「成り代わってもあなたはあなた?」
記号上では同一な前置き。
えー、今回はTeToriapotさんところのフリーゲーム「たおやめサーペン」「がらくたミミック」「はつゆめランダム」「白き部屋にて君と飛ぶ」、そして定期更新ゲーログ「ようごうバカンス」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
どれも短編。一部の作品は、世界観や文化を同作者様の他ゲームと共通しています。どれがどう繋がるかは各概要をどうぞ。
初めましての方には『白き部屋にて君と飛ぶ』が読みやすいかな?
ただオススメしたいのはダントツで『ようごうバカンス』です。
『たおやめサーペン』
[概要]
ティラノ製、数分一本道ノベル。ゲーム内シナリオを千文字で完結させる、千文字喫茶企画参加作品。
[感想]
とつとつと語られる妹から兄への想いや、大切にされている妹のエピソードなど、あたたかで切ない雰囲気から物語が始まります。だからこそあの、「しにます。」と繰り返される薄ら寒さが光るんですよね!
そしてラストの衝撃と解放感。静かに積み重ねて爆発する、この流れをあの短さにギュッとまとめられているのが素晴らしかったです。
サーペンとある通り、うっすらとファンタジーな世界観も察せられます。創作ものにおける蛇って属性、いいですよね……。
あにさま、己、といった古風な言葉遣いも独特の世界観に一味加えていて素敵でした。
[一言]
ドロリとした兄妹ものや、ぎょっと目を見張るストーリーを見たい方向け。
『がらくたミミック』
[概要]
1マップ内で光る場所を選択していく、エンド分岐探索ゲー。同作者様の他作品のキャラクターがメインになるので、少なくとも『ばつえいビルッテ』プレイ後推奨。
[感想]
探索によって部屋の主、ひいてはメインストーリーのキャラが代わっていくという斬新システム。ただ、肝心の内容はふわっとしていて、正直消化不良ではあります。真相に至ってはなんで性別変わっとんねん。ミミックの主人のことも、ミミックのことも、それぞれの部屋の主のことも、肝心要は不明のまま。
どちらかというと、別作品へ繋げるための伏線、プロローグといった印象の作品でした。
弱く無知な者から見れば、偉い人・強き者・物語の中心人物達の物語は所詮欠片程度にしか理解できない。そういうことなのかなー、なんて。
ちなみに、ミミックってことはばつえいに出てきたあの元帝国特殊部隊の子かなーと思っていたんですが、いまいち繋がるところがわからなかったので、違うのかなあ。他作品をやってみたらまたわかるのかもしれません。
[一言]
目新しいゲーム構成にオッと思わされる作品。
『はつゆめランダム』
[概要]
短編ノベル。『ばつえいビルッテ』『エスト・ロスト・キャスト(小説)』『かはたれフレンド(小説)』が前提で、初代魔帝補佐のアーゼモルネにまつわるお話。
[感想]
もしもあの世界観に吸血鬼がいなかったら、というIFを見せてもらえるお話です。
こちらの方がすんなりと丸く収まることが多い、というのが、ひどく心に来ますね……。吸血鬼がいるからこそこじれるとも言える。
ただこれな~! 『かはたれフレンド』を読むと、じゃあ梓が吸血鬼にならなかったら良かったじゃん、とはとても言えないわけですよ。だから、やっぱりどうあがいてもIFであり夢なんだなあという納得がありました。
両方の世界を見たうえで選ばされるの、なおエグくて好きです。初めからないものだと諦めていれば、救われる部分もあったのにねという。ただ、そうやって選ぶからこそ「決意」が生まれるんだろうなとも感じます。
余談。ノベルなのになんでウディタ製なのかなーと思ってたんですが、「そうび」の欄でなるほどなとなりました。こういう、RPGのシステムを利用してできるキャラ表現みたいな部分とても好きです。
[一言]
優しい世界と子どもたちのおはなし。
『はつゆめパーティ』
[概要]
短編ノベル。シリーズ全履修者向け。魔帝と魔帝補佐の会合、もとい、星に願いをかける話。
[感想]
本作は(私がプレイした時期は)ふりーむなどにはなく公式サイトでのみの配布だったんですが、なるほど納得の内容でした。これは実にファンディスク、この作者様のシリーズを追ってる方向け。つまり私向け。いえ~い!
