「あの悲劇をもう一度? いいえこちらは別公演!」
知ってる方にも知らない方にもお楽しみ頂きたい前置き。
えー、今回は箱庭のイデア(栄崎)さんところのフリーゲーム「ハコイリさま葬送花」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
さっさとエンドを見るだけなら1時間、ですが味気ないので是非隅々まで味わって頂きたい! たっぷり想いを込めてプレイした結果、私は3時間ほどでした。
プレイヤーは先生として、子どもたちの集められたお屋敷で彼らと交流したり、導いたり、見逃して手が届かなくなってしまったりするADVです。
というわけで、良かった点など。
リメイクという名の別物
本作は『ハコイリさま症候群』(以下:症候群)のリメイクver。具体的な変更点は同梱ファイルでかわいいイラストと共に見られますが、まあ、言ってしまえばほぼ全て変更。別物です。
私は症候群のほうも遊んだうえでこちらも遊んだんですが、色々と新鮮で面白かったです。中には、症候群をプレイしているからこその驚きもあってすごくニヤニヤしました……!
謎解きや鬼ごっこが全撤廃されているので、プレイヤースキルを問わずだれでも遊べるようになったのもポイント。特に私は鬼ごっこかなり苦手だったので、助かりましたね~……。
メモを取る必要のある謎解きや突然のパズルも、2010年代のフリーホラゲの流行ではあったので、それはそれとして良きものなんですが。さくっとカットして遊びやすくされているのも、現代らしいリメイクのやり方です。
子どもたちを導こう!
無印では同じ生徒であるアルマが主人公でしたが、葬送花では先生であるネーフェが主人公となります。
無印の頃は「右も左もわからない、誰を信用していいかわからない」という不安からの緊張感があったんですが……。主人公が保護者役となったことで、「この子達を守りたい……!」という使命感からの緊張を味わえました。なので、プレイ感としてもやっぱり別物な感じ。
何よりこの、ネーフェの受け答えがすごく好き!!
なんていうか……理想の先生なんですよ。子どもにとって居心地の良い先生。良い方向へ導きはするけど、生徒のパーソナルスペースは大事にして踏み込みすぎない感じが、すごく惚れ惚れしたんですよね……。
先生と生徒な関係性が好きな方や、素敵な大人と出会いたい方にも是非勧めたいです。
フレーバーだけど最重要な会話
本作のゲーム進行のカギは、会話!
手に入れた話題を装備品のようにセットして、生徒たちに話しかけることで物語が進行します。進行に関わる会話だけでなく、ちょっとした雑談があるのもポイント。全話題を全員分見たくなるに決まってるんだよなあ!
たくさんいる生徒たちのキャラがすぐに掴めたのは、こうして会話を通して彼らの個性を知る機会が増えたからだろうなあと感じます。愛着が沸く。好き。幸せになってほしい……!
日ごとに起こる不思議なことと、消えていく生徒。
彼らを導きたいと思うのは、ひとえにこのシステムのおかげと言っても良いでしょう。
プレイヤーに優しいシステム
さて、会話をするためには広い屋敷を回って生徒たちを探さなければいけません。
が、彼らがマップのどこにいるかはメニューを開けば一目でわかります。ホラゲやADVあるある、「どこでフラグが立つのかわからない」問題を解決してくれるナイスシステム!
マップ自体もシンメトリーな構造をしていますし、どこが誰の部屋なのかはかわいく吹き出しで表現されているので、迷子になる心配もなかったです!
マップの行き来でウェイトが長すぎるところはちょっと気になりましたが……ノックを入れて生徒の様子を確認している大人の配慮タイムと考えれば、許容範囲でしょう。
また、セーブも親切。
私はどこでもセーブができないゲームが苦手なんですが、本作はセーブポイントがちょうどほしいところに設置されているので、ストレスなくプレイできました。通路の両端にあるの、助かる~!
ストーリーの良さももちろんですが、こういうシステム周りがきっちりしてると本当に遊びやすくて助かりますね……。
動くOPと表情豊かな立ち絵
ただでさえ生徒数が多いのに加えて、立ち絵の表情もくるくる変わるんですよ! いやもうどれほど描いてくださったんだと……。お部屋の中も生徒によってデザインが違いますし、庭に至っては小物もお花もいっぱい。
しかもOPがあって動くし伏線だらけ。キャラチップもほわほわした色味でかわいい!
