「人付き合いにはある程度の俯瞰と怠惰と諦念が必要だ」
にこやかな人ほど距離が遠い前置き。
えー、今回はTAKUYOさんところの「SWEET CLOWN~午前三時のオカシな道化師~」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
なんと当ブログでは大変珍しいことに! フリーゲームではなく! 商業ゲームの感想です!! うおおおおドンドンパフパフ!
いやあ昔からずっと噂に聞いていた本作、プレイしたいと思い続けて数年、ようやっと重い腰を上げました。
結論としては、最高!!!!!!!!!
と、これだけだと通じないので、まずさらっと全体的な感想を。
ちなみにVITA版です。switch版の発売も決定! やったー!
個別ルートの話にさくっと行きたい方はこちら↓
共通ルートについて
本作は、ルートを開放していくごとに、少しずつ全体の真相が明らかになっていくような構成です。推奨攻略順も公式からはっきりと明言されています。
そのため、序盤はけっこう同じことを繰り返したり、回りくどく話が引き延ばされたりすることが多いんですよね……。出せる情報量が限られているだけに、仕方のないことかもしれませんが。やはり、若干のダレてきてしまう部分はありました。
それでも、共通ルートがバッキリ二つに分かれているというダイナミックな構成や、エンドの質感、容赦のない病み感、心地よいメランコリーなどなど、補って余りあるほどに良点は多々あります!!!!
個別ルートがしっかり重みのある「感情」を宿してくれているところも好き……。
絶望や病みや歪み、そして恋や想い、それらの過程がものすごく丁寧につづられてくれるんですよね。少なくとも心理描写において、「今なにか飛んだな?」と思うような場面はなく、全てが綺麗に地続きで表現されていったように思います。
ネタバレ無しの推しポイント
そして何より!
「欲が可視化される」というこの設定!!!!!!
もうね、この設定だけでめちゃくちゃ捗るんですよ、色々なものが。見えてしまう恥ずかしさ、あるいはこれをきっかけに気付く正直な気持ち、逆に気遣いが全てバレてしまう居心地の悪さ、エトセトラ。いや~、どれも素晴らしかったです。
キスシーンがグッとキメどころに集中している分、こういったところで色気やときめきを用意してくれているのも嬉しいポイント。「食べる」にまつわる表現ってこんなにも耽美なんだなとドキドキしました……。
とまあ、こんな感じで。
容赦なくきっちりと見せてくれる鬱展開、甘くてメルヘンな世界観、人間の弱いところや生々しく虚栄に満ちた心を突いていくシナリオなどなど、どこをとっても好みな作品でした!
追記ではまず、最初に攻略するのを勧められている密原君と、その次に攻略推奨の久瀬君について、ネタバレ全開で語りますね。
ネタバレ注意!
密原
本性は察しがつけられるぶん、ルート入りして諸々暴かれるまでが長かったですね~。
個人的には本性がバレてからの猫かぶり中にこそこそ話したり、ザクロと二人だけの密約を交わしたりする雰囲気が好きだったので、展開の配分は少し不満です。
ただ、信じるか信じないかというのが本ルートのテーマだったんだろうとも思うので、理解はできます。意外と彼は本気なのではという疑心暗鬼こそ華みたいな。それにしても騙されたプレイヤーはどのくらいなんでしょう?
ザクロが機微に聡いヒロインなので、彼の本性になかなか気づかないのは初めこそもだもだしましたが、ここも後々すっきり解決しました。興味がなければ気づかない、いやあすごく残酷で理解しやすくて大好きな切り口です。相性最悪で相性抜群みたいな。
本性を出せば出すほど認められるようになっていくというのは、密原君からしたらめちゃくちゃ気持ち良かっただろうなあ……。ある意味で似た者同士なところもよく描写されていて、共通点探しがとても楽しかったです。
キレた時に言うセリフが一番彼自身に跳ね返ってきそうなものばかりでとてもにこにこしました。なんというか、酸っぱい葡萄というか。怖いことが起こる前に先んじて「どうせお前もそうなんだろ!?」って言って予告しておくことで、本当にそうなってしまっても平気ですって言う顔を保てるようにしておくみたいなアレ……。
どうせ奪われる、どうせなくなる、どうせ嘘をつかれる、みたいな「どうせ」を言葉の端々に感じる人だなあと思います。
深愛ルート
グッドの密原君からのお手紙がにやにやものでしたよもう。熱烈な~二連コンボのあれ。
ああいうセリフ、もうキザ臭くってたまんないってわかっちゃいるけど好きなんですよね。密原君だから許される感もある。はぁ~ほんっと、ほんっとこの男、はぁ~~~~~ってなりましたね。好き。二人のしたたかさもよく感じられて、底抜けに気持ち良いエンドでした。
「そんなお前には入れ込んでませんけど?」みたいな態度をしておいてやってることがかなり忠犬寄りなのもほのぼのします。ザクロちゃんが上手いこと密原君をくすぐってる、無自覚ファムファタール感も楽しかったです。
歪愛ルート
グッドエンドのスチルの密原君の瞳がヤバイことになってて鳥肌立ちました。あれはガチに精神がイッてるなあと。あれ、久瀬君や他の人間を認識できなくなったのはザクロが自喰で無意識に願いを叶えてたってことなんでしょうかね?
