「そのタンスを調べないだなんてとんでもない!」
強要される寄り道ははたして寄り道なのかな前置き。
えー、今回はまやさんところのフリーゲーム「王道勇者とサブカル勇者」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
エンド分岐とミニイベントありのRPG。ネタバレが惜しいタイプのゲームですが、感想を語る関係上、軽く触れてしまうので未プレイの方は要注意です。
というわけで、良かった点など。
勇者の権利と義務と役割と存在意義
いわゆるRPGのお約束に切り込んでいくこの作品。といってもメタすらも使い古されつつある昨今、ただのメタよりもさらに一歩先を行ってこそ……。そんなプレイヤーの期待にしっかりと応えてもらったように思います。
正直言うと、“先が読める”展開もありはするんですよ。でも、あえて読ませているんだろうなと思える露骨なポイントと、メタだからこそ察せられる巧みなポイントが二重になっていて、最後まで夢中になれました。
興味深いのが、名著「堕落論」を本作のテーマと絡めているところ。寡聞ながら原典自体は読んだことがないのですが、本作の共通点として言わんとするところは引用部分からひしひしと感じられます。
何よりこの、古典名作を引用してくるところが“サブカル”感あって良き! いや、原著自体はサブではなく確かにカルチャーなんですけれどもね。サブカル女子がやりそうなポイントとしてなんかしっくりきました。
王道とサブカルが手を取り合う
さて、二人の勇者が手を取り合い旅をする本作。
やはり鍵を握るのはサブカル勇者こと、ユウの存在。
明らかにこの世界の勇者に対して“何か”を抱かせつつも、その正体は不明瞭なまま。彼女の存在自体がそのまま、ストーリーの引きとして最後まで好奇心を掻き立ててくれました。
だからこそ、ユウの思惑がわかってからの展開がアツい! 詳細は追記に畳みますが、彼女もまた勇者を目指すものという重みがよくよく伝わる展開でした……。
一方で、当然ながら王道勇者のほうもないがしろにはできません。ボクっ娘で前向きな善人。サブカル勇者と違って、いや王道だからこそ、そんな彼女が“成長”する姿が地続きて描かれていく姿はとても感情移入しやすかったです。だからこそ響くんだあのエンドが……。
さりげなくカッコイイ演出
ゆるーい作りのタイトルロゴ等で油断していましたが、あちこちの演出の巧みさに唸らされました。
ダンジョン入った時の地名表示の演出から始まり、レベルアップの軽快なSEやアイテムの説明文まで、おっと思えるポイントがたくさんありました。出来がどうこうというより、こういう細やかな部分をおろそかにせず調整してあるところが好き。
ぶっちゃけ本作、アイテムや装備は一切買わなくても進められるんですよ。それでもそれらが用意されているところに、RPGらしさがあって好きなんです。本作はRPGの構造に物申す作品なのでなおさら。普通と見せかけてちょっと変なこと言い出すNPCがいるのもポイント高いですね。
他に注目したいのはBGM。かなり好みの曲が多かったです! 下水道みたいなダンジョンにあのBGMを持ってくるチョイスが素敵。
そして何より、ルートが確定してからの戦闘演出について!!
本作はエンドが二つあるんですが、いやあどちらも違った意味で熱くてすごく良かったです……! あの演出が見れただけでも、プレイしてよかったなあと思います。
過去作のあの人も
同作者様の他ゲームで自分がプレイしたのは『僕だけがこの世界の』だけなんですが、それでもアッと思わされるイベントがあって嬉しかったです! セリフの重みが違うんだまた……。
あくまでサブイベント的な立ち位置なので、未プレイでも気になるほどではないはず。でもこういうところに仕込みがあると作者様追いしがいがあっていいですよね。
とまあ、こんな感じで。
メタネタが好き、RPGが好き、女の子同士の友情や熱い想いと聞いてときめくものがある、そんな方にオススメです。
追記ではネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレ注意!!
