「弾みをつけて高らかに、空を飛ぶにはそれがふさわしい」
太陽も宵闇も肯定していきたい前置き。
えー、今回は飼育小屋製作委員会さんところのフリーゲーム「鴉の断音符」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
エンド分岐と選択肢分岐が豊富な、サスペンス寄りのノベルゲー。なんと主人公は鴉、しかもヒト並みの知能を持ち人の言葉が話せる鴉です。
というわけで、良かった点など。
主人公はヤタ、選択するのはあなた
特徴として挙げたいのが、本作は徹底して“三人称視点”であることです。
プレイヤーであるあなたは選択肢を選ぶことができます。しかし、あくまで選択できるのは行き先のみ。鴉のヤタがどのように行動し、何を告げるのかは、ヤタに託されているのです。あくまでヤタの意志はヤタの自由によるものである──みたいなところが好きでした。
面白いのが、こうやって明確に境界線を引くことでプレイヤーの私は切り離されているはずなのに、逆に強く没入感があるんですよね。
ヤタがあなたの存在をしっかりと認知し、こちらへ呼びかけてくれるからというのもあると思うのですが。ヤタ≠プレイヤーであるということをシステムで強調しつつも、操作はヤタ=プレイヤー。三人称とメタ視点を採用することで、この矛盾のような感覚を見事に表現しきっているゲームであると思います。
様々な形で表現される断音符
選択肢は8種類×6日分。文章量や差分の多さを察せられる方は察せられるかと思います。当然ながら結末も多く、行き着くところはなんと16種類。明確にエンドと銘打たれているのは同じく8種類で、残り8種類は道半ばで終わったりおふざけ展開だったりです。
このエンドの道行きが好きなんですよね~!
人に馴染む鴉となると、まあ素人考えでも、人・鴉・中庸の3ルートくらいが思い浮かぶところ。ですが、本作はそういう典型をあえて外してきているように感じました。もちろんどっち寄りみたいな傾向は見えますが、それ以上に“何になりたいか”“どう生きたいか”を答えてくれるエンドが多かったように思います。
単純に人間か鴉かで切り取れないみたいな。テンプレを外し、ヤタだからこそ選べる多様性を見せてくれるところが好きです。
音を意識させてくれる文章
文体もかなり洗練されている本作、沁みる文が多くてとても素敵でした。
毎回選択する前の、鼓舞するような文章がとても好きなんですよね……。私達はどこまでも行けるんだと本当に信じられる、心が浮き立つ、美しい文章です。さりげなくヒントをねじ込んでくれるところもありがたし。
そして何より本作で好きなのは、断音符の意味がエンドによって変わっていくところです。
それに応じて、エンドに行く前から音を意識させてくれる文章が少しずつ増えていくんですよね。背景描写にも音を意識させるものが増えて、センテンスに音がついていく感じ。暗くても明るくてもロマンティックで好きです。
同様に、ヤタの背負うものが変わっていくところも好きなんですが……ここは追記でもう少しだけ。
とまあ、こんな感じで。
分岐が多いと難しいイメージがあるかもしれませんが、特定の場所に通い詰めるだけでも十分にお話が終える作品です。文章の美しさ、メタ構造の気持ち良さに触れたい方へおススメです。
追記ではネタバレ感想。
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ネタバレ注意
ヤタについて
黒き破壊の化身にもなれるし、太陽を背負う導き手にもなれる、っていうところがまさに自由を象徴しているなあと思います。
賢くはあるけれど時々鴉の本能が見え隠れするところが好きなんですよね。腐った肉食べちゃったり、音立ててバレちゃったり。ちょこちょこ迂闊なところに愛嬌も感じますし、鴉らしさも見えますし、良い塩梅だなあと感じます。
鴉の中でも達観しているし観測者のポジションでもある、けど、完璧じゃないから好き。エンドで成長が見えるところが、良い達成感へ繋がっている気がしました。
エンドについて
繰り返しますが、断音符の解釈が異なるのが本当好きなんですよ……。
ヤタの翼にスタッカートをつける存在であってくれ、みたいなことを言われるエンドが一番大好きです。嬉しいなあ。私の思う理想のプレイヤー像ってまさにこれなんですよ。影響は及ぼすけれど、意志は奪わない感じ。
エンド名が曲のジャンルになっているところも好きです。一貫したテーマでつづられる文章は、とても美しくて読んでいて気持ち良くなります。雷の音が狂騒曲になったり、雨の音が契機になったりするところ。本当に美しい。大好きです。
殺人事件の真相も上手い隠し方ですよね。
私は真相エンドを途中で回収したのでわかったんですが、犯人を勘違いしたまま終わるエンドだとしても、この犯人がミスリードだということは明かされないまま終わるんですよ。これってすごい肯定だと思うんです。ミスリードにかかったとしても、あなたの選択は決してミスではない。真相とは異なる結果だけれど、間違いではない。そんな強いメッセージを感じます。
ちょっとしたエンドだと、さりげにド根性鴉が好きだったり。このネタってどの年代まで通じるんでしょうね? オチはギャグ振り切ってますが、二人の距離感に共生の欠片が見えた気がして、あったかい気持ちになれるので好きです。
と、こんな感じで。
コンプするとさりげなくタイトルが変わってくれるところも嬉しかったです。