ナイフを取り上げるためにしれっとスイクラパワーを使っていたのが印象的でした。ああ堕ちるところまで堕ちてくれたなあ、みたいな。密原君色に染まります、というテイにみえてお互いがお互いを喰い合ってる、主導権がどっちにあるのかもうわかんなくなってる感じがツボです。
バッドエンドの方はもはや久瀬君エンド。密原エンドの中で最後に辿り着いたのがこのエンドだったので、良い感じに久瀬ルートへの布石になってくれました。
久瀬
理想の王子様、騎士様、弟、かわいいペット、何にでもなってくれるもの。
口調が尊大俺様系なのも上手いカモフラージュですよね。てっきりオラオラ系かと思いきや、蓋を開ければTHE年下キャラって感じ。健気だし一生懸命だし一辺倒だしでとても母性くすぐられます。
彼の独特の言動はきちんと本作ならではの理由があってのものですが、どことなく現実の症例を想起させられるようなシーンもあって、そっちの面でも興味深かったです。例えば察することがとても苦手だったり、物語序盤は特に相手がどう思うかを考えず何でも口に出したりするところね。
この関係で特に印象に残ってるのが、深愛ルートで手を繋いで散歩してる最中に「ちょっと止まる」って言いだすシーンなんですよ。普通(というと久瀬君には普通ってなんだと問われてしまいそうだけど)、何か行動する前に理由を説明するか、あるいは「止まってもいい?」ってお伺いを立てるじゃないですか。久瀬君の場合、先に過程の思考は終えていて行動は決まっているから、順番が逆転するんですよね。ここすごく興味深かったです。久瀬文法楽しい。
それにしても久瀬と密原って本当上手いこと対照的ですよねえ。私はどっちもほどよく距離を持てて鑑賞する感じに好きなんですが、ひょっとすると片方へ特に肩入れしたプレイヤーさんは、もう片方が鼻についてしまうこともあるのかも。
この衝突する構成も含め、上手いこと作られてるなあと感じます。
深愛ルート
初々しさがとても微笑ましかったですね……。
こっちが照れるくらい素直に表現してくれるからにやにやしますし。逆に「柘榴を自分のものにしたい」っていう感情は一所懸命抑えようとしてるところも、こう、恋の暴力性を感じてグッときますし。いい……好き……。
正論も貫き通せば幸福を掴めるんだという理想が叶ってとても祝福したくなるエンドでした。正論で人を轢くタイプのキャラだなあと思っていたのでなおさら。しっかりと柘榴に代償が出ているところも含めて大好き。ナルコレプシー柘榴の後日談も見たいなあ。
あと途中のシーンとしては、男と男の殴り合いへ柘榴が安易に割り込むのではなくギリギリまで見守っているところも好きでした。ザクちゃん様のことだし、自分が入ったら久瀬君が庇うだろうことまで計算してる気もする。
深愛バッドは特に、二人ともが自己犠牲タイプだからこそ起こるすれ違いって感じがして業が深かったです。どいつもこいつも、みたいな虚しさがあって、やるせなさがよく沁みました。
歪愛ルート
久瀬君が獲得した欲望がしっかりと見られるルート。
柘榴がスイクラ様へと変貌していく描写がとても丁寧で好きでしたー! 自傷して心配してもらうのが嬉しい、ってだけ表面だけ浚うとただのメンヘラに見えちゃうんですが。ここに込められた想いが自分じゃなくてまっすぐ久瀬に向いてる、この重たさが良いんです。よき……。
久瀬君からしても好きな女の子がふらふらになっているというだけでたまったもんじゃないだろうに────というプレイヤーの心配も承知のうえでドロドロドロリと情念を魅せてくれるのがもうにやにやものでした。久瀬君が純粋に成長の結果として獲得した欲望なのか、スイクラ様が望んだ状況に適応しようとして久瀬君が歪んでしまったのか、考え出すと迷路もびっくりの複雑さ。
同じ睡眠障害という結果が残っても、深愛ルートは「起きている時間を」、歪愛ルートは「寝ている時間を」見せてくれるところがまた対比効いててグッときました。
ところで、歪愛ルートグッドだと睡眠障害はなかったことになってます、よね? ここは伏線なのかなあ。他ルートに期待。ごっこ遊びで幕を閉じるところが、人形たる久瀬君にぴったりの結末で、あまりにも皮肉が利いていて気持ち良かったです。
他3つのルートについて
とっても性癖にドストライクな作品でした~……!