うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「My Lady Lee」感想

「だってこんなあべこべな世界で型に収まるものなんて!」

あっと驚いてばたんと閉じるのも乙な前置き。

 

 

 

えー、今回はセンイチライラさんところのフリーゲーム「My Lady Lee」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

www.freem.ne.jp

 

 

 

共同制作とのことだったのですが、ひとまずリンク先は配布元の方から。

「ロンドン橋落ちた」を元ネタとする、マザーグースな世界観のノベルゲー。クリアまで数時間。

 

 

というわけで、良かった点など。

お話の雰囲気やエンドの傾向など、軽くネタバレしますのでご留意ください。

 

 

 

コミカルでシニカルなキャラクター

 

人を疑うことを知らない、記憶喪失の少女、リィ。基本は善人でありつつもどこかツンケンとした少年、レッドブレスト。リィに熱烈な愛を捧ぐも、それ以上の自己愛が見え隠れする蛙、アントニー

他にも個性的なキャラクターは多々登場しますが、共通して感じたのは「歪」があるところです。リィは良い子ですが、底抜けの優しさや暢気さにはどこか不安を感じます。アントニーは見るからにわかりやすく怪しげで、レッドブレストも頼りになるながらも何か抱えている様子。

こういう、一滴混ぜられた不気味さが延々と尾を引くところがすごくツボでした。

 

キャラの掛け合い自体はすごく明るいんですよ! ギャグがありツッコミがあり、シリアスとのバランスもばっちり。

だからこそ、根底に感じる不信感が光り、そこが気になってもっともっとと続きを読みたくなるお話でもありました。

 

 

 

まさに童話の展開

 

まず「橋に閉じ込められる」という舞台設定からしてかなり斬新な本作。狭く一本道の橋はしかし、手を変え品を変え、あらゆる展開でもってリィを引き留めようとしてきます。それもどこかマザーグースのように時折不思議な方向へ舵を切っていくので、飽きることがありません。

よく考えればグロテスクな展開も起こっているはずなんですが、血が薔薇で表現されたり、痛みがそもそも存在しなかったりする世界なので、不思議とコミカルに物語は進みます。ここもなんだか歪で好き。

 

そもそも作中で頻繁に登場する、「橋に愛される」というワード自体がものすごくキャッチーなんですよね。どういうこと?という疑問と、呪文めいた響きがなんだかずーっと頭に残るんですよ。

この辺り詳しくはネタバレ追記にて。

 

 

 

頭の奥で広がる読了感

 

メインの視点主はリィとレッドブレスト二人になりますが、地の文は一貫して三人称視点です。語り口も相まって、それこそ童話を読んでいるような気持ちにさせられます。リィの天然さや橋の不思議空間っぷりもあいまって、ツッコミ不在の展開になりがちなんですが、だからこそ淡々とした地の文が際立つなあと感じました。

 

そして、一番の推しポイントは読了感!

エンディングも、個人的にすごく好きなんですが、人によっては首をかしげてしまうかもしれません。でも、あの読後感はこの物語でしか味わえない、本当に貴重で痺れるものでした。

明確な真相がドンと突き付けられるのではなく、キャラクターとあの世界ごとプレイヤーの手の届かないところへ行ってしまう感じ。私は大好きです。

 

 

 

 

多い立ち絵差分とお洒落な画面構成

 

最後にグラフィック面について。

ずっと霧の続く背景ですが、全キャラクターに立ち絵が用意されているので見た目は華やかです。立ち絵の差分も多め。何より、「手が六本」「薔薇塗れの男」「見た目は若者の老人」などなど、立ち絵があるからこそ映えるキャラクターが多いので、そこを全力で生かしてるなあと感じました。

 

文字表示も、序盤はフォントの可愛らしさや一文表示が少し気になっていましたが、終盤になればすっかり慣れました。むしろあのフォントはシリアスになりすぎないあの独特の空気感にぴったりですし、文字表示も掛け合いのテンポの良さに合うなあと感じます。

 

何より、全体的にクラシック?でお洒落な雰囲気が、よりあの不思議空間の質を高めていてとても好きです。クリア後のタイトル画面がシンプルに変わるところも、色々と深読みのし甲斐があって素敵でした。

 

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

マザーグースが好きな方、独特の世界観に浸りたい方、色々と考察をするのが好きな方、テンポの良い展開を楽しみたい方にオススメです。

 

 

追記ではガッツリネタバレ感想や考察など。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

フリーゲーム「pico - 夢語りの冥府下り - 」感想

フリーゲーム「ブロングスのマリオネット」感想

 

 

 

 

 

 

ネタバレ注意!!

