「シンプルなタイトルに多重の意味を見出していける」
奥行きのある深い作品ってまさにこうな前置き。
えー、今回は柘榴雨さんところのフリーゲーム「SLATE!(スレート!)」「mayfly(メイフライ)」「Bruise(ブルーズ)」「ロベリアの/嘘」「Sea glass(シーグラス)」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
どれも短編ノベルで、相互に繋がりはありません。
気になる作品だけでも是非!
『SLATE!(スレート!)』
[概要]
1ルート数分、おまけまで見て全エンドで30分程度の短編ノベルゲーム。
[感想]
スクショの糸目男さんに一目ぼれしたのでダウンロード。
短編連作に近く、様々なジャンルのお話を読むことができます。
縛りプレイでゲーム作りをするとこんな感じになりそう、という印象でした。「背景・立ち絵・ツールは固定で、好きなゲームを作ってね!」みたいな……。フリゲ遺作者様方の企画やフェスで見かける形式。
いきなり展開が始まっても、数文で状況とキャラの関係が察せられるので、すごく読みやすかったです。文章力が高い……!
正直この手の形式は、おいしいところだけ摘まんで全体像がぼやけたまま終わることも多く、もやもやする作品にも会うのですが……。
本作は「なるほど!」と手を打ちたくなるような満足感がありました。
というのも、この全体像がぼやける感覚が、そのままラストで回収されるんですよね。すっきり。
ちなみに「Slate」は薄く割れやすい粘板岩。
「purchase benefits」は購入特典です。
ちょっと乙女向けな演出もあって、そっちもプレイするゲーマーとしてはにやにやできて嬉しかったです! ヤンデレエンドありがとーーー!!!!!
[一言]
ちゃんと開眼もありますので、糸目好きの皆さんはお見逃しなく!!
『mayfly(メイフライ)』
[概要]
一本道の数分短編ノベル。恋人と、疲れ切った日常。シリアス。
ネタバレ防止のためにぼかしてあるのだと重々承知しているんですが、私はどうしても明確な警告が欲しい作品でしたので、書かせてください。
天災の警報音が演出に取り入れられています。
[感想]
優しく心配してくれる“彼”と、疲れて余裕のない視点主の“彼女”。
“彼”の優しさはどこか痛ましく、また、“彼女”が当たってしまう自分自身への嫌さと止められない辛さに苛まれているのも察せられました……。決して誰も悪くないんだけど、しんどい時ってあるよね、という……。
タイミングの悪さ、悪人がいるわけではない不条理さ。
とても現代ドラマらしい作品です。
登場人物がどちらも口調が似ているので、何かそういうミスリードかと思ったんですが、そうでもありませんでした。深読みしすぎた。
プレイヤー側だと気づけない“彼”の作り笑いを、“彼女”が気づいて初めて伝わる。効く演出だなあ。
前時代的に言えば女性的な“彼”なので、色々苦労したんだろうな、なんて。
[一言]
タイトルの和訳はカゲロウ。
『Bruise(ブルーズ)』
[概要]
一本道の数分短編ノベル。DV恋愛の果てには。鬱展開。
[感想]
ウェイトを長めに取りながら、しっとりと進行する作品。
画面全体の青色が、タイトルの「Bruise(あざ)」にかかって見えて美しい。
少しだけ赤みの差すシーンがあるんですが、その色合いがまさに青痣で、痛ましくて素敵な演出でした。
「お弁当」を通じて念入りに言い聞かせてくるセリフ回しが本当に好きです。
彼が手を伸ばしてきたときの彼女の反応もそうですが、匂わせるやり方で明瞭に伝えてくるのが巧い……。
別れの時だけ優しくしてくる彼氏、完全に愛想が尽きているとむしろ怒気に拍車がかかるものですが、本作の主人公は胸を痛めるのでいじらしいです。
大好きなんだね。
大好きだったんじゃなくて、大好きなんだね……。
1周だけでも十分展開は理解できますが、余韻に浸りながら2周するとより物語が深まります。冒頭の電話や、「しづらいでしょ」の真意など……。
さりげない一言に伏線を込める技術、短編だとより光って良き。
[一言]
やるせない物語が好きな方へ。
『ロベリアの/嘘』
[概要]
一本道の数分短編ノベル。魔女狩りを巡る悲恋の物語。
[感想]
まず、背景画面が美しい!
外へ出て行くシーンの緑に抜けていく画像が綺麗で、シンプルながら見惚れるなど。音量調節やテキストスピードなどの欲しい機能も全部整っていて助かりました。
序本結、の構成も掴みが良く、冒頭で戸惑っても短編ですぐ全体像がわかるようになるので読みやすかったです。読みながらセリフ1つで設定や年齢差を察せられるようにできているのもすごい。
彼らの名前が出てこないところも、外部の人たちからはうわべだけで判断されているという感じが出ていて好きです。深読みかもしれませんが……。
表面だけ見ると優しく美しい自己犠牲の愛ですが、綺麗なだけでなく、ドロッとした想いが根っこにあるところも好きです。このエゴもまた悪意と言えるのかな……でもそれってどうしようもない、というか、そこがあるからこそ燃え盛るような迫力と勢いのある愛が生まれるわけで……等々。
タイトルの「/」にも色々想いを馳せたくなってしまいます。
お別れ、切断、視点の違い……。たった1つの記号に含められる意味が多くて、やっぱり深みのある作品だなあとしみじみ。
[一言]
終わってしまう物語の余白を楽しみたい方へ。
『Sea glass(シーグラス)』
[概要]
全クリアで10分程度の短編ノベルゲーム。エンドは2つ、選択肢による分岐などはなく実質一本道。鬱展開。
[感想]
「こんなこともできるんだ!」と驚かされた作品です。
本作は、とある画家がバカンスを自撮りして作成した動画を、ファン(プレイヤー)が見ているという構成になっています。
すごいのはその動画がゲーム画面として映っていること。
動画に文字表示ができることに驚きです。
さらには、ボイス付きでそれも英語という点にも驚かされました。素材元を拝見するに、指定の英文にボイスを付けてくれるサイトが公開されているようです。世の中進歩したなあー……。
やや文字が読みづらいシーンもありましたが、演出重視と思えば許容範囲。全体的に青と白を中心としたグラフィックは美しく、背景もそれ1枚で絵になるものが多くて惚れ惚れしました。
肝心の内容も、爽やかで美しい画面の裏にぬぐい切れない黒が滲み出ていて、ぞわぞわする良い雰囲気でした。
初めに見れるエンドでは、どこか信仰にも近い輝き、太陽の反射で一瞬目が眩むような不穏さ。2周目で見れるエンドでは、綱渡りのような焦燥を味わえます。
尾を引く仄暗さがあってしかるべきなのに、突き抜けて爽やか。
不思議な読後感でした。
[一言]
洋画やポートレートのような雰囲気を楽しみたい方へ。
とまあ、こんな感じで。
まとめると、さりげない言葉選びにハッとさせられることが多く、演出力と文章力の高い作品がたくさんでした!
- どれから遊ぶかお悩みの方→SLATE!(スレート!)
- シリアスで鬱な作品に浸りたい方→Bruise(ブルーズ)
- ここだけの作品を味わいたい方→Sea glass(シーグラス)
こんな感じの印象です。ご参考までに!