「あなたが見せた月なのだから曇らせないで」
もう輝きを知らない頃には戻れない前置き。
えー、今回はみどりさんところのフリーゲーム「海底撈月(ハイテイラオユエ)」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
VIPRPG、操作はあるものの基本は見るゲ。VIPRPG紅白2020提出作品。ウィンディとウォーターⅠがメイン。百合。鬱展開はありつつも頑張ればハッピーに手が届くようになっています。
というわけで、良かった点など。
- あの子にとっての『月』とは
- 近づいては遠ざかる波のような距離感
- 暗い展開を乗り越えて
- ドットと写真の組み合わせが光るグラフィック
- ※ここからネタバレ注意!
- 攻略
- 通常エンド
- 別エンド
- 余談の東京音頭
- 印象に残ったシーン
- まとめ
あの子にとっての『月』とは
まずもうこのタイトルが美しいですよね……!
水面に映る月というモチーフ自体はよく見かけていましたが、海底撈月という言い方自体は本作で初めて知りました。とても綺麗な言葉。
そして作中でも何度も、月と海のモチーフが登場します。手を伸ばしても届かない月、本当にほしいもの、故郷のようでもあり冥界のようでもある海……。抒情的な比喩表現を含みつつ、指しているものは明確で読みやすい一作でした。
近づいては遠ざかる波のような距離感
とある事情により一人暮らしすることになったウィンディ。海と山の開かれた町で、快活な少女ネレイドと出会う────。
と、導入はこんな感じ。運命的な出会いをする百合ものです。
好きだったのはこの二人の距離感の変化について!
詳細は追記に格納しますが、あからさまに言葉にするのではなく、シチュエーションや繊細な描写からじっくりと察せられる心の動きがとても好きです。
暗い展開を乗り越えて
美しい描写だけでなく、じっとりと重い描写も際立っているのがまた本作の良いところ。はい設もしっかりしており、単に心を通わせるだけではない、骨子が頑強な物語構成を感じます。
そのうえで味わえる閉塞感や、水に対する本能的な恐怖が、これまた響くんですよね……。
ただ、どれほど湿っぽくなっても、ちょっとしたセリフでプレイヤーのモチベや気持ちは上げられるように気を利かせてある作品だとも感じました。意地悪く突き落とすのではなく、あくまで必要な描写として行われている感じ。この塩梅もちょうどよくて好きです。
ドットと写真の組み合わせが光るグラフィック
『東京音頭』の感想でも書きましたが、とにかくグラフィックが素敵!
加工された写真とキャラチップが巧く合成されて、まるで現実のどこかで本当にウィンディとわてりが暮らしているような雰囲気が味わえます。
それに海の表現も! 海に潜っていくにつれて、どんどん青が暗く静かになっていく雰囲気が見て感じられて、とても良い……。
絵になる、という言葉がぴったりでした。スクショがはかどるなあ……。
とまあ、こんな感じで。
追記ではネタバレ感想。
既プレイの方が見逃しやすい点についても書いているつもりなので、良ければ引き続きお付き合いくださいませ。
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※ここからネタバレ注意!
攻略
購入したものや肺活量によってエンドが分岐します。詳細は祭りページの感想掲示板にて。
文章スキップがないのと早めに分岐が決まってしまうところはやや不便ですが、こういうハッピーエンドが仕込んであるのって、良いですよね。この二人は報われてほしいなと思わされる関係性だったのでなおさら。
ただ、個人的にはまず何も知らないまま通常エンドへ辿り着いてほしいですね……! あのエンドも抒情的で大好きなので。
通常エンド
わてりと同じことをウィンディがすることになるのが、すごく良い……!
こういう、行為で亡き面影を追うシチュエーション大好きなんですよ。遺志を継ぐというか、成り変わるというか……。わてりと違ってウィンディは風魔法だから、潜り続けるのはいっそう苦しいんじゃないかなー、なんて。
何より「騒々しい私の月」という表現がもう本当狂おしいほど大好き!!
初めに返って何度も噛み締めたくなる、切なくも素敵な鬱展開でした。
別エンド
勝ち取った……!!
ウィンディが自分の中のわてりへの激情を思いっきりぶつけるところが、もう、最高でした!
あの場面で出てくるのが「怒り」なのが本当に良い……。下手な感動でごまかさない、生々しさと強い心をすごく感じました。死にもの狂いで助けに行くにふさわしい演出だ……。
私が選ばれた、想いが勝った。オープニングの頃のウィンディからはとても想像できない強い執着がとても素敵でした……。
一方で、ⅡとⅢのシーンは素直に泣かされました。こっちで感動要素も拾ってくるなんて、展開が巧いよ……。さらには、ここで二人の姉が登場することで、わてりの月も流されたのではなくきちんと拾えたんだと物語から言ってもらえた感じがします。
ウィンディが月を勝ち取ったことと、わてりの月がそこにあったことは両立する。ここが優しくて嬉しかったですね~。
余談の東京音頭
ここでのエピローグがしっかり次作の『東京音頭』で導かれていたことにも驚かされました。なるほど、同時進行でやみっちが頑張っていたのか……。
結末がすでにある状態で話を作るのは難しいと思っているので、回収の仕方が自然だし、どっちも単体で楽しめる作品になっているところもすごかったしで、色々とほれぼれしました。
印象に残ったシーン
エンディングがとても心に刺さったのは言わずもがなとして。
わてりが月のことについて語るときだけ静かになる、みたいな描写が好きでした。ぐいぐい来るわてりの踏み込めない面。近かったはずの距離が遠ざかるのに、ウィンディは逆にわてりのことがもう忘れられなくなっている展開……。
あえて二人がそれぞれ別で行動するシーンが挟まれているからこそですよね。心的な距離感の変化が映えるんだなあ……。
グラフィックで言うと、ウィンディが他のウィンディに責められるシーンが好き。思わずスクショ取りました。怖くて苦しくて、良いね……。
色々遊んでから見返すと、いつも明るいわてりの方が実は感情の起伏が薄いというか、諦めた結果の笑いという印象になってきますね。ウィンディの方が実は、わてりや博士に激したり、自分の過去で暗く沈んだりここも趣深い……。
まとめ
書いた書いた! ネタバレ込みで語りたい良さが多い!
ちなみに、水に潜ってキスで酸素供給する百合ゲーを遊ぶのはこれで2作品目です(マイムの見た夢)。このシチュエーションが被ることってあるんですね。まとめられるレベルであったりして?
ともあれ、ロマンティックも鬱展開も感動前向き路線も全部が楽しめる良作でした!
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