 

 

 

 

 

 

まず、自分は本作のことを、小難しい解釈はせずただあの世界だけをまるっと置いておきたいと考えています。もっといえばあのリィの笑顔をそのまま、感じて終わりたいです。

さらには、このお話について何か語ろうとすればするほど、あの作品の独特の世界観、キャラクターの質感を削ってしまうように思われてしまっています。そのくらい濃密で最高の読後感でした。

 

でもそれはそれとして、余韻に浸りがてら自分なりの考えだけは書き起こしておきますね。

 

 

 

 

キャラクター像

 

全体的に、「これ!」という一つの結末があるのではなく、どのキャラクターも複数の概念を持っているように思っています。

キャラクターとしての性格等々の他に、もっと、舞台装置の面が強いというか……。

 

例えばリィについて。アントニーのために橋の愛を受け入れる、でもアントニーは愛していないし、橋についてもきっと同様に。この、常に聖女めいた動き方をする時点でなんだかもうキャラクターとは思い難くてですね……。

 

「ロンドン橋落ちた」においては諸説あるようですが、本作のリィは物語の初めっからリィがこういうものだと決められていたというよりは、「人柱の少女」「川」両方の概念を持っていると思っています。

リィが無条件に橋から愛されるのは、橋の存在理由である「川」だから。そしてリィが橋の夢に残ることで、リィだけが残り他が外へ出るというまさに「人柱」の役割が生まれた。派生して、薔薇が現実と夢を繋ぐというきっかけが生まれ、レッドブレストが橋に辿りついた(橋の夢が「死後の世界」という意味を持つようになった)

こんな感じで、もともと多様な解釈のできるレディ・リィという概念が先に在って、そこから最後の笑顔でやっと「リィ」という一人の少女が生まれた、それが本作なのかなーなんて。

 

 

 

レッドブレストの最後の選択

 

レッドブレストの「正解じゃないかもしれないけど違うと思ったから、」みたいな動機がすごく胸にすとんと落ちたんですよ……。

なんか、あのお話を読んでる私としては、リィが橋の愛から解放されることがハッピーエンドなんだと思い込んでたんですよね。でも最後にああいった展開が飛び込んできた、いやあもうやられた! 素直にやられました。認知の転換がすごく気持ち良い! 拍手喝采です。

一応、あらすじとしては、橋は血が嫌い→橋が嫌がるほど大量の血が必要&自分が王位を得るのは違う→首を斬られる=レッドブレストは死んでリィと共に死後の世界へ行った、ということなのかなと思っているんですが。これってイジワルに見れば、リィの笑顔のためにレッドブレストが人柱になったとも言い換えられる気がするんですよね。うわあ、ロンドン橋だ……っていう。

 

でもやっぱり、ああいう停滞の話?と言えば良いのか……。わかりやすく誰かの気持ちを破壊して突き進むハッピーエンドではなくて、そこにある笑顔を手にして終わるハッピーエンドが自分は合うなあと思うし、予想される展開のスイッチを途中から切り替えてあの結末にしてくれたことがすごく、ありがたかったです。

人によってはメリバだろうし、世界観としてはバッドエンドなのかもしれないけど、個人的にあれはハッピーエンドだと思いたいなあ……。

 

 

 

 

元ネタを考えようの会

 

 

リィ関係

 

リィの言っているロビンとボビンは「ロビン坊や」から?

鳥を射たついでに弟まで、というなかなかに残酷な内容ですが、こじつければリィの帰る場所にもう悲しむ家族はいないと考えられるのかもしれません。

ついでに言うと、レッドブレストもコマドリのこととのこと。クック・ロビンからどんどん派生していく感じがしますね。

 

 

アントニー

A Frog He Would A-wooing Goから

アントニーだけが橋の夢の住人で、この詩の「Frog」の結末を見れば、アントニーは元々死んでいるということで橋の外に出られないのもしっくりきます。

そもそも、橋の夢そのものという言葉をどう考えるかですよね。初めっから虚像なのか、それともレッドブレストのように外から引き込まれた死者を外へ出れば死体にしかならないがために「夢そのもの」と表現するのか……。アントニーが元々どこかにいる蛙だったのか、それとも橋に生み出されたのか、あるいは喋れない橋の代わりに橋の意思を伝えるのがアントニーなのか……。

謎はまだまだ残りますが、ただあの物語の中で、彼は「リィを引き止めるための存在」だったのは確かのようです。

 

 

ローゼス

Ring-a-ring o'roses,から

ただこれは原詩の意味はあまり関係がなさそう? 不要を削るというのがペストといまいち引っ付かないので……。手を洗う、が、転じて要らない菌を削ぎ取るになると言えばなるのかなあ。

「fall down」の部分から、レッドブレストを死後の世界へ導く手伝いをした、という役回りが生まれている気はします。

 

 

サリー

ナーサリーライム、は原作内で述べた通り。老人になったり若者になったりとか、縄とかで調べてみたけど、特段これというのはなく……。なによりナーサリーライムの意味からして、特定の詩というのはない気もします。

いやでもあれだけ強烈なキャラしてるのにな……うーん……。

 

 

ルークールグース

仏語ではルクールが心、とのこと。この名前はそもそもどこで切るんだろう? 

一応調べてみて、「にじいろのさかなとおおくじら」はヒットしたんですが……違うだろうなあ……。

 

 

 

 

うん、やっぱりこじつけようと思えば色々こじつけられるとは思いますが、自分はあの呑むように読み終えた勢いと、心をどこか遠くへ持ち去られてしまったみたいな余韻が大好きなので、この辺で落ち着くことにします。

 

とても、とても好きなお話でした。