「何もしていないだけで追い立てられてしまう気がする」
サンタが駆ける時あなたは寝ていてよいはずの前置き。
えー、今回はニトイット(ひぐ)さんところのフリーゲーム「HOLY NIGHT」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
選択肢によるエンド分岐あり。個人的には一般向けノベルとして読みましたが、後日談は恋愛要素や乙女ゲーな雰囲気も味わえます。攻略対象は2人。
というわけで、良かった点など。
クリスマスを一人で過ごすのはいやだ
言ってしまえばそれだけの話です。
が、本作はこの一文から抱く印象を良い意味で裏切ってくれます。少なくとも、クリスマスに誰かと過ごす人を妬んだり憎んだりする話ではありません。
序盤からずっっっと感じたのは「強迫観念」です。
もう、必死なんですこのヒロイン。はたから見たら「そんなことで?」でしょうけれども、「そんなこと」じゃないんですよ。だって世界が終わるんです!
この、伝わりづらい切実さがすごく好きでした……。
なんかやっちゃうけど別にやらなくていいこと
前述の強迫観念の乗り越え方が、子供だましではなかったところも嬉しかったです。
頭でわかっちゃいるけれどどうしようもないのが強迫観念なわけで、冷静に考えたらそんな世界なんて終わるわけないと、主人公自身ですら気づいているんですよ。でも、それでも世界が終わるから焦っているわけなんです。どうしようもないんだ!
このどうしようもなさを踏まえたうえで、ごまかすんじゃなくて、どう向き合うかに焦点を当てているのがあのエンド分岐なのかなあと思っています。
なんとも誠実で大好きです。
等身大の語り口
どこが、といわれるとすごく困るんですが、テキスト全体の雰囲気や言葉選びがすごく好きなんですよね。ゆるくて等身大な感じ。
フォントが時折変わったり、まるで声が聞こえてくるようなリフレインが挟まれたりするところも凝っていて好き。
黒背景に色文字なデザインだけ少し読みづらかったかな? でも発言者がわかりやすいですしね。
主人公がシニカルな視点を持っているので、一人で人目を忍んでふっと口の端を持ち上げるみたいな、痺れる文がたまに差し挟まれるんですよね。これが好きで、短編ですがスクショをたくさん撮ってしまいました。良かったな~!
マナザキさん
こういうクール変人枠な攻略対象、大好き。
登場時からときめいていたので特に気にしていなかったのですが、アス先輩に突っ込まれて初めて彼の第一声や状況のおかしさに気づきました。そうだね一般的には困った客だね?!
詳細は追記に伏せますが、この、真正面から叩くことしかできませんみたいな顔をしてちゃんと引き留めには来てかつ感情は出てこない感じが、すごく好きです。あと俺敬語ありがとうございますばんざーい!
とまあ、こんな感じで。
是非クリスマス前や特別な日の前に遊んでほしい、素敵な短編でした。
追記ではネタバレ感想を少しだけ、ですが熱く語ります。
気になる方は「続きを読む」から是非!
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
(上記記事内『999』)
※ここからネタバレ注意!
エンディングとキャラクター
アス先輩エンド
ぼっちクリスマスから気をそらそうエンド。
先輩が主人公に共感はしないスタンスで、それでもちゃんと同じ目線で仮定を積み重ねていってくれるところが、なんだか安心できたんですよね。肩の力が抜ける感じ。
「う、うまいな……!」と舌を巻いたエンディングでもありました。よくこんな、あの前提に対してぽんぽんと架空の想定が思いつくなあと……。
マナザキさんエンド
ひたすら二人で呪いを回避し続けようエンド。
「俺という予備ができたと思えばいいんです」という一言がもう大好きなんです。
予備! この、言われた側の気が軽くなる言葉選びよ! 自分は話下手ですみたいな雰囲気でありながらこういうクリティカルヒット叩き出せるのは、いやあ、実に痺れますね……。
あとマナザキさんは、お礼くらいは言えるようになりたいからコンビニ店員に話しかけることにしたくだりも好きです。り、律義! 好き!!
生きづらそうだし傍から見ると変な道のりに見えるかもしれませんがこういう律義で誠実な変人が私は大好きです。
後日談を見るとマナザキさんから主人公への矢印は第三者からの作為によるものだとわかりますが、それでも中身は本物になってくれたらいいなー、なんて。
お一人様エンド
呪いなんてぶっ壊せエンド。
私、このエンドが一番好きです!!
一度思いっ切りめちゃくちゃになっちゃうところに、なんだかすごく自己投影しちゃったんですよね……。そうそう、思い込みを崩さなきゃいけない時ってこんな感じだよね、みたいな。
読み終わって、心の底から「解き放たれた」と感じました。救われたといっても良い。本当に好きです。
まとめ
本作はクリスマス世界崩壊の話でしたが……
けっこう誰の中にも、幼い時に言われたことが忘れられずに今も残ってるとか、特別な日に何か特別なことをしないといけないような焦りとかって、あるんじゃないかなって思うんですよね。
その点、この作品はなんだかお守りにしたくなるような、柔らかで心強い作品でした。
ちょうどクリスマス前に遊べてよかったです!