ストーリーやキャラを推したいのはもちろんのこと、グラフィックにも全力で、どこをとっても丁寧な作りでした……!
とまあ、こんな感じで。
- ・一人ひとり消えていくタイプの恐怖が好きな方
- ・キャラとの種類豊富な会話を見るのが好きな方
- ・人間同士の激重感情を摂取したい方
にオススメです。
追記ではネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
がっつり真相込みのネタバレ注意!
エンディング
本記事のネタバレ無し部分で、一生懸命「導く」と書くよう気を付けていたのは、つまりこういうわけなんですね~。公式の紹介は「救う」が一番だと思う一方で、プレイヤーとしては、「導く」と言いたくなっちゃうんです。はっはっは。
いやあ、やられました! そしてやられたと思わされたうえで、しっかりと期待する道も見せて頂けました!
本当に丁寧……ありがとうございました……。
END3
初回必ず辿り着くエンド。
正面立ち絵での表現は『ディアーレイス』と同じ手法ですね! あの演出、ゾワッと全身が総毛だつので本当に好きです。メタの使い方が巧いんだもう。
無印プレイ済なこともあって、「えっ助けられるんですか?」「初回からTRUE行ってるかも!?」などなど思いつつプレイしていました。いやあ見事に、踊らされました。予想を超える展開、最高~~~!!
END2
これもこれで幸せのひとつ……なんだろうけど!
この一手足りない感じが、もどかしくて、今度こそはと思わせてくれる原動力になってるなあと思います。
ある意味、狙わないとたどり着けないエンドかも? また、ハコイリさまやアルマに焦点が当てられているエンドなので、リメイク前プレイヤーへのご褒美とも言えるかも。
END1
こういうエンドもあるから、好きなんですよね。
主人公交代がそもそもアツいですし、ネーフェが悪い奴だと勘違いされないような会話が含まれてるのも優しいし。誰一人、そう、ネーフェも見逃さずに誰一人残さず幸せにする物語。
プレイヤーの愛着に対しての別解をEND3で見せて、部分点をEND2で回収、本当の解答をEND1で見せてもらえる。そういう解釈をしています。
ここにたどり着けて本当に良かったです。
おまけ
特別イラストと特別イベントがリンクしているところ、絵でも文でも彼らのハッピーが味わえてとても幸せでした。
……でもあの屋敷にいるってことは、END3の世界線なのかなあ。いやいや、END1を経て、皆が大人になって全部終わってから、あの屋敷にやってきたという世界なのかも。
どちらとも好きなように取ったらいいですよね。彼らが幸せなことにきっと変わりはないので。
キャラクター
全員分語ると尺がすごいのでどうしても語りたくなった子だけ……と言いつつ半数以上取り上げてます。取り上げられなかった子は、本当にごめん、ご容赦!
ネーフェ
理想の先生!!
会話イベントが楽しかったのは、絶対ネーフェのおかげでもあると思うんですよね。だって理想の大人なんですもん、ネーフェさん。こっちが彼女のふるまいを見て大人らしさを勉強したくなっちゃう。
「先生って呼びたくなったら呼んでね」とか「あなたが一人になれる場所がなくなっちゃうでしょう?」とか、もうね、嬉しかったです。距離の取り方が本当に好き! 教育や保護を押し付けてくる子どもみたいな大人ではなくて、相手をひとりの人間として尊重し、プライバシーを守って配慮してくれる……。
ちゃんとした、大人。
それをネーフェがやっているというところがまた、心に刺さります。お手本がね……よき人だったのね、きっとね……。
よくよく話してみると、兄の話とか、プレイヤー視点だとちょっとしたところに「ん?」となるんですよね。でも、そんなに大事にもされないから、なんとなしに流しちゃう。
いや~、上手いなあ。こういう伏線の込め方大好きです。
おまけのOP画像で「あー!!」と叫びました。
いたねえ。あの子がハコイリさまだと思ってたねえ。たぶん作者様が想定済みのミスリードだよねえ……! 興奮やばい!
エリザ
症候群からずいぶんと変わったな~!!
エリザ、手負いの猫みたいな子だなあと思います。それでいて芯が強いのも美しい! かっこいい!
