「君は悪くないと言えるあなたはいったいどこの高みにいらっしゃるの?」
同じところまで堕ちてきてくれないと声は届かないな前置き。
えー、今回は詰まったゴミ(れんたか)さんところのフリーゲーム「Partiality」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
エンド分岐有りのホラーゲーム。殺人容疑のある美少女の脳内をうろうろする探索カウンセリングゲー。
というわけで、良かった点など。
実写と狂気が入り混じる2Dマップ
まずぎょっとするのはマップの美麗さ、そしてその狂気! 異様に歪んだ人の顔や、色彩の暴力を感じるマップ、かと思えば現代的で身近な駅や家などなど。シュールレアリスム、みたいな雰囲気が好きな方には特に合うかと思います。
マップは主に2種類なので、ある程度プレイしてくるとやはり慣れは出てきます。しかし、その油断を見透かすかのようにフッと登場する新たなオブジェクト。いやあ、声が出ました。
序盤はマップの異様さにビビリ、中盤以降は「何が増えるのか」「何が起こるのか」に怯え、終盤は狂気に馴染んでいってしまいそうな危うさに精神を揺らがされ……。いやはや、最後まで気の抜けないホラゲーでした。
驚かすことを目的とはしていないので、ホラーというよりは鬱ゲーと呼ぶ方がふさわしいかもしれません。
カウンセリングと探索を繰り返すシステム
ゲームシステムは単純で、アリティと会話→探索を繰り返すだけになります。法則性は明言されないもののわかりやすく、隠しエンドを除けば難易度はほどほど。私は多少寄り道や選択間違いをしたんですが、それでもぴったり10日目にエンドへたどり着けました。
このルーティンなシステムが、じわじわと正気を脅かされるような気にさせてくれます。何よりこの、告解室やカウンセリングみたいな、不穏な空気で一対一の会話をするシステム自体が好きなんですよね~。
ただ、シーン切り替えがかなりゆっくりだったのは難点。若干作業ゲー感が出てしまっているかも。といっても、アリティとのカウンセリング開始時のまばたきみたいな演出はものすごく雰囲気が出ていて素敵なので、そこは是非とも熱く評価したいところ。
カウンセリング室を出る時や機械に入る時など、ポイントを絞って目を惹きつけてくれたらより遊びやすかったかなーと思います。
狂った文体と含まれた隠喩
わざとなのか、作中の文章は時折ものすごい狂い方をします。一見は読めるのに、意味が絶妙に噛み砕きづらいような問答。いわゆる、「てをには」が狂ったような文体です。なまじよくよく読めば意味は掴めそうなものだから、なおさらプレイヤーの精神は作中へ、アリティの中へと引き込まれていきます。この、狂いに誘われる感じがゾクゾクしました……。
また、狂気は文章のみならずビジュアルやSEにもたっぷりと込められています。中でもえげつないなと感じたのは、比喩表現。詳しくはネタバレになるので追記に格納しますが、なんとも露骨でしかし明言をしない、「気づいてしまった嫌さ」を提供してくれる絶妙な演出でした。
とまあ、こんな感じで。
嫣然とした少女に狂わされたい方、不気味な世界を歩き回りたい方、静かにゾワゾワと精神を削られたい方にオススメです。
追記ではネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレ注意!!
攻略や考察にもなってはいる……のかな? 具体的には(もちろん私作ではない)攻略動画などが挙がっているようなので、検索推奨です。
ゲームの構成
- カウンセリングが探索でのアイテム出現やイベント発生のフラグ
- アリティとのカウンセリングで仕事を選ぶor家を選ぶでマップが分岐
- 必ず家のマップでエンディングが始まる
- クリックまたはタップのみでしか反応しないキャラがいる
- ↑触れる時は主に顔か腹、ポイントを外すと反応してもらえないので注意
というのがざっくりとした前提。特に私は一つの選択肢を突き詰めるプレイヤーだったので、マップの法則性に気付くまでゲーム内で5日くらいかかりました。それでもエンドに行けたので、この作者様からするとめちゃくちゃ優しい難易度。
法則自体はわかりやすいですが、なにせ作品の雰囲気が濃厚なので……気づくのに時間がかかる方もいるかもなー、なんて。
ストーリーやテーマについて
まず軽くおさらいから。
ファムファタールのような、人を狂わせる魅力を持った女性、アリティ。
とんでもなく劣悪な家庭環境におかれたアリティは、自己の中に防衛人格(タコ女)を生み出す。そしてタコ女は時折現実世界で、アリティのストーカーや嫌な性格の先輩など、あらゆるものを排除していく。
それをアリティは自覚していないため、まるで他人事のように感じてしまう。もちろん、罪悪感もなければ容疑の自覚もない。自分が人を狂わせているらしい自覚はあるが、彼女の家庭環境が、死と狂いは救済であるという考えを根付かせてしまっているため、強い拒絶感や自己嫌悪もまた無い。
──さてアリティの罪はどうあるべきか?
そんな感じのお話だったかなーと私は解釈しています。
ただ、アリティが全てに無自覚であったとすると、カウンセリングで見せる主人公への痛烈な皮肉や毒婦めいた雰囲気は少しおかしい気もする……?
一方で、タコ女など本当はおらず、全てがアリティの演技だとすると、それはそれであの「本気で何を何とも思わず他人事のようにふるまう」感じに納得がいかない、という……。
まあ、先生を苛めている時のアリティは裏にタコ女がいたとも考えられますし。逆に、アリティが自分自身を騙し切れるほどの女優だったという発想もありでしょう。
この「アリティがどれほど自覚的だったか」という点は、主人公の目的上は最重要ですが、ゲームのテーマや根幹としてはさほど重要ではない……そんなアンバランスな矛盾が成り立っているのかもしれません。
むしろ、境界線があいまいだからこそアリティというキャラクターがより魅力的かつ作品全体が不気味に感じるのかも。
エンドについて
・「助けてくれる?」エンド
アリティに同情または心酔するエンド。
精神的にはアリティ≠タコ女であることを踏まえたうえで、アリティは悪くないよとよしよししてあげるエンドです。なのでアリティの毒っ気もかなり抑え目だったような気がする。
このエンドだとタコ女とアリティが交互に話すところも興味深かったです。二人を引き離せず同化させてしまったルート? それこそ次に語るエンドで出てきた、「刹那的解決」にしかなっていない終わり方と言えるのかも。
・罪を認めさせるエンド
精神的にはアリティ≠タコ女であることを踏まえたうえで、それでも肉体的にタコ女のやったことはアリティのやったことであると認めさせるエンド。
このエンドが最後だったのもあり、まさかこの展開がこのゲームに用意されているとは思わずかなり驚かされました。これをトゥルーエンドと個人的には呼びたい。アンバランスで不安定なアリティを、常人や一般社会の規範に基づいて固めたエンドになる気がします。それはアリティの魅力やバックボーンを大いに削る結果ともなるのですが……。
前述のエンドが刹那的解決で、本エンドが根本的解決なのかなと思います。救いと呼べるほど簡明ではないところも含めて、このもやもや感が好きです。
・「どうでもいい」を選ぶエンド
ある意味タコ女エンド? 初回辿り着いたのがこのエンドでした。
精神的にはアリティ≠タコ女だなんて知ったことか、信じるもんか! アリティがやったんだから全部アリティが悪い! そんな感じのエンドです。アリティをひたすら否定するとおそらく辿り着けるはず。
彼女を否定した結果、彼女に救済されるという構図が皮肉たっぷりで好きです。
・時間切れエンド
白い指輪を回収できないまま10日過ぎるとこのエンド。
単純に狂気の世界へ堕ちてしまったエンドにはなるのですが、深読みすると……。アイデンティティが希薄なのは先生も同じ、誰だってアリティのようになる可能性はあるのよという結末にも見えて、痺れます。
・隠しエンド
こわいね。
可愛らしく愛されている生き物だって、よくよく見つめたらおぞましくて怖いんだというメッセージ性が……あるのかもしれませんが隠しにふさわしいおふざけも感じて楽しかったです。
印象に残ったモチーフなど
こうしてプレイした後になって思い返すと、マップ内の謎のオブジェクトたちは全部直球だったなあと感じます。こちらはアリティのことを知らないからわからなかっただけで、物語、アリティの過去が丸っとそのまんま置いてあったなあと……。
こういう、初めっから正解があるけど探索するまでは意味が分からない構造好きです。気づいたら怖く見える系。
・ゆりかご
エンドに行くための部屋で、視界の端に映るゆらゆら振り子のようなあれ。
ど、どう考えてもセックスの暗喩! 律動! 挿入の動き!!
幻想的かつ狂気的な雰囲気をまといつつも、すっごいあからさまなオブジェクトで、度肝を抜かれました。すごい、最上級に気持ち悪い(褒めてます)!!
・ぬいぐるみ
友達を持ってきてくれてありがとう、と言う方のぬいぐるみが義父の象徴で、駅に落ちてたぬいぐるみがアリティの象徴……で、いいですよね? アリティぬいぐるみを持ってきたあと、調べるとぐちゅぐちゅ水音がするのがものすごく気持ち悪くて好きでした。うわあ、ヤられてる……。
色々わかった後だと、アリティのぬいぐるみが家から遠く遠く離れて絶対マップの構造上は届くはずのない駅に置いてあったのも、意味深で素敵です。やっと逃げられたはずなのに、結局男は全部ああいうものだとしか思えない、過去受けた仕打ちからは逃げられない、みたいな。
ユニコーン(処女性の象徴)を超えたところにあのぬいぐるみ(強姦の暗喩)が置いてあるのも下劣で良いですよね。ゾッとしました。
・ふくろう
これは疑問の方なんですが、タコ女を信じるなと警告してきたあの人型(ふくろう?)はなんだったんでしょうね? 他のアイテムやモチーフはわかりやすかったんですが、あれだけ謎でした。
印象深かったのはこんな感じ!
どこまでもざわざわと落ち着かない気持ちにさせられる、良鬱ゲーでした。