「罵倒できるのは報復されるわけない甘えから」
嫌いって言っておいて嫌われたら凹む前置き。
えー、今回は御欠席(田倉 磨勘)さんところのフリーゲーム「LOVELETTER」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
というわけで、特徴的な点など。良点のみでなく引っかかった点も合わせて述べておりますので、否定意見を目にしたくない方は赤字まで飛ばしてからどうぞ!
前提である主人公の感情や環境が説明不足
まず、引っかかった点から失礼します!
ハッキリいって序盤はかなりストレスが溜まる展開です。
当然しようと考えるはずの行動が起こされない、報連相がなされない。読んでる最中は「兄貴にとっとと金的して取り返せ!」と乙女らしからぬ雄たけびを上げかけてしまいました。
一方で終盤は、「今さらそれを言われても!?」と置いてけぼりになり。
いや、わかるんですよ、報連相や実力行使をするとストーリーが成り立たなくなることは。コンプしたあとなら。
でも、プレイヤー側としては取るべき行動を取らずに謎ばかり増えていく状況にはどうしても物申したくなってしまうことも、わかってほしい。
まとめると、プレイヤーと主人公との情報格差が激しく、そこに伏線のような価値を見出せなかったという感じでした。むしろプロローグに回想シーンなり伏線なり入れてる方が入り込みやすかったかもなー、なんて。
直感でピンと来づらいUI
オートモードがどのボタンかわからず、ちょっと困惑しました。また、マウスホイールや右クリックでバックログが見れるならオートに似た紛らわしいボタンは不要だったのではないかなー、なんて。
また、あとがきに記載のあるエンド雑感が、リストにあるとあってもどこかわからずしばし回想を繰り返すなどしました。
というわけで、各種UIはデザインをもう少し直感的にわかりやすくするか、ReadMeにゴリっと書いてしまうかはしてもらえたらより嬉しかったです。
と。
これを踏まえても熱く語りたい良い点が間違いなくある本作。
ここからは良かった点についてです。
ガッツも甘えも見れるヒロイン
面白いなーと思ったのが、主人公(ヒロイン)の性格についてです。
序盤は流されヒロインに見え、しかし強かで度胸のある一面もあり、一方で急にしおらしくなったり自信がなくなったりしてしまう……。
プレイしていくとこの不安定な感じに納得が出てきます。
エンドによっては攻略対象どころかむしろヒロインのほうに惚れ惚れしたところもあり、環境もあいまって、色々と想いを馳せたくなるキャラでした。
リアルとフィクションが交錯するお兄ちゃん感
全力で勧めていきたいのが、あっちこっちへふんだんに取り入れられている「お兄ちゃん」らしさです!!
お兄ちゃんにぐるぐるされるシーンなどは特にそうですね!! 力では適わないというところはもちろんのこと、やり込め方がまさに「子ども扱い」なんですよ! いや~良い、お兄ちゃんみ溢れる……。
攻略対象が兄属性というのはよく見かけますが、こういう、日常にありそうなじゃれ合いやリアリティ伴うお兄ちゃん感を出してくれる作品は本当に貴重で、嬉しかったです!!
また、このお兄ちゃんらしさがじわじわと違った味わいへ変わっていくところも、見どころの一つ。詳しくは追記にて。
アダルトと子どものアンバランス
学園ものと思って蓋を開けてみれば、けっこうアダルトな展開もあり、意外でした。
「同級生が年をごまかしてキャバクラに」のくだりがサラッと一文で流された際には思わず「ちょっとそこ詳しく!?」と止めたくなってしまったほど。ここだけでなく他にもあちこちで、それこそ老婆のごとく「最近の女子高生は進んでるなー……」と思うことが多かったです。
で、これがなんで良かった点になるのかというと。
こういう面があるからこそ、あの兄妹を取り巻く空気や幼さがいっそう際立つからなんですよね~!!
それぞれ大人びた世界を知っている、のに、家ではあんな感じでじゃれ合う。そこに強く「家族」「兄妹」「甘え」を感じて、いっそう、後々の展開が映えるんですよ……!
このアンバランスさがとても好きです。
とまあ、こんな感じで。
ノベルゲーと小説の文体は違うとよく見かけますが、こちらの作品は両方の文体が混ざっている感じなので、そういう意味でも興味深かったです。小説慣れしている人のほうがすんなり楽しめるのかも?
