思うんですよ。ボーイッシュな格好をしてる側が男役というか、ヒーローであり救う側。少女らしい恰好をしてる側が女役、ヒロイン、救われる側。
記事の表で「反転を意識させる描写が多い~」と書きましたが、実は一番強くその反転を感じたのがここでした。
衣装反転が二人の関係性の逆転、エーデルワイスを救う側に立ったんだぞという証になっているというか。まあそれがミスリードでピコの結論がああだったのは前述の通りですが……。
このミスリードというか、印象付けをするためにあえてエーデルワイスとピコはああいう関係性である必要があった、と思っています。
作者様の趣味っていうツッコミは……ゆるして。
あとシンプルな話、幼い頃の憧れとか、手の届かないものとかの象徴としても良いですよね。友人以上で性愛は含まない感じの関係性って。
エンドロール・クリア後
繰り返しますがエンドロールのBGM!
いやオープニング曲でもありはするんですけども!
きっと見ようによっては先行きがなくて、暗くて、誰の手も振り払って一人消えるだけの結末なはずなんですが、ここにこの曲を選ぶのが本当にセンスの塊だなと思います。だって、かなり優雅で落ち着く曲じゃないですか? それこそ舞踏会みたいな、ワインでも空けてゆるく踊りたくなるような曲だと思うんですよ。とても絶望とは思えないし、かといって楽観とも違ってて、すとんと落ち着く曲だと思います。
いやほんと、すごいなあ。読後感がどことなくさっぱりとしていて、腑に落ちる印象が強いのは、このBGMの力もあるはずです。感服。
クリア後要素が一切無いところも潔いですよね。
いや、プレイヤーとしてはやっぱり後日談とか、ピコの顛末とかロスの心境とか、あるいはエーデルワイスとネバーモアの関係をより深くとか、色々知りたくなるじゃないですか。それに製作者様ならこう、愛着も少なからずあるわけで、語りたくもなるんじゃないかなあと思うんですよ。勝手な想像ですけども。
でも、一切それを語らない。
ここ本当一人称視点の妙だなと思います。少なくともピコ視点ならピコ以外の話はわからないし。かといってピコの今後を語ってしまうとその瞬間、この話は教訓話になってしまうと思うんですね。ピコが今後何か幸せを手に入れたとしても、一人で野垂れ死んだとしても、何か余計な意味が生まれてしまう。
そうじゃなくて、ピコが納得して、ピコが選んだ道であって、それで完結するんですよね。裁くための話じゃなくて、全ての行為が自分に巡って帰ってきた、ピコのための話。そう解釈してます。
まあ一人称視点とはいえ、ジャイロ視点だってあったからジャイロとモモンの話は見れる、ともちょっと思ったんですが……。
やっぱりこの作品は『pico』なので。
少なくとも私はこの思い切った構成がとても好きです。「下人の行方は誰も知らない」。とか言いつつクリア後要素を私が見逃してるだけだったら恥ずかしいんですけどね!
とりとめもなくつらつら書きましたが、個人的に書き残しておきたかったプレイ感想としてはこんな感じでした。
深読みしすぎだろうとひやひやしつつ書いたところはありますが、個人的には色々と考えたくなるお話って好きです。
素直にとんとんと読み進めるだけでもすごく印象に残る素敵なお話でした。