「心を込めて作りました、心の無き人形です」
込められた想いはどこに宿るかな前置き。
えー、今回はdydyさんところのフリーゲーム「ヒトガタ奇談」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
一本道和風短編集ノベル。立ち絵なし、BGMもポイントのみ、そのぶん硬派な文章が光ります。ホラー寄りですが、幽霊ものというより人のおぞましさにスポットが当たっている感じです。
各話感想に字数を割きたいので、先んじて全体的なシステム面から。
- 一文表示が長め、読み心地はノベルゲというより小説寄り
- 回想シーンは黄色字なのでやや読みづらい
- レトロで雰囲気の感じる背景画像と縦書き文章
- ドロッとした後味の作品が5つ+α
- 読み終えて初めからを押すごとに新しいお話が読める形式、あとがき表示の後に読めるヒトガタ奇談の別章2つでおそらくコンプ
とまあ、こんな感じで。
以下は各話感想です!
匂わせる程度のネタバレはするので要注意!
ヒトガタ奇談 工藤栄太郎
これぞエログロ、いや耽美!
気づけばどうしようもなく犯していた、という点がまさに魔性の美でしたねー。
人形の美しさの描写も素晴らしいんですよ。ドール愛好家の方がよく、角度や光源で色んな表情を見られるとおっしゃっているのを見かけますが、そういった愛で方をきっちり把握したうえで書かれているのだろうと察せられる書き方でした。
ただ溺れるだけでなく、踏み止まろうとする意思を描写してくれるところがまた、唸るほど上手いんですよねえ。まだ気の迷いかもしれない、とプレイヤーすらも思ってしまう構成が素敵でした。父には消費され恋は報われず心が空っぽのまま終わってしまった彼女も、扱いがあまりに皮肉で趣深かったです。
少女地獄
タイトルがこうだけど構成は藪の中。
序盤の派手派手しい色文字は少々読みづらかったものの、文体はやはり魅力があります。
女学生が影でひそひそと内緒話をしてはくすくす愛らしく笑っている雰囲気とか。周囲の悪意を世界全体が濁っていると拡大解釈して絶望していく感じとか。夢見がちで輪になってどんどん過激になっていくところとか。そういうの好きな自分としては、あまりにもツボでした。
こういうのって、仮に真実を知ったとしても逃げられないじゃないですか。エンカウントして取り込まれた時点で終わり、みたいな。愛らしくて弱弱しい存在にスポットが当てられているからこそ、オチが化け物じみていて良いなあと思います。
美青年というのも実に良い煽りですよね。
告解
源氏計画と近親相姦と性別性的嗜好についてみたいな。
美子が自分の“変態”で“異常”な部分を、環境のせいだと思わず、生まれつきで自分の責だと思い込んでいるところがあんまりにもいじらしくて純粋で好きです。そのように、作られてたという点を含めて大好きです。
LGBTが世に馴染む概念になってきた昨今、こういう話ができるのも舞台設定が昭和大正だからこそという気がしますね。読む人に寄ってはカチンとくる描写でもありそうで勝手にハラハラしていましたが、時代設定に忠実で良いなあと思う気持ちもあります。徹底してわざとらしく“変態”を強調されているので、反語的に読める気も。
どの登場人物も悪人ではなく、ただ聖人がいないだけというところもポイント。教会・告解室・クリスチャンなどの設定をシニカルに突くようで好きでした。
終盤で見れる美子の、差別用語を含む自虐のセリフが大好きです。
田舎の事件
気持ち悪いなあと思いつつも留まらないといけない、というのが因習村の一番の肝だと思うんですよね!
同作者様の別作『鬼ヶ島』もそうなんですが、この方は陰鬱で不気味で閉鎖的な世界観を描くのが実に上手。
オチはああいった感じでしたが、同じようにあの村のほとんどの住人がああいう、諦観や脅しで加担しているのではないかなという妄想が広がり、暗澹とした気持ちになれました。
幽霊怪談
こちらはサスペンスっぽい雰囲気?
ここまで様々な形の異常さを見せてくれたぶん、この話だけ『告解』と被ってしまっているところは惜しまれましたねえ。けれども、冒頭で仲の良さをしっかりと語り、合わせて姉のちょっとした頭の良さを見せてもいるところは構成の妙を感じます。ここがあるのとないのとで説得力と後味の悪さ段違いですもんね。
ヒトガタ奇談 川田小吉
せむし男と美女、サーカス、純朴な恋と打算だけの関係などなど。世界観といいますか、雰囲気が一番好きなお話かもしれません。内気で弱くとも芸は秀逸だった小吉が、恋を知りどんどん転落していく様も、人間の生々しさや業深さが感じられる気がします。
サーカスシーンの、キィキィ、の音もかなり不気味で印象的。
ヒトガタ奇談 木塚佳枝
恋に恋するという意味では『少女遊戯』に近いですが、人の心を弄ぶ、という点をより深く突っ込んでいくお話だったように思います。
人形師と佳枝のスタンスが重なったり離れたりすることで、自然と麗の存在も揺らぐように見えるところが、とても、唸りました。人間かヒトガタか? 麗をあっさりと改造・改修してしまう始まりからして、答えは少しばかり見えていたのかも。
俗っぽい感想も言っておくと、奔放なお嬢様とヤンデレ(にならざるをえなかった)美男子って良いですね。好き。
と、こんな感じで。
作者様と自分は少女という生物に対するイメージが近いようで、その少女がメインのお話はかなり水が合いました。恋に恋して、おぞましくも愛らしくもなれる感じ。
そんなわけで、
- 『告解』
- 『少女地獄』
- 『ヒトガタ奇談 木塚佳枝』
辺りが3トップでお気に入りです。
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