エリザちゃん(現世)もテオ(現世)を見て、私みたいに「かっこいい~!」ってなってたのかなあ。この二人を巡る連鎖関係、良いですよね。
会話での「貴族は相手を選べない」くだりも、テオともしも……みたいな想像をしてたのかなと妄想できておいしかったです。好きな色がね~。へぇ~。にやにや。
ネーフェとのやり取りだと、先生って呼びたくなったら呼んでという言い回しが素敵な大人で好きだったので、それがおまけで綺麗に回収されてとても嬉しくなりました。伏線回収に定評のある作者様~!
レーネの本性を見抜いてくれているところも、大好きです。きっと物事の本質を見るのが得意な子なんでしょうね。
レーネ
症候群のほうでは確か、『白のキョウメイ』のレーネと同一人物として描かれていた……のかな? というか、あまりそこを深入りはしていなかったのかな。
この辺り、今作では過去作との矛盾点が綺麗に解消していて思わず拍手してしまいました。良い~!
おまけイラストの色遣いがとても嬉しかったです。レーネと言えば青だもんね。だから、リラはああいう衣装なんだね。素敵。
本編でも、真相を言わないだけできちんと本当のことを言っているシーンの方が多くて、なるほどね~となりました。虚言に見えてちゃんと理由がある。し、そこにいち早く気づいているエリザちゃんとの関係性もなんだかほっとしました。味方がいてくれるって大きいからね……。
テオ
1周目、魚についての会話でいきなり不穏なヘキが暴露されたのでぎょっとしていたんですが……。
いやあ、一癖も二癖もある、綺麗にこじらせてる子で最高でした! 好きな子をいじめちゃう男の子、と言えばあるあるですが、そこに被害と加害の関係をひとさじ加えてあるところがたまりません。関係性の妙……。
どこだったかな、会話で言ってたカラフルなリボンって多分エリザにあげるつもりなんですよね!? だったらいいな。たぎる……。
ラナ
1周目では全貌が分からなかった子。「炎を灯した時に怯えたのはなんで?」となっていたので、色々と明かされて納得しました。
妹がお姉ちゃんムーブしてるって、なんかちょっとこう、ヘキにクるものがありました。いいねいいね!
会話でわかる好きなものや趣味から、彼女の将来の姿を想像しやすくて、上手いな~と感じました。写真が好き→旅がしたい→じゃあバッグパッカーになるのかな、みたいな。
親御さんの束縛から逃れたいという切実な闇もあるんだろうとは思うんですが……。
レックスは空に自由を求めている感じがしていて、地のラナと対比が利いていてなお好きです。
ルビィとサファ
双子キャラは「ふたりさえいればいい」「お互いが大嫌い」の2パターンに分かれがちだと思うんですが、そんな中で新しい選択肢が見れて、すごく趣深かったです。
お互い、相手に対して抱く感情がちょっと違う……。好きだけじゃないし、嫌ってるわけじゃないけどぎこちなかったり黒かったりする感情もある……。
これこそが個性だし、双子っていう属性じゃなくて、一個人だなあと思います。こういうところ丁寧で好きです。
物語が進むごと、会話イベントで二人の個性の違いがどんどん出てくるのも最高でした! 1周目はどっちだっけ?ってなってた二人が、2周目からはもう完璧に見分けがつくようになったもんね。嬉しかった!
サファの潔癖で神経質なところ、実はすごく好き。
掃除道具のラベルを並べたいくだりでなんだかにやにやしちゃいました。こういう当人だけのこだわりやマイルールに触れるの好きなんですよね。
片眉上げてる立ち絵がTHEイケメンでとてもLOVEです。彼に惚れるプレイヤー、多そうだな~。
アルマ
おいおい、どえらいモン背負わされてるなあ!!
無印プレイヤーとしては主人公降格にちょっと寂しい想いがあったんですが、エンド1の展開で全てがひっくり返りました。主人公してる……! なんて重荷を、こんな少女に……じいちゃんよ……。
ネーフェの対応がおじいちゃんをお手本にしていると思うと、決しておじいちゃんは悪い人ではないんだろうと思えるのですが、しかしアルマはやっぱり(自ら選んだとしても)過酷な道を歩まされたものだなあと考えてしまいます。
心底優しい子だし、優しいからこそ色んなものが寄ってきて色んなものが見えるのかもしれないな。
一番を決めるのは難しい話ですが、エリザとサファが二強で好きです!
他のプレイヤーさん方からは誰が人気なんだろう? すごく人間味のあるキャラばかりなので、理由込みで語られる場があると嬉しいなあ。
とにかく、たっぷり楽しめて、リメイク前プレイ済でも新鮮な気持ちで遊べる良作でした!