パッヂオが普通に馴染んでるのちょっとびっくりしたんですが、よくよく考えればむしろ敵をむやみやたらと作るよりはおもねるタイプでもあるよなあと、自己解釈を練り直すなどしました。パッヂオしかり、あの代の方々はいまいちまだわかっていない……。
魔帝サイドのほのぼのっぷりも和みましたね~。なんていうのかな、大物って動じませんよね。あと受け入れるパワーが高い。魔帝な時点でそれはそう。
この対比がなかなかにえげつなくてよかったです。
この物語の「解法」も、アーゼモルネが抵抗せず、ミニニビリが信じているがゆえになおいっそう、色々知ってるこちらの方が代わりに揺さぶられる感じがしました。
[一言]
ワイワイ和やかな会話劇と、夢から覚めた時の切なさ。
『白き部屋にて君と飛ぶ』
[概要]
短編ノベル、全プレイだいたい30分前後。病室にいる“彼女”とのお話。百合。
[感想]
エンドが3つに分岐しますが、どのエンドでも彼女の行き先は変わりません。また、彼女の存在?概念?も共通です。僕っ娘で、知的で、でも少し背伸びしている……そんな感じ。ツンとおすまししているだけではなくて、自然体でそっとこちらに好意を抱いていくれるのが感じとれるのが良いんですよねえ……。
変わるのは主人公のほう。ここがどことなくパラレルワールドの趣を感じて楽しかったです。ルートがこちらのセリフ等ではなく、贈り物一つで決まるところも好き。
ちなみに「御印帳」については寡聞ながら知らなかったでのでググりました。アイテムのチョイスが単なるスタンプラリーではなくこういう宗教色の強いものなのが初めは意外だったんですが、エンドBのエピローグを見ると、なるほどね……?と。
エンドを見た後に見るタイトルがまた沁みるんですよねえ。「君と飛ぶ」。それぞれの飛び方がまた違うのも好きでした。
- エンドAは王道切なく
- エンドBは仄暗くロマンチック
- エンドCはあたたかく寄り添うように
どれも違った味わいで、でもテキストは独自の味わいと哲学がうっすらと感じられました。
余談。さりげなくアーゼモルネとミニニビリらしき話が出てきてオッとなりました。北の冬の国ね……。
[一言]
じんわりと沁みて、不思議と爽やかな話が読みたい方向け。
『ようごうバカンス』
[概要]
一応、ノベル、でいいのかな? 定期更新ゲー。「ソラニワ」という、webでブログやチャットを打ち込むような感覚で生成されるログをまとめたものです。『ものやみジャック』『かりそめドッペル』をプレイしておくとより理解しやすいかもしれませんし、逆に混乱するかもしれません。
[感想]
柔らかな形の地獄。リサイクルとは無駄のなさ。祝福“すべき”始まり。葬式をしそこなったせいでいつまでも夢に出る。そのようなもの。
これです。
で、終わらせようと思ったのですがさすがに備忘として貧弱すぎるので加筆をば。
刺さる人には刺さる要素が大量にちりばめられているお話だなあと思いました。そうです私です。ザックザクに刺さりまくっております。
一方で、なにせキャラというよりは概念がキャラのガワを被って話しているような作品なので、流し読みすると「なんだったんだ」で終わってしまうようにも思います。
「理解した」瞬間にゾゾゾゾッとくるえげつなさが大好きなので、そういうのが好きな方には是非読み込んで頂きたい気持ち……。そのうえで、別に無慈悲なわけではなく優しさや救いは彼らなりの文脈で存在しているのが、良いなあと思いました。何でもありだけど理不尽じゃないし、起きることは超常的だけど彼らのルールで時には不便に動いてるんですよね……。
[一言]
読み終えて一週間たった今でもキュムのことを深く考え込まずにいられません。
とまあ、こんな感じで。
直接的なつながりはない作品でも、この作者様ならではの味は変わらず。安心と信頼の性癖でした!
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