エンドA
結末自体は悲惨なこのルート。しかし、このエンドで示された、「王道こそ美である」「美とは儚いものである」「期待に応えて散ることこそが大義である」という価値観がものすごく興味深く、また面白かったです。
王道って何?って聞かれた時に、私今までうまく表現できなかったんですよ。「あるあると納得できる展開」「期待通りの熱さがある」せいぜいそのくらい? そこに「美」という概念を提示されて、ものすごく、気持ち良かったんです。「それだあ!!」となりました。
だから、アヴェ王は確かにとんでもない奴だけども、一理あるとも思っちゃうんですよねえ。
また、「王道」とは「使い古された展開でありオリジナリティに欠ける」という欠点もうまく昇華しているエンドだと思います。アサヒという自我は消え、ユウという個は潰され、勇者と魔王というシステムだけが残る……つまり、テンプレ展開。
お約束に余計な過程はいらず、胸熱くなる戦闘すらも、あっけなくワンパンで終わるこの虚しさ。形骸化した物語。プレイヤーこと私がここまでプレイしてきたからこそ、この哀しみが響いて好きでした。
鬱展開ではありますが、訴えかけてくるものは熱く雄弁。それこそ美しいエンドであると思います。
エンドB
王道なんてくそくらえ、私達は我が道を行くぞ!なエンド。
こういうアンチテーゼが提示されたことに、初めは少し懐疑的だったんですよ。正義の反対が別の正義と言われるように、王道の反対もまた王道なのではないかと。
でもその不信は、アサヒのセリフできれいさっぱり消えてくれました。
「分かり合えないかもしれないけどちょうどいい距離でいられる」
この価値観、私大好きです!!
もしここで魔物と人間が手を取り合えるって言われてたら、失礼ながら私は冷めてしまっていたと思うんですよ。それができないからこそ今までエンドAが避けられなかったわけだし、作中のキャラクター曰く世界はもっと複雑なはずなので。
けど、そうじゃない。テンプレな理想を言うんじゃなくて、アサヒとユウにできる限りの夢を語ってくれる──ここにものすごく胸を打たれました!
そんなわけで、普段は鬱展開大好きな私ですが、このエンドも納得があってすごく好きです。
演出面で言うと、ラスボスの入りがやっぱり好きすぎる!!
システムメッセージのあの「決して負けないでください。」でグッと胸が詰まって、スキルの説明文でボロボロ涙が溢れました。大好きだなあ……!
説明文がたいそうなものじゃなくて、「逆ギレ」みたいな彼女達の等身大なところもまた、感動を誘います。
あとこのルートのユウはやっと気を張らずに済むからか、弱って泣いて叫んでかわいくて、年相応のお友達って感じがしてすごく好きです。やっと本音を聞かせてもらえて嬉しい。
エンド後が少し不穏の種を残していくところも好みでした。ああああみたいにアヴェ王もまた、今後も色々なパラレルワールドへ飛んで、彼の美を追求していくんでしょうかね……。
余談
お気に入りポイントと攻略(小ネタ)。
・ああああの「君が大好きなものを大切にしてね」
とても沁みました。一番好きかもしれない。
・ライフエイトの塔
2周目に改めてロゴを見直してゾクッとしました。うっかり見逃がしちゃいそうなところに伏線を仕込むの、イイ……。
・ユウはお城が嫌い
ユウと一緒にお城へ入ろうとすると、出てからセリフ数行分くらいのミニイベントが発生します。伏線が細やかで実にいい。
・小さい鍵
ジェネの部屋の棚。
・エンド分岐条件
レベルを上げすぎずに闘技場に辿り着くと大会が開催しています。それに参加して、その後も王道的行いはせずに突き進めばオッケー。ただし物語の理解としても後味として、エンドA→Bをおススメします。
と、ここに書いてもネタバレはすでに本記事でしてるんですけれどもね! 備忘がてら。
とまあ、こんな感じで。
ネタゲーと思いきや、熱いテーマと深い価値観が襲い掛かってくる良作でした。