よくある兄妹恋愛乙女ゲーだと思っていたら、ヤンデレのみならず色々な意外性に驚かされた作品でした。
追記ではネタバレ感想。
ネタバレ注意!
各ルートと、特に気になったエンドの感想など。
志津ルート
ついお兄ちゃんルートと呼びたくなってしまうこの気持ち。
過保護な兄、親の役割を押し付けられた子ども、一途で頑張り屋のヤンデレさん、などなど色々な面が見える深みのあるキャラだったなあと思います。
ED1
一番ビビっと来ました! このエンドの花衣の吹っ切れ具合が大好きなんですよ~! 「私は幸せになれないだろうけど幸せにする」カッケ~!!!
不良に絡まれても相変わらずな態度で接してたり、最後にはこうして男気を出してくれたりと、蓋を開ければ強い子だったなあと思います。
逆にお兄ちゃんは妹を守るために強くあろうというしていた態度が、どんどん崩れていって、最後には弱弱しく妹を伺う自信なさげなところが出てくるようになったのも、対比がよく効いてましたね~。これはED1というより終盤になるとほとんどどこでもかな。
ED5
エゴ同士なのがイイですね! このエンドだったかは覚えていないんですが、「血が繋がっていなくともそれまで兄妹として過ごしてきたからには兄妹でしかない、そこからは逃れられない」みたいな語りも好きで……。
本作は全体的にちゃんと、歪みや利己には自覚的なところも好きでした。
ED3・ED7
私はこのエンドへ行くルートが最後だったんですが、この順番でプレイして良かったなあと心から思いました。
なんだろうな、あのにんじんのくだりは二人にとって大事な「儀式」なのはわかるんですよ。でも、あのシーンって冷静に見るとすごいシュールじゃないですか。だからこそ、二人の間にある過去や想いをきちんと知った上で見れてよかったです。
本作の文体が時々小説になるって感じたのは、こういうところからかもしれません。
雨宮ルート
蓋を開けてみれば気弱で繊細なキャラ。
家の外でスマホが鳴ったのはてっきりヤンデレストーカールートがあるからだと思っていたのですが、エンドは健全なものが多かったです。あらぬ疑いをごめんよ……。
ヒロインには「報連相しろ~!!」と叫び、雨宮には「不審な態度には口頭確認せよ~~~!!」と叫んでしまったこともありはしましたが、なんだかんだでザクっと切り込めないからこその雨宮なのかもしれません。
エンドというよりは一つ一つのシーンが印象に残ったかな? 一種だけ取り残されて遠巻きにされる大木のくだりとか。メタファを使った表現が特徴的だな~と思います。
良いな!と思ったのが、風邪のお見舞いシーン。もう思いっきり上から目線になるけれども、こういうのこそが伏線と言いたい! なんでお母さんが?という疑問が見事に繋がって気持ち良かったです!
ED2
いや、こう来たかー!と。そして、これは回想の形にせず時系列通り読ませて欲しかったーーー!!となりました。なぜならそうと気づいて隠すことを選んだ花衣の心情が見たかったから!!
こう、たぶん、この作者様はとにかくプレイヤーを予期せぬ展開で驚かせることを重視していて、それを起承転結と思えない私とは相性が悪かったってことなんだろうなあと思います。逆に言えば、ジェットコースター的に物語を楽しみたい方には向いているのかも。
と、構成には思うところがあったものの、このエンドの主人公自体はものすごい強かで好きです。どこまでも走り抜けて欲しい。
ED4
ものすごく重々しいモノローグに反して、やってることはすっごい女々しい……を通り越して子どもっぽいところが趣深かったです。
なんていうのかな、イジワルの仕方を知らないんだろうなあって思ったんですよ。御世話焼きのお母さんの元に産まれて、色んな人に(たとえ一方的かつ遠巻きであれ)愛されて、どこまでもお育ちが良い感じ。
彼にとってのせいいっぱいの攻撃や憎悪は、これからどの程度花衣に刺さるのかなーとか。そのうちプツッときて実力行使に出るのかな、それでもお兄ちゃんみたいなことにはならなさそうだな、とかとか。その後に想いを馳せたくなるエンドでした。
なんやかんやと書いてしまいましたが……。
人間関係の歪みや、感情のもつれなど、乙女ゲームで最も重視されると言っても良いであろうポイントはものすごく濃く描かれていて、満足でした。禁断の愛も兄妹愛も恋人としての愛も楽しめる、そしてそれらをきちんと書き分けているお